サウンドが全面的に神がかっているドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』主題歌「Presence」のビート制作過程がSTUTSのYouTubeチャンネルで公開された。
動画の序盤では番組中に挿入されていた劇伴曲をサンプリング&ピッチダウンして利用するというヒップホップ的ビート制作の手法がとられており、最初に再生されていた劇伴曲がみるみるうちにドラマの主題歌の、あのビートへと仕上がっていく様子が話題となっている。
魔法のように曲が出来上がる様子はクリエイターから一般の音楽リスナーまで幅広く再生され、コメント欄にはクリエイターからの「そこサンプリングだったの!?」といった内容や、リスナーからの「何が何だかわからないけどすごい!」といった様々なリアクションが交錯した。
サンプリングでの音楽制作過程は分かりづらい部分もあるので、この記事では映像の流れに沿ってSTUTSが実際に作業している内容を、音楽制作をしたことがない人でもわかるように解説してみた。
今回のSTUTSの制作過程を理解するにはサンプリングについて理解する必要がある。
サンプリングとはサンプラーと呼ばれる機材に何らかの音を録音して取り込み、その素材をループさせたり音をバラバラにして楽器のように再演奏したりする音楽制作の技法のこと。取り込んだ音はピッチや音の長さを自由に加工できるので、従来の楽器ではできないような演奏や音色を出すことができる。
まず冒頭で「ええ~!」となったのが劇中の挿入歌の大胆なサンプリング。サンプラー「Akai MPC Live II」でループされたストリングスのセクションをピッチダウンしてリフとして利用している。サンプラーに取り込んでピッチを下げることで、通常のストリングスの鳴り方とは異なる独特な音色のループとなっており、楽曲全体に独特なサウンドの質感をもたらしている。
さらに上述したMPCでドラムをたたき、次にピアノコードを重ねサビのループがほぼ完成する。
ラップのパートはメインのループとなるマレットのコードとシンセベースのループ制作からスタート。マレットのサウンドはパソコンに立ち上げられたSPECTRASONICS社のソフトウェア・シンセサイザーOMNISPHEREで作成されている。
次にシンセベースを演奏している様子が映しだされる。弾いているのはMOOG社のアナログ・シンセサイザー(おそらくSUB 37)。こちらは1フレーズ演奏してそれをPro Tools上でループさせているようだ。
この時点でソフトウェアのサウンドとアナログシンセのハイブリッドな組み合わせが心地良いループが完成しており、このままでも成立しそうだが、ここで更にサンプリングしたピアノの音源を重ねる。ちなみにこのピアノも劇伴からのサンプリングとのこと。
ピアノはオーディオデータで受け取り、DAWソフトウェア「Pro Tools」上でチョップ(サンプリングしたサウンドを切って使用する手法)して配置され、ピアノの途切れから生まれるサンプリングならではの音の余白がヒップホップならではのグルーヴとなっている。
STUTSのスタジオの中心部となるのは世界中のプロフェッショナルが利用する定番ソフトウェアPro Tools。モニタースピーカーにはこちらも定番のGenelecを使用し、ハードウェアのアウトボード類や、ユーロラックモジュラーなども所狭しと配置されている。
STUTSの楽曲はヒップホップファン以外にも聴きやすいポップな楽曲も多いが、同時にヒップホップとしての音像の厚みやグルーヴも感じられるのが特徴だ。
きれいめのサウンドでまとめてしまうと、どうしてもあっさりとした質感になってしまいがちだが、あえて主軸にサンプリングを置くことで、ピッチダウンやサンプルのカットなどヒップホップ的手法が加わることになるので、必然的に音色や質感としてヒップホップを感じる要素になる。
制作過程でのサンプリングへの愛着がヒップホップ的要素となり、STUTSサウンドの根底を支えているのだろう。
今回のサンプリング元となっているのは、坂東祐大氏による 『#まめ夫 序曲 ~「大豆田とわ子と三人の元夫」』という楽曲なのでこちらも合わせてチェックしてみよう。
現在、オリジナルサウンドトラックが各種サブスクリプションで配信中だ。
https://nippon-columbia.lnk.to/ih7dFPXu
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written by Yui Tamura
source:
https://youtu.be/5O9uFxrP4lU
photo:
https://youtu.be/5O9uFxrP4lU
http://akai-pro.jp/mpc-live-ii/
https://www.avid.com/ja/pro-tools