DOJA CATやAJ TRACYといった日本でも人気を集める音楽アーティストを始め、世界的なファッションクリエイターが多数登場しているTHE LOVE MAGAZINEのインタビューに、マルチな活動で知られる歌代ニーナ/Thirteen13(サーティーン)が取り上げられている。
スタイリスト/ファッションジャーナリストのKatie Grandによって創刊されたUKのファッションカルチャー誌THE LOVE MAGAZINEで、モデルやスタイリスト、ライター、エディター、アーティストThirteen13として活動する歌代ニーナのインタビュー記事が公開されている。
『Thirteen13は、歌代ニーナによるタトゥーや挑発的な言葉など、日本におけるタブーに異議を唱えていく音楽プロジェクト』として掲載され、日本においてもミステリアスで謎めいたThirteen13、ひいては歌代ニーナのパーソナリティとクリエイションに迫る内容となっている。
THE LOVE MAGAZINE/©Finn Constantine
歌代ニーナは、ニューヨーク生まれ東京育ち、ドイツと日本のハーフと、多様な背景を持ち20歳で米コロンビア大学美術史専攻を卒業。日本に帰国。在学中にOpening Ceremony New York本社やDover Street Market New York のショップスタッフ及びVMDとしてファッションのキャリアを積む。VMDとはビジュアル・マーチャンダイジングのことで簡単に言うと顧客が購買意欲をそそられるような売り場づくりをしたり、アイテムを魅力的にプレゼンする視覚的な工夫を行い、ディレクションする役割だ。
ファッションとアートに通じた自身のキャリアを活かし、帰国後はモデルをしながらcommons&sense、i-D Japanの立ち上げメンバー、ファッションアート誌Libertin DUNEの編集を手がける。2017年に独立。スタイリストとしてE-girlsやHappinessから派生したユニットSudannayuzuyully(スダンナユズユリー) や二階堂ふみを担当。2018年3月に、インディペンデントマガジン兼クリエイティブ集団PETRICHOR(ペトリコール)を創立した。華々しい経歴を積み重ね、同年末にThirteen13として、ラッパーデビュー。EP『OMNIPRESENT』をリリース。ど派手な衣装、艶美な容姿にまるで映画のように作り込まれた世界観、挑発的なリリックが特徴。
3曲入りEP「OMNIPRESENT」の制作にはAK-69、CRAZYBOY(ELLY from 三代目 J Soul Brothers)などの人気ラッパーの楽曲も手がけるJOE IRONが携わっている。
そのヴィジュアルと世界観に圧倒される人は多いだろう。拒否反応を示す人もいるかもしれない。正直、筆者も一見したときは、“キワモノ”に部類されるアーティストかと思っていた。しかし、何回もMVを観ているうちにむしろそう思わせることこそが彼女の狙いなのだと悟った。
Thirteen13の身体に刻まれたタトゥーや猥雑な衣装、挑発的な言葉と自己表現は日本ではたびたびタブー視されたり批判的な目で見られる対象である。そんな風潮の中、Thirteen13は異様な映像や作品を通して“普通”であることに異論を唱える。オーガニックとは対極の不自然さがウリなのである。
THE LOVE MAGAZINE/©Finn Constantine
THE LOVE MAGAZINEのインタビュアーによれば、
「歌代ニーナの思想や考えは『PETRICHOR』を出版した際に、文字を書いたり詩を作ることでどんどん膨らんでいき、彼女なりの新しい音(音楽だったり、発信する言葉だったり)は、日本の堅苦しい型を破る作品となった」
と記している。
インタビュー冒頭「NYで育った経験がどう今の音楽やライフスタイルに影響しているか? 」という問いに、
「幼い頃に自分に忠実であることの孤独と至福を教えてくれた。本当に好きなものを見つける方法を学び、世界=周囲の環境が何を言っているかなんて関係ない。音楽や個人的なスタイル、すべてが私の好みに反映されています」
と自身の感性や表現におけるルーツについて言及。
また、「生きている人、死んでしまった人問わず誰とコラボレーションしたいか? 」という質問には
「フレデリック・ショパンがプロデュースした曲で、ジョージ・サンド(初期のフェミニストとされているフランスの作家)と歌詞を書き、JRにミュージックビデオの演出を手がけさせ、綾波レイを主演させたい」
と、クラシック音楽とバレエをルーツに持ち、成長過程でアートとサブカルチャーをインプットしてきた彼女らしい返答が見られる。
記事内ではラッパーとしてのキャリアのスタートについてや誰も知らない秘密など多角的なインタビューが飛び交う。12月リリース予定のEPについても触れており、『MOUTH』というタイトルになる予定のEPのコンセプトを自ら語る。インタビュー全文はこちらを参照してほしい。
THE LOVE MAGAZINE/©Finn Constantine
EPリリースに先駆け、立て続けにシングルをリリースしてきたThirteen13。10月には最新シングル「Alarm」をリリース。MVはKing Gnu作品でお馴染みのPERIMETRON、クリエイティブディレクション 、 空間演出 、 スタイリングは歌代ニーナ率いるPETRICHORが担当。同企画の「BLOOD」と同様、音楽プロデューサー/アーティストのTepppeiが楽曲を手がけている。
『ミレニアム』シリーズのヒロイン、リスベット・サランデルのような黒々としたアイメイクとリスベット同様に抱えた、静かな怒りをラップという炎に変えて吐き出す。そのバックボーンから培われたアートに精通した知性と、自虐を伴って世の中の“普通”に中指を立てるリベラリスト歌代ニーナの肩に、ドラゴンのタトゥーがあるかは定かではないが、その存在は閉塞感漂う今の日本において実に痛快だ。
ファッション界隈では知られた顔。異色の新人ラッパーとしてデビューした彼女は、既存のラッパー像に当てはまらず、予定調和に留まらない。その型破りな振る舞いとヴィジュアルから、国内で知名度を広げるとともに海外からも注目が集まっている。
歌代ニーナは今までも、自身のアイデンティティや性についてインタビューで赤裸々に語り、ネットメディアや出版作品を通じて、“性搾取”、“自己承認欲求”や“インフルエンサー”といった若者を取り巻く事象を鋭い洞察と独自のユーモアで揶揄してきた。ラップという武器を手にし、Thirteen13というオルターエゴを獲得したことでその表現の解像度は増大している。エグるような皮肉に畏怖を覚えつつ、思わず笑ってしまうユニークさを兼ね備えているのが彼女の魅力。コメディ、ゴシックホラー、サイコサスペンスをミンチにしてニコニコ顔で差し出すThirteen 13の口から何が語られるのか、12月のEP『MOUTH』を楽しみに待ちたい。
THE LOVE MAGAZINE/©Finn Constantine
▶『MOUTH』EP
リリース:2019年12月13日(金)
収録曲:
SPEAK
CHOKE
OMERTÀ
THE LOVE MAGAZINE/©Finn Constantine
▶歌代ニーナ(NINA UTASHIRO)/Thirteen13(サーティーン)
ニューヨーク生まれ東京育ち、ドイツと日本のハーフ。アメリカコロンビア大学を美術史専攻で卒業後、日本に帰国。在米中は並行してOpening Ceremony New York 本社やDover Street Market New York のショップスタッフ及びVMD としてキャリアを積む。東京に帰国したのち、モデルをしながらcommons&senseの編集部に所属。i-D Japan に立ち上げメンバーとして加入、同時にファッションアート誌Libertin DUNEの編集も手がける。2017 年にフリーランスとして独立し、スタイリスト/ ライター/ エディターとして幅広く活動を開始。スタイリストとしてSudannayuzuyully や二階堂ふみを担当。2018年3月にはインディペンデントマガジン/クリエイティブ集団PETRICHOR(ペトリコール)を創立し、同名の雑誌を創刊。同年末、”Thirteen13(サーティーン)” として、デビューEP『OMNIPRESENT』にてアーティストデビューを果たす。
Instagram :@ninautashiro/@petrichor.magazine
▶ THE LOVE MAGAZINE
2009年にスタイリスト兼ファッションジャーナリストのKatieGrand(ケイティ・グランド)によって創刊された英国の雑誌。コンデナスト傘下のファッション誌。年2回刊行
https://www.thelovemagazine.co.uk/
written by Tomohisa“tomy”Mochizuki
photo:THE LOVE MAGAZINE/©Finn Constantine
source:https://www.thelovemagazine.co.uk/article/the-music-project-challenging-japanese-taboos-including-tattoos-and-provocative-language