「FUJIROCK FESTIVAL’19」(以下:フジロック’19)でもテクニカルなライヴを見せてくれたPhony Ppl。フジロック’19でUNION TOKYO での Meet & Greetの様子とともにその魅力を紹介する。
Phony Pplはフジロック’19で3日目のRED MARQUEEに登場。NYはブルックリンを拠点とする実力派バンドは度々、LAのThe Internet(ジ・インターネット)と並んで紹介されることが多い。ご存じTyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)率いるOFWGKTA所属のSyd tha Kyd(シド・ザ・キッド)、5月にソロアルバム『Apollo XXI』をリリースしたSteve Lacy(スティーヴ・レイシー)らを擁するバンドだ。フジロック’19の紹介文でも“西のThe Internet、東のPhony Ppl”と形容されていたが、実際に気の合うバンド同士、交流があることでも知られる。
Phony PplはNYブルックリンで2009年から活動している。Joey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)率いるPro Eraを中心として、Flatbush Zombies(フラットブッシュゾンビーズ)や、The Underachievers(アンダーアチーヴァーズ)の面々とともにNYの新世代ヒップホップを台頭するBEAST COASTムーヴメントに参加。ヒップホップと近い領域にいたこともThe Internetとの共通点といえる。
当初はDyme-A-Duzinといったラッパーたちを含む9人編成のバンドだったが、現在はボーカル/Elbee Thrie (エルビー・スリー)、リードギター/Elijah Rawk (イライジャ・ローク)ドラムス/Matt "Maffyuu" Byas (マット・マフュー・ビアス)、キーボード/Aja Grant (エイジャ・グラント) 、そしてベース/ギターのBari Bass (バリ・ベース)の5人編成。
Phony PplはフューチャーR&B、ネオソウルなどさまざまに形容されることが多いが、彼らは自分たちを“no GENRE”としており、自由でヒップで愛に溢れたPhony Pplの音楽性を的確に表しているように思う。
2009年『WTF is PhonyLand? 』、2012年『Phonyland』、同年7月にリリースしたEP『nothinG Special』、翌2013年『53,000.』、前作2015年リリースの『Yesterday's Tomorrow.』など、Phony Pplは早い段階からSoundCloudやBandcampなどを通じてデジタルフォーマットでの配信をメインに、自主レーベルからリリースしてきた。近作となる『mō’zā-ik.』はMIGOS(ミーゴス)やYung Thug(ヤングサグ)、Fetty Wap(フェティー・ワップ)などのアーティストと契約している300 Entertainmentから2018年10月にリリース。
こちらは基本的にデジタルフォーマットでリリースされ、限定でフィジカル盤をプレス。彼らのライヴ会場などで販売されていたのだが、日本では世界で唯一、独自企画としてアルバムがCD販売されている。日本でのPhony Pplの注目度、期待値の高さがうかがえるが、独自のCD文化がいまだ根づいているという背景もあるのだろうか。個人的には少し複雑な心境である。
2012年、まだバンドが9人編成だったころは、若き日のChance the Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)とのコラボや、Erykah Badu(エリカ・バドゥ)の公演のフロントアクトを務めた。華々しい経歴を重ねていく一方で、今に至るまでにはMC陣をはじめとしたメンバーの脱退があり、その過程でサウンドもジャズやソウル寄りに変化していく。
メンバー脱退を経てのアルバム『Yesterday's Tomorrow』をリリースした2016年に、皮肉にもPhony Pplは大きく全米の注目を集めることとなった。Rolling StonesやComplexなど音楽メディアで高く評価され、Billboard Chartでも最高24位をマークし、広く支持される。音楽メディアele-kingが2019年の単独来日公演時に行ったインタビューに依れば、「前作は不安やストレスを感じながら制作していた」とElijahが振り返っているが、バンドとしてはやはり『Yesterday's Tomorrow』が評価され、このアルバムを機に活動の幅が広がったといえるだろう。
Tyler,The Creatorが主催する「CAMP FLOG GNAW CARNIVAL」に出演し、同年から翌2017年にかけてはNYのBlue Noteにてレジデント公演を大成功。以降2018年、2019年と毎年Blue Note公演を行っている。
2018年はThe Roots(ザ・ルーツ)がグラミー賞に関連して開催した「Roots Jam」へ出演。哀しくもMacMillerの遺作となってしまった『Swimming』には、John Mayer(ジョン・メイヤー)や、Flying Lotus(フライング・ロータス)、Thundercat(サンダーキャット)、Syd、Steve Lacyとともに、メンバーのAja Grantが「Small Worlds」と「2009」の2曲に参加している。
さらに同年はPusha T(プッシャ・T)のアルバム『Daytona』ツアーにゲストとして同行。そしてライヴスケジュールと並行してリリースされた『mō’zā-ik.』をひっさげ、2019年1月WWWにて初となる単独来日公演を成功させる。日本での知名度も一気に上昇し、音楽ファンが全国から集まるフジロック’19への出演には今まで以上に日本のリスナーから大きな期待が寄せられていた。
block.fmでは女性アーティストを中心にフジロックをレポートしたが、3日目は特に観たいアーティストが集中していた。前日、宿に戻って次の日の出演アーティストの確認をしていると、一緒に行った友人が「このなんとか ピーピーエル良さそうですよ。観たいっすねー」という。友人は“フォニーピープル”と読んでいなくて、「だれそれ? 」と僕は適当に聞き返してしまった。「これです」と音源を聴かせてもらう。iPhoneから流れてきたのはPhony Ppl。そうだ。最終日はPhony Pplが出るのだ。大雨で疲弊していて見落とすところだったが、すっかり元気になった。名前の読み方がわからなくても、音源だけ聴いて反応していた友人にも感謝を伝えたい。
Phony Pplのライヴを観るのは初めてだ。定刻のREDMARQUEEに行くと、Phony Pplの登場を待ち望む人で溢れていた。開演前のステージにElbieがチャリンコに乗って現れ、集まったオーディエンスに手を振る。その自由な振る舞いにライヴへの期待感も増すばかり。スクリーンにPhony Pplとヒゲのマークのロゴが映し出されてライヴがスタート。結論から言うと、彼らのライヴは想像していた以上に素晴らしいものだった。
Elbee Threeの美しい歌声、Bari Bassのグルーヴィーなベース、Mattのダイナミックなドラム、Ajaのドラマチックなメロディ、ワイルドかつ繊細さも兼ね備えたElijahのギター、全てが調和した音楽は、ソウル、レゲエ、スカ、R&B、ヒップホップ、フュージョン、ポップパンク、ロック、あらゆる音楽性が入り混じる。なるほど、まさに“noGENRE”である。
セットリストは主に『Yesterday's Tomorrow』と『mō’zā-ik.』を軸に構成されていたが、合間にElbeeがボイスパーカッションを披露すれば、BariとMattがユニークなダンスで盛り上げる。ジャンルにもスタイルにも縛られない彼らのライヴはとにかく楽しい。何よりも彼らがライヴを子どものようにはしゃぎながら存分に楽しんでいることが、観客にも伝わっている。それでいて、演奏がうまいのだ。
ボーカルのElbeeがステージでバンドメンバーのソロを促す。するとそれに呼応してメンバーそれぞれが即興のソロアレンジを披露。素人目に見てもやばすぎる圧倒的なテクニックに、会場から何度も歓声が上がる。ライヴ全体を通してそういった場面が多く、Elbeeのメンバーに対する愛情と信頼がうかがえる。
「End of the niGht.」から始まり、観客のクラップとともに歌われた「Why iii Love the Moon」、「somethinG about your love.」でムーディな雰囲気を演出。最後の「Before You Get a Boyfriend」では会場一体のシンガロンが巻き起こり、メンバーも満足そうだった。楽曲も魅力的なのだが、ライヴではさらに個々のテクニックやキャラクターが活かされ、Phony Pplの魅力が際立っていた。今まで音源しか聴いていなかった僕はすっかり虜になってしまった。
photo:@uniontokyo
満足度の高いライヴを披露してくれたPhony Ppl。Instagramではその翌日、UNION TOKYOにてMeet & Greetを行うことがアナウンスされた。しかもその日のために用意されたエクスクルーシヴなUNION TOKYOとPhony PplのダブルネームTシャツも販売とのことで、フジロック帰りにUNIONへ。店内ではTiny Desk Concert出演時の映像が流されており、ファンやスタッフと和やかに談笑する彼らの姿があった。
九州や関西方面からフジロックを経由して来たというファンたちは、NYのBlue Note公演まで行ったという筋金入りのPhony Pplフォロワーだ。このMeet & Greetで、初めてつながったファン同士もいた。駆けつけたファンたちの話にPhony Pplは熱心に耳を傾け、各々が交流。キンキンに冷えた日本の缶ビールを片手にリラックスしていた。
集まっていたファンにも手伝ってもらい、シャウトアウトを録らせてくれないかとお願いをすると快く引き受けてくれ、せっかくだからとElbeeがBariを呼び、ふたりでバッチリとキメてくれた。「君たちが一生懸命、伝えたいことをシェアしてくれるのがすごく嬉しいよ」と、長身で特徴的な長いドレッドヘアをなびかせるスタイリッシュなElbeeは笑顔でそう言った。こんなの、女の子は好きになっちゃうよなってくらい優しくて気さくだ。「素晴らしいライヴをありがとう」と頭によぎったことをそのまま僕は伝えた。
Bariは横でひょうきんに振る舞いながら、「どういたしまして、だっけ。ありがとう! 乾杯! 」と一生懸命教えてもらったであろう日本語で応えようとしてくれている。「記事を出したら、タグしてくれよ」とElbee。もしかしたら、というか確実に今後、こんな風に気軽にコミュニケーションすることはできなくなるだろう。願わくば、今よりもっとビッグネームになったとしても、この自由なスタンスは崩さないでほしいが。愛に溢れる、“noGENRE”バンドPhony Ppl。今後の更なる活躍に期待したい。覚えていてくれたら、どんなかたちでもまた記事を書かせてもらいたいと思う。
photo:@uniontokyo
photo:@uniontokyo
photo:@uniontokyo
written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki
source:https://www.billboard.com/articles/columns/hip-hop/8480400/phony-ppl-interview-mozaik-album-chance-the-rapper-mac-miller
https://www.okayplayer.com/music/phony-ppl-announces-2019-blue-note-residency.html
https://www.hotnewhiphop.com/pusha-t-announces-daytona-tour-part-2-dates-with-phony-ppl-news.60723.html
photo:@uniontokyo