Written by Tomohisa Mochizuki
REEPS ONEの「MOVE」を観た少年は、2019年に世界大会の場で前年の世界チャンピオンを圧倒し、集まった観客を熱狂させることとなる。
ヨーロッパの強豪ひしめくハイレベルな決勝トーナメントに、唯一のアジア人としてSO-SOはいた。『GRAND BEAT BOX BATTLE』ループステーション部門は“ルーパー”と呼ばれる機材を使い、自らの口から発した音を録音し幾重にも重ねながらパフォーマンスを行い、勝敗を競う。
English interview here.
SO-SOが“ボイパ”と呼ばれるものを知ったのはHIKAKINの存在だったが、関連動画に出てきたREEPS ONEに心奪われた。REEPS ONEはビートボックスにダブステップを取り入れた第一人者である。
ビートボックスに出会うまでSO-SOは劇団に所属しており、ミュージカルのサントラ、J-POPを聴くことが中心だった。REEPS ONEに魅せられてからは音楽の聴き方も変わり、ダンスミュージックを聴くようになったという。
もう一人、SO-SOをルーパーへと導いた人物が2017年『GRAND BEAT BOX BATTLE』ループステーション部門のチャンピオン、伝説のフランス人ビートルーパーSAROだ。
「SAROの動画を観ていて、ビートボックスでこんなことができるのかと驚いた」
SO-SOは冷静に自分を分析しながら振り返った。
「性格的に人と違うことをしたいんですよね。アカペラで多重録音している人は当時もいたけど、ルーパーを使ったビートボックスを日本でやっている人はほとんどいなかった。今までよりもっと面白いことができると思ってワクワクしました」
SO-SO少年は誕生日プレゼントにルーパーを母親にねだった。今も彼の傍らで相棒として活躍するBOSS RC-505である。テーブルトップ・ルーパーのフラッグシップ・モデルだ。
5トラックまでループフレーズを録音でき、使用エフェクトと再生設定を99のメモリに保存可能。ループ録音中と、録音されたフレーズに対してそれぞれエフェクトをかけられるボタンがそれぞれ3つずつ、合計6つのボタンを搭載している。作り出せる音は無限だ。SO-SO少年はこうして新しい武器を手に入れた。
『GRAND BEAT BOX BATTLE』は3分間のパフォーマンスを2ターン行い、どちらが会場を盛り上げるかを争う。勝敗を決する審査員は5名。形式としては『RED BULL 3 STYLE BATTLE』が近いのかもしれない。違うのはその場で自分の口から出した音しか使えないこと。ステージ外で事前に録音した音は一切持ち込めない。
「YouTubeのコメント欄に“どこまで口で出している音なのか”、ってよく書かれているんですが、100%その場で口から出して録音したものを使っています」
2019年の決勝トーナメントの相手は最悪の組み合わせだった。いちばん戦いたくない相手だったという世界のトップルーパー3名とあたったのは主人公の宿命なのかもしれない。準決勝でぶつかったRhythmindはこの2019年大会を制した。世界でいちばんビートボックスが強いとされているフランス国籍の選手だ。試合を振り返りながら悔しさを滲ませたのは3位決定戦となったINKIE戦。
「Rhythmindに敗けたあとインターバル無しの連戦だった。INKIEは1試合分休んでいるから、条件的に相手に分があったこともあり正直、イイパフォーマンスができなかったですね」。
一方、前回大会覇者Beatnessとの初戦は振り返ってみてもベストだったと回顧する。
「Beatnessと当たることは数日前に知らされていた。用意していた引き出しの中で、いちばん自信のあるパフォーマンスをぶつけました。Beatnessは温存してくるだろうと読み、その隙を突いた格好ですね」
戦略は的中した。バトルには駆け引きも重要なのである。
SO-SOのパフォーマンス動画を観れば分かる通り、ピークまでの導火線が短い。というか、最初から爆発している。
「僕はバトル特化型。与えられた3分間を最大限に盛り上げることを意識しています。オーディエンスも3分フルで楽しい方がイイじゃないですか」
ビートボックスを見る楽しみのひとつに、音の再現性がある。DTMで作られた音を再現しているという楽しさもさることながら、SO-SOが重きを置くのはオリジナルの音。彼の得意とする技は“引き声”、海外では“エッジボイス”と呼ばれるテクニックである。この“エッジボイス”を大きな音量で出せるのが強みだ。
ゲームも好きで『星のカービィ』や『スーパーマリオ』など任天堂のゲームサウンドや効果音からインスピレーションを受けることもしばしば。日常の生活音も重要なソースだという。
「最近のお気に入りはダイソンの掃除機を切る音。日常から聴こえてくる音、遊んでいて偶然生まれた音を採用することが多いです」
その一例にペンで字を書く音とその紙をめくって破り捨てる音を実演してくれた。インタビュー用に録音した音源を聴くと、本当にペンで書いているように聞こえる。このように音楽と一見関係ない音もバトルの演出では重要な役割を果たす。
「世界大会のオーディエンスはシビアで、ループステーションバトルの場合、ハプニングが盛り上がる。つまりいかにオーディエンスの予想を裏切るかが重要で、だからこそ常に新しいアイデアや音を取り入れるようにしています」
ハプニングが好まれるとはいえ、ルーパーの性質上ミスは許されない。構成を楽譜のようにアタマに叩き込んで試合に臨む。もはやアスリート競技に近い。
ヨーロッパの強豪たちと渡り合い、アジア人のトップルーパーとして戦うSO-SOにライバルはいるのだろうか? その存在は意外にも同じ日本、同い年のビートボクサーSHOW-GOだった。
「SHOW-GOは僕のことをライバルだとは思っていない。僕が勝手にそう思っているだけ。彼は僕が出場する前年の『GRAND BEAT BOX BATTLE』で注目を集めました。同い年だからこそ、嫉妬、憧れ、尊敬、その全部の感情がありますね。こんなん、あんま言ったことないけど…」
と照れ笑いするSO-SO。続けて、SNSのフォロワー数がいずれもSHOW-GOが上回っていることに対して
「早く抜かしたい。SHOW-GOはめっちゃ人間もイイやつで、正直僕みたいにフォロワーの数なんか気にしてないと思うんですけど」
SO-SOの言葉から、マンガに出てくるような好対照のライバル関係が見て取れた。取材の翌週に放送を控えていた『関ジャム』出演、加えて『ニート東京』にも出演したことが功を奏したようで、原稿執筆時点でTwitterのフォロワー数ではSHOW-GOのフォロワー数を追い抜いている。
10数年前のソロバトル部門のみだった大会はやがて2VS2のタッグバトル部門、クルーごとに争う多人数バトル部門とそのバリエーションを増やしていった。いちばん新しい部門が「ループステーション」で、次大会からは、ループステーションを使ったタッグバトル、「タッグループ」部門が創設される予定だ。
「ビートボックスには新しいコンテンツが生まれているし、新しい音もどんどん生まれています」
ヒップホップを主軸としたブレイクビーツの再現から、REEPS ONEがダンスミュージックを持ち込み世界を変えた。現在ではハウスやドラムンベースなどダンスミュージックをベースとするビートボクサーが主流だ。では、これからのビートボックスのトレンドとはどんなものなのだろうか?
「今、まさに次のトレンドに移行する過渡期にあると思います。数年前までメロディやハーモニーに重点を置いた音楽性の高いパフォーマンスが好まれていて、現在はそれに加え複雑なビートを取り入れるスタイルが主流。今までの技術やトレンドが凝縮されているのが現状です」
世界的なダンスミュージックのトレンドも、ビートボックスシーンに大いに影響する。
「グリッドに対してわざと拍やBPMを外した楽曲が多いなと感じていて、それをビートボックスでやっているビートボクサーはいないから、チャレンジしてみたいですね」
デジタルで作られる複雑な音や曲調を、フィジカルで新しい音として表現することはビートボックスのバトルにおいて大きな意味を持つ。ビートボックスがさらにどのような進化を見せるのか、SO-SO自身も楽しみにしているようだ。
SARUKANIはSO-SO、RUSY、KAJI、Koheyの日本のビートボクサー4名からなるユニットだ。結成のきっかけは2019年の『GRAND BEAT BOXアジア大会』。たまたまホテルが4人同室だったことから交流が生まれた。4人ともが日本代表クラス、その実力は折り紙つきだ。本格的に活動を開始したのはコロナ禍直後、イベントができない中で「SARUKANI WARS」をリモート制作したことに端を発する。
チーム名の由来は大学受験を控えたKoheyの受験課題から。
「さるかに合戦をアレンジした物語を書きなさい、という課題でKoheyが提出したのが『SARUKANI WARS』でした。思いつきで採用したけど他に使っている人もいないし、世界で戦う僕らにはピッタリだと思って今では気に入っています」
SARUKANIの最新曲となる「ULTRA POWER」ではクオリティの高いMV制作を目指した。しかし制作費が自分たちの持ち出しだけでは足りないという切実な状況があったことから、SO-SOがクラウドファディングを思い立つ。プロジェクトは早い段階で目標金額を達成した。一方で、お金を募ることの大変さも痛感したそうだ。
「支援者のリスト化、配送業務の大変さは経験してみなければ分からない労力でした。現在進行形でやっているけど想像以上に大変。それが分かっただけでも価値のあるチャレンジでしたね」
とSO-SOは満足の行く結果を得られたことを素直に喜ぶ。リターンの作業が大変というのは言い換えれば嬉しい悲鳴だ。
ちなみに、MVに登場する筋肉隆々のメンズたちもSNSで募集して出演してくれることになったという。彼らもまたボディメイク界で活躍する実力者だった。畑は違えど類は友を呼ぶということか。
SO-SO自身は音楽性とバトルに特化し、SARUKANIはエンターテイメントに特化した活動という線引きを明確にしている。どちらの活動においても、根幹にあるのはビートボックス。
世界の第一線で強豪としのぎを削り、耳の肥えたオーディエンスたちを沸かせるSO-SOの姿は痛快であり誇らしくもある。正直、『GRAND BEAT BOX BATTLE』のSO-SOのパフォーマンス動画でオーディエンスのリアクションを見たとき、感動して涙ぐんでしまったほどだ。
“ボイパ”を広めたHIKAKIN以後のビートボックスのアイコンになってほしいと、SO-SOのコミカルなキャラクターも相まって期待を抱いてしまうのだが、本人はあくまでビートボックスにこだわりたいと矜持を見せる。
「ビートボックスでHIKAKINさんのようなスターになれたらイイなと思います」
もうひとつSO-SOがこだわるのは楽曲のカバーをしないということ。100%自分の音で表現したいという強い意思表示がそこにはある。
「僕はひねくれてるんで、オリジナルで売れた方がカッコええやろと思ってしまうんですよ。僕の曲がカバーされた方がカッコイイじゃないですか」
また、昨年参加したTREKKIE TRAXのMasayoshi Iimoriとの共作楽曲「I Scream」に手応えを感じた経験が刺激になり、今後も続々とコラボレーションプロジェクトを発表していくようだ。
「今年、いろんなアーティストの人たちとのコラボ企画もあるので、盛り上がってほしいなと思います」
ビートボクサー/ルーパーSO-SOの音楽の旅はまだまだ続くがこの「Interview 2.0」にて、このインタビューをシメたいと思う。
1stアルバム『Party』から2年。ビートボックスはもちろん、DTMも上達し昨年からはDJも始めたSO-SO。2月にはDJingでも使えるような強度の楽曲を目指して作った「Interview 2.0」をリリースした。1stアルバム『Party』収録の「Interview」はSO-SOの代名詞と言える代表曲のひとつだ。曲に取り入れられたロボットボイスでの
「What’s up? SO-SO.」
「Name Please? SO-SO.」
「What? SO-SO.」
「Anyway let’s party now.」
はバトルにおいても彼のネームタグとして知られているフレーズ。そんな自身の原点に立ち返り、アップデートされたものが「Interview 2.0」である。
「パワーアップした自身のスキルをもって、ロボットボイス部分以外を全てリニューアルしました。アップデートされたクオリティと自分の成長を見せたかった曲です」
もちろん、楽曲で使われている音は全て自分の口からマイクで録音した音を使っている。
「目指すのは『GRAND BEAT BOX BATTLE』優勝。コロナ禍で大会は延期中で、再開したときは優勝できるように、日々アイデアを溜めています」
そのキャッチーな容姿とは裏腹な野心家は、来るべき戦いの日に備え静かに牙を研ぐ。
SO-SO「Interview 2.0」
配信リンク
▶https://linkco.re/pCSxatGM
SO-SO
1999年生まれの日本のヒューマンビートボクサー。ループステーションやボーカルエフェクターを使って自身の口から発せられる音を多重録音し、リアルタイムで音楽を構築していくパフォーマンスが武器である。
その実力はポーランドで開催された世界大会「Grand Beatbox Battle」のループステーション部門でtop4入りを果たし、同年のアジア大会では見事チャンピオンに輝いた。彼の世界大会のYouTube動画は合計で現在3000万回以上再生されており、瞬く間に世界から注目を集めた。その後中国大会やオンライン世界大会などでは審査員も務めている。
また、オリジナル曲を多数リリースしており、2020年11月にリリースしたトラックメイカーのMasayoshi Iimoriとのコラボ曲 “I Scream”がZeds Deadのレーベル「Deadbeats」にサポートされる。更にTeddyLoid氏が審査員を務めた、イギリスで行われる「Hyper Japan Festival 2020」の出場者オーディションでは、トラックメーカー部門で最優秀賞にノミネート。最近では「関ジャム完全燃SHOW」や「スッキリ」に出演するなど、ジャンルを問わず幅広く音楽活動をしている。