PUNPEEも愛用するPHONONヘッドフォン、開発者インタビュー

スタジオのラージモニターのようなサウンドをヘッドフォンで。名作ヘッドフォンSMB-02の上位機「SMB-01L」クラウドファンディング開始。
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2020.04.16 06:00

大手メーカーのひしめくヘッドフォン市場で、巨大企業の足元をすり抜けるように走り続け、世界的に評価を得る日本のヘッドフォン/音響機器ブランドPHONONをご存知だろうか。


同社の名作ヘッドフォンSMB-02は、海外ではグラミー賞エンジニアが使用し、日本ではPUNPEEや真鍋大度といったクリエイターが愛用。”The New York Times”誌でも紹介され、世界中のトップクリエイターやDJから注目を集めている。


コロナウイルスの渦巻く混沌とした2020年の4月、PHONONはハイエンド・ヘッドフォンのロングセラーだったSMB-02の上位機種となる「SMB-01L」を発表し、クラウドファンディングを開始した。



PHONONがヘッドフォンの究極地点と位置付けたSMB-02を8年ぶりに更新ということで、開発者でありマスタリング・エンジニアとしても多くの仕事をこなす、代表の熊野功雄氏にインタビューをさせていただいた。



▷簡単な自己紹介をお願いします。


熊野 : 熊野功雄です。音楽家、マスタリング・エンジニアの経験を基にPHONONを始めました。音楽家としてはTOKYO BLACK STAR、CHILLAX、フレデリックの制作などやっています。


▷クラウドファンディングを開始されたばかりの、SMB-01Lの特徴や主な用途をご紹介ください。


熊野 : ラージモニターのサウンドをヘッドフォンで再現することを念頭に作りました。超低域から超高域までバランスよく発音しますので、これまでのヘッドフォンとは違う景色を感じていただけると思います。大型ハイエンド・オーディオのサウンドをヘッドフォンで気軽に楽しむことが出来ます。この点で、全ての音楽愛好家にお勧めできます。


また、SMB-02に比べ、音漏れの少ない形状ですのでレコーディング・モニターにも良いです。音楽制作の現場では低域や、細かいニュアンスの確認に最適です。


▷ラージモニターのサウンドをヘッドフォンでというのはすごいコンセプトですね。様々な試行錯誤があったのではと想像します。今回の開発でもっとも難しかった部分はどのようなところでしょうか。


熊野 : 良い材料が揃っても、思うような結果を出すには繰り返し挑むことと、新たなアイデアが必要です。一般的にはよくないとされていることを試すことで解決することもありました。


▷SMB-01Lで採用した大口径ドライバーの特性を、PHONONが培ったチューニング技術で音響バランスを整えていると伺いました。チューニングとは実際にどのような作業で、どのように音響バランスを整えているのでしょうか。


熊野 : 多くの時間をかけ、様々なジャンルの音楽を確認をしながら調整していきます。電気信号の扱いについては、ケーブルはシールド付きの上、通常の3芯ではなく、4芯でプラグまで結線しています。オーディオ用電線のノウハウをヘッドフォン本体にも応用しています。ドライバ表、裏の反射のコントロールや、イヤーパッドの材質や空気の流れなど、多くの要素のバランスを取ります。


▷かなりの時間がかかりそうな作業ですね。開発や構想の期間はどのくらいあったのでしょうか。


熊野 : SMB-02を超えるモデルをできないか常に考え試作などしながら8年たちました。ありがたいことにSMB-02は市場では相変わらず最高とのご評価をいただいておりますが、ようやくこれを超えるものが完成しました。


▼熊野氏とスタジオの様子



▷現行のSMB-02とはイヤーパッドの材質や厚みも変わっているように思いました。この辺りはこだわりがあるのでしょうか。


熊野 : SMB-02のものは音質重視です。今回採用するものは音漏れの少ない大型のタイプになるので悩みましたが、あえて音質面で不利なタイプを採用し、その特性を基に適切なチューニングを加えたことで全体がバランスしました。


▷製品のサウンドチェックにはどのような音源を使われていますか。その理由も教えてください。


熊野 : 最新ヒット曲、ロック、クラッシック、JAZZ、音響、ダンスミュージック全般、マイケル・ジャクソンは定番です。常にチューニング用プレイリストを更新しています。それぞれ節句のポイントがあるのですが例として、「Rock With You」の場合、歌やギターやのニュアンス、ストリングス、ホーンの音色広がり、ハンドクラップのリバーブ、ベースの出かたを確認します。


▷PHONONといえば、この他にもMLシリーズのようなスピーカー製品など、様々な展開をされています。現在はどのようなチームで開発を行っているのでしょうか。


熊野 : 製品ごとに違いますが、熊野、内山が中心になり、オーディオメーカーOBの斎藤さんにご協力を頂くなどしています。


▷コンパクトなチームの中、熊野さんはマスタリングエンジニアとしても活躍されています。こういった開発の業務とマスタリングのお仕事の優先順位などはどのようにバランスを取られていますか。


熊野 : マスタリングについては最高なアーティストとのガチ相撲なので全力です。開発については自分が良いと感じるまで完成しないので製品数がなかなか増えず経営が大変です。バランスを取れるとよいのですが、いつも緊急事態です。


▷毎日が緊急事態宣言ですね!そういう状況では開発や仕事でメンタルが病んだりしませんか。


熊野 : そうですね、病みがちなので音の世界にいる気がします。良い音楽、音に救われ続けてなんとかやっているのでしょう。マスタリングで関わった才能のある方々の音源に救われることがあります。


▷スタジオ用ヘッドフォンは数多くありますが、SMB-01Lの違いはどのような部分にありますか。


熊野 : 現在発売中のSMB-02もそうなのですが、音を再生する装置と考えるとスペックなどの違いしか見えてこないですが、音楽を再生する装置と考えた場合、皆さん納得されるようです。そのように聞き取れるよう設計しています。


▷今回採用したフォスター電機株式会社ドライバーユニット「MT050A」について教えてください。どのような特徴を持ったドライバーなのでしょうか。


熊野 : フリーエッジ、フォスターのドライバーについては以下をご参考にお願いいたします。


https://www.phileweb.com/sp/interview/article/201703/17/422_3.html


https://www.phileweb.com/news/d-av/201810/27/45487.html


▷日本では住宅事情などからヘッドフォンのみのDAW環境で楽曲を完結しているユーザーもいます。こういった環境でミックスやマスタリングのクオリティをあげるにはどのような点に注意すればよいでしょうか。


熊野 : その点がまさにPHONON製品を開発する大きなポイントになっています。弊社のヘッドフォンSMBシリーズとモニタースピーカーMLシリーズで解決できると思います。




▷スタジオ用途以外にも効果的な使い方があれば教えてください。


熊野 : 音楽のリスニングの用途にも最適です。音楽スタジオ以外ではゲーム、ドラマ制作やハリウッド映画のロケ収音にも使われています。面白いところでは通信系の施工会社からも、まとめてご注文をいただいています。


▷PHONONの今後の展開や野望について教えてください。


熊野 : これまでに培ったプロフェッショナルな技術を、一般の方に届けるような製品を考えています。


▷最後に何か一言あれば!


熊野 : 大変な時代ですが、良い音楽をじっくり聴いて乗り切りましょう!



コロナウィルスで世界中の政府や大企業が混乱に陥る中、日本発の小さなチームが淡々と開発を続け、クラウドファンディングで世界中から資金を調達し、ビジネスを継続させる様子はシンプルにカッコいい。

ヘッドフォンは数字のスペックだけで性能を測ることは難しい。つまり音を聴かずに良し悪しを判断しづらいので、クラウドファンディングは難しいように思えるが、2020年4月14日時点ですでに多数のプレッジを集めており、PHONONがリスナーからいかに信頼されているかが伺える。


SMB-01Lは現在Kickstarterにて出資を受付中だ。¥39,900 以上のプレッジ+送料でSMB-01Lを入手可能(限定200個)。2020年10月の出荷予定となっている。


written by Yui Tamura

source:https://phonon-inc.com/

photo:https://phonon-inc.com/





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