グラミー受賞歴のあるR&Bシンガー、R.Kelly(R・ケリー)が複数女性への性暴力を行ったとして糾弾されている。この騒動は2017年から表面化しはじめ、今アメリカでは社会問題になっている。
90年代、2000年代に絶対的な存在感で活躍したR&Bシンガー、R・ケリー。ヒットを飛ばした彼には、いつでもセックススキャンダルがつきまとっていた。
22歳の若さで逝去したアリーヤが15歳のころ、当時27歳だったR・ケリーは交際していたとされ、アリーヤの年齢を18歳と偽り婚姻届を提出。これはのちに年齢詐称がバレ、不受理とされた。
以後もケリーはセックスビデオが流出したり、未成年と行為に及んで訴えられたり、女性問題がついてまわっていた。
それでも彼はスター。そういった問題に対して訴えられても多額のお金を払い、示談にして事なきを得てきたのである。それがまかり通ってきてしまったということがすでに非道徳的ではあるが、今回はいよいよ言い逃れが出来ないかもしれない。
2017年にBuzzFeedが報じた、R・ケリーが家に複数人の若い女性を監禁、洗脳し、セックスカルトのような生活を送っているという報道が大きな話題を呼んだ。かなり細かな取材の基に構成された記事に、信憑性の高さをうかがわせるものであった。
そして、このR・ケリーの家に行ってしまって行方がわからなくなっている娘たちを探して親たちが声をあげ、救出に向けてサポートを訴えていた。
実際にR・ケリーと住んでいる娘の1人が今度は米メディア・TMZのビデオ取材に出演。本人は洗脳を否定するも都合が悪い質問には不明瞭な点も多く、R・ケリーの差し金ではないかと、さらに世間の非難の声は強まった。
SpotifyはプレイリストからR・ケリーの曲を削除するなど“#MuteRkelly”(ケリーの曲を消せ)のハッシュタグが活発化。R・ケリーのボイコットが相次ぐ。
しかし、R・ケリーは当然これを否定し、確たる証拠がないまま(状況といなくなった娘の親たちの被害証言だけでほぼ確定だけど)2018年には19分に及ぶ新曲で、自身に向けられた非難に対し反論する楽曲をリリース。疑惑に対し、あくまで徹底抗戦の構えを見せた。
これまでにR・ケリーは自身を取材するジャーナリストにも暴行を加え、告発されている。
そして2019年に入ってまもなく、R・ケリーの被害女性の証言やアーティストたちの話を基に、R・ケリーの所業を暴くドキュメンタリー『SURVIVING R.KELLY』が公開された。
ウォルト・ディズニー/ABCグループ傘下のケーブルテレビ局Lifetimeは女性向けのコンテンツを多く制作し、女性層から支持されているTV局だ。その影響力は大きく、契約さえしてれば北米地域全域でこのドキュメンタリーが見られるため、いよいよ全米がR・ケリーの性暴行事件を注視する状況となり、多くの人々がR・ケリーを非難している。
そして全6回のドキュメンタリーを受け、いよいよ検察が本格的な捜査に乗り出したのだ。近く、R・ケリーの家に家宅捜索が行われることが報じられた。
アメリカの国家権力が動いたことは世界的にも波及し、日本の地上波メディアでもこのニュースを取り上げた。現在R・ケリーは窮地に立たされているといえる。
『SURVIVING R.KELLY』のディレクター、Dream Humpton(ドリーム・ハンプトン)は、R.Kellyを知るアーティストに出演とコメントを依頼した。例えばこちらのアーティストが依頼を受けた。
Jay-Z(ジェイ・Z)
Mary J. Blige(メアリー・J・ブライジ)
Lil’ Kim(リルキム)
Erykah Badu(エリカ・バドゥ)
Dave Chappelle(デイヴ・シャペル)
協力は得られなかったが、決して、R・ケリーとその行いを支持しているわけでなく、複雑な事情があるという理由だ。
そんななかで、真っ先に出演を快諾したのはJohn Legend(ジョン・レジェンド)。そしてChance the Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)だ。チャンスは2015年「Somewhere In Paradise」でR・ケリーとコラボした件について率直な意見を語った。
To everyone telling me how courageous I am for appearing in the doc, it didn't feel risky at all. I believe these women and don't give a fuck about protecting a serial child rapist. Easy decision.
— John Legend (@johnlegend) 2019年1月4日
「人は勇気ある行動だと僕にいうけど、決断は簡単だった。リスクなんて全く感じていない。被害者女性を信じ、レイピストから彼女たちを守らなければならない」
— Chance The Rapper (@chancetherapper) 2019年1月6日
「R・ケリーと曲を作ったのは間違いだった。告発してる人たちを尊重していなかったよ」
また同じくシカゴのラッパー、Common(コモン)はTMZのインタビューで「一連の事件のことを私たちは知っていながら、目を背けていたんだ。それは私たち黒人のコミュニティとして失敗だった」と話す。
「この状況を解決して、被害に遭っている若い女性を解放し、起こっていることをやめさせようとしなかった」
コモンとチャンス・ザ・ラッパーはともに後悔の念を滲ませている。
シンガーのOmarion(オマリオン)が所属していたB2K(ビーツーケー)の楽曲をR・ケリーは手がけており、Omarionはツアー後にセットリストからそれらの楽曲を削除したとツイートしている。
While I know our fans would be greatly disappointed if we didn’t perform those songs on #TheMillennoumTour , after the tour I am retiring those songs from my set list . I too am raising a future queen. #A.A.R.T.
— OMARION (@Omarion) 2019年1月7日
(Artists Acknowledging Responsibility & Truth) Peace y’all. ~O
「ツアーでこれらの曲を演奏しなければ、ファンは大いにがっかりするだろうことを私は知っているが、ツアーの後、俺は自分のセットリストからそれらの曲を削除したよ」
しかし、このオマリオンのツイートに対し、「そもそも、本当にこの件を気にかけていたら、ツアー前に削除するでしょ」とチクリとリプライで釘を刺されている。
If you really cared you would pull the songs he wrote BEFORE the tour but no you’re more interested in making some money
— Kylie Jenner 🤪10/11 ♎️🤘🏾 (@LoveMy1029) 2019年1月7日
チャンス・ザ・ラッパーと同じく2013年にR・ケリーと楽曲を制作したFuture(フューチャー)が自身の新しいアルバムとドキュメンタリー『The WIZRD』のプロモーションのため米・ラジオ局Power106の「The Cruz Show」に出演。
ホストを務めるJ Cruz(ジェイ・クルーズ)から「もし、R・ケリーが曲をまたやろうと言ってきたらどうする? 」という質問に対し、「は? だれそいつ? 」と一蹴。加えて「R・ケリーに対して世間が注目しすぎてる。だから余計に事態を大きくし、あいつを調子に乗らせるんだ」と独自の見解を述べた。
「熱中しすぎて肝心なことを見失うな。冷静に物事を見ろという」捉え方にも聞こえるがFutureの真意のほどは分からない。しかし、コモンや、チャンス・ザ・ラッパーの言葉を借りるとすればこの問題は被害者や黒人コミュニティ、女性にとっては見過ごせない問題であり、R・ケリーに対して業界や彼を知る人物たちが目をつぶってきてしまったことが、凄惨な状況を作りあげてしまったことは間違いない。
そして1月10日、Lady Gaga(レディーガガ)は、R・ケリーとコラボした「Do What U Want (With My Body)」をiTunes、ほか配信プラットフォームから削除することを自身の声明とともに発表した。
ガガもまた、『SURVIVING R.KELLY』への出演を辞退したひとりと報じられているが、ガガも男性から不当な性暴力被害を受けている過去を持つアーティストだ。
「1000%被害者女性のことを信じ、支援します。今後、一切R・ケリーと楽曲を制作することはない。今までこのことを話すことができず、ごめんなさい」と綴り自責の念とともに全面的に被害者を支持する意志表示を行った。
I stand by anyone who has ever been the victim of sexual assault: pic.twitter.com/67sz4WpV3i
— Lady Gaga (@ladygaga) 2019年1月10日
『SURVIVING R.KELLY』の公開から事態が急速に進み、事件として捜査も開始された。全容解明と解決に向けて、ドリーム・ハンプトンを始めとしたドキュメンタリーの制作陣、放映したLifetimeの功績は大きい。
また、数々のアーティストが口をつむぐなかで、ドキュメンタリーで証言したジョン・レジェンドとチャンス・ザ・ラッパーの勇敢な姿勢は数々のアーティストへ波及し、#MuteRkellyの動きに拍車をかけている。
近年、故XXXTENTACIONの交際するパートナーへの凄惨な暴行や、6ix9ine(シックスナイン)の未成年女性への暴行など、若いアーティストの行動も取り沙汰されている。非難の目を向けられる反面、彼らは絶大な影響力を持っており、カルト的な人気を博している。
今回も同様だ。R&Bシーンにおいて絶対的な功績を残し、文字通り神格化されたR・ケリーを支持する者も一定数存在する。人格と音楽は関係ないとする支持派と、非難する意見の分断が起き、論争に発展しているのだ。
R・ケリーのセクシャルなリリックを全面に出している楽曲は、今回の一連の騒動を経て果たして聴く者にとってどう聴こえるだろうか。ましてや被害者、被害者に近しい者たちにとっては苦痛でしかないと想像するに容易い。
我々日本人はどうしても英語を通してR・ケリーの曲を聴くが、日本語の楽曲、日本のアーティストで置き換えたらと思うと、もしかしたらまともに聴くことができないかもしれない。
しかし、あまりにもR・ケリーのアーティストとして残した存在感は大きく、この記事を書きながらアタマの中に「Happy People」や「Ignition(Remix)」のメロディとボーカルが流れてしまっているのも紛れもない事実である。
この世からR・ケリーの楽曲が抹消され、刑罰を受けようと人々の頭に焼き付いた楽曲の記憶と被害者たちの傷がミュートされることはないのである。
一刻も早い被害者の救出と全容解明を祈るばかりだ。せめて、今回の騒動が投じた一石が、世界的に波及し日本でも不当な性被害を受けた人たちにとってポジティヴな影響を与えることになればと願う。
We should all thank my friend @dreamhampton for her very necessary work to create #SurvivingRKelly. These survivors deserved to be lifted up and heard. I hope it gets them closer to some kind of justice.
— John Legend (@johnlegend) 2019年1月4日
written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki
source:https://www.rap-up.com/2019/01/09/future-speaks-out-against-r-kelly/
https://blavity.com/common-says-hes-guilty-of-enabling-r-kelly-we-failed-as-a-community
https://blavity.com/omarion-says-b2k-songs-written-by-r-kelly-will-be-cut-from-performance-sets
https://www.mylifetime.com/shows/surviving-r-kelly
https://consequenceofsound.net/2019/01/jay-z-lady-gaga-dave-chappelle-surviving-r-kelly/