“Mortal Portal”を通って異次元の“KYO”へ。
m-floの9thアルバム『KYO』がついにリリースされた。前作『FUTURE IS WOW』から5年。オリジナルメンバーの3人で作り上げたアルバムと考えると、なんと18年ぶりの作品である。首を長くして待っていたファンも多いことだろう。
今回block.fmではm-floの“今”を探るべく、アルバム『KYO』から連想する「9の質問」を用意。質問が書かれたカードを裏返しに並べ、メンバーにカードをランダムに引いてもらいながら質問に答えてもらった。3人のトークから、m-floがアルバム『KYO』に込めた想いを感じ取って欲しい。
LISA(以下、L):良い質問ね。これはまず☆Takuに聞いてみたい。
☆Taku(以下、T):面倒くさいことはある。好きじゃないとき、あと楽しくないときもある。LISAは?
L:あるある!他の人の音楽が良すぎたときに悔しくなってそう思っちゃうことがあるかな。職業柄、素直に聴けないというか。どんなことを考えて作ったらこんなメロディーが降りてくるんだろう、どうやって生きてたらこんな歌詞が書けるんだろうって思うと、嫌だー!ってなる。でも、好きだからこそ嫌いになるんだよね。
T:うん。今はすごく好き。楽しいっていうより好き。
L:コンチクショーって思いながら聴いてるときって、嫌になるときもあるけどハイになるときもない?
T:ある。嫌いは悪いことではないよね。
L:そうなのよ。VERBALは?
VERBAL(以下、V):好き嫌いというより不感症だなって感じる時がある。アレンジがすごいとか歌が上手いとかではなく、ただただすっと飛び込んでくる歌ってあるじゃん。そういう曲を聴いた時に「うわー、自分は難しく考えすぎてた」って気づく。いろんな音楽聴いてると「こういう感じ今流行ってるよね」ってちょっと上から目線で音楽聴いちゃうことがあって。職業病なのかな。そういう時、シンプルなのに圧倒されるような曲を聴くと、普段の自分は不感症なんだなって感じる。それ良くないよね。若いときって何の先入観もないから何を聴いてもすごく刺激的。だから、ピュアになって聴いたほうが音楽を楽しめるのかなって思う。
L:そうね。でもそういう悔しさもパワーになる。☆Takuからダメ出しされても「もっといいものを作って喜ばせなきゃ!」って思えるし。VERBALと私はそういうところ“M”じゃない?Takuは“オニS”。
T:そんなことないよ〜。
L:でもそれが結果良かったりするのよ。
V:僕は人生最後の日。自分に「やりきった?」って聞きたい。人生に悔いがないかどうか。ただ、それを知ってから今に戻るのはちょっと嫌だけど。
L:その答え、深いしロマンチックだね。日々そういうこと考えてる?この質問でそんな深い答え、私は出てこないな。
V:いや僕、2016年事故にあったじゃない。事故の記憶すらないくらい大事故だったから。肋骨8本折って、それでも生きてる、回復するって人間の体はすごいなぁと思って。それで、ベタな考えかもしれないけど毎日が最後の一日かのように突っ走っていこうと。だからいつもLISAに「疲れてる」って言われちゃうんだけど、何でもやりきりたいんだよね。
L:そうよ、心配してるよ。☆Takuは?
T:5年後の兜町を見に行きたい。株価がいくらになって、金がいくらになってるとか見たい。
V:それで一回戻ってくれば…。なるほどね!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のビフみたいな。
T:うーん。でもやっぱりEXPO’70に行きたいかな。1970年の大阪万博。生で見てみたい。
V:確かにそれは行きたいね!
T:今の自分が見ても、そこには未来がある。
V:ぶっ飛んでるもんね。日本も高度経済成長期だったから、国を挙げて盛り上げていこうっていうのがあったし。今の若い人たちは想像できないかもしれないけど。あと、昭和ってけっこう無法地帯だったよね。テレビも何でもありだし勢いがあって。EXPO’70もそうだけど、その当時の人たちにも圧倒されると思う。
L:勢いもあるし“粋”よね。
V:現代の人たちはインターネットがあるからスマート、無駄がない。一方昔の人たちは無駄だらけなんだけど、そこに発見があった。例えばレコード買って外れもあるけど予想だにしない出会いもあって、そういう無駄からクリエイティヴが生まれてた。どっちの方がいいっていう話ではないけど、今は無駄がない分ハッピーアクシデントが少ない感じがする。万博の時はハッピーアクシデントがいっぱいあったと思うんだよね。
T:運営も今見たらとんでもない運営だったかもしれないしね。LISAはどう?
L:今、最初のVERBALが言ったことにちょっと感動してて。素敵な考えだしすごく共感したから。それで考えたんだけど、私がタイムトラベルしてみたいのは、私がm-floを辞めるって言ったとき2人がどんな話をしてたか見てみたい。ファンも知りたいかもしれないし、実は私も知らないことなので。どんな風に思った?
T:VERBALと話したのは電話だった。電話で「LISAが辞めるって言ってるんだけど」って言ったら、VERBALは「今すごくいい感じだから、LISAを説得して残ってもらおうよ」って。VERBALは最初から止めるつもりだった。
L:それをすぐ言ってくれたの?初めて聞いた。でも私が☆Takuにぽろっと「辞めようかな」って言ったとき、☆Takuはあっさり「OK」みたいな感じじゃなかった?
T:そもそもm-floが始まる前からLISAは「私は自分のソロも大切にしたいと思ってる」って言ってたじゃん。だからあの時もその言葉を受け止めた。LISAも決めたら動かないし、それならやってみたら?って思ったんだよね。
L:そうなのね。
T:まぁ、あのときはお互い上手くコミニケーションできないこともいっぱいあったじゃん。若かったし、すごいスケジュールだったし。
V:記憶が曖昧なところもあるんだけど、当時、僕は大学院に行きながら2枚のアルバムを出して、m-floも学生も両方続けようと思ってやってたんだよね。だからLISAを止めようとした理由は、グループにいたままでもソロはできるし、辞める必要ないんじゃない?ってことだった。昔から理想と効率で考えちゃうから。だから当時、忙しかったっていうより無駄が多いと思ってたの。でもそれを周りに伝えたりはしてなくて。今になって思うのは、自分が気になることはどんどん伝え合って現場を良くしていかなきゃってこと。だから今、m-floの3人でやるときに全部をガラス張りにしたいっていうのはそういうことなの。そのほうがフラットな気持ちで仕事ができるし、チームで動けるから。でもLISAは「0か100か」みたいなところがあるから、あのときはそういう決断をしたんでしょ。
L:そうね。あのときは確かに忙しすぎて、上手くコミュニケーションができてなかった。m-floは20周年って言われてるけど、私が抜けていた10数年間もずっと2人は頑張ってたんだし、今またこの3人でやれてることにはすごく感謝してるの。だから私は2人のためだったら何でもしようと思ってるのよ。
T:LISAはいつも全力を尽くしてると思うよ。
V:うん。いつもありがとう!ちゃんとわかってるから。
L:うふふ。なんだかやりきっちゃった気分…。もう終わりかしら?
V:まだ2問目!(笑)
V:「KYO」って同音異義語がめちゃくちゃあるんだよね。
T:俺はこれ。「恐」。いつもビビってるから(笑)。
ーこの「馨(キョウ)」は香りが遠くまで届くという意味らしいです。
L:素敵。この漢字良いわね。「KYO」って言葉はホント素敵よね。最初めちゃディスったけど(笑)。
V:僕はやっぱ「響」かな。まさに今も3人でいい話ができて、響いてる。
T:なんで自分はいつもこんなにビビってるのかな。
V:意外。そういう感じしないけど。だって☆Taku、いつも楽しそうじゃん。
T:うん、楽しいよ(笑)。
L:☆Takuは楽しさと不安と両方を持ってるのよね。わかる。
T:LISAじゃないかな。AIにないもの、それはLISAだよ。
L:やっぱり“フィール”、何かを感じることなんじゃないの。でも今はAIでもフィールできちゃうんでしょ?ソウル持ってるのかしら。
V:“ソウル風”になれるんじゃない?『her』っていう映画があるでしょ。AIに恋をしちゃう男性の話。AIがその人の癖とか好き嫌いとかの知識を重ねていくと、パートナーみたいになっちゃうんだよね。お互いにどんどん感情移入して「彼女はソウルメイトだ!」って思っちゃうんだけど、AIは覚えてるだけだから“タマシイ風”。
L:確かにそうね。
ーモーツァルトが現代にいたらどういう音楽を作るかっていうプロジェクトで、モーツァルトの新曲をAIが作曲したりしてるんですよね。だから100年後とかにm-floの新曲ができちゃうかもしれない。
T:間違った判断の部分まで再現されるようになるなら、いつかできちゃうかも(笑)。m-floの音楽って間違いなんだよね。YouTubeのNaokiman Showで見たんだけど、悪い言葉とかばっかり教えたAIはどんどん悪い発言をするようになるんだって。悪いAIが作れるんだったら間違えるAIも作れるでしょ。今のAIは間違えることができないからm-floの音楽は作れないけど、100年後、間違えることができるAIがあればできちゃうかもしれない。
V:なるほど、深いねー。AIじゃなくても、髪の毛1本あればその人のクローンが作れちゃう時代だもんね。
L:やっぱり私たちのアルバムが完成したこと。すごく時間がかかった。さっきの話じゃないけど、一度抜けて戻ってきて、音楽を作ってアルバムになったって考えるととても長い時間よね。だからアルバムを出せるってことが私にとってはとても感動的なの。
V:「STRSTRK」の曲で歌ってる“衝撃”っていう意味だよね。この言葉、もともとは「有名人に会って感激する」っていう意味もあるんだけど、そっちの意味では何かあった?
T:『ゲーム・オブ・スローンズ』の脚本家、ベニオフ&ワイスに会えたこと。クリエイターとしてクリエイターの苦悩がたくさん聞けたこと。いろんな人たちに期待されて、死ぬほど頑張って作って、それで満足する人もいれば満足しない人もいるし、それと向き合うっていう覚悟の話を聞けたのがよかった。最近彼らがスター・ウォーズの制作から離れたっていうニュースを聞いて、彼らなりの信念があるんだなって改めて感じた。
V:僕は「会えたらStarstruckする」っていうのを改めて感じた人がいて。昔からホアキン・フェニックスが好きなんだけど、『ジョーカー』を見てやっぱりすごいなって思ったんだよね。インサイドストーリーも見たんだけど、映画自体も昔の名作映画からインスピレーション受けて作ったらしくて。彼はそういうところも加味して演技してるのが本当にすごい。研究熱心だし職人なんだよね。
L:会ったことあるの?
V:まだない。画面を通して「この人に会いたい!」って思ったのがけっこう久しぶりだった。自分の世界に入ってるからインタビューも得意じゃないって聞いたときに、ちょっと憧れるなって。イルな人が好きなんだよね。会えたら嬉しいな。
L:きっとそう言ってれば会えると思う。
T:LISAもスターにたくさん会ったよね。
L:そうね、たしかにみんなオーラがすごかった。ただ、最近よく言う「フォロワー何百万人いるからすごい」みたいなの、私にはあんまり響かないのよね。近くにいる人のほうがよっぽど好きだし会えると嬉しい。
V:僕たちの“Starstruckポイント”、一般の人たちとちょっとずれてるかもね。
T:あんまりミーハーにはならないよね。
L:マイケル・ジャクソンとかマドンナは私にとっての絶対的なスターだから、もし会えたらすごく興奮する。でも「会えるから会う?」って言われたら会いたくない派なんだよね。
T:わかる。
L:がっかりしたくないんだよね。私がイメージしてたものと何かひとつでも違うってなったらダメになっちゃう。一番会いたい人は一番会いたくない人。会わないままでいいの。
T:まだ教えられないかな。ひとつ言えるのは、とても3次元的、いや4次元的なことが起こっていき、m-floという形が違う次元のものに変わっていく。今までの音楽グループの固定概念はすべて崩されていって、時間や立体的な概念すらも違ったことがこれから起こるでしょう。『KYO』がその始まり。今までの形にとらわれない新しいことをやっていくのが3.0のテーマ。
L:私は大好きなグアムに『KYO』のアルバムを持っていって、Beatsさんにいただいた最高級のヘッドフォンで、私たちの音楽を爆音で聴きたい。CDを早く開けたいんだけど、開けるのはそれまで楽しみにとっておく。お酒を飲んで、酔っ払って、最高な気分で聴きたい。シンプルかもしれないけど、それが私にとってファンタスティックな一日かな。
V:いつも仕事に追われてるから、「今日は人類の携帯が全部壊れちゃいました」みたいなことが起こらないかな。電波はないけど電気はあるから音楽は流せますってことで、無人島に友達や『KYO』を作ったスタッフを集めて、気兼ねなくワイワイできるみんなと一日お酒を飲んで楽しみたい。そういうのめっちゃリセットできると思うんだよね。電波がない場所にいくと結構リフレッシュできるし。
L:じゃあVERBALのPCと携帯を私が一日盗んであげる(笑)。
T:僕はモルディヴで海外ドラマずっと見てたい。波の音聴きながら海外ドラマを見る。
L:それもいいわね〜。
T:海外ドラマ、SF、音楽。うん、音楽だな。新しくても古くても、感動させられる音楽。
L:私はなんでもかんでもすぐインスパイアされるからなぁ。何にでもフィールしていろんなものを得るから、「源」ってひとつ決めるのは難しい。音楽を作るときって、物質的なものを作ってるのとちょっと違うんだよね。どこからか“来る”って感じで、それがどこから来るのかもわからない。でも、どこから来るのかは知らなくてもいいかな。あとは☆TakuとVERBALからもインスピレーションをもらってる。作ってる音楽に対していろんなことをやり取りするのも好きだし、2人は「こういう音楽を作ろう」って私に思わせてくれる。2人もそう感じてくれてれば嬉しいな。
V:それで言うと僕のインスピレーションは「人」だね。LISAが今言ったようにメンバー同士ももちろんそうだし、会ったことない人でもインスピレーションは受ける。例えば、パフ・ダディが「僕たちはお金を稼いだら良い服を着たいけど、ベルサーチは僕たちには入らない。だから僕たちのための服を作ろう」って考えて洋服のブランドを始めたっていう話を聞いて、「音楽やる人が洋服作っていいんだ。ヒップホップすごい!」って思ったんだよね。今では当たり前かもしれないけど、当時はアーティストでも起業家みたいな考え方がアリなんだって思わせてくれた。
僕、毎朝ポッドキャストを聞いてるんだけど、今日はエドワード・ノートンっていう俳優の話を聞いて。エドワード・ノートンって映画が終わったあと1,2年ふっといなくなったりするんだけど、パイロットの免許を取るために1年仕事を休んだりしてるんだって。自分への投資とかビジネスのためっていうより、チャリティでもっといろんなことがしたいから免許を取ったって言ってた。そういう生き方でも成功できる人っているんだって気付かされる。人のストーリーには成功談も失敗談もあって、人生色々なんだなって思うし。60歳になってもまだイケイケな人の話とか聞くと僕もまだ行けるなって勇気もらったりする。
T:これいいね(笑)。VERBALは聞こえないです?
V:聞こえないっていうより、大人になったのかもしれない。そういう意見も一理あるよねって思う。確かに気持ちよくはないんだけど、前はそれを感情的に受け止めてた。僕、ヘイトって愛と紙一重だと思うんだよね。もしその人と飲みの席とかで面と向かって話したら、仲良くなれるかもしれないって思うようになってきて。実際にそういうことがあったんだよ。僕のことめちゃくちゃディスってた人と飲みの席で会って話したら「そんな考えだったんですね、VERBALさん。今度一緒に何かしましょうよ」ってことが何回もあったの。結局人間って話せばわかる。だからワールドピースってそこから始まるのかなと思ったんで。「まぁ人生いろいろあると思うよ、ヘイターの人も」って思えるようになってきたかな。
L:なるほどね。私は一切合切聞かない、というか聞けない。ネットとかほとんどやらないから。私にもキャパがあるし、傷ついたらイヤだしね。たまーにインスタのコメントでいじわるなこと書かれると、VERBALに見せて相談してるの(笑)。でもなるべく追わない。なにをやっても言われるしね。☆Takuは?
T:丁重に「気分を害してしまって申し訳ありません」って。
L:そうだ、この人は返すんだ(笑)!それも素敵よね。すごいよなぁ、強い。
T:「気分を害するつもりは全くなかったので。申し訳ありません」って謝る。特に傷つくことはないよ(笑)。
m-flo『KYO』
【Amazon】
https://www.amazon.co.jp/KYO-CD2%E6%9E%9A%E7%B5%84-DVD-m-flo/dp/B07XYSF81L
【TOWER RECORDS】
https://tower.jp/item/4962771/KYO-%5B2CD%EF%BC%8BDVD%5D
【HMV】
https://www.hmv.co.jp/artist_m-flo_000000000125734/item_KYO-2CD-DVD_10232735
【配信リンク】
https://avex.lnk.to/20191106_kyo
▼アルバムの詳細はこちら
https://m-flo.com/pages/kyo?ls=ja
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Written by Moemi