大阪のクラブシーンの今と未来 -Pt.1 後編-

大阪で活動するDJや、プロデューサー、オーガナイザーに、彼らが実際に考える「大阪のクラブシーンの今と未来」についてのインタビュー第2弾
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2017.02.06 17:30

Written by Jun Fukunaga

Photo: Photography by Skinny

*取材協力: H.Nakajima

日本でも有数のクラブシーンのメッカである大阪は、2010年頃から「風営法」の取り締まりが強化され、主にクラブが集まっていた心斎橋周辺では、それにより店舗の閉店や、実質的な廃業を余儀なくされるという状況に陥った。そして、2012年4月には、梅田になる老舗クラブ「NOON」が、風営法の厳密化により摘発。現在は、その後のクラブ関係者をはじめ、法改正のためのミュージシャンらによるロビー活動などもきっかけに法改正への多大なる努力もあり、改正風営法が施行される2016年6月23日より前に、NOONの元経営者・金光正年氏の無罪が、同年6月7日に最高裁での無罪判決が確定し、「許可なくダンスさせた罪」に問われることはなくなり、改正風営法の基準に沿り、許可を受けた店舗は、晴れて朝までクラブを営業できることとなった。しかし、そんな大阪では、これまで大阪のクラブシーンを長きに渡って支えてきた、いわゆる「音箱」と呼ばれる、音楽好きが集うクラブの数が以前に比べ減少し、今はもう同地に存在しない、かつて「名店」と呼ばれたクラブも決して少なくない。

現在、これまで関西のクラブシーンの中心的存在を担ってきた大阪は、シーンの変革の時期に直面しており、確実に何かが変わった「風営法問題」以降の現実と向き合っている。そんな中、同地で活動するDJや、プロデューサー、オーガナイザーに、彼らが実際に考える「大阪のクラブシーンの今と未来」について聞いてみた。

今回は、連載1回目前編に引き続き、風営法問題以前から、現在まで大阪で活躍し、シーンを築き、見続けてきた、いずれも長いキャリアを持つ、D41&ENERGY_DAI、NAO NOMURA、Yashima、2shanti、沖野好洋(Kyoto Jazz Massive)(*A→Z順)らの考えを紹介しよう。



1.現状の大阪のクラブシーンは、以前と比べてどのような状態だと考えていますか。

D41&ENERGY_DAI:日本は元々、夜遊び文化のバリエーションが、海外に比べて多い為、クラブシーンというか集客人数で考えると、今のディスコやカラオケ、相席居酒屋等に比べると弱く感じます。クラブシーンで考えると確実に音好きと、クラバーは増えていってると思います。インターネットが普及した今だからこそ、これから更にコアな客層が生まれると思います。証拠に、Berlin などのエッジの効いた Underground で Deep な Dance Music のアーティストも大阪に頻繁に来る時代ですから、今後はクラブシーンはクラブシーン、夜遊び文化は夜遊びと、二極化されていくかなと。大阪という括りよりかは、東京以外の各地は、地元の人が圧倒的に多いので、人生をチャレンジする人や、より楽しむ人が少ない様に感じます。あと、ヨーロッパやアメリカなどの白人の観光客の層も少ないのもネック。中国人観光客は多いですが、遊び方が違うので ... 。NAO NOMURA:音箱といわれていたクラブでもオールジャンルやEDMとテクノやハウスなどの音にこだわったコンテンツが以前は混在していましたが、現状はそれぞれの音に特化した箱も増えており、よりコマーシャルな音楽がかかるクラブに人が集まっているかと感じます。Yashima:4(?)年前の風営法絡みの規制後、クラブの数は一旦減ったように思える。一方、クラブで遊ぶお客さんが半分ほど入れ替わり、層が幅広くなったと思う。2shanti:音の制限や深夜営業などで過去のように鳴らせるクラブが少なくなったし場所も減った。沖野好洋(Kyoto Jazz Massive)風営法問題以降の大阪のクラブシーンは二極化していると思います。以前に比べると更にマス向けのディスコ・オールジャンル的なクラブが若者を中心に発展を遂げ、一方でいわゆるアンダーグラウンドな海外DJを招聘しているような”音”重視のクラブは中箱から小箱へ、更にはバーやレストランでのイベント開催を余儀なくされてるような状況になっていると思います。


2.その状況下でのご自分の活動は、これまでよりある意味制限されていると感じますか?

D41&ENERGY_DAI:日本人は流行に流されやすいので、今はEDMや、TOP 40などのムーブメントの様で、一昔前の Cyber Tranceの盛り上がりと似てます。世間的に流行っている音楽に合わせてプレイするか、それとも自分のやりたい音楽をプレイしたいかとは全く別物なので、制限されてる感じは全くしないです。それよりかは、昔みたいにレコードを必死に探したり、フライヤーやポスターを撒きまくったりと、基本的な日々の努力や、勢力的な活動をする DJ、オーガナイザーが少なくなってきてる事が悲しいですね。初心忘れるべからずでは無いでしょうか?NAO NOMURA:風営法の摘発以降は影響があり全体的に沈んではいましたが制限はあまり感じたことはありません。Yashima:以前のように世界で活躍するDJやアンダーグラウンドな音楽への関心は低くなった分、中箱以下のクラブでのプレイが多くなった。また、海外のDJを呼ぶことも以前より減った。2shanti:活動自体に制限があるとは感じてない。只さっきの話、音圧の制限や深夜営業の制限があるだけでクラブという場所での活動はルールの中でやっていけばいい、数年前からサウンドシステムを作り出しててクラブに持ち込んだりして思うのはやっぱり環境を作ってくれている人達に迷惑かけたアカンなぁと。制限を取り払いたければ方法は色々とあるし、悲観的な気はないです。クラブミュージックとして考えれば鳴らす場所をクラブに限定すること無いし、大阪でも南港や服部緑地など外でも出来ますしね。沖野好洋(Kyoto Jazz Massive):強く感じます。今やクラブミュージック低迷の影響もありDJのネームバリューだけでは集客出来ない時代だと思いますし、イベントは予算や内容含め更にシビアなジャッジが求められています。その中で自分達がどのように活動し続ける事が出来るのか、音楽を発信しイベントを成功させるにはどういう活動をするべきか、ある程度の制限がある中で活動を続けるにはあらゆるアイデアが必要だと思います。


3.今後大阪のクラブシーンはどのように変化していくとお考えですか。またその過程で大阪のクラブシーンはどのようにそれと関わっていくべきとお考えですか。

D41&ENERGY_DAI:お客さん、DJ、クラブ関係者を引きつけれる、魅力のある「音」と「雰囲気」を出せる DJ と、人材が出てくることを願いますし、自分もそこを目指していますので、好きで信じてコツコツ活動を続けていけば、自ずとカルチャー、シーンは生まれると思います。クラブは昔から、カッコイイ場所ときまっていて、ゾクゾク、ワクワク感は必須。音も人も。DJ はセンスとテクニックを磨き、オーガナイザーはそれをキチンと的確な場所へポストし、クラブはサウンドポリシーを持って運営すれば良いだけの事で、やっている土地柄、そこに集っている人達の動きを冷静にみて、楽しく長く音楽を続けれる方法や、場所を探すか、作るかすればよい事と思います。あと、なんでもかんでも、海外のマネをするは良くないなと。ここはあくまでも日本なので、日本独自の習慣や風土、法律を理解した上で、海外のシーンには無いものを創造していくべき。どのジャンルも、箱も海外アーティストだよりにならなくても良いのでは?という疑問を解消したい。昔みたく、アーティストを招聘する人が儲かっていた時代では無いし、費用帯効果も年々落ちて来ているので。ホストに貢ぐ、キャバ嬢な的な行為は辞めて、DJ 達が信念とポリシー、プライドを持ってステージに立って欲しいです。ここは自分達の国、日本を忘れないで欲しいなと。あと、自分事だと、大阪で DJ スクールを任されていますので、良い人材を育成し、世界に出して行きたいです。今、生徒は 6 歳から 68 歳まで居てますので、独自のシーンを作っていける自信はあります!NAO NOMURA:DJを目指す方は多いですが、大阪ではオーガナイザー/プロモーターをやりたい方の数が圧倒的に少ないと思います。いいパーティーを作るにはプロモーションも含めきちんとオーガナイズされているのが最低条件であり、それを続けることによってシーンは盛り上がって行くと考えています。今後も自身の活動やパーティーでその魅力を伝えていければと思います。Yashima:お客さんの層が幅広くなり、それぞれが求める音楽が多様化しているなか、クラブ業界でも特に箱側の状況は悪くはならないと思う。オーガナイザーとしては、今、出来る規模でパーティーを再構築していく必要があり、DJとしては、今までと同様、いい音を探し、プレイし、フロアを一体化できる作業をするだけだと思う。2shanti:クラブシーンがどうなるかなんか分からんけど音楽好きな人多いからこのままそれぞれやっていけばえんちゃいます?沖野好洋(Kyoto Jazz Massive)個人的に”音”重視のクラブ・シーンに関して一番重要なことは”続ける事”だと思います。魅力のあるイベントを開催し続ける事が出来ればシーンは自然と成長していくという事は長いDJキャリアの中で見続け来たので、DJ・オーガナイザー・そしてクラブがより良いイベントを企画・開催し続けていく事が一度低迷した大阪のクラブシーンを再生していく一番重要な事だと思います。そこに集まる人達の力を強く信じています。



▶︎今回のインタビューを振り返ってみて

今回も現状の大阪のクラブシーンについては、ディスコ箱と音箱の2極化が目立っており、前者は増えて、後者は減る、または規模が縮小しているという認識が示された。また、2shantiがいう、最近は騒音規制などにより、以前のようにいわゆる「サウンドシステム」を鳴らせるクラブが少なくなったと指摘している点は興味深い。次に、現在の状況下で自分の活動は制限されているかという問いに対しては、回答が分かれる形となった。特に制限されていると答えた沖野好洋(Kyoto Jazz Massive)は、DJのネームバリューなどで集客できた以前とは違った状況になっており、イベントを行うにもシビアなジャッジが求められると指摘しており、その制限の中で、活動を続けるためには、これまでどおりでなく、新たな取り組みが必要だという認識を示していることが印象的だった。一方、D41&ENERGY_DAIは、流行に合わせてプレイするか、自分のやりたいプレイをするかどうかは別物で、そういう点での制限はないしている。また、2shantiは、サウンドシステムで音を出すという面においては、クラブでは制限は確かにあるものの、制限を取り払いたければ方法があるので、その場のルールに従って環境を作ってくれる人の迷惑にならない範囲でやればよいという意見をもっていることが印象的だった。そして、最後に大阪のクラブシーンの今後については、今後は、自分たちの取り組み次第で良くなっていくという考えをもっていることがわかった。その中でもD41&ENERGY_DAIは、海外の真似事でなく、ローカライズしたクラブカルチャーを作るという独自の見解を示し、またYashima、NAO NOMURA、沖野好洋(Kyoto Jazz Massive)は、DJ以外にもはオーガナイザー/プロモーターの重要性を指摘、そして皆、”音”重視のクラブ・シーンに関しては、続けていくことが重要だという意見を持っていることがわかった。前編と後編に渡って、大阪のクラブシーンで、長きに渡り活躍してきたベテラン陣ならではの意見を紹介してきたが、いかがだっただろうか?次回は、風営法の取り締まりが強化されだした2010年頃から、活動を活発化させてきた大阪のテン年代世代のDJ達の意見を紹介する。▶︎前編はこちら。


【DJ/プロデューサー・プロフィール紹介】(*A→Z順)

D41&ENERGY_DAIメロディアスかつアップテンポなサウンドが特徴の "Energy Dai"​ 名義と、ディープな音の世界感がコンセプトの別名義 "D41"。トランスとテクノを巧みに使い分ける「2Style 1DJ」をトレードマークに、国際的に活躍する日本人アーティスト。昨年、DJ 活動20周年を迎え、8月にはオランダの野外フェスティバル Dance Valley Festival へ二度目の出演を果たした。1996年より、Energy Daiとして、そのキャリアをスタートさせた彼は、ダンス・ミュージックに注ぐ情熱と、天性とも言えるエネルギッシュな行動により、日本から世界へとフィールドを広げる。2002年よりロンドンでの本格的な活動をスタートさせ、Brixton Academy をはじめ、Ministry of Sound、Se-One、Camden Palace、The Fridge、The Mass、The Cross、Heaven、そして今は無き The Turnmills と、名立たる名門クラブのメインステージでプレイ。その他、Brighton、Truro、Birmingham、Newcastle でも公演を行い、イギリスで最も活躍した日本人 DJ の一人となる。2003年、アムステルダムの名門クラブ Melkweg にて、オランダでのデビューを果たした後、ロッテルダム AHOY、野外フェスティバル Dance Valley へと出演。その他のヨーロッパ諸国では、スコットランド The Archers や、ベルリンを代表するテクノ・クラブ Tresor​ にて D41 名義でデビューを果たし、南アフリカ、オーストラリア、シンガポール、韓国、台湾、中国でも活躍。2014年には初のロシアツアーも実現。Radio Recordが主催するフェスティバル Trance Mission を含む三カ所にて公演も行う。日本では伝説のクラブ velfarre のレジデンツとして活躍し、大阪では収容人数1,000人を誇る Club Joule のオフィシャル・アーティスト、プロデューサーとして17年間に渡り在籍。今も尚、世界基準なパーティをクリエイトし続けている。リリース作品には、盟友Mike Koglinとの楽曲、LOADEDとReloadedの2曲をアナログ盤でリリースし、TIESTO をはじめ多くのアーティスト達にプレイされた。昨年、Reloaded 2014 REMIXが発売され、ジャンルの壁を越えて話題を呼んだ。又、2016年4月より、Oplanning社の下、DJスクール IDPS 大阪校の主任講師として在籍。日々、国際的な DJ、アーティストの人材育成を行っている。https://www.facebook.com/d41energyhttp://www.idpsorg.com/https://soundcloud.com/d41_teionclubhttps://soundcloud.com/energy_daihttp://www.mixcloud.com/daienergy/http://www.youtube.com/user/TEIONTVNAO NOMURA (BASS WORKS RECORDINGS)90年代中期にJAZZ DJとしてキャリアをスタート。現在はTECHNO,TECH HOUSE,DEEP HOUSEを中心にプレイ。また、オーガナイザーとしての顔を持ち国内外のTOP DJを招聘し数多くのパーティーを成功させている。2010年に立ち上げたパーティー"seven"では平日としては圧倒的なクオリティーと集客で話題を呼び、2011年8月には同パーティーのコンピレーションアルバム”seven"をプロデュース。 2013年4月よりテクノ、テックハウスを中心としたシリアスなダンスミュージックを発信するレーベル"BASS WORKS RECORDINGS"をSUGIURUMN,OSAKAMANと共にを立ち上げる。http://bass-works-recordings.com/ Yashimaハイネケン主催DJコンテスト『Found@Thirst』’04年Japan Winner。同年、 関西のプログレッシブ・シーンで活躍するDJたちが勢揃いするハイクオリティーなパーティー『WEST』のオーガナイズをスタート。2006年からは、ヨーロッパのダンスシーンをフィーチャーするパーティー『LIME』もオーガナイズ。 世界屈指のDJを数々招聘し競演を果たすなど、絶大な人気を博すパーティーとなる。2011年より心斎橋にあったONZIEMEにおいて『Hush!』をスタート。数々のTOP DJを招聘し、瞬く間にONZIEMEの代表的パーティーとなった。2017年原点に立ち戻り『See You at』をスタートさせる。また韓国、インドネシア、タイなど単独でのGIGを行い、地元のクラバーにも支持されている。シーンの最先端のサウンドを取り入れつつ、安定したDJスタイルは、一度聴けば虜になる。2shanti(COTYLEDON SOUND SYSTEM)2000年から姫路にて活動開始。(UNITYDUB)京都NIGHT TIME HIGHのクルーとして2007年から2009年まで活動。アルバム[QUARTER DUB]をRebelFightRecよりリリース。2012年には12インチ[TERRA BITES feat ORIGINAL KOSE DUB MIX by Ras Dasher]をリリース。2013年にはCOTYLEDON SOUND SYSTEMとして様々なパーティーにて音響サポートを務め、現在は新たな音源製作サウンドシステム製作に臨んでいる。http://soundcloud.com/2shantihttp://2shanti.bandcamp.com沖野好洋(Kyoto Jazz Massive / Especial Records)兄:沖野修也とのプロジェクトKyoto Jazz MassiveのDJ/トラックメーカー。大阪南船場にShopも構える国内最重要クロスオーヴァー・レーベルEspecial Records主宰。2002年にリリースされたKyoto Jazz Massiveのファースト・アルバム『Spirit Of The Sun』以降、数多くのリミックス/プロデュース・ワーク/コンピレーションの選曲等を手掛けて来た日本のジャズ/クロスオーヴァー・シーンの重要人物。DJとしても海外100都市以上でプレイ、KJM Live Bandでも国内はもちろんヨーロッパやアジア等のフェスにも出演。現在は大阪で行われているイベント”Freedom Time”、東京渋谷のThe Roomでの”Especial Records Session”等のレギュラーナイトを始め国内外各地でプレイ中。3/29東京、3/30大阪には約2年振りとなるKyoto Jazz Massiveフルバンド・ライブ・イベントがビルボードライブにて開催決定!http://www.kyotojazzmassive.com/



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