サカナクションが魅せた“体感する音楽の一夜” 【NF in MIDNIGHT SONICレポート】

サマーソニック2019、2日目の深夜に開催されたNF in MIDNIGHT SONIC。サカナクションによる、作り込まれた音楽の空間をレポート。
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2019.08.30 03:00

20周年を迎えたサマソニ2日目の夜。この日のMIDNIGHT SONICはサカナクション主催のイベント「NF」とのコラボとして開催された。


昼間の雰囲気とは少し違う表情を見せる深夜の幕張メッセ。ひんやりと薄暗い会場を、サカナクショングッズを思い思いに身に着けた人、昼間のサマソニから続けて参戦らしき人などが行き交う。会場に入るとすぐ、耳がダンスミュージックのビートを捉える。THE CINEMATIC ORCHESTRA、BATHS、KUNIYUKI TAKAHASHIといった面々が各ステージをあたためたのち、深夜2時からはいよいよ今夜の主役であるサカナクションが登場だ。


開始10分前、すでにMOUNTAIN STAGEは後ろまでほぼ満杯。観客の期待も高まっていく。


ふっと客電が落ち、ステージ上のスクリーンには車で高速道路を走り続けるモノクロ映像が流れる。サカナクションの最新アルバム『834.194』のコンセプトムービーのようだ。



北海道から東京へと車を走らせる映像がひとしきり流れたあとに始まったのは「アルクアラウンド」。そう、この楽曲のMVのロケ地はまさにここ幕張メッセである。サカナクションとともに上京して今この場所にたどり着いたような感覚にさせる演出に、ぐっと胸を掴まれる。




1曲目から一気に高まったテンションそのままに「夜の踊り子」がスタート。“どこへ行こう どこへ行こう”と大合唱が起こり、跳ねる観客。「いきなり楽しすぎるね!!」と横にいた女の子たちが笑う。


まだまだこれからだよ、と煽るかのように続いて「モス」のイントロが鳴り響く。最新アルバムに収録され、シングルカットされた楽曲だ。新曲ながら口ずさむ人も多く、サビでは「マイノリティ」コール。山口一郎は自身のラジオ番組でこの曲について「みんなが好きと言うものを好きと言いたくない……自分の中に本当に好きなものがあるっていう、それを選ぶっていう性質のマイノリティ」と語っているが、この場所ではそのマイノリティがマジョリティで、自分の好きなもの思いっきり楽しむ観客の姿ばかりだ。




ひとしきり観客をあげた後は、じっくりと聴かせる楽曲へ。「さよならはエモーション」、そしてオープニング映像の続きが流れ、スクリーンはいつしか東京の風景に。“ここは東京 空を食うように びっしりビルが湧く街”と語るように歌う「ユリイカ」。そして、体の中まで響くような低音が鳴り響き「years」が始まる。



©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


ところで、このNF in MIDNIGHT SONICで使われたサウンドシステムは昼間のステージと同じものだったのだろうか。THE CINEMATIC ORCHESTRAが始まったときから、耳に優しいのに一音一音がはっきりと聴こえることに感動を覚えていた。昼間鳴っていたサウンドと明らかに違う感じで、「years」のイントロで鳴る低音も耳を塞ぎたくなるような音ではなく、お腹の底から耳に伝わるような体感の音だった。


続いて「ナイロンの糸」を演奏し、スタートしてから初めてのMC。「踊り足りないんじゃないの?」という山口一郎の声を発端に、ステージを覆っていた薄い幕が落ち「陽炎」がスタート。スクリーンにもサカナクションのメンバーがはっきりと映る。一郎さんも笑顔だ。



©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


ウィンドチャイムと80年代風の女性が映し出されると、ひときわ高い歓声が上がり「忘れられないの」が始まる。MVで披露していたダンスも交えながら歌う一郎さんがコミカルでなんとも素敵。一緒に口ずさむ観客も多く、すでにサカナクションを代表する1曲になっているようだ。



続けてディスコ調の「マッチとピーナッツ」、曲がフェードアウトしていくと同時に風が唸るような轟音が鳴り響き「ワンダーランド」へ。疾走感のある演奏とともに炎が次々と上がる激しい演出、そして曲の終わりには再び轟音が鳴り響き暗転。


再びライトが灯るとメンバーがサングラスとヘッドフォンをつけ、横並びの“Kraftwerkスタイル”で登場。そういえば2014年のソニマニでは、Kraftwerkの後にサカナクションが登場したんだった。先にステージを終えたレジェンドへの深い尊敬が感じられるテクノセットで踊ったのを今でも覚えている。2019年のサカナクションからもダンスミュージックへの愛がひしひしと伝わってきて、嬉しい。「INORI」から「ミュージック」へ、ラストサビ前には暗転しレーザーが放たれ、メッセは巨大なダンスホールと化す。


誰もが一瞬で“あの曲だ”とわかるパーカッションが会場に鳴り響き「アイデンティティ」がスタート。ボルテージが最高潮に達した観客は自由に踊り、歌う。ラスト、ステージの締めくくりは「新宝島」。



©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.


1時間20分のパフォーマンスで、サカナクションは完璧に作り込んだ音楽の世界へ連れて行ってくれた。フェスの1ステージというよりも、ワンマンライブを観ているような感覚になった人も多いのではないだろうか。幕が降りたあと、そこかしこで「すごかったね!」と皆が同じ感想を口にしていたこと、さらに言えば、サカナクションファンだけが集まったわけではないフェスの深夜ステージであれだけの一体感を生み出したことが、その完成度の証明にはならないだろうか。



「新宝島」の演奏前、一郎さんが口にした言葉が非常に印象的だった。


「これが終わったら、僕も遊ぶんだ!」


7月に配信されたDOMMUNEにゲストで彼が登場したとき、こんな話をしていた。


「僕のベースはクラブミュージック。だからサカナクションのコンセプトも“縦でも横でも踊れる音楽”。ポップスの世界で戦ってはいるけれど、ファンにはクラブミュージックを体感したことのない人も多いから、クラブミュージックの感動も届けて行きたい。」


ポップスとクラブミュージックの架け橋として開催されている「NF」。まさにそれを会場全体で実現するように、Akufenはのっけからカットアップで会場を揺らしていたし、Floating Pointsはサカナクション終わりの観客を多幸感溢れるディスコで迎えてくれた。


私自身朝からずっと取材を続けていて、夜中の3時半、さすがに体力の限界が来ると予想していたが、サカナクションを観終わった後、逆に疲れが吹き飛ぶくらいの爽快感で朝まで踊ってしまった。これがダンスミュージックの魔力だ。きっとあの会場にいた人たちも、お目当てがサカナクションだったとしても、その前後を固めたアーティストたちの音で一晩を思いっきり楽しめたことだろう。


クラブミュージックの楽しさをもっと広めたいー「NF in MIDNIGHT SONIC」の企みはきっとたくさんの人にそれを体感させたはず。そしてその楽しさを体感した人たちが、今度は各地にある素晴らしいクラブに足を運んでくれるといいな、とおこがましくも思う。


来年はお休み、2021年までサマソニとはしばしのお別れだ。2年後にまた、ダンスミュージックラヴァーが集まる深夜のメッセ、SONIC MANIAとMIDNIGHT SONICで音を浴びられることを楽しみに待っていよう。



SUMMER SONIC:http://www.summersonic.com/2019/



written by Moemi


Souce:

https://tfm-plus.gsj.mobi/news/R7Enu6rH0S.html?showContents=detail


Photo:©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.



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