【レポート】Rolling Loudの名のもとに。精鋭たちが集結した「Rolling Loud JAPAN 2018~Pre-Roll~」

KOHH、Kaytranada、kZm、Marzyらがパフォーマンス。オフィシャルフォトとともにレポート
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2018.07.09 03:00

7月1日。マイアミを拠点に18万人を動員する世界一のHIPHOPフェスRolling Loudが東京でPre-Rollを開催した。全米の主要なHIP HOPアーティストがほぼ全員出ているのではないかというくらい、とてつもない規模で行われているフェスだがその日本版のプレイベントが今回行われた「Rolling Loud JAPAN 2018~Pre-Roll~」なのである。来日の挨拶がわりというにはあまりに強力なメンツが集結し、オーディエンスを盛り上げた。




MARZY、kZm、Kaytranada、KOHH。珠玉の4名が日本でRolling Loudの狼煙をあげる


ゆりかもめに揺られて日の出駅に降り立つ。潮風の匂いを感じながら駅階段を下れば、「Rolling Loud JAPAN 2018~Pre-Roll~」の会場であるTABLOIDへはほぼ直通だ。


もともとはフジサンケイグループ新聞社の印刷工場だったという。なるほど。だからTABLOIDなのか。あのRolling Loudが日本にやってくるかもしれない前哨戦。これはある種、日本のHIPHOPファン層にとっては一面を飾るニュースだよな。そんなことを考えながら、これから起こる出来事に胸が高まっていた。


参考記事:Kaytranada、KOHH、kZm、そしてMARZYが参戦「Rolling Loud JAPAN 2018~Pre-Roll~」






グローバルなセンスを凝縮した“AZAMARZY”スタイルが炸裂


イベントのトップバッターを務めるのはYENTOWN/properpedigree(以下:prpr)の旗手MARZY(マージー)。この時間からまだ人も入りきっていないタイミングで、MARZYのDJが聴けるというのはなんとも贅沢に思えた。


グローバルなセンスで東京のシーンをブチアガLit(=めちゃくちゃアゲ)させるMARZYは、新しいHIPHOP世代のアイコンになりつつある。Rolling Loudの看板のもとにオープニングを任せるならば、彼以上の適任者はいない。


そう言い切れるほどに絶妙な選曲、技術、オーディエンスを興奮へと誘うMCは見事だ。ボルテージが上がれば上着を脱ぎすてる。裸一貫となってからがMARZYの真骨頂だ。BPMとビートをジャグリングさながら、巧みにコントロールして陽も沈みきらない時間のフロアに火を入れた。


Rich the Kid(リッチ・ザ・キッド)「Plug Walk」などトップヒットはもちろん、MARZY本人も敬愛するという先日亡くなってしまったXXXTentacion(XXXテンタシオン)をセレクト。Awich(エイウィッチ)「Remember feat.YOUNG JUJU(ヤングジュジュ)」Young Coco(ヤングココ)「KONOMAMA」など仲間たちの楽曲も忘れない。


極めつけはBackstreet Boys(バックストリートボーイズ)「I Want It That Way」のベースが強調されたREMIXを投下。なんて男前なDJで楽しませてくれるのだろうか。MARZYを象徴するシャウト“AZAMARZY”と感謝の意を伝えたいのはこっちの方だ。






“YEN”を背負うニュースターkZmが会場をさらに熱くする


MARZYのDJからそのままkZm(カズマ)のライヴに移行。YENTOWN最年少ラッパーの登場に会場は色めきだつ。若きスターは、今や“YEN”を背負う風格すら漂わせている。





アルバム『DIMENSION』から「Rari‐狂‐」5lack(スラック)をフィーチャーした「Wolves」、Awichとの「Sect Yen」、「She Knows」ではデザイナー、モデル、アーティストとマルチに活躍するGab3(ゲーブ)がLAから駆けつけた。サプライズで登場し、会場を沸かせた。




「Rolling Loudの動画観たことある? アレのモッシュピット、マジでヤバイから」


kZmの言うモッシュピットとは、オーディエンスのクラウドが2つ以上に分けられ、クラウド同士が衝突して暴れまくるという、言うなればRolling Loudの代名詞的な“催しモノ”だ。kZmの案内によって続く「WANGAN」でモッシュピットが発生。kZmのライブDJを務めていたMARZYもフロアに飛び込み、クラウドをかき回した。




「俺がライヴして、このあとKOHH(コー)くんもやるけど。いちばん大事なのはみんながどんだけ今日盛り上がれるかなんだよ」


kZmはステージから言い放った。そう。今回はあくまで“Pre-Roll”だ。USの熱量を継承し、完全な「Rolling Loud Japan」を実現するにはオーディエンスたちの力と結束が必要不可欠であることをkZmは知っている。


ハードロックなギターリフが特徴的な「Emotion」のChaki Zulu(チャキ・ズールー) Remixで会場を揺らし、最後はお待ちかねの「Dream Chaser」。The Killers(キラーズ)「Mr.Bright Side」のイントロをサンプリングしたリフレインが印象的な、屈指の人気を誇るアンセムチューンである。


客演のBIM(ビム)とともにMVさながら、ストリートの仲間たちが颯爽とステージに登場。オーディエンスはフックを歌いながらスマートフォンのLED照明で彼らを照らした。一体感が気持ち良く、会場はピースフルな雰囲気に包まれた。








Kaytranadaのチルな世界観がオーディエンスを虜に


そして今回ラインナップされたアーティストの中で唯一の海外アーティストKaytranada(ケイトラナダ)の登場である。彼の手掛けるトラックワークは数知れず。「ポストJ Dilla」の異名を持ちハイチ出身でカナダを拠点に世界中のアーティストとコラボする名プロデューサーだ。メディアが定めた枠組みをゆうゆうと飛び越え、すでに自身の世界観を確立している。




MARZY、kZmによって良い具合にヒートアップした会場は一旦、KaytranadaのDJでムーディな雰囲気に。Wavyでアーバンな選曲が心地良い。自身がプロデュースを手掛けたChance the Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)とKnox Future(ノックスフューチャー)「All Night」や、Kaytranadaのオリジナルアルバム『99.9%』から「One Too Many」などを繰り出し、フロアから歓声があがった。




手掛ける楽曲がほとんどビッグタイトルとなっているだけに、すべてがハイライトともいえるKaytranadaのDJだったが、本人がプレイするTeedra Moses「Be Your Girl」のKaytranadaエディションは鳥肌モノだ。時折、控えめながら絶妙なMCを挟みつつ、セルフトラックを中心にサマームードたっぷりな空間を演出した。


既存のジャンルではくくれない、どこか懐かしくてチルい楽曲たち。だけどグルーヴもあって気持ち良く踊れる。Kaytranada独自の“New Wave Funk”とでもいうべきか。2018年もますます楽しみなアーティストである。




孤高の“Living Legend”KOHHの感性が爆発


残すところ最後の出演アーティストを待つのみになった。嵐の前の静けさ。TABLOIDは不思議な静寂に包まれていた。転換の間のバックトラックだけが淡々と流れている。


KOHHのパフォーマンスを生で見るのは1年半ぶり2回目だ。世界的に人気とプロップスを獲得する日本人アーティストの最新のライヴを観られるのは運がいい。KOHHはかれこれ1年以上新たな音源のリリースはない。それでも、前列に押し寄せたオーディエンスはこの日の最大密度となっていた。KOHHに寄せる期待の大きさが見てとれる。


「Yah-Yah-Yah」。甲高い“いつもの”かけ声がTABLOIDに響くと同時に「Living Legend」の破壊的なトラックとKOHHのシャウトが鼓膜を切り裂いた。フロアも大絶叫だ(もちろん筆者も)。Rolling Loudだろうと彼のスタンスは何も変わらない。おそらく気負うことすらしていないだろう。






合間のMCの語り口は誰よりも謙虚だ。独特のリズムで敬語で、オーディエンスに語りかける。ひとたび曲が始まれば音楽ですべてをぶちまける。名言、暴言、罵詈雑言が入り混じった本音をトラックと観客にぶつけるのだ。


KOHHの圧倒的なパワーにオーディエンスも質量で呼応する。さきほどまで英語で会話していた外国人もKOHHのリリックを日本語で歌う。主に3rdアルバムの『DIRT』、続くアルバム『DIRT Ⅱ』からの楽曲を中心にライヴは構成されていた。「Dirt Boys」「Paris/結局地元」「Die Young」、「Hate me」「Kurai Yoru」の他、一躍、世界へその名を知らしめたKeith Ape(キース・エイプ)との「It G ma」、J $tash(J・スタッシュ)との「HIROI SEKAI (Worldwide) 」を披露した。あっという間の50分間。その余韻は終わってからもしばらくの間、鮮明に残った。


“KOHH最高とか言う人たち 最低の間違い”


楽曲「Hate me」でKOHHは言う。曲中繰り返されるフレーズでは、


“俺のこと好きになるなよ まずあんたに興味無い”


と吐き捨てる。こんなライヴしておいて「好きになるなよ」ってそりゃずるい。なので間違いだったとしても、あえて言おう。KOHHは最高だ。








「CROSS THE BORDER」をテーマに行われた“Pre-Roll”


そのままプロジェクトの名前が今回のPre-Rollのテーマでもあった。国境を越え確かに「Rolling Loud」の一端を東京に持ち込み、出演アーティストたちは各々のポテンシャルを存分に発揮した。


出演した4組に共通するのは、国境や国籍関係なく、その感性を世界に向けて発信しているという点である。著名だろうと無かろうと、作品がクールならば互いにフラットに接する。その関係性はアーティスト同士が生み出す言語以上の作品性と、クオリティ、そして互いのリスペクトによって成立している。


「Rolling Loudを呼ぶっていうのも大切だけどこっちがUSに呼ばれるくらいの気持ちで俺はやってる。東京の感性もどんどん新しいものに変えていく。絶対やってやるから」


と、日本のアーティストとしてMARZYが出演後に頼もしい言葉をくれた。筆者は“AZAMARZY in USA”を本気で期待しているフォロワーのひとりだ。マジで実現してほしい。




2階のVIPエリアにはモデルやアーティスト、著名人がズラリ。出演したアーティストたちに関連するYENTOWN/prpr、Creative Drug Store(CDS)ら東京を代表するコレクティヴに加え、2017年にXXL FRESHMANに選出されたMadeinTYO(メイドイン・トーキョー)など彼らと親交のある海外アーティストの姿もあった。Rolling Loud Japanへの注目度の高さがうかがえる。


今回、Rolling Loudに集まったオーディエンスは総じてライヴもDJも両方同じ熱量で楽しめる感度の高い人が多かったことも特筆すべき点だろう。その甲斐あって、臨場感溢れるライブ体験をすることができた。




『GOTHAM TIMES』のKOICHICKSとサマンサ麻里子によるオフィシャルフォトブースがやばい


最後に、すべては紹介しきれないがモデル/DJとして活動しながらさまざまなジャンル、業界のアンバサダーを担うサマンサ麻里子と、世界中のセレブ、モデルやアーティストに肉迫し、レンズでボーダーを超えまくるフォトグラファー、KOICHICKS(コウイチナカザワ)によるオフィシャルフォトブースの写真を掲載する。フォトブース担当もちゃんと「CROSS THE BORDER」している人物をピックアップするなんて、企画とブッキングを担当した人たちかなり抜け目ないなと感心した。撮ってもらえばよかった!! (泣)


photo:koichicks Instagram


ソンイ



米原康正



植野有紗



Bibi・YUAs


Ayumi-Teresa・TOKINE


AMIAYA


DJ KYOKO


DJ Shintaro


LISACHRIS・MARZY


Kick-a-Show



GOLD-ERIKA・Minjia


TxBONE


YESBØWY・桃坂ナナ


アントニー


遠藤政子


MadeinTYO


(写真キャプションは敬称略、オフィシャルフォトに準ずる)


業種、ジャンル、年代、国籍、さまざまな境界線を越え「CROSS THE BORDER」な人と感性が集まった「Rolling Loud JAPAN 2018~Pre-Roll~」次回は「Rolling Loud Japan」として開催が決まることを願う。


この日、kZmのステージに登場した東京のストリートシーンを席巻する新たなコレクティヴYouth Quakeの面々と、その最前線で活躍するkZm(YENTOWN)、MARZY(YENTOWN/prpr)、BIM(CDS/THE OTOGIBANASHI'S)。このようなボーダーレスな共演も「Rolling Loud JAPAN 2018~Pre-Roll~」のイベントコンセプトを象徴している。






written by Tomy Mochizukiy


photo:Rolling Loud Japan


source:Rolling Loud Japan



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