近年、BTSやBLACKPINKといったダンサブルな音楽性を持つK-POPグループが、世界中のヒットチャートを席巻。グラミー賞授賞式やコーチェラのような有名フェスのような大舞台でも存在感を示す中、クラブミュージックシーンにおいても韓国シーンの発展はめざましい。
例えばヒップホップシーンでは、2015年にKeith Apeが「It G Ma」がヒットを飛ばし、ハウスシーンでは2018年にPeggy Gouが「It Makes You Forget (Itgehane)」をフロアアンセム化。現在は彼らに続く新たな才能も次々に現れ、シーンを賑わせるなど、メジャーなポップスシーンだけでなく、リアルなクラブシーンにおいてもグローバルに活躍するアーティストを輩出し続けている韓国の音楽シーン。その中でも今、現地で最も熱狂的なムーブメントを巻き起こし、毎週末、信じられないくらいの盛り上がりを見せているのが、”韓国バウンス”と呼ばれる新たなクラブミュージックのジャンルだ。
”韓国バウンス”は、DJ Magの世界クラブランキングで7位を獲得し、日本のクラバーたちの間でもよく知られた韓国を代表するビッグナイトクラブ、OCTAGON SEOULを起点とする。その後、あるヒット曲をきっかけに爆発的な拡がりを見せ、今では韓国中のクラブに浸透しているという。
そういわれるとクラブミュージック好きとしては実際に現地に赴き、一度体験してみたいと思うが、実は今、その韓国バウンスが東京でも楽しめることをご存知だろうか?
OCTAGON SEOULの流れを組むSEL OCTAGON TOKYOでは、毎週木曜に韓国バウンスオンリーのパーティ「MOCTAGON(モクタゴン)」を昨年12月から開催している。
OCTAGON SEOULは、クラブミュージックのトレンドセッター役のみならず、”平日木曜の夜”に遊ぶことをムーブメントにまで押し上げた、現地クラブカルチャーにおける最もイノベーティヴなヴェニューとして知れている。そのスタイルを東京に浸透させるべく、EDM以降に勃興した新たなジャンル、韓国バウンスを武器に現在、日本のクラブカルチャーの変革に挑んでいるのがSEL OCTAGON TOKYOにおける「MOCTAGON」のサウンドプロデューサーを務める元U-KISS出身DJのDJ Rushin’Justin a.k.a DonghoとディレクターのDJ KONZOだ。
日本ではまだ聴きなじみのない韓国バウンスとは一体どのようなサウンドのクラブミュージックなのだろうか? 音楽的な特徴からシーンの成り立ち、知っておくべきアーティスト、今後の展望など、韓国バウンスと「MOCTAGON」の魅力について彼らに熱く語ってもらった。
--まず、今、韓国で流行っている韓国バウンスとはどのようなジャンルの音楽なのでしょうか?
DJ KONZO(以下 K):そもそもバウンスというジャンルは文字どおりバウンシーな音楽だということが特徴です。韓国バウンスはそのバウンスとミニマルハウスの要素が融合した音楽のことをいいます。そのため、実際の韓国ではミニマルバウンスと呼ばれることもありますが、それを韓国風にアレンジしたものを大きく分けて韓国バウンスと呼びます。
--バウンスといえば、以前、流行したメルボルンバウンスをイメージしますが、違いはどのようなところにありますか?
DJ Rushin'JUSTIN aka DongHo(以下 R):簡単にいうとメルボルン発祥のバウンスがメルボルンバウンスと呼ばれていて、韓国で人気のミニマルバウンスが韓国バウンスと呼ばれているという違いです。厳密にいうと韓国バウンスのルーツにはメルボルンバウンスが関係していて、その中の韓国人好みの曲が韓国のクラブシーンで広がっていき、徐々に韓国バウンス化していきました。
K:2つの音楽的な違いですが、メルボルンバウンスが派手でギラギラしたシンセを使ったり、曲の構成もEDM寄りになっている一方で韓国バウンスは、シンプルなキックとベースラインを多様するなどミニマルミュージックの要素が強くなっています。また韓国バウンスはメルボルンバウンスと比べてキックの重低音が強調されています。
--どのような点が韓国バウンスの特徴でしょうか? リズムパターンやBPMなどものになっていますか?
K:韓国バウンスはテクノやミニマルハウスのようではありつつも、ビルドアップ、ドロップがあり、曲の構成は基本的にバウンスの流れを継承しています。またビートの裏に入ってくるミニマルハウス系のトコトコトコというパーカッションの音がドロップ付近になると聴こえてくるのも特徴のひとつです。
ただ、最も大きな特徴は曲中にブレイクがほとんどないという点です。またテンポに関してはバウンスと同じく大体の曲がBPM128~130くらいで、曲構成やBPMからしてもダンサブルなジャンルだといえます。
R:今は韓国でもDJが音楽制作することが多くなってきているので、DJによってはEDMやTop 40系のヒット曲やポップスの有名クラシックを自分で韓国バウンス風にエディットしてプレイすることもあります。それとエディット曲だけでなく、韓国バウンスのオリジナル曲をリリースするプロデューサーもいます。
--なるほど。では、率直にいって韓国バウンスの醍醐味はどのようなところにあるのでしょうか?
K:醍醐味ということであれば、まずTOP40やヒップホップと比べて、曲中にブレイクが少ないので、フロアで休憩する時間がほとんどないから飽きるまで踊り続けられるところです。そういう意味では韓国バウンスには90年代のレイヴ音楽みたいな要素が少なからずありますね。
それと音源自体がバウンシーでシンプルだから韓国バウンスの曲を知らない場合でも、頭で考えるより身体で理解できる、自然と身体が動いてしまうような楽しさがあります。
--そういった音楽が韓国のOCTAGON SEOULで流行しだしたのはなぜでしょうか?
R:韓国では、元々メルボルンバウンスが人気で、そのシーンが現地にあったことがまずひとつ。次にEpiikとSIXTHEMAというプロデューサーの「Disco」という韓国バウンス曲が大ヒットしたことで、そこからシーンがガラッと変化しました。
現在、OCTAGON SEOULでは、韓国バウンスのようなディープでかっこいい音楽がトレンドになっているだけでなく、韓国のほとんどのクラブでプレイされるようになっています。しかもそのムーブメントは中国にも拡がっていて、最近では韓国人DJが毎週末、中国のクラブでプレイするほど盛り上がりを見せています。
--最新の韓国バウンスの曲やシーンの動向などの情報はどこでチェックできるのでしょうか?
R:特定の専門サイトのようなものはありませんが、韓国の専門レーベルやオーストラリア、欧米のバウンス系レーベルから音源がリリースされています。また多くのDJやプロデューサーがSoundCloudに韓国バウンスのオリジナル曲やエディットをアップしていますので、現状、このジャンルの1番の情報源はSoundCloudになると思います。
--韓国バウンスシーンが気になった人におすすめのDJ/プロデューサーは?
K:まずはさっき名前が出てきたEpiikですね。彼は来日経験もあるし、このジャンルの中では第一人者といえる存在です。エディットよりもオリジナル曲を数多く制作しているプロデューサーで、キャッチーな声ネタが印象的な韓国バウンスアンセムの「Disco」は、今ではほかのジャンルの日本人DJにもプレイされています。
次にAsterです。彼は日本にも多くのファンを抱えていますが、Epiikとは対照的にブートレグのエディット音源を中心に制作しています。
最後はFREEZです。FUKKEULとBREEZEというDJ/プロデューサーが結成したユニットで、2人とも韓国の有名クラブの音楽ディレクターを務めているだけでなく、端正なルックスでも人気です。そのため実力と人気を兼ね備えたシーンの最重要ユニットとして知られています。
--毎週木曜日にOCTAGON SEOULの雰囲気を東京で楽しめるイベント「MOCTAGON」を開催されています。こちらにはどんなお客さんが集まっているのでしょうか?
R:韓国のカルチャーやクラブシーンに興味を持っている人や韓国バウンスが好きな人が集まっています。彼らは日本に住んでいる若い韓国人留学生と友達で、そのつながりから現地のカルチャーに敏感だったり、OCTAGON SEOULで楽しんだ経験をもっていたり、日本でも本場のカルチャーを体験してみたいと思っている人たちです。
--初心者が「MOCTAGON」で韓国バウンスを楽しむためのコツを教えてください。
K:「MOCTAGON」では、上半身だけで踊るのではなく、ステップを踏んで踊ると韓国バウンスをより楽しめます。DJもそれを理解しているので、とにかく身体を動かしたくなる選曲を心がけています。ですのでまずはそれにあわせて自由に全身で踊って、是非、韓国バウンスでフロアが盛り上がる雰囲気を味わってほしいです。
--今後、SEL OCTAGON TOKYOから韓国バウンスを広げていく上でどのような展望がありますか?
R:韓国バウンスはまだ日本では正式な名称はありませんが、これから日本のお客さんに聴かせていくことで、SEL OCTAGON TOKYOに特化したジャンルに成長していくと考えています。
またクラブを運営しているAvexには音楽で世の中を変えていくブランド力があり、かつてVelfarreからトランスを日本全国に発信して浸透させた実績があります。そういった背景があるからこそ、今度は僕たちがSEL OCTAGON TOKYOから新しいカルチャーのトレンドを発信したいと思っています。
ただ、韓国のトレンドを単純に直輸入したところで日本でそのまま受け入れられるとは限りません。だからこそまずは日本風にアレンジすることも大事だと考えています。その上で日本にあった形を模索しながらシーンを拡大していき、最終的にはSEL OCTAGON TOKYOでプレイされる韓国バウンスのことをみんなが”オクタゴン・バウンス”というジャンルと呼ぶようになるくらいシーンに定着させていきたいです。
K:今は無料でほとんどの音源が手に入る時代ですが、音にこだわりを持つプロのDJなら有料だとしても高音質のものがあるならそちらを選ぶべきです。
またSEL OCTAGON TOKYOでは、箱付きDJがハイ・クオリティなパフォーマンスをするための活動支援も行われています。それくらいプロフェッショナルな姿勢のクラブから生まれる東京発の”韓国バウンス”、”オクタゴン・バウンス”を日本だけでなく、世界にも広げていきたいです。
written by Jun Fukunaga