菊地成孔さんがblock.fm『TOKYO BUG STORY』に出演。DOS MONOSの3人とマチズモやポテンツ、そしてドナルド・トランプ大統領について話していました。
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▶「TOKYO BUG STORY」
放送日:毎月第1月曜日 21:00 - 22:00 O.A.
番組URL : https://block.fm/radios/728
荘子it:で、その前近代の話はそれぐらいにして。それでもう1個、大事なのがマチズモとポテンツの話がどうしてもしたくて。これは今の話からダイレクトにつながっていると思う。今、近代主義っていう基本的にはリベラルな感覚だと、まあマッチョなものとかは基本的に否定してこうみたいな感じが基本のスタンスじゃないですか。まあ「男根主義もってのほか」みたいな感じですか。菊地さんはそれにもある程度の理解を示した上での、いわゆる男根が好きな人じゃないですか。普通に。
菊地成孔:はいはい。フロイディズムだからね。
荘子it:フフフ、そうそう(笑)。Twitterで今の部分だけ、そこに同意した菊地さんのところだけ切り取られて「男根が好きですよね?」「はいはい」って……(笑)。まあ、それは『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』評に非常に現れていましたけども。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、見れれば絶対に見てほしいんですけども。菊地さんもこの本の中で非常に高く評価しているうちの1本で。
菊地成孔:これは素晴らしいですね。
荘子it:それで主人公はウーマン・リブの女性テニス選手で。そういう女性差別とかと戦うっていうかなりリベラルな主人公で。その悪役として出てくる実在の人ですけども。相手の男のテニス選手が……。
菊地成孔:あの相手の男のテニス選手は、実はそんなに差別主義者じゃないんだよね。本当に悪いのはあのテニス協会の会長だね。あいつが巨悪、一番のペニスでしょう?
荘子it:そうそう(笑)。矢面に立つあいつはいわゆるメディア上のペニスを演じてるだけで、なんか結構実は裏で、心の中では別に手を組んでいるじゃないけども。記者会見とかすごい和やかなんですよね。
菊地成孔:そうそう。あれはね、そこは得意のというかいつものフロイトの刀を抜くんだけれども。あれは躁病だよね。で、「躁病者が苦しい」っていうことをすごくスティーブ・カレルが上手にやっていて。躁病者はね、まあワライタケみたいなもんでさ。まあ、それは「鬱が辛くない」とかさ、「元気を出せ」とか言う気は全くないけど。鬱だって辛いと思うんだけど、同じようにやっぱり躁病の人も辛いわけで。躁状態の人ってやっぱりめちゃめちゃ……あんまりね、映画に描かれないんだよね。その「躁状態が辛い」っていうことが。それを描いた映画があって。彼はギャンブル依存症であると同時に……。
荘子it:それを「マッチョの病」って書いてますよね。
菊地成孔:そうそう。躁病はマッチョの病。で、ギャンブルに依存してるし、パフォーマンスに依存しちゃっている。で、その全てに成功してしまうんだよね。躁病者っていうのは「運転してる車が崖から落ちてもケガをしない人」って言われてるから。とにかく完全な安全の中で、もう完全に開いちゃってるので。なんというか、逆に生きる望みがないっていうかさ。躁病も。だから、「鬱は辛い、鬱は辛い」っていうのに日本の映画界は傾きがちだし、日本のカルチャーはそっちに傾きがちなんだけれども。「躁病も辛いぞ」っていう役であの人は出ているの。
彼は要するにギャンブルがやめられないし。というのは勝っちゃうから。で、パフォーマンスもやめられないんだよね。で、そのお陰で結婚生活も壊れるわけ。一緒にいる人が疲れちゃって。だからスティーブ・カレルはね、『フォックスキャッチャー』の時はアメリカが持ってる深い鬱みたいなものをさ、めちゃめちゃ上手に演じていて。で、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』では躁病で苦しむ役で。もうなんていうか、文武両道というか。今日2回目の文武両道っていう。だからね、あの人は相当な役者だよね。
荘子it:いや、これは僕も見ましたけども本当に素晴らしい映画でした。
菊地成孔:だから結局、ポテンツは主人公の女の人が折るの。あの人、後に女性と結婚するけども。まあポテンツは折られて、一番の男根主義者は協会、アソシエーションのトップなんだよね。で、対戦相手のテニス選手は別の事情で戦うんだよね。だから2人でやっつけた形にちょっとなっていて。
荘子it:そうですね。だからプロレスと同じですね。負ける方もその全体のショーに加担しているという意味で。
菊地成孔:そうそうそう。その通り。
荘子it:まあ、菊地さんがのプロレスをお好きなのと通じるところですよね。やっぱり。
菊地成孔:あとはまあ、なんていうの? あの当時のウーマン・リブ……「リブ」は「Liberation」の「Lib」ですけども。あの時のウーマン・リブ運動っていうのはすごいワイルドで、ナスティとまでいかないけど、かなりワイルドで。言い方を変えるとフェミニズムのパンクみたいなところがあったんだよね。ウーマン・リブ運動っていうのは。今はもうとにかくフェミニズムがなんていうか、国是みたいになっちゃって。国是っていうか地球是っていうかさ。
荘子it:そうですね。
菊地成孔:もうなんか、文化のある国の全ての国是がフェミニズムであるような感じになっちゃっていて。その問題に関してもうかつに言えないぐらいの世の中になってきていて。
荘子it:基本的にそれに対する疑問を呈するみたいなことはノーだ、みたいな感じですね。
菊地成孔:それに対して最初期のパンク運動というかさ。それとしてのウーマン・リブというものは結構荒っぽいものがあって。
荘子it:そうですね。とても国是にはできないような。
菊地成孔:そうそう。あれはフェミニズムみたいな学問でもなんでもない。ウーマン・リブっていうのはただパンクだからさ。パンクなだけに、すごいんだよね。あれは。
荘子it:そうですね。だからこの『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、一見すると今のフェミニズム問題につながるような映画かと思いきや、ウーマン・リブの方もエクストリームだったりするから。現実の今の問題とはだいぶちょっと違うところを描いているっていうのがすごい面白いところだと思いますよね。
荘子it:で、そこからつなげると、僕はイーストウッドの話をちょっとしたかったんですけども。イーストウッドもかなりポテンツな、アメリカン・マチズモの人じゃないですか。要は「イーストウッドも勝ち続けてしまうがゆえにやめられない」みたいなところをすごく感じるんですね。イーストウッドも明らかにリベラルな感性とか、頭では理解できてると思うんですけど、何か自分がもう業のように背負ってきたものが大きすぎて。それをプロレスのようにやり続けてるのかな、みたいに思うんですよね。見ていて。
菊地成孔:まあ、死の予感もあるだろうね。あの歳になると。で、当たり前だけど死の予感が近づけばさ、イーストウッドのペニスの質も変わってきたというか。『ダーティハリー』の頃は本当にモロにぶっ放していたんだよね。
荘子it:それが『グラン・トリノ』とかではだいぶ……『許されざる者』とか。
菊地成孔:うん。『グラン・トリノ』あたりから意味がガラッと変わり始めて。その、来たるべき死に対して、あえてそのトーテムみたいにさ。まあペニスをトーテムっていうのはフロイトにしたってバカすぎるけども。その、トーテムみたいにポテンツをさ、奮い立たせてっていうか。まあ実際にあの人はあるんだろうけどさ。だから、まあそういう風になってると思いますよ。で、わかりやすくトランプ支持っていうのもね。まあ、最近変わっちゃったけども。
荘子it:ああ、そうそうそう。そのトランプ支持っていうのも結構、それにつながる話で。菊地さんはたぶん日本のオーバーグラウンダーのアーティストの中では片手で数えるほどしかいないトランプ支持者なんですけども。
菊地成孔:トランプ、一番好きだね。
荘子it:それは今も変わっていない?
菊地成孔:全然変わっていない。トランプは非戦の人ですよ。トランプは戦争ができないし……「できない」っていうか、ホワイトハウスメンではないから。そもそもホワイトハウスに住まないからね。自宅に住んでいるから、あの人は(笑)。結構な会議を自宅でやるから。あのトランプタワーで(笑)。あとはまあ、成功した軍事経験もないし、政治経験もなくて。じゃあ何の経験があるのか?っていうと、要するに実業家の経験しかないわけですね。
荘子it:要は「世俗の人だからそんな人が大いなる大志によって戦争とかはしないだろう」っていう見立てということですかね。
菊地成孔:まあ、ホワイトハウスとアメリカっていうそのひとつの伏魔殿の中には「戦争する」っていう病気があるんだよね。で、初めてその病気に対して免疫を持ってる人が大統領になったと思っているし、非戦だとも思っているの。で、ウェブ上の連載で「トランプは絶対に戦争しないし、非戦だ」って言ったら今年の正月からね、空爆をしたでしょう? しかも弾劾裁判の前に空爆したから、あのファックのクリントンと同じなんだよね。弾劾の前に……まあ、トランプは弾劾裁判で大丈夫だったんだけども(笑)。
だからまあ、ちょっと一瞬「ああ、やっちゃった」って思ったんだけども。ただ、あの規模のっていうか、ちゃんと民間じゃないところを狙ってるけどあの規模の空爆をやって、なお全面的な戦争を起こさなかったっていう意味で二重に非戦だと思ってるし。ただね、トランプ1人が戦争を止めてるとも言えない側面もあって。補足をすると。今は「戦勝」っていうことの意味が液状化してて。アメリカがどうすると戦勝したか。イラン側がどうすると戦勝したかっていうことの定義がもうわからなくなっているの。国際法的にも。昔はなんかさね、逆に言うとすごかったよね。「こっちが勝った」とかって。
荘子it:日清戦争とかね。賠償金を請求して。歴史の教科書に「戦勝」って書いて。疑いようのない勝ちが日清戦争とかでね。
菊地成孔:なんか裁判みたいなのでさ。
荘子it:牧歌的な戦争の時代じゃないけども。
菊地成孔:今はもう液状化しちゃって。ベトナム戦争ぐらいから液状化しているわけでしょう。だから仮にアメリカがバグダッドに……まあバグダッドはイランじゃないけども、バグダッドにもう1回侵攻して、バグダッドを制圧したとしても「アメリカが勝った」っていう話にはあんまりならないし。逆に中東の人がね、アメリカ兵を1年間かけて相当たくさん殺して、相当たくさんの人をPTSDにして国に送り返してアメリカを内部から腐らせたとしても、じゃあそれで中東が勝ったのか?っていうと、それも勝ったとはいえない。だから、「これで私は勝ちました」っていうスポーツみたいな戦勝っていうのはないから、やっても意味ないよね。泥沼になってヘトヘトになるだけだから。
荘子it:そうですね。だから第二次世界大戦とかベトナム戦争を経験してるのだから、まだやらないんじゃないかな?っていうのは思いますね。ただちょっと今後、何十年とか100年とか経ったらわからないですけども。
菊地成孔:もちろん今、液状化して戦勝の意味がなくなっちゃってるのは「昔からの戦争」であって。オルタナティブな戦争はずっと続くでしょう。
荘子it:DCPRGの『ALTER WAR IN TOKYO』っていうのがありましたけども(笑)。
菊地成孔:オルタナティブな戦争が始まるし、次にオルタナティブで大規模な戦争が始まった時に、おそらく多くの人はそれが戦争かどうかも判断できないって思うね。後からじゃないとわからないと思う。
荘子it:よく言うけど、今戦争をしたらそれこそ数分で決まるんじゃないかっていう。
菊地成孔:ねえ。「ドローン戦で要人が暗殺できるから」とか言うじゃない?
荘子it:そうですね。もうジャックしちゃってその場で終わりみたいな。あとはもう地上に降りたら制圧するだけみたいな。サイバー空間で戦争が完結しちゃうんじゃないか、みたいな話とかもありますけどね。まあちょっと戦争の話もしたいですけどね。
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書籍情報
菊地成孔の映画関税撤廃
https://www.amazon.co.jp/dp/4909852069/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_dW1lEbXFMQZS3
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放送日:毎月第1月曜日 21:00 - 22:00 O.A.
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荘子it(MC/トラックメーカー)、TAITAN MAN(MC)、没 a.k.a NGS(MC/DJ)からなる3人組HIP HOPユニット”DOS MONOS”による番組『TOKYO BUG STORY』。圧倒的な音楽性の高さと、独自に作り上げた世界観を是非ラジオで体感してほしい。
written by みやーんZZ