モーリー・ロバートソン 日本にスティーブ・ジョブズが生まれない理由を語る

モーリーが行った90分間の講演内容を凝縮してお届け。日本にスティーブ・ジョブズが生まれるには?
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2018.10.25 08:00

毎週木曜日夜9時、block.fmで生配信中される、国際ジャーナリストでDJのモーリー・ロバートソンさんの番組の『Morley Robertson Show』。今回の番組では堺市でモーリーさんが行った90分間の講演の内容を約30分に凝縮して紹介。「日本になぜスティーブ・ジョブズが生まれないのか?」というトピックについて話していました。



毎週モーリー・ロバートソンのラジオが聴ける番組は、こちらをチェック。


「Morley Robertson Show」


生配信:毎週木曜夜 21:00 - 22:30


モーリー:ちょっとお話しよう。うーん、かわいいの、持ってきたよ。さあ今日モーリーさん、話をしながら上手にBGMを乗り換えられるかな? シンペーちゃんと遊ぼう、みたいな感じ。でね、今日は堺に行ってお話をしたわけですよ。で、私に毎回すごい真心をこめていて。講演会をいままで20回ぐらいやってきたんじゃないかな? だけど、やるたびに毎回、本番直前に書くんですよ。ちょっとカメラの人に見せてあげる。これ、見て。こうだよ。皆さん、いまね、カメラに映像で私のノートを映してるんですけど。



こういう真心を込めて、毎回なんかこういう風にメモを取って、メモをちょっと横に置いてそれを拾い読みしながらね、だいたいこんな流れで……っていうことを毎回毎回、ひとつひとつの講演会で一期一会でやってるわけですよ。まあ綺麗な文字でね、「付加価値とイノベーション、そしてインディヴィジュアルズ」って書かれてますよ。はい。そしてちゃんと今日はね、もう90分なんでペース配分も……「文化メッシュで30分、アメリカから学んだことで30分、そして国際情勢30分」って書かれていて。


この時間配分もして、ストップウォッチも見てるからぴったり俺、1分以内の誤差で終わるんですよ。だけど……全く無視しましたね(笑)。「モロッコ」とかさ、「韓国に行った話」とか書いてあるのに、全然韓国の話もモロッコの話も一切せずに、もうブワーッと。なんかね、矢沢永吉スーパーライブ武道館、ブワーッ! みたいにひたすらしゃべり続けて。俺、そういえば息継ぎせずに喋り続けているというか。喋りながら鼻で呼吸をする、その循環呼吸で。スーッて鼻で呼吸したらずーっと声をストリーミングのように喋り続けて今日、90分間喋っちゃったんだよね。


それでね、結局何を喋っていたのか? いま思い出せる範囲で言うとね、頭の中では「みんな大麻をやってセックスをいっぱいして働くのをやめて、みんなでスティーブ・ジョブズになろう!」とかって言いたいわけよ。でも、平均年齢が60歳ちょいぐらいの地元のすごく真面目な人たちのあれなんで、そんなことは心の奥の奥にね……先ほどまではTwitterで「ウェーイ!」とかって言って、主に保守系っぽい人たちに対して「大麻、オラーッ!」「日本から出て行け!」「大麻!」「日本から出て行け!」って。そしたら大麻やりたい人たち、「420」ってついたアカウントの人たちがそれをまた攻撃してくれて。


一言ポイッと言うとそこでみんな「ワーッ!」ってモッシュしてくれるから。なんかやめられないじゃないか、このエンターテイメントは……みたいな。そういう感じなんですけど、それをやっていたばかりのホヤホヤで会場に入っちゃったわけよ。で、会場に入ってから30分後には本番でステージに立つわけじゃない? だから頭の中を切り替えるのが大変で、ステージに立っていて皆さんのお顔を見てね、「よろしくお願いします」って言ってるけども、なんかポロッとさっきTwitterで言っていたことを言いそうになるわけだ。


で、そこを上手に翻訳して塗り替えていくわけよ。私、頭の中で。で、結局ね、すごくマイルドダウンしたバージョンで、「日本からはどうすればスティーブ・ジョブズが生まれるんでしょう?」っていう。まあ、「それは大麻とLSDだろ!」っていうのが答えなんだけど、それは言えないし(笑)。そもそも「大麻? えっ、この方、大麻を吸ってるんですか? 由々しき事態でございます!」っていう風になるから、「それはまあ、30年前に1回吸っただけなんですけどね。本当にもう、その後は薬なんて、そんなものなくても私はヨガで十分です。ヨガとオレンジジュースとこのレッドブルがあればもう、夜はネンネ……」みたいなね。早寝早起きが大事だよ。お薬なんかなくても、幸せになれるからね!


で、結局どういう話をしたかっていうと、「どうしてスティーブ・ジョブズが出たのか? そしてどうして日本は調子が一番よかった90年代とか80年代のバブル期、スティーブ・ジョブズを育てる社会的な余裕があった時に、それを見送っちゃって失われた20年なったのか?」っていう話を物語としてしたいわけですよ。で、それをただそのまんま、「いや、日本はチャンスを失った国です」って言ってもしょうがないし、希望がわかないから、ふくらませたわけ。で、どうやって最後に「日本にもスティーブ・ジョブズを出そうよ」っていう結論に結びつけたのか?っていう道筋を今日、要約してここで話そうと思います。と、言いつつ俺はかっこよく曲を乗り換えたいんで。がんばってみるよ。えいっ! いけるかな? 上手に乗り換えられるかな?……おっ、気持ちいい。


でもこれね、ボーカルがかっこいいから。なんかしゃべるともったいないんですよね。素晴らしい曲を冒涜したくない。曲が素晴らしすぎたら俺の喋りは無視してください。曲の方が俺のベシャリよりも上です。俺のトークが大好きで「ニコ生をもう1回やってくれ!」って言ってる人たちがいっぱいいるのを俺は知っている。でも、そういう人たちには、シカト! 1人1万円毎回払いやがれ! こぼれいくら丼をおごってくれたら、お前に向かって喋ってやるよ!っていうことで……あーん、気持ちいいいわー! Basement Jaxx!


Basement Jaxx『Unicorn (Big Dope P & TT The Artist Remix)』


(しばらく曲を聞いてから)かっこよすぎ! UKフレーバーっていうのがあるんですよ。こういうアレンジとか。同じソウル系の歌い上げでもね、微妙にUKアーティストっていうのはちょっとひとひねり、クラフトが入っていてね。で、それを耳にするたびにもう嬉しくなっちゃって。アメリカにいたわけだから、アメリカとは全然違ってこう、フォーレンなんですよ。さあ、今度は喋れるかな?(笑)。


そうそう、それで「日本のスティーブ・ジョブズがどうやったら出るのか?」っていう話をどうやってまとめるか?っていうのを瞬間的にいろいろと考えたんだけど、要はもうすごい壮大な話にして、アメリカが原爆を落として日本のファシズムとナチス・ドイツに勝った後から時計を始めたんですよ。で、国連をスタートさせた日本。そうすると、国連をスタートするっていうのはソ連とアメリカがお互いに核戦争をしないっていうことの緩衝材として入れたような建前と本音の側面があって。その建前の部分って人権であって、基本的人権。あるいは多様性の最初の苗床だよね。(曲を聞きながら)気持ちいいっす! じゃあ、これをバックに。HLZの『Sparkles』をバックに話をします。


HLZ『Sparkles』


それで、その国連を作った時に結局、「基本的人権」という考え方をやったんだけど、これは性別とか人種などにおいて宗主国と植民地が差別をしませんみたいな綺麗事だったんですよね。で、ソ連も一応、内部ではスターリンだとフルシチョフがすごい抑圧的な事をやって、虐殺を自分で国民にしていたくせに、外に向かっては「労働者のパラダイスだ」っていう風にプロパガンダする必要があったから、その国連の基本的人権に乗ったわけですよね。事実上、共産主義の独裁国家であったにもかかわらず。


それで、アメリカとソ連はそこで核でにらみ合いながらも、国連の綺麗事を通じて外交チャンネルを開いていった。そこで最初の「多様性」っていう綺麗事が俎上に載るわけだ。それで戦後のアメリカはそれで繁栄をするんだけども、実際に第二次大戦が終わった段階で、もちろんカラードと呼ばれた非白人の人たちは全然ライツ(権利)が保証されてなかったし、そして女性も社会の参画が非常に限られていた時代だったんですね。っていうのは、これは前に話したことあるかもしれないけど、「G.I. Bill」っていうのがあって。


アメリカの戦争に行って帰還してきた若い兵隊・兵士たち、帰還兵っていうのは無料で大学に行けたんですね。新しい資格やスキルを学んで、それでより付加価値の高い職工として、整備士とかいろんな仕事につけるようにするっていうことが建前で、本当の裏っていうのは若い人たちが何百万人も戦地から引き上げてくると、そこで上手いこと雇用を調整していたのに急に失業難が起きるっていう感じ。


だからその就職難を起こさないように、ルーズベルト大統領がG.I.ビルっていうのを作って大学を無料化したんですよ。で、その時に建前上は男女平等だったわけ。ところが、女性たちが実際に、来非戦闘員として第二次大戦に従軍した女性もいっぱいいたんだけども、そういう人たちがじゃあG.I.ビルのオフィスに行って「私も大学に行きたいです!」って言って、女性がアプライですね。そこで応募をすると、そこにいる係官がもうなんだかんだ理由をつけて、とにかく大学に行かせないようにして、ほとんど人が撃退をされて「主婦になりなさい。家庭を持ちなさい。子を産み育てなさい」っていう風に言われて、夢が潰えた若い女性たちがいっぱいいたんですよ。戦争に協力したにもかかわらず。


そういう人たちが、じゃあ戦後。1950年頃。大戦終了の5年後ぐらいなるともう空前の戦勝国バブルが起きるわけですよね。で、その時にその製造業バブルが起きて、みんな車を2台。そしてお庭。そしてどこまでも同じような家。「みんなが欲しいものをうちも欲しい」みたいな。それでお父さんを中心として家父長的で、みんな同じ方向を向いてキリスト教道徳だった白人の価値観、キリスト教の価値観が中心だったアメリカ。その頃、GHQが日本を占領していたために、だから大麻がほら、キリスト教的な価値観で禁止になったじゃん。


でも、それは言わなかったのね。大麻禁止法をまた出すと、あれだったから。そのかわりに風営法の話はしました。「赤線にG.I.が行かないように、ダンスホールを規制して。それがいまも若い人たちを縛ってるんですよ」みたいにね。まあね、本当に妥協につぐ妥協の産物で、1/8、1/16の強度だけど、もしかしたら高齢のご来場者にとってのですね、それで十分に……「すげー! 赤線ってG.I.と関係してたのか!」みたいな。


それで要は、日本の戦後のいわゆるその強制されたデモクラシーですよね。天皇制からデモクラシーへとガチッと変わっていったあの時点っていうのは、いわばそのアメリカがレシピを書いてそれを日本が唯々諾々と敗戦国として受け入れた。その時にキリスト教道徳を元にしたいくつかの法律が……大麻取締法とか風営法とかいろいろあったんだけど。まあ、アメリカが占領軍として撤退して日本が主権を回復すると、「別に?」っていう感じで。日本は別にクリスチャナイズはしなかったんですよ。


で、それがひとつの枝葉なんだけど、メインで話しているのは要はアメリカのそのクリスチャン、白人男性、「Father Knows Best(パパは何でも知っている)」っていう、そういう価値観の中でアメリカの繁栄っていうのは作られ。そこで女性たちがですね、自分たちの自己実現。それは「余計なことを考えるな!」っていう感じだったんですよ。ところが、GEとかアメリカの大手家電メーカーがですね、掃除機やディッシュウォッシャー(食洗機)とか洗濯機みたいなものをテレビを普及させて。


そのテレビを見るとドラマの中では最先端の冷蔵庫とかを開けてるわけですよね。で、要は購買意欲をそそるためのマスゲーム、マス消費ゲーム的なサイクルができていて、要はお母さんが教育は受けず、だけどこういう家電を使うことで余暇ができる。で、余暇ができたのを、「良き消費者としてお買い物しましょう、お父さんが稼いだ金で」っていうことで、子育てと消費者っていうことでお母さんはどんどんはしゃげるわけですよ。


で、だけどそれで虚しいと思ってた人たちがいたわけだね。何万人かは知らないけど、本当は大学に行って教育を受けて自己実現したかった女性たちがいた。その人たちは余った余暇で自分の娘たちに「絶対に大学に行け!」みたいに育てたわけですよ。50年代に。そうすると、その最初の超インテリになる女性たちがニューヨークのコロンビア大学とか、そういうところに行って。(曲を聞きながら)あ、これもかっこいいな。うん。最高のを聞いてやっています。ご機嫌です。


で、その女性たちが結局、お母さんの世代は物質的な豊かさを与えられたし、家庭という安堵を与えられたけれども、「教育を受けたかった」という自己実現が満たされなかったわけだ。当時の価値観で。それで娘たちにはちょうど60年代になって大学行かせて、その人たちが……気持ちいい。ちょっと聞いて。そしたらその後、かならず喋るから。


Fracture『Cold & Rain (feat. Inaya Day)』


OK! かっこいいっす! 『Cold & Rain』というInaya DayとFractureの曲です。これ、気持ちいからループさせて喋り続けよう。それでね、女の人たちが要はその世代は教育を受けられなかったけど、娘たちにはせっせと教育熱心にお金をつぎ込んだわけ。それでその子たちがはじめて大学にマッシブに行く時代にちょうどそれが60年代に引っかかって。しかもアメリカは冷戦期に突入。それまで、50年代は核戦争でお互いを滅ぼすぞ!って言っていたのが62年のキューバ危機でケネディVSフルシチョフで核戦争ができなくなったので、そこでやっぱりProxy(代理戦争)でベトナムとかでベトナム人同士をアメリカとソ連の代わりに戦わせましょう、みたいな。朝鮮半島もやったけど。朝鮮半島でマッカーサーは核兵器を使おうとしたんだよね。


で、そういう時代から核を使わないけどにらみ合い。そして遠くでProxyの代理戦争をしている時代。そこにアメリカの若い男性たちが徴兵制で一気に強制的に連れて行かれたわけですよ。で、ちょうどカラーフィルムによる出版物とカラーテレビがどんどん普及していった時代だったので、そこに入った『LIFE』っていう雑誌のフォトグラファーかな? それがそういう虐殺であるとか、戦争の酷さっていうものをですね、非常に色付きでリアルに撮影して、それがアメリカの国民にバレちゃったんですよね。そういうことがきっかけになって。テレビとかで映像を見たりして。それで若者たちが大挙して、反戦運動を展開するわけよ。


そこで説明したかったのは、アメリカのリベラルっていうのがそこで始まるんだけども。それまでは一部、社会主義と共産主義に影響を受けたアメリカの学者が、たとえばニューヨークの大学なんかにはいたんですけども。これは赤狩り(レッドパージ)で1回、公職を追放されたりしてるんで、共産主義っていうのはアメリカではもう共産党っていうのはほぼ解散していたわけね。だけど、その進歩的な流れを汲んで、人道派だったりする人たちはベトナム戦争反対。そしてさっきのフェミニズムですね。女性たちが教育を受けて、何で自分たちは一定の役割に押し付けられるんだ? 出産と専業主婦だけじゃなくて、物理学者になったっていいじゃないか。宇宙飛行士になったっていいじゃないか。だってソ連はテレシコワさんが宇宙へ飛んだんだぞ!」みたいなね。


そういうことで、いわゆるパトリアキーですよね。父権政治的なそういうキリスト教道徳。そしてその中にもう1つあったのは、性的な女性の……「女性はすごくおしとやかにしなくてはいけない。女性はセックスでイッちゃダメ、オーガズムしちゃダメ、オナニーしちゃダメ」ってすごかったんですよ。本当に厳しかったの。それを「あたし、オナる!」みたいに、女の子たちが「フリーセックス!」みたいになって抵抗していったわけだ。だからそれが2つ目。フェミニズムと性。つまり自分の体を回復するということ。そして反戦。それとあとは人種平等。


マーティン・ルーサー・キング牧師の公民権運動、ありましたよね? それで、その3つが合わさって、リベラリズムの3本の矢ですよ。そこでリベラルっていうものが始まるんだけど、そのリベラルの中で結局アメリカが分断するわけよね。ベトナム戦争反対。だけどね、面白いのは68年の大統領選というのはニクソンはすごく勝つの。なぜ勝ったのか?っていうのは、大人の社会の方がやっぱり有権者登録して、きっちり投票して。若者はマリファナとかLSDとかやって投票しなかったんだろうなっていうのは想像上のシナリオなんですけど。


もうひとつあったのはですね、その年のデモクラティック・コンベンションと呼ばれる民主党大会がどれくらいベトナム戦争に反対のするか? で大揺れをしてしまい。そしてたしかJ・F・ケネディが暗殺された後だったんだけど、ロバート・ケネディ(RFK)。ボビー・ケネディとも呼ばれている人がカリフォルニアで(大統領選挙の)予備選に勝った直後に撃たれてるんですよ。だからそういうケネディ一族が暗殺されて、希望が消えたみたいなのがあって、「誰を民主党の代表にすればいいのか?」っていうのでその混乱に便乗する形でニクソンが最初に勝ったのが1968年。


で、とにかくフラワームーブメントとかベトナム反戦運動とかリベラルが若い人たちの間でもすごく盛り上がったにもかかわらず、大統領選ではニクソン・共和党が勝っているんですよ。それでね、そのねじれってすごいなっていうか。で、そのニクソンは72年再選を果たすんだけど、そのちょっと後にウォーターゲート事件が起きて、「自分は選挙中に汚いことをやっていた」っていうことで司法妨害をする。そして最後はインピーチメントという弾劾の手前まで行って、彼は自分から辞任をして、ヘリコプターで手を振るんですよね。


で、いまそれと似たようなウォーターゲートがロシアゲートという形で、トランプさんも弾劾手続きがもし中間選挙で上院・下院ともに民主党が取ったら弾劾手続きが始まるから……っていうか。まあ、いろいろといまと重なる部分もあるわけよ。だけどやっぱり似ているのは、若い人たちが熱い思いを持つんだけども、大人になりきれてないから、その「手続き」で老人たちは勝つんですよ。シニアデモクラシーっていうのはね。老人は75%が投票をかならずしに行く。もう習慣づいていて。(投票行為を)50年間やってるような人たちと、「いまはじめて投票するので、有権者登録がよくわからない!」とか、「身分証明書忘れた!」みたいな、そういう人たちとだったら、やっぱりおじいさんとおばあさんが勝つようにできているわけよ。


だから共和党が強いとか、まあそういういろんなシニアデモクラシーの問題もあるんだけど。要はリベラルっていうものが生まれた時に、アメリカが福音派を逆に信じる……たとえば「絶対に中絶はしちゃいけない。妊娠したら、受精卵になった瞬間からこれは人間の人格なんだから、これを堕胎するというのは殺人である」っていう強いキリスト教の信念を持った右派・共和党と、「いや、女性が自分の体の生殖の権利、リプロダクティブ・ライツを行使するのは当たり前のことで……」っていうフェミズム側っていう風にアメリカが分断されていくわけですよ。


ところが、そのアメリカで育ったひとつの新しい文化というか、その潮流が人の話を聞かないとお互いに前提が違いすぎていて、どこかで話し合いましょうという、大人の手打ちだったんですよね。それで、結局そこで自分の視点だけの正義っていうのは通用する半径があって、そこから先は通用しない。もうひとつのアメリカがあるんだということをみんな認めはじめて、だんだんと70年代とか80年代になってくると、私がハーバードで受けた80年代の教育っていうのは「とにかく自分が決して正義だと思えない相手の考え方を、その人の中から理解しなさい」っていう。


だから議論をするときも、お互いに議論して切磋琢磨するけど、後半はスイッチして自分を攻撃する側に回らなきゃいけないとか、そういうことで逆に自分の議論の正義とか正当性の弱さというものを自分で思い知るっていう。まあ、要は謙虚な気持ちになるっていうことなんですよね。正義だからっていっておごりたかぶっちゃダメっていうか。いま、Twitterで140文字で怒りを力任せにぶつけてる人に是非学んでほしい生活習慣ですけれども。そういう風に物事をいろんな視点から見ましょうというのが多様性なわけですよ。多様性の育っていった過程なんだよね。


それで、そのちょうどアメリカがベトナム反戦運動、そしてその後消費者会としては成熟していくんだけど。ファーストフードとかは70年代ですよね。ディスコの時代。で、相変わらず豊かな国ではあったんだけども、ニクソンの辞任騒動と前後する形でOPEC(石油輸出国機構)が、アメリカが中東のイスラエル支持をしたっていうことで、それで抗議した中東産油国がみんなで一斉にアメリカに対して石油の禁輸を行ったんですね。OPECがカルテルとして禁輸をやったわけ。その結果、アメリカの石油価格が高騰して、アメリカのそれまで作られていたベストセラーの車っていうのはティー・バード型みたいにすごいどデカいわけですよね。フォードとかキャデラックとか。


とにかくガソリンが無限に供給されて、とっても安い。蛇口をひねれば出てくるっていう、そういう前提で作られていたアメリカの繁栄のモデル。そしてみんな車に超依存して、ハイウェイで移動することがアメリカの経済のバックボーンになっていた。その時に石油の値段がちょっと上がっただけで、もう極端なインフレが起きるわけですよ。輸送にも石油が使われるということで。それで結局アメリカの家計は大ダメージを受けて、どんどん元気がなくなっていく。


そこにチャンスとしてつけ込んだのが……つまり、アメリカは価値観も大揺れに揺れてるし、石油依存から脱却できずにインフレとかで苦しんでいる。そこに全然多様性とかには興味なく、集団行動を取っていた日本の製造業がトヨタ、ホンダ、ダットサン、いすゞ……みたいな感じで、燃費の高さと小型車みたいなものでどんどんとつけ込んで行く。その前には鉄鋼でもやっていたんだけど、造船、鉄鋼、車ですよね。最後は白物家電にも、要はアメリカは非常に返品率が高くて大雑把に作っていたのを日本は小型化する、低価格化する、そしてクオリティーコントロールをする。


これ、全てある種日本社会の「個を超えた全体に奉仕する」っていうある種全体主義の時代。あるいは封建時代ですよね。明治の前から残っていたひとつの「自分の分をわきまえてがんばろう」っていう、その周りの空気を読む日本人独特の才能がもう大炸裂したわけですよ。だから日本の豊かさとか貿易赤字、そして貿易赤字を解消するためにレーガンが中曽根さんに働きかけて、バブルがそこから引き起こされるんだけども。それ全部、ひとつまとめて、『世界まるごとHOWマッチ』っていう番組が当然、受けてたんだけども。


日本人のいろんな技とか匠っていう文化が、本当に弱ったアメリカに食い込みまくったわけ。これが日本の、最初は下請け国家だったのが空前の成長と安定的な豊かさを産んでいくわけですよ。バブルまでは。ところがですね、そこでちょっと指摘したかったのは……こんなすごい話を自分よりもかなり先輩を人たちに向かってしゃべってるんだけど、わかってくれたかな? みたいに。でも俺はもう火がついたら止まらなくなったんで、堺市でずっと喋り続けました。


そこで何が言いたかったかっていうと、そこにスティーブ・ジョブズが生まれたんですよね。つまり、日本に効率では負ける。集団行動的な部分では負ける。だけれども逆にインディビジュアリズムですね。そこで人の視点を理解しなくてはいけないということ。そして相容れないいろんな価値観がせめぎ合って、アメリカ社会がどんどん揉まれているって、そのわっしょいわっしょいっていう状態の中で、やっぱり破壊的な創造というものがよしとされる。


だから、たとえば大型のプロセッサー型の研究所コンピューター、テープが回っていた時代から、パーソナルコンピュータというものが発案されて。それも元々ゼロックスとかの……ゼロックスPARC(パロアルト研究所)でスティーブ・ジョブズなんかが出入りをしていたんだよね。だから企業がそういう人をインキュベートしていたんだけども。若い人たちがそうやって、どんどん新しい、ちょっと外れたアイデアを持ち始めると、それがどんどんとヒット商品を産むようになり、そしてアル・ゴアの90年代の時代になると、情報スーパーハイウェイっていうのが作られて。まあ、インターネットです。


でもそれも、アメリカのARPANETっていう、軍事で核攻撃を受けてもデータが分散していればバックアップがあるから……ってすごい恐ろしいドゥームズデイ状態シナリオで作られたバックボーンがあったんだけど。そういうその軍由来の転用された技術が民営化されていきました。で、ARPANETができてインターネットが出てきた。それでインターネットが商用可される。それが94、5年頃に最初に「ネスケ」って呼ばれたNetscapeのブラウザとかが出て。それで97、8年頃っていうのはもうとにかく渋谷の宇田川町とかああいうエリア、後に「ビットバレー」と呼ばれたエリアの小さな古いビルの中にいっぱいベンチャー企業があったんですよ。


もう、いまで言うと笑っちゃうようなビジネスモデルで、みんなとにかく「ネットだ! 金だ!」って言ってマニアな状態だったのね。だけどその時にやっぱり思ったのは、金儲けの術を身につける人はいても、本当の意味で新しい、そのスティーブ・ジョブズクラスの人っていうのは日本には出てこなかった気がするんですよね。それなぜか?って言うと、日本に効率とか、いわゆる生産性で負けていた時代のアメリカっていうのは、結局実は脱皮をしつつある状態だったんじゃないかと。ただ単純に勢いがなくなったんじゃなくて、いろいろと産業構造の転換、付加価値とかいうものは何かっていうのを自ら定義していった。


それで、これを陰謀論的にね、「アメリカはWindowsとかを使って日本のトロンを潰した!」とか言う人もいるし、「日本だって通産省とか科学技術庁が新しい日本独自のOSを作ってたのに、依存させられた」っていう、ちょっと被害者意識で語る人もかつてはいたんですけども。ちょっと長期的に見るとやっぱりね、日本社会にそういうスティーブ・ジョブズが生まれてくる土壌はなかったと思うんですよね。みんなから外れる人っていうのはやっぱり迷惑行為としか思われなかった。ところがそういう迷惑行為の人たちがどんどん新しいものを産むっていう、その活性化をアメリカは結局日本に車とか産業とか鉄鋼とかを譲っていたんだけども、その代わりに得るものはその価値観や多様性と創造性だったんじゃないか、みたいな物語をそこで進めていったわけですよ。


それで結論としてはですね、じゃあいまの日本は結局、ポスト製造時代だし。いまから製造っていうのはね、中国、東南アジア、インドに行って帰ってはこないわけだから、やっぱり高付加価値のものを日本でも作っていかなきゃいけないんだけども、しかるにじゃあ日本でそういう「外れた人たち」っていうのがどういう扱いを受けてるかと言うと、まあいまだに風営法っていうので締め付けられてるし、大麻は吸えないし……ってそれは言えなかったけど。でも心の中では思っている。大麻は吸えないし、フリーセックスどころかもうセックスレスに、若い人たちが諦め、悟りみたいになってるという、ちょっとかわいそうな気がする。悲しい。もっとみんな気持ちのいいこと、エッチしようよ。まずはセルフエッチみたいな。


それでそういう快楽に目覚める、あるいは強烈な感動をする。演劇を見に行って涙を流すのでもいいです。とにかく心が揺さぶられる、感覚が揺さぶられる、向こう側に突き抜けるっていうね。「自分に、いままで大人から与えられたルールやその公序良俗以外のなにか幸せっていう可能性があるんだっていうことを、子供たちに大人の我々が見せてあげようではありませんか」ということで。そして言ったのは、富山市。新幹線富山駅の北側。つまり日本海側に新しく再開発でできたきれいな広場っていうかプラザがあるんですよ。


ところが、人口が過疎なんで、あんまり人が歩いてないわけ。で、お仕事の行き帰りの人たちがビルから入ったり出たりする時にだけワーッと歩いてくるけど、それでもまばらなんですよね。で、きれいな街路樹が等間隔で植えてある。ところが、その街路樹にぶら下げてあった看板は「スケボー禁止」って書いてあるんですよ。誰もいないのに「スケボー禁止」なんですよ。これ、「若者よ、富山県から出て行ってくれない?」っていう、そういうシグナルですよね。


あの、ちょっと違うんじゃない?っていうことで、できればそういうみんなが楽しくなるようなですね、「スケボー、やっていいよ。いや、むしろインスタを使って世界中からスケボーをやる人が集まる、スケボーの聖地にしようよ!」みたいな取り組みを、どうせお金はかからないんだから、やればいいじゃんみたいな。そういうちょっと簡単な、そこに転がっているアセットっていう話なんですよ。


で、最後の決め手で言ったのは、これは結構毎回、最近の講演会で言って受けるネタなんだけども。最近、日本の業者さんはインバウンドに対して新しい収入源ができました。それは山手線のある駅で改札まで外国人のお客さんを連れて行って、グルッと回るのに乗せて。改札通して、「じゃあグルッと1周回ってきて、60何分後に会いましょう」みたいな。あれ、1周するのに70分ぐらいだっけ? まあ、それでとにかく「グルッと回ったらここで待ってるよ」って言えば、あとはお茶するだけ。で、お茶をして迎えに行く。そうすると「ありがとう!」って言って4、5000円もらえる。だから何もしないでお金が入る新しいバイトがあるんです。


これはなにか?っていうと、実はその人たち、自撮り棒を持って、満員電車に乗り込んで「ウワーッ! 日本の究極の状態に僕はいま、います!」って言ってそれをPeriscopeとかでストリーミングすると、時差の向こうで、チリやアルゼンチン、オランダ、アメリカだったりのお友達がそこに文字でみんな「おお、お前はよくやってるな! 俺も行きたい!」って書いている。……おっ、これすげーかっこいいんだけど、この曲。これもLAXXですね。で、要は、こういう曲が流れている中で「ワーッ!」って山手線の中で自撮りしながらモッシュされていて。それが生で中継されていると、本国の人たちもみんな「おおっ!」って盛り上がるわけですよ。


で、それを手配した人は改札で待っていればお金が貰えるっていう。いいことじゃないですか。だから要は足元にこれだけね、キラーコンテンツが転がってるんだから、みんな明るい気持ちで。儲かるし、「そして若い人たち、そして外国の人たちに心を開いて、その人が何がしたいのかを知れば、もう自分の金儲けのチャンスがありますから。みなさん、とりあえずは『儲ける』っていうつもりで世の中、明るくしましょう!」みたいにしたら結構ね、みんな笑顔になってくれたんですよね。気持ちよかったよ!


LAXX『Turn The Clocks Back』


番組情報


 「Morley Robertson Show」


https://block.fm/radios/28


生配信:毎週木曜夜 21:00 - 22:30



モーリーのアンテナがキャッチする波動は、ひと味違う。あなた自身が住んでいる「不思議の国」を味わってほしい。気が付いたら、地球防衛軍に入隊していたとしても、不思議ではない。ここでは毎日が入隊記念日。いろいろな旅をする人のための時間。いっとき、モーリーの視点から世界をのぞいてみてください。




written by みやーんZZ



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