日常とダンスの場を繋ぐ存在に。SIRUPの1stアルバム『FEEL GOOD』レビュー

2019年注目のアーティスト、SIRUP。日常に入り込むダンスミュージックを体現した彼の最新アルバム『FEEL GOOD』をレビュー。
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2019.06.13 06:00

5月29日にリリースされたSIRUP(シラップ)のアルバム『FEEL GOOD』。満を持して発売された初のフルアルバムは、5つの既存曲と7つの新曲を収録。クラブシンガーとして火が付き、今では大型フェスに出演、CM曲にも抜擢されるようになった彼の歴史が詰まった1枚である。





クラブから抜け出してなお響く、ダンスミュージックとしてのSIRUP


個人の感覚だが、“生活”にダンスミュージックが馴染まない。テンションが高すぎたり、生活の中で共感できる部分が少ないからなのか。クラブという場所や音楽は私の生活の中にあるけれども、普段の生活とは少し違う、特別な異空間のような場所でもある。だからクラブで聴く“特別な”音楽を生活の中で聴く音楽として選ぶことができないのかもしれない。


ただ、SIRUPは別だ。普段の生活の中で聴き、クラブでの“特別感”を少しだけ日常に持ち込める。クラブに行く前にウォームアップとして選ぶことも多く、アルバム『FEEL GOOD』も普段の生活の中で聴くダンスミュージックに仲間入りした1枚だ。


アルバムは低めのヴォイスが印象的なダンスチューン「Pool」で始まり、テンポもテンションも上がる「Do Well」へと繋がる。アップテンポの後は「Why」でまた少しクールダウン。心地よいアップダウンが続き、最後は「LOOP」でゆったりと終える。聴きながら思わず体を揺らしているとあっという間に終わってしまい、名残惜しさにまたループ。好きなジャンルの音楽がクラブだけでなく生活空間で聴けるのは嬉しい。彼の音楽はクラブでのダンスのためだけではなく、生活の中で心地よく揺れる音楽にもなってくれるのだ。


根底にある、揺るぎないダンスミュージック


SIRUPの音楽を聴いていると、自然に体が揺れてしまう。トラックはもちろんのこと、ラップや韻を踏んだ歌詞までもリズムとして耳に入ってくる。トラック、メロディー、リリックが渾然一体となり心地よいダンスミュージックとしてフィジカルに訴えかけてくるのだ。新曲として収録された「Pool」は歌うようなラップから耳に残るメロディー、サビの掛け合いなど、CM曲としてヒット中の「Do Well」に続くフロアアンセムになりそうな印象を受けた。



そもそも彼はクラブシンガーとして自身の活動をスタートさせている。Erykah Badu(エリカ・バドゥ)やD'Angelo(ディアンジェロ)といったネオ・ソウルが好きで歌い始めたという(その当時はKYOtaroという名義で活動していた)。過去のソウルミュージックにヒップホップ的エッセンスをプラスし、よりグルーヴィーに進化を遂げたジャンルであるネオ・ソウルをバックグラウンドに持つことを考えれば、彼が“体を揺らす”、グルーヴ重視の音楽を生み出しているのにも納得がいくだろう。


また、ダンスミュージックとしてのSIRUPを語る上で、プロデューサーとして名を連ねる気鋭のトラックメイカーたちの存在も欠かせない。KYOtaro時代から彼の楽曲プロデュースを手がけるSoulflex(ソウルフレックス)のMori Zentaroを始め、小袋成彬率いるTokyo Recordings、ギター/マニピュレーターとしてライブにも参加するShin Sakiuraなど、才能溢れるトラックメイカーたちが彼の楽曲のダンスミュージックたる面を支えているのだ。


「SIRUP」というアーティスト名がSingとRapからきている通り、歌もラップも器用にこなしてしまう彼だが、今回のアルバムではラッパーとシンガーをそれぞれ客演に迎えた楽曲も収録されている。個人的に好きなのは6曲目の「Slow Dance feat.BIM」。冒頭から独特なリズムで言葉を乗せ歌うSIRUPパートからサビ、そしてBIMのラップへ。


まだ君のことあんまり知らないしさ

昔はどんなだったとか聞きたいよな


と、BIMのラップとSIRUPの歌が絶妙に重なり、心地よい。自然と“Slow Dance”している自分に気づく。





日常に馴染む、誰もがイメージできる一瞬を切り取ったリリック


ダンスミュージックながら普段の生活にも馴染むと前述したが、それには「誰もがイメージできる日常の一コマ」を切り取ったリリックが大きな役割を果たしているように思う。


あの日からひび割れてるグラス

そろそろ捨てようかな

Goodbye my bro

Growing pains

So warm


思い出す君との Memory

触れるとまだ暖かいけど

僕らはもう別々の道

歩みだしたそれぞれの日々 Oh


5曲目「Evergreen」の一節だ。別れを選んだ大切な人との思い出を歌っており、別れを選択し前を向こうとしつつも、まだ少しだけ過去を振り返る様子が胸にくる歌詞だ。ひびが入ってしまったのは自分の心なのか、別れを選んだ誰かとの関係なのか。誰もが経験したことがあるであろう“別れ”の一瞬が鮮明に切り取られている。




起きんのが辛くても

目覚めの a cup of coffee baby

2人がけの Table

腰掛けて「Good morning」


アルバムの最後に収録された「LOOP」では、幸せな日常を歌っている。勝手ながらコーヒーを飲んだり2人掛けの席に出会ったとき、自然とこの曲を思い浮かべてしまうのだが、それはきっと私だけではないはず。それだけ普段の日常に入り込んだリリックであるがゆえに、ダンスミュージックという枠を飛び越えてより多くの人に愛される楽曲になっているのではないだろうか。




日常とダンスの場を行き来する存在に


グルーヴィーなトラックと共感性の高いリリック、そしてそれらを自在にコントロールする歌唱力。クラブとダンスミュージックが好きな私としては、ダンスミュージックに馴染みがない人と、ダンスミュージックとの架け橋になるようなアルバムに思えた。


「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」や「SUMMER SONIC 2019」など大きな夏フェスにも出演が決まっているSIRUP。普段ロックやポップスを聴く人にもきっと心地よく彼のグルーヴは届くだろう。日常とダンスの場を繋ぐ存在として、さらに日本の音楽シーンにおいて存在感を増していってほしいと願っている。




【関連インタビュー】

「今の自分を正直に表現したい」SIRUPの背景にある、アーティストとしての“強さ”の理由

SIRUP 『FEEL GOOD』




リリース日:2019年5月29日(水)

品番:RZCB-87001

価格:2,800円+税


収録曲:

01.  Pool

02. Do Well

03. Why

04. Rain

05. Evergreen

06. Slow Dance feat.BIM

07. Synapse

08. CRAZY

09. PRAYER

10. SWAM

11. PLAY feat. TENDER

12. LOOP


購入リンク

https://lnk.to/0529_sirup_feelgood


SIRUP

R&B/Soul、HIPHOPなどのブラックミュージックをベースに様々なクリエーター / ミュージシャンとコラボしていくシンガーソングライターKYOtaroが立ち上げたソロ・プロジェクト「SIRUP (シラップ)」その唯一無二のシルキーな歌声と、五感を刺激するグルーヴィー&アーバンなサウンドで日本の音楽シーンに新たなセンセーションを巻き起こす。


written by koharu



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