君がDJなら戦う?戦わない?モーリー・ロバートソン、DJ HASEBEとDAW、Ableton Liveを語る

DJであれば、Ableton LiveやPro Tools、PC1台で音楽全部できる現代でどう戦う?
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2018.08.01 02:00

毎週木曜日夜9時からblock.fmで放送中の『Morley Robertson Show』。国際ジャーナリストでDJのモーリー・ロバートソンさんは今回ゲストにお招きしたのはDJ HASEBE。番組では、DAWやAbleton Liveの話、そして最近の若者とDJについての話で、ひときわ盛り上がっています。


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タイムストレッチのアルゴリズムが知りたくてAbletonに手を出した


モーリー:この段階ではパソコンベースでは全くなくて。マニュアルで。


DJ HASEBE:あ、そうですね。アナログレコードっすね。


モーリー:そうですよね。どこかからだんだんデジタルが身の回りに浸透していったと思うんですけど。DJ HASEBEさんはどの段階でデジタルのDAW……音楽制作ソフトなり、どこらへんでそれに手を出したんですか?


DJ HASEBE:僕はDAWはPro ToolsとLogicなんですけど。それは99年ぐらいからっすね。それまではAKAIのMPCを使っていて作っていたんですけど。あと、DJでPCに移行していったのは2005年ぐらい。台湾の営業があったんですよ。通常はレコードを3箱ぐらい持っていっていたのをその時はまあ、経費が少なかったから飛行機にレコードを積んじゃうと金がかかるな、みたいな感じで。


モーリー:じゃあ、荷物を減らしたいから?


DJ HASEBE:そうそう。


モーリー:サーチャージ払いたくないから(笑)。


DJ HASEBE:フフフ、その時にちょうど、スクラッチライブっていうセラートのソフトがちょうど出始めた、普及しだした時期だったんで。で、ちょうどいいからやってみようかなって思って自分のそのレコードの箱に入っていた、自分のライブラリをデータ化していく。Pro Toolsに録っていってっていうのを1週間ぐらい。朝起きてずーっとレコードに針を落として……みたいな作業を1週間ぐらいして、ようやく自分の3箱分をデジタル化して。で、台湾に行ったっていう。


モーリー:で、この段階ではその音源っていうのは非圧縮なんですか? WAVかなんかで持ち歩いていたんですか?


DJ HASEBE:WAVでその時はとりあえず持っていましたね。でもテータ量がすごくなっちゃうから。


モーリー:ねえ、極端にすごくなっちゃうから。


DJ HASEBE:そうっすね。だから、まあ圧縮してやりましたけども。


モーリー:へー! で、どうだった? 乗り換えた時の最初の印象は。音が悪くなったとかそういう心配もあると思うんだけど。


DJ HASEBE:なんかね、でもまあしっかりWAVでオーディオインターフェイスも当時のPro Toolsの888っていうやつで録っていて。音の劣化感っていうのはさほどなかったんすけど。あとはまあ、そんな不自由……慣れるまでやりづらいとかもなかったんで。結構その、コントロール・ヴァイナルでやっていたから。


モーリー:そうかそうか。それでね、だんだんと生まれた時からデジタルや生まれた時からトラクターとかそういうワークステーションだったりトラクターだったり、全部フルデジタルである世代がいま、そろそろハタチを迎えようとしているんですよ。そうするとね、僕はそのハタチ寄りの選曲が多いんですけど、なんでか?っていうと僕、最初の頃からAbletonやっていたの。


DJ HASEBE:ああ、はいはい。


モーリー:なんでAbletonに行ったかっていうと、誰も使わないコンピュータ言語のMaxっていう、Max/MSPっていう音響言語みたいなのがあったんですよ。で、そこの中の仙人のようなマスタープログラマーがAbletonのプロトタイプを作ってAbletonから売り出したので。僕としてはMaxから行ったつもりで。そこからやっとクラブ音楽に接するんですね。コンピュータ音楽のわけのわからないグチャーッの世界から、アンビエントからそっちに急に行ったら「ああ、なるほど。タイムストレッチができるんだ」という。タイムストレッチのアルゴリズムが知りたくてAbletonに手を出したクチなんですよ。


DJ HASEBE:ああ、なるほどね。当時はそうですね。Ableton Liveはタイムストレッチがいちばんやりやすかったですね。


モーリー:他のはなんかエイリアスとか音が入ってくるんだけど、Abletonだけはいちばん正確だったっていうのがありましたよね。ところが、だから僕の年齢の世代の人たちっていうのはそういう風に見ていた人もいるんだけど、生まれた時にAbletonがあった人がいま、ハタチになっているとなにが起きるか?っていうと、その人たちにとってはPhotoshopもSnowだっけ? 顔を……。


DJ HASEBE:ああ、はいはい。女の子とかがやっている。


モーリー:そう。だからインスタと同じような存在になっちゃっていて、そういう遠近感がないんですよ。時間のね。当たり前にあるわけじゃない。そうすると、いまEDMとかで作られてくるもの……トラップだったりダブステップだったりにしても、本当に黒人と白人の音楽をとことん細かいレベルで融合しちゃっているんですよ。スタイルを。で、それがもともとどこから出てきたのか?っていう歴史とか、そういう頓着がないの。


DJ HASEBE:ああ、ないですよね。


モーリー:だからHASEBEさんはたとえばこういうポップなものは迂回しようっていう決断をした時期があったけど、そういうものがこの人たちにはないんですよ。全部一緒だから。


DJ HASEBE:一緒ですよね。うんうん。まあ、だからそこが面白いのかなっつーのもありますよ。僕たちは結構そういうの、面倒くさく考えがちっていうか。なんか全部取っ払ってグチャッとさせちゃった方が実際に面白いのかなとも思いますし。


すごいパンチを持っている若手と戦ってもHASEBEさんは勝てると思う



モーリー:はいはい。あともうひとつ、全体の傾向なんですけども。YouTubeで結局最初から最後まで……作曲からDJまで全部デジタルでやっている子が増えている。必然的にね。その方がコストが……まさにさっきおっしゃったサーチャージが安くなるのと同じロジックで。


DJ HASEBE:まあ、なんかセコい話ですけどね(笑)。


モーリー:いや、でもターンテーブルとかパイオニアDJとか買うのって何十万も結局はするから、大人が買うもので。ガキンチョがやるものはPC1個で全部やるっていう。下手したらiPhoneになんか画面をくっつけてやれるみたいな人たちですよね。そうなってくると、彼らは全てのノウハウをYouTubeにアップされたハウツー動画から学んでいるわけ。


DJ HASEBE:うんうん。


モーリー:たとえばDeadmau5、SkrillexなりAvicii、なんでもいいや。売れている人がいると、「この人の曲をそっくりに作れます」っていう動画を上げるともう何万件も見られるわけです。それでアフィリエイト収入を稼ごうとする輩もいたり。


DJ HASEBE:ああ、なるほどね。


モーリー:出てきた新曲で売れそうなやつは全部、もう必死こいて解析動画をUPするとだいたい……。


DJ HASEBE:ああ、数字が上がるんですね。


モーリー:だからそのちびっこたちはそれを見てDJのテクニックやEQとか、普通だったらマスタリングのエンジニアとかが知っているような、たとえば音の潰し方とか。


DJ HASEBE:コンプレッサーでね。


モーリー:そう。そのリミッターとコンプレッサーの技があるんですよね。いろんな技があるじゃないですか。ああいうPro Toolsの奥にあるような技を「これをやるとスクリレックスのあの音が作れるんだよ」とかって……ちぐはぐで脈絡のないまま深い技を断片で身につけちゃうわけよ。だから17歳とかでデビューして、一瞬1位になったりするわけ。空恐ろしいものもあるけど、逆に脈絡もなさそうに見えるっていうか。だからそういうノウハウの広がりがものすごく早くって、今後音楽のそういうジャンルの新陳代謝がめっちゃ早くなりそうな気がするんですよね。


DJ HASEBE:うんうん。


モーリー:1個当たると、1週間以内にみんなその作り方を勉強しちゃうから。お互いに秘密を共有し合っちゃって。


DJ HASEBE:恐ろしいですね。最近のそういうのは。


モーリー:だからすごく、ある意味で裾野が広がるわけじゃない。参入する人も。で、僕は全体的に見ればそれは半分作るような意識で。あとは自分もDJするような意識で音楽ファンが増えるとある意味で音楽を大切にするだろうから、それは好ましいと思うんですけども。逆に言うと自分が活動をしていく上で、自分よりも10歳、20歳年下のブワーッていう人たちがイナゴのような数、来るわけじゃん? どうやって生き残るの?っていう。それをいま、HASEBEさんにぶつけたいんだけど。どうやって生き残りますか?(笑)。


DJ HASEBE:フハハハハッ! まあでも、同じ土俵で戦わない風にしています。僕は。


モーリー:アハハハハッ! 本当に?


DJ HASEBE:だからまあ、ちょっとこう、逃げて逃げてっていう(笑)。ぶつからないようにしています。


モーリー:じゃあ自分の経験もあり、作り出してきたスペースを、その味わいと自分のアイデンティティー……ブランドアイデンティティーも含めて、それを大切にしつつ?


DJ HASEBE:そうですね。まあ、同じ土俵に上がっちゃうとね、コテンパンにやられちゃうんでね(笑)。


モーリー:でもね、さっきちょっと言おうと思ったのは、パンチがすごく強いのに……だから、これは私格闘技がわからないで言っているからちょっと素人的な言い方なんですけども。ボブ・サップが急に弱くなった時期っていうのがあって。あれはみんなに読まれたからっていう。戦い方が素人で、ものすごい破壊力があるけども、いっつもおなじ繰り返しの戦いをしていたからビデオでみんな解析をしちゃうと、次に何をやってくるのかがわかっちゃうから。


DJ HASEBE:はいはい。


モーリー:で、大谷翔平さんがエンジェルスに行ってちょっと苦戦しているのも相手側がみんなデータを……あと、阪神のロサリオだっけ?


DJ HASEBE:僕、全然わからないっす。


モーリー:まあ私も関テレに出ていて、野球をわかっていないのにロサリオの名前は知っているんですよ。ごめんなさい。それでそのロサリオっていうすごい破壊力のある人を何億円かで阪神が買ったのよ。トレードかなんかで。そしたら2、3試合で読まれちゃったんだって。


DJ HASEBE:へー!


モーリー:で、みんながロサリオが打ちづらい球を共有しちゃって。ものすごい才能があって韓国では大スターだったのに、日本のリーグに来た途端全くダメで二軍落ちしちゃったんですよ。だからそういう風に解析がどんどん進んじゃうっていうのがあったりして。


DJ HASEBE:はいはい。なるほどね。


モーリー:だから言いたかったのは、すごいパンチを持っている若手と戦っても多分HASEBEさんは勝てると思うのね。相手のパンチが見えるから。


DJ HASEBE:いやー、どうっすかね? 見えるかなー?


モーリー:いや、別に戦って上になる必要ないよ。


DJ HASEBE:まあ、戦わないっすけどね(笑)。


モーリー:戦わない。非戦。まあ、そうだよね。平和主義が大事だよね。ただ、やっぱりさ、有限の資源を人間は奪い合って生きてきたわけだから。「あっちに1000人行っているっていうことは俺の3000人が2000人に減るっていうことだ」っていう側面もあったりして。


DJ HASEBE:そうっすよね。


モーリー:じゃあそんな中、非常に非戦を貫いてらっしゃると思われるHASEBEさんの新しいアルバムからもう1曲、聞いてみましょう。『サーファーガール feat. PES』です。


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▷ 「Morley Robertson Show」

https://block.fm/radios/28


EVERY THURSDAY 21:00 - 22:30


モーリーのアンテナがキャッチする波動は、ひと味違う。あなた自身が住んでいる「不思議の国」を味わってほしい。気が付いたら、地球防衛軍に入隊していたとしても、不思議ではない。ここでは毎日が入隊記念日。いろいろな旅をする人のための時間。いっとき、モーリーの視点から世界をのぞいてみてください。



written by みやーんZZ


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