今年1月19日に一般社団法人音楽電子事業協会 (AMEI) と The MIDI Manufacturers Association (MMA)(米国 MIDI 管理団体)が、従来のMIDI規格に、新たに拡張性を持たせたプロトコルなどを含んだ次世代の「MIDI」 として「MIDI 2.0」の開発・規格化および実装作業を進めていくことを発表した。
MIDIといえば、音楽クリエーターの中ではよく知られた音そのものではなく主に「演奏情報」を含んだデータ規格で、例えば、DAWを使っての音楽制作時にソフトシンセなどを使って打ち込んでいく場合にそのデータとしてキーエディタ画面に現れるものだといえば、実際にそういった機材を使ったことがなくても、YouTubeにあるチュートリアル動画あたりを1度でも見たことがある人は、なんとなくイメージできるのではないだろうか?
そのMIDIには演奏情報として入力された音の高さや低さだけでなく、強さ、長さ、または何小節の何拍目に入力されたかなど音に関する情報が色々詰まっており、もっとざっくりいえば、五線上にある音符をデータ化したものと言い換えることもできる。
またこのMIDI規格は80年代に異なる電子楽器の共通規格として作られたものであるため、例えばAというメーカーの機材を使い打ち込んで作ったMIDIデータをBというメーカーの機材にロードして音を鳴らすこともできる。
MIDI規格は、ハードウエア機材だけでなく、現在の音楽制作ソフトウエアにも導入されているため、DAWの場合ならAbleton Liveで打ち込んだMIDIデータをLogic Proに移しても再現することができるなど、現代のミュージシャンの音楽制作の現場における必要不可欠なものだといえる。
そんなMIDIが1981年に誕生して以来、実に38年ぶりのアップデートが行われることになり、「MIDI 2.0」として新たに生まれ変わることになったわけだが、その新規格とはいったどのようなものなのだろうか?
AMEIの発表によると、MIDI 2.0とは、最初にMIDI機器間でネゴシエーションを行い、既存のMIDI 1.0対応機器との運用性を維持した上で、現在のMIDI 1.0からチャンネル・メッセージの分解能拡張、ノート・コントロール、タイムスタンプなど、演奏の表現力やデータ再現性を大きく向上させる規格だという。またヤマハ、ローランド、Native Instruments、Ableton / Cycling '74、ROLI、Steinbergなど有名機材メーカーの参加も発表されている。
しかし、その文章からわかるのは、なんとなく従来のMIDIの機能を踏襲した上で、それをさらに向上させるものといったことくらいだ。そのため正直、あまりMIDI 2.0は、MIDIと比べてどこがすごいのかその説明だけではわからなかったため、色々とMIDI2.0について調べてみたところ、音楽機材の専門家として知られる藤本健氏が運営するサイト「藤本健の“DTMステーション”」にて非常に興味深い考察が行われていることを発見した。
DTMステーションに「ついにMIDI 2.0が発表に。従来のMIDI 1.0との互換性を保ちつつ、分解能拡張やノート・コントロールなどを実現させる」をUPしました。先ほど日米のMIDI規格団体が発表したMIDI 2.0。詳細はまだこれからのようですが、その概要を少しレポートしてみました。https://t.co/LJ0OsJKVkd
— 藤本健 (@kenfujimoto) 2019年1月19日
まずMIDI 2.0についてだが、藤本氏によると、現段階ではのMIDI2.0の規格内容や、MIDI規格2.0規格書はまだ何もないのが実情で、今後、先述のAMEIやMMAメンバーが協議を行い中身を決めていくというのが今回の発表とのこと。また極端にいえば、”MIDI2.0という名前を発表したにすぎない”らしい。 しかし、興味深いのは、MIDI2.0が従来のMIDIより向上する部分だと発表されている”チャンネル・メッセージの分解能拡張、ノート・コントロール、タイムスタンプなど演奏の表現力やデータ再現性を大きく向上させる規格”という点に対する考察だ。
その考察で藤本氏は、まず”チャンネル・メッセージの分解能拡張”とは、ベロシティ、アタックタイム、リリースタイムなどの音の性質に関する部分の分解能を上げて、より細かくコントロールしていくものだと予想。次に”ノート・コントロール”については、MIDI2.0では、これまでと違い、コントロールチェンジ信号をチャンネル単位でなく、1音すつ変えていくことができるものだと指摘。それがDAWの使い方の変化や表現の幅が大きく広がることにつながると予想している。
最後に”タイムスタンプ”については、現在、垂れ流しになっているMIDI情報をよりしっかり時間管理していくということでは? と予想。Wi-FiやLANなどを使ってMIDI信号を送ったとしたら、場合によってはデータが届く順番が入れ替わる可能性があるが、タイムスタンプを使って管理することでそういった問題を避けられるようになる可能性があるという。
このように専門家ですら、まだその全貌を掴みきれていないMIDI 2.0だが、先述のような考察内容がもし、本当に実現した場合、この新規格は今後のミュージシャンの音楽制作の現場に大きな影響を与えることになりそうだ。今後もMIDI 2.0に関する新情報に注目していきたい。
written by Jun Fukunaga
source:
http://amei.or.jp/committee/MIDI2.0.pdf
https://www.dtmstation.com/archives/23425.html
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