初めてblock.fmで「Future Funk」を取り上げたのが、今から4年前の2015年。当時は2010年代を代表するインターネット音楽ジャンル「Vaporwave」に続く可能性は感じさせながらもまだまだ”アンダーグラウンド”で、到底、日本のクラブシーンの現実世界までに到達することはないと思われていたが、その後、状況は一転。Future Funkがきっかけで日本のシティ・ポップ、AORなど”和モノ”ブームはじわじわと海外に飛び火していき、近年の竹内まりや、山下達郎の世界的な再評価にまで影響を与えた。
関連記事:これはインターネットミュージックシーンの本流?亜流?"Future funk"なフィルターハウスが面白い
竹内まりやの「Plastic Love」は、違法にアップロードされたものながらネット上の人気が加速し、ついにはメジャーレーベルのワーナーミュージックが今年、新たな公式MVを公開。山下達郎の「Fragile」は、世界的な人気を誇るラッパーのTyler, the Creatorにサンプリングされ、話題になるなど、ネット上のアンダーグラウンドで始まったムーブメントは、今や現実世界を侵食するかのように広まり、ごく当たり前に音楽好きを魅了している。そのムーブメントを牽引してきた韓国を拠点に活躍するプロデューサー/DJのNight Tempoは、これまでに何度か来日公演も行なっており、日本においてもよく知られた存在だ。
Future Funkとは、80年代のアニメやアイドル歌謡をサンプリングし、90年代に流行したフィルターハウス化した音楽なわけだが、その元ネタのほとんどは海外では正規に流通していない日本のドメスティックな音源である。そのため音源のライセンス的にはグレーな面も抱えていた。
しかし、その状況を変えたのもNight Tempoである。彼は今年、4月に日本のアイドル、WinkをFuture Funk化した音源を収録したEP『Wink - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』を公式リリースした。このことは今までグレーゾーンにあったFuture Funkにおいては衝撃的な出来事だと感じたファンは決して少なくないだろう。そして、Night Tempoは今年、Future Funkを武器に日本を代表する音楽フェス、フジロックの舞台に立つことも決定。それに先駆け、公式Future Funk化作品第2弾である『杏里 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』もリリースになり、話題になっている。
関連記事:フジロック出演Night Tempo、"シティ・ポップの女神"杏里を公式Future Funk化した最新EPリリース
今回はフジロック直前企画として、Night Tempoがこれまでに手がけたフロアキラーなFuture Funkアンセムをピックアップ。すでに本人がSNS上で100%プレイすると宣言しているキラーチューンもあるため、まだFuture Funkのことをよく知らない人は当日のパフォーマンスの予習に役立ててほしい。
近年の和モノブームが語れる際に外せないのが竹内まりや「Plastic Love」の世界的人気。そして、そのきっかけとして引き合いに出されるのがFuture Funkなのだが、その際にほぼ100%といってよいほど、例に挙げられる曲がこのNight Tempoによる「Plastic Love (Night Tempo 100% Pure Remastered)」。
元々は4年前に制作されたという同曲は最近になってようやくNight TempoのSoundCloudにもアップされた。また本人はTwitterで「フジロックでPlastic Loveを流す確率?100%です」と宣言。そのため、この曲を知っているのと知っていないのでは当日のあなたのリアクションは大きく変わってくるはず。今からとにかくマストチェックしておくべき、Future Funkアンセムだ。
フジロックでPlastic Loveを流す確率?100%です。 pic.twitter.com/1G5Kbrm9dc
— Night Tempo 夜韻 (@nighttempo) July 22, 2019
関連記事:tofubeatsもカバーした和モノレアグルーヴの名曲、竹内まりや「Plastic Love」はなぜ今、人気なのか?
活動初期にSoundCloudで公開されていた音源をコンパイルしたNight Tempoの初期作品集。現在でもbandcampで投げ銭制で配布されている本作には、先述の竹内まりや「Plastic Love」、Winkの「Special To Me」をFuture Funk化させた曲のほか、ディスコライクなインスト、アニメを含む和物ネタなど様々なスタイルの”フィルターハウス”が24曲収録されている。
80sシンセウェーヴ風のリフとフィルターハウスが融合したMicheal Jackson「Rock With You」ネタの「Jackson」は、Night Tempoが影響を公言しているDaft Punk味を感じとれる。ほかにもDisclosure以降の90sディープハウスリヴァイバルにも通じる「Your Flavor」など、”Future Funk=和モノネタ”の典型的なイメージに留まらない隠れた名曲が数多く収録されているのが特徴だ。
初期作品の次は、近作のフリーアルバム『Showa Idol's Groove』をチェックしてほしい。アルバムタイトルどおり、昭和のアイドル歌謡曲をレアグルーヴと見立ててFuture Funk化した本作の収録曲リストを眺めているとおやおや、「Akina」、「Iyo」、「Yu」などどこかで見かけたそれっぽい名前がズラリ。
ちなみにアルバムの1曲目を飾る「Akina」の元ネタはタイトルから予想できるとおり、中森明菜が1982年にリリースした「ヨコハマA・Ku・Ma」だったりする。同様にそれぞれのタイトルから予想できるアイドルのあの曲がサンプリングされているので、興味をそそられた人はディグしてみては?
本作はデジタル盤のほかにカセット、アナログ盤でも販売(現在は完売)され、オンライン掲示板のRedditでは限定商品となったこれらのフィジカルフォーマット音源獲得に関するファンたちの熱いやりとりも残されている。なお、『Showa Idol's Groove』は第2弾の『Showa Idol's Groove 2』が今年6月にリリースされているのでそちらもあわせてチェックしておくべし!
今月、現代ビジネスで公開されたインタビューでも「Plastic Love」と並ぶシティ・ポップのアンセムとして名前を挙げているのが、”シティ・ポップの女神”こと杏里による「Remember Summer Days」。Night Tempoにとっての神である角松敏生が作詞、作曲、編曲を手がけている。同曲はリリースされたばかりの公式Future Funk化音源『杏里 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』にも収録されており、原曲のミディアム・ファンクさをうまく活かしつつFuture Funk化。
また秋元薫「Dress Down」をFuture Funk化し、このシーンを代表するクラシック「Selfish High Heels」をYUNG BAEとともに作り上げたマクロスMACROSS 82-99もこの原曲をサンプリング。ブートレグの「Anri - Remember Summer Days (MACROSS 82-99 Bootleg)」が、Future Funkの人気キュレーションYouTubeチャンネル「Artzie Music」で公開されている。
今では大学教員という肩書きをもち、アカデミックな方面でも活躍するタレントの菊池桃子。80年代にアイドルとしてブレイクした彼女だったが、1988年に心機一転、ロックバンド、ラ・ムーを結成。「Crying」は、そのバンドの代表曲として知られる「少年は天使を殺す」を元ネタにしている。
ラ・ムーがリリースした4枚のシングルのタイトルは、先述の”少年は天使を殺す”のほかに、例えば、”愛は心の仕事です”、”青山Killer物語“など、VaporwaveやFuture Funkに見られる典型的なネーミングセンスに近いことは偶然なのか、必然なのか、改めてふりかえってみると気になってくる…。余談だが原曲の「少年は天使を殺す」は"ロックバンド"の曲ではあるが、どちらかといえば、80sのシンセディスコノリといった感じで、アイドルライクな菊池桃子のかわいらしい歌声が印象的だ。
Night Tempoは活動期間はまだ数年程度だが、制作、リリースのスピードも早く、多数のタイトルがbandcamp上でもリリースされている。また最近ではモデルで歌手としてはAnna Yano名義で活動するやのあんなともコラボし、「Summer Time」、「So So」もリリースしている。フジロックでは今回ご紹介した、Night Tempo謹製Future Funkアンセム以外にそういった曲もおさえておくとより彼のパフォーマンスを楽しめるはず。
なお、Night Tempoは、フジロックでは3日目の7月28日(日)RED MARQUEE/SUNDAY SESSIONに出演する。
昭和歌謡の素晴らしさをフジロックで証明します。 pic.twitter.com/tfIO2AIZgw
— Night Tempo 夜韻 (@nighttempo) July 24, 2019
関連記事:昭和歌謡やAORが再注目されるのはなぜ? 今、知っておきたい和モノレアグルーヴ事情
written by Jun Fukunaga
source:
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65477
photo: ©︎ Shiho So / Night Tempo Twitter