菊地成孔さんがblock.fm『TOKYO BUG STORY』に出演。Dos Monosの3人と映画と音楽の関係やポン・ジュノ監督『パラサイト』のアカデミー賞受賞などについて話していました。
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▶「TOKYO BUG STORY」
放送日:毎月第1月曜日 21:00 - 22:00 O.A.
番組URL : https://block.fm/radios/728
荘子it:それで「映画と音楽(映画音楽の話でもある)」みたいな感じで。映画と音楽、これも菊地さんの一番の専売特許じゃないけども。まず『ユングのサウンドトラック』ではゴダールと音楽の……音楽と女性を同一視しているんじゃないか? みたいなかなり明確な。
菊地成孔:そうですね。音楽と資本主義と女性ね。
荘子it:あれ、僕が読んだのはたぶん高3の時とかですけども。ゴダールの読み方として世界一わかりやすい、かつ一番クリティカルな評だと思っていますが。
菊地成孔:ゴダールはわかりづらいからね。ゴダール論は。本当にわかりづらい(笑)。
荘子it:とにかくゴダールの映画も難しいんだけど、ゴダール論はもっと難しいから(笑)。そこでこれだけ可読性があって、しかもクリティカルなことを言えるっていうのがかなり衝撃的だったという。まあ思い出話ですが、それが第一作目の話で。それで前回の『菊地成孔の欧米休憩タイム』ではヒッチコックの音楽論っていうのを書いていて。それで今回はまあチェット・ベイカー論っていう。まあ、音楽論にはあんまりなっていないんだけど、音楽と映画の微妙な関係みたいな。いわゆる菊地さんの前提となっているのは「映画と音楽というものは非常に仲がいいものだと普通に思われているんだけど、意外とそうでもないよ」っていうのが菊地さんの基本的なあれじゃないですか。だから「チェット・ベイカーを映画化するやつはみんな狂ってダメになる」みたいな。
菊地成孔:うん。チェット・ベイカーの映画は『レッツ・ゲット・ロスト』以外はみんなダメだから。なのに作り続けられるよね。そこがまあ……というかまあ、言っちゃうとこれ全部つながっていて。音楽と映画っていうのは「マリアージュ」っていうぐらいで。まあ夫婦なの。
荘子it:まさにさっきの結婚の話につながってくるという(笑)。
菊地成孔:そうそう。それで人前に出る時は……つまり、公開されてる状態っていうのはまあ、「いい夫婦です」っていう顔をしてるんだけど……素では大変でしょう?っていうのはどの夫婦にもあるわけなんで。まあ、そのことがいろんな優れた監督……優れた夫っていうかね、あるいはクセのある夫がそのことを露呈してしまって。結婚制度……要するに映画と音楽っていうもののマリアージュ、結婚制度はどうなのか?っていうことを浮き立たせてる人たちがいて。それはどこぞの国の聞いたことのない監督じゃなくて、ゴダールとかヒッチコックとか、そういう一枚看板の人が見せてますよっていうような話ですよね。
荘子it:そうですね。見かけ上では結婚して、おしどり夫婦みたいなんだけど、そこには実はそんなにロマンチックな恋愛関係があるわけではないのかもしれないぞ、みたいなことなんですかね。
菊地成孔:まあ単純に対立関係はかならずあるというかね。
荘子it:それがだから菊地さんが、まあこれに書いてありますけども。昔から、『アフロ・ディズニー: エイゼンシュテインから「オタク=黒人」まで』とか、大谷能生さんとの講義とかでも、その「音と映像の非同期」ということをすごく言っていて。音と映像が合っている状態ってのはすごい対抗して「ミッキーマウスシング」って言われますけども。まあ、そういう状態であって。それで「音と映像が合っていない方が美しいんだ」みたいなことをずっと言っていて。『服は何故音楽を必要とするのか? 「ウォーキング・ミュージック」という存在しないジャンルに召還された音楽たちについての考察』でも要は「ファッションショーの音楽とモデルの動きは全く同期していないんだ。それがエレガントなんだ」っていう。
菊地成孔:ちょっとズレているっていうね。めちゃめちゃになっているんじゃなくて、ちょっとズレているんだってうい。
荘子it:別のリズムで動いているんですよね。
菊地成孔:非同期ですね。
荘子it:みたいなことをかなり言っているっていうのは、だからたぶんこの全てのゴダール論、ヒッチコック論、チェット・ベイカー論にも通底するのかな、みたいな感じですかねっていう。それで今回、あとがきで音と映像の非同期の中で一番美しい映画は土本典昭のあの『水俣』だという。
菊地成孔:『水俣』だっていう。あれは素晴らしいですね。
荘子it:『ユングのサウンドトラック』の時もそれこそ蓮實重彦とペドロ・コスタかな? その『コロッサル・ユース』の話をしていて。そこは、まあ菊地さんの本を読めばわかることなのでこれぐらいにしておいて。
菊地成孔:まあこの本の2冊目……まあ、この2つ、『菊地成孔の欧米休憩タイム』『菊地成孔の映画関税撤廃』が連作になっているんだけども。で、『映画関税撤廃』が出たばかりなんですが。で、今はこっちの話をしたわけなんですよ。で、この本の……まあどんな作品もそうなんだけど。作者の意識的なテーマと無意識的なテーマがやっぱり共存してるわけで。フロイト的に言うと。で、この本の意識的なテーマの話っていうのは人がすくい取れるから今、荘子くんがすくい取ったようなこういうことが意識的なテーマなんだけども。この本の最大の、事後的にしか分からない無意識的なテーマは「ポン・ジュノがアカデミー賞を取った」っていうことだよね。
荘子it:フフフ、それは熱い話ですね。まあ、あとがきで軽く『パラサイト』には触れていますが。
菊地成孔:『欧米休憩タイム』は韓国映画の本なんで。いかに韓国映画と韓国のテレビドラマが優れているかということを1冊やった後に、「関税を撤廃して普通に欧米の映画をやりますよ」っていう本を出したら、ポン・ジュノがアカデミー賞を取ったっていう構造なんですね。
荘子it:ちょっと韓国から身を引いたようになっているんですよね。欧州がメインになっているから。ここは韓国嫌いなネット右翼の人は驚くほどにめちゃめちゃ韓国の文化を褒めまくっているんだけども、今回はそうでもない。だから欧州の……。
菊地成孔:そうそう。連載のフォームが変わったの。だから外的な要因なんだけど。まさに無意識なものの噴出っていうか。
荘子it:そしたらポン・ジュノが……っていうね。
菊地成孔:あんな取り方、ないよ。だって外国映画賞のトップであり、本賞のトップのなんだからさ。二重に……それでカンヌでグランプリも取っているんだからさ。あれ以上の受賞は現状では無理でしょう? そのぐらい取ってるよね、あれ。あんな取って……そんなに取るほどの映画かと言われれば、まあすごく面白いけど。うん。
荘子it:不思議ですよね。あれがアカデミー賞を取るっていうのが不思議ですよね。文脈があんまりないっていうか。あれってめちゃめちゃウェルメイドでいいし。だけどまあ、そこまで……アカデミー賞ってアメリカのアカデミー会員が賞を与えるわけだから、すごくその文脈、文化的な土壌が重要じゃないですか。作品の面白さとかよりも。『パラサイト』みたいなものが力技で取っちゃうっていうのがなんか時代が変わったなという風に思ったんですけどね。
菊地成孔:あれはちょっとした……まあ最近のアカデミー賞は何か、ちょっと今ね、具合が悪くなってる状態というかね。まあ、いいと思いますよ。ポン・ジュノが悪いというわけではなくて、素晴らしい映画だけども。
荘子it:『グリーンブック』もね、「別に面白いけど……」みたいな映画でしたけども。まあ『英国王のスピーチ』とか、ゼロ年代以降も結構ね、アカデミー賞はグダグダだったんで。そこで『パラサイト』が取ったということもすごく大きかったという感じですね。
菊地成孔:そうですね。
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書籍情報
菊地成孔の映画関税撤廃
https://www.amazon.co.jp/dp/4909852069/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_dW1lEbXFMQZS3
番組情報
▶「TOKYO BUG STORY」
放送日:毎月第1月曜日 21:00 - 22:00 O.A.
番組URL : https://block.fm/radios/728
荘子it(MC/トラックメーカー)、TAITAN MAN(MC)、没 a.k.a NGS(MC/DJ)からなる3人組HIP HOPユニット”DOS MONOS”による番組『TOKYO BUG STORY』。圧倒的な音楽性の高さと、独自に作り上げた世界観を是非ラジオで体感してほしい。
written by みやーんZZ