加筆:2019年10月15日
PUNPEEは日本のヒップホップMCであり、トラックメーカー及びDJ、そしてサウンドエンジニアでもある。GAPPERと5lack(当時はS.L.A.C.K.)の3人からなるヒップホップユニットPSGを組んでおり、原島"ど真ん中"宙芳とDJコンビ「板橋兄弟」を組んでいる。
今ほどフリースタイルカルチャーが中高生に親しまれるようになる前。僕がPUNPEEの存在を知ったのはフリースタイルバトルの実力者として世に出てきたころ。アンダーグラウンドな言葉の天下一武闘会、UMB(アルティメットMCバトル)が全国各地で予選を開催。数々の名勝負やスキル自慢のラッパーを世に輩出し、大きなトピックを生みだし続けていた。2006年に、PUNPEEはこのUMB東京予選で優勝している。PUNPEEの軽妙なライミングのルーツはやはりこのフリースタイラーとしての実績が影響しているように思う。
PUNPEEは2002年にヒップホップユニット「板橋録音クラブ」を結成し、2007年に同級生のGAPPERと「P&G」を結成、実弟の5lackが加入してPSGとなった。同年にカトマイラの自作アルバム「三十路の嘆げKISS」を全曲プロデュースし、Summitを主宰する増田氏から評価を得る。
PSG結成から「三十路の嘆げKISS」と同時期、コアなヒップホップキッズがこぞって聴いていたSEEDAとDJ ISSOによるMix CDシリーズ『CONCRETE GREEN』。テレビやチャートに入らないアーティストの音源をズラリと収録。東京のみならず全国各地にヤバいアーティストがこんなにいるのかと衝撃を受けたものだ。『CONCRETE GREEN』にはUMBやB-BOY PARKのフリースタイルバトルに名を残す猛者たちも参加していたり、僕にとっては当時の日本のヒップホップの情報がギュッと凝縮された情報媒体だった。
2008年の『CONCRETE GREEN 7』でPUNPEEは「お隣さんより凡人」で参加。以来SEEDAとの交流は続き、2014年にリリースされた『CONCRETE GREEN THE CHICAGO ALLIANCE』では「憧れのCCG」で参加している。(筆者はPUNPEE氏の弟、5lackと同い年なので3つ離れたPUNPEEとほぼ同年代だ。僕もCCGに多大な影響を受けていたのでこの曲は分かりみが強い)
2009年、アカイプロフェッショナル・プレゼンツのSAMPLER BATTLE GOLDFINGER's KITCHEN で優勝を果たす。ひょうきんに振る舞いながら、遊び心と芯のあるビートを鳴らし、オーディエンスをロック。今に続く、PUNPEEの真髄だ。
同年10月にはPSGのデビューアルバム「David」を発表し、KREVAやZEEBRAらに高く評価された。2010年8月には曽我部恵一の「サマー・シンフォニー」のリミックス、「サマー・シンフォニーver.2 (feat. PSG) 」を12inchで発売している。 同年9月にはRAU DEFのアルバム『ESCALATE』にトータルプロデューサとして参加し、楽曲を4曲提供した。
PUNPEEは2010年11月に初のミックスCDとなる「Mixed Bizness」を1000枚限定で発売し、同年12月にヒップホップ専門メディアAmebreakの「AWARD 2010 BEST PRODUCERS」で1位を獲得した。
2011年になると6月に2nd Mixcd「BIRTHDAY BASH MIX」をリリースし、12月には自身のインターネット・ラジオ番組「Mixxed Bizness」をblock.fmでスタートさせた。同番組は2012年5月に全6回で終了し、同年9月に3rd Mix CD「MOVIE ON THE SUNDAY」をリリース。即完売となった。
同作はKREVAを初めとする著名アーティストが、年間ベストのMix作品に選出している。2013年4月にはASIAN-KUNG-GENERATIONの後藤正文のシングル「The Long Goodbye」にMCとリミックスで参加。翌年の1月には、世界各国のMCがラップを披露する、レッドブルのテレビCMに起用された。時を同じくして、block.fmでの番組「Mixxed Bizness」も復活。さまざまなアーティストの楽曲やメディアに登場し、その知名度をさらに拡大させていく。
『CONCRETE GREEN』シリーズによって世に知られることとなったラッパーの台頭や『CONCRETE GREEN』の仕掛け人、SEEDAが参加するSCARSの「THE ALBUM」のリリースにより、ガチのハスラーラップが日本でも支持を集めた。
彼らはリアルなストリートで悪名を轟かせる人たちなので、やっぱり見た目もイカつい人が多い。その中で、PUNPEEの存在は異端だった。容姿が普通。名前通りの、“パンピー”だったのだ。そんな人が、群雄割拠のUMBの東京予選を取り、さまざまなラッパー、他ジャンルのアーティストからプロップスを獲得するのは痛快だ。
見た目が普通で、刑務所に服役したことがなくても、“スキル”と“センス”があれば、ラッパーとして認められる。全国の“パンピー”はPUNPEEに勇気づけられたのでは。僕はそうだった。
そもそも“PUNPEE”(2006年から2008年にかけてはPUN-P)という名前、過去の書籍やインタビューによると、地元板橋の不良が多い中学校で、ゲームやゲーム機種を大量に保有していたことから、“イケてるやつ”として不良たちからカモられることもなく、一般の地位を確立したことが由来のひとつとして語られている。
SEEDAとは、2016年「金」で共演。このMVはPUNPEE本人による絵コンテが原案になっているという。
ラップやトラックメイキングだけでなく、アートワーク、見せ方にも直接関わっていく。ヒップホップアーティストというものはD.I.Y精神がアイデンティティのひとつでもあるので、このように作品全体に関わるということは珍しいことではない。PUNPEEに至ってはそれらの作品に、彼の好きなアメコミや映画が影響しているのが見てとれる。
アメコミ好きとして知られるPUNPEEは、DCやMARVELなどアメコミ作品のフィギュアを制作しているホットトイズのアイアンマンをカスタムして、自身を精巧にフィギュア化。
ホットトイズジャパンに展示されたラッパーは彼以外にいないだろう(たぶん)。自分の身体にアークリアクターを埋め込んでカスタマイズしたトニー・スタークみたいだ。
2017年、満を持してリリースされた彼の1stアルバム『MODERN TIMES』収録「タイムマシーンに乗って」は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」オマージュで、DCコミックスの「ティーン・タイタンズ」がチラっと出てきたり、「お嫁においで 2015 feat.加山雄三」では冒頭、「ウォッチ・メン」に出てくる、ロール・シャッハのデザインのTシャツを着用している。そして数々のアメコミ原本にDVDと、マニアなのは言わずもがなである。
好きが高じて、アメコミの翻訳本監修にも携わる。DCコミックスの「LOBO ポートレイト・オブ・ア・バスティッチ」(2015)や「LOBO BATMAN/LOBO AUTHORITY:HOLIDAY HELL」(2016)がそうだ。
主に翻訳者の椎名ゆかりさんが翻訳したセリフ、言い回しなどをPUNPEEが監修したという。このLOBOはだいぶアナーキーなキャラクターなので、アメコミカルチャーに精通し、“ノリ”を熟知した男が監修起用されたのは納得である。
先に書いたRAU DEFのアルバム『ESCALATE』から、近作である『ESCALATE Ⅲ』にもプロデュースと客演で参加。『ESCALATE Ⅱ』では「FREEZE!!!」や『DERICACY』収録の「Unbelievaboy」にSugbabe(シュグベイブ)名義で参加している。
このSugbabeは、PUNPEEのシンガー名義での名として知られているが、秘密裏に行われたオーディションで声を似た人を採用した、という設定がちゃんと用意してある。もしかしたら本当ににそうなのかもしれない。
Sugbabeの名の由来は本人も好きと公言する、山下達郎、大貫妙子、村松邦男らによるバンド、SUGER BABEが関係していることは間違いない。そしてかつての「DEATH ROW RECORDS」の設立者、Suge Knight(シュグ・ナイト)もかけてるのかなと個人的に勘ぐっている。PUNPEEはHIPHOPオタクでもあるから。
PSGの「愛してます」から10年。元ネタである「I Wish」のORIGINAL LOVEとも共演を果たす。1月のORIGINAL LOVE主催のイベントではORIGINAL LOVEの演奏で「愛してます」をPUNPEEがPSGとともに登場し、パフォーマンスした。また、2月にリリースされたORIGINAL LOVE通算18枚目のアルバム『bless You! 』には「グッデイガール」で客演を果たしている。
ORIGINAL LOVEの長いキャリアで意外にも初出演となったフジロック’19のステージで、PUNPEEもゲストとして登場し、会場を盛り上げた。
2016年のりんご音楽祭で加山雄三率いるTHE KING ALL STARSのステージに「お嫁においで 2015」でサプライズ出演したときのことが思い起こされる。音楽業界の大先輩、“アニキ”たちとフラットな関係性を築いているPUNPEE。ジャンルを超え、時間軸を自由に往き来できるのは、ピュアに音楽への愛を捧げるPUNPEEの人柄の為せる技だ。
PUNPEEは2016年の12月に、長年敬愛していた宇多田ヒカルのネットイベントにMCとして出演。
2017年の1月には宇多田ヒカルの「光」をリミックスした楽曲が配信され、全米iTunesチャートで日本人アーティスト最高位の2位を記録している。
同年、フジロックのホワイトステージで雨の降る中で、フジロックのレジェンドアーティストにオマージュを捧げ、同年に自ら命を絶ってしまったLINKIN PARK・Chester Bennington(チェスターベニントン)を追悼した神パフォーマンスを披露した。
フジロック出演を果たした同年、2017年10月に、1stアルバム『MODERN TIMES』をリリース。活動期間10年以上で1stアルバムをリリースするっていうのもセンセーショナルだった。狙っていたのか、結果的にそうなってしまったのか。もしくは本人がタイムリープしすぎて、すでに時間という概念が薄れてしまっているのかもしれない。
『MODERN TIMES』の舞台は2057年の未来に設定されている。71歳になった本人“OLD PUNPEE”なる老人がストーリーテラーとなり、過去の成功体験として1stアルバムを振り返るというもの。
このSF設定に加え、『MODERN TIMES』のアートワーク、ブックレットには隠し要素がふんだんに盛り込まれており、ゲーム好き、映画好きのPUNPEEらしい仕掛けだ。アルバムリリース後にその設定や背景を本人が語るオーディオコメンタリーをリリースする凝りようである。
オーディオコメンタリーはblock.fmプログラム「Summitimes」で解説された内容をさらにアップデートした、“ディレクターズカット版”として各ストリーミングサイトで配信された。2019年9月28日〜10月4日に開催され、block.fmの公開収録も行われたSUMMIT企画のバザーでフィジカル販売、あっという間にSold Outとなった。
オーディオコメンタリーというアイデアも、映画好きならではと言える。『MODERN TIMES』をより楽しむための、緻密な設定や舞台裏が面白おかしく語られているのだが、ユルい進行とPUNPEEの語り声の心地良さに聴きながら眠ってしまった経験がある。
オーディオコメンタリーのジャケットを手がけたのは『MODERN TIMES』のブックレットのアートワークを担当したnozle graphics。先述のPUNPEEカスタムアイアンマンの制作にも深く携わった人物だ。
『MODERN TIMES』はSPACE SHOWER MUSIC AWARD 2017のHIPHOP ARTIST部門を受賞。CDショップ準大賞を受賞。全国6箇所のワンマンツアーを行った。翌年は『MODERN TIMES』の集大成である「PUNPEE presents Seasons Greetings’18」と称したワンマンを新木場STUDIO COASTで開催。この模様をBru-ray化した映像作品は2019年12月にリリース予定となっている。
PUNPEEは2019年、上海と深センの2ヶ所で「CHINA TOUR 2019」を敢行した。Summit所属、2018年に「Buddy」で客演したCreative Drug StoreのBIMも同行。オープニングアクトを務めた。彼はPUNPEEを敬愛する、5lackと別ベクトルの“弟分”である。事実、BIMのルーツのひとつはPUNPEEであり、Summitへの加入もPUNPEEによるものが大きい。
BIMの念願叶ったコラボ「Buddy」は同じビートをエージェントがミスってBIMとPUNPEEに2人に送ってしまうというハプニングから生まれた。ちなみに、このビートはJorja Smith(ジョルジャ・スミス)といったUSアーティストにもトラックを提供するプロデューサーチームRascalによるもの。先ほど紹介したRAU DEF「ESCALATE Ⅲ」にも多数楽曲を提供している。RAU DEFによるこちらの「ESCALATE Ⅲ」のリリースパーティが2019年12月20日に予定されているので、客演参加しているPUNPEEもおそらくライブ出演するだろう。
PUNPEE直近のビッグなトピックのひとつは、星野源「Same Thing」 EP収録のコラボ曲「さらしもの」のリリース。日本から世界へ名を轟かせる神メロメーカーと、HIPHOPを素地に、J-POPに通ずるメロディを紡ぐPUNPEE。似て非なる、並行世界のヒーローたちによる待望のコラボレーションだ。『スパイダーバース』みたいなワクワク感がある。
そしてPUNPEEの実弟、5lackは2019年11月21日に単独ホールライヴ「板橋再開発」を地元の板橋文化会館大ホールで開催。チケットはすでに完売している。関西では「西京所」と称してロームシアター京都 サウスホールにて開催される。
この2人のステージは“家族”って感じがして好き。どこまでいっても正真正銘の家族なのだ。WWW Xで行われた2017年カウントダウン、2018年ニューイヤーイベントでは、年越しDJをPUNPEEが担当。5lackも駆けつけて年越しを迎え、やんややんや互いに言いながら兄弟で年を越している2人にほっこりした。
ぶっきらぼうな弟と、人たらしの兄。この2人にまつわる数々のエピソードは、嘘かホントかネット上やTwitterで見られるので探してみてほしい。
PUNPEEのナードな側面や、僕も弟がいて兄弟間のパワーバランスというか、関係性、兄と弟の性質が似ていると勝手に親近感を覚えていた。この記事を書くためにいろいろ調べていたら、実はPUNPEEと本名が同じということが分かってびっくりした。
PUNPEEを好きで聴いているけど、そういえば本名なんて気にしたこともなかった。ネット上に書いてあったから本当がどうかは分からないが、ずっと会ってみたいと思い続けているアーティストのひとりなので、いつか会えたらいいなと思う。
このように、PUNPEEは、自分の好きなストーリーや世界観を作品に落とし込み、アウトプットしている。好きなものを自分の生み出す作品と融合させ、突き詰める。それもただの自己満足ではなく持ち前のセンスがいいから、幅広いリスナー、ファンに指示される。その上、モテる(たぶん)。PUNPEEは“ストリート・ドリームズ”ならぬネット時代の“インターネット・ドリームズ”を叶えた男なのだ。
今後はどんなサプライズで、楽しませてくれるのだろうか。MARVEL CINEMATIC UNIVERSEのPHASE 4も気になるけれど、「フフっ」と笑いながら、きっとみんながワクワクする仕掛けをPUNPEEがカマし、時にスカしてくるのを楽しみにしたい。
Written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki
source: https://www.summit2011.net/archives/punpee/
https://miyearnzzlabo.com/archives/49844
https://miyearnzzlabo.com/archives/50159
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