去年は有名人の死のニュースが非常に目立った年だと感じている。実際、アーティストでもあった私の友人も亡くなってしまった。その方もメンタルの病気を抱えていた。アーティストとメンタルヘルスは切っても切れないものだと思う。まず、この職業を選んでいる多くの人は、感受性が高い。素晴らしい作品を生み出すための大きな要素でもあるのだが同時に、直感的にいろいろなことに気づいてしまったり、気にしなくて良いことまで気にしてしまうことがある。
そんなアーティストたちのために僕らができることがないか?と考えながら、ウェブを調べていくと、あることに気づいた。それは、アートとメンタルヘルスについての記事がすごく少ないということだ。そこで今回は『気弱な精神科医のアメリカ奮闘記』や『恥と「自己愛トラウマ」―あいまいな加害者が生む病理』など数々の本を執筆されている精神科医の岡野憲一郎氏に、アーティストがどのようにメンタルヘルスと付き合っていけばいいか、ヒントとなるお話を聞いた。
精神科医:岡野憲一郎氏
1982年 東京大学医学部卒業,医学博士
1982~85年 東京大学精神科病棟および外来部門にて研修
1986年 パリ,ネッケル病院にフランス政府給費留学生として研修
1987年 渡米,1989~93年 オクラホマ大学精神科レジデント,メニンガー・クリニック精神科レジデント
1994年 ショウニー郡精神衛生センター医長(トピーカ),カンザスシティー精神分析協会員
2004年 4月に帰国,現職 国際医療福祉大学教授
2014年 4月より 京都大学教育学研究科教授
☆Taku Takahashi(以下、☆Taku):2020年は有名人が自ら命を立ってしまったというニュースが特に目立ちましたが、実際に僕の周りのアーティストでも自殺によって亡くなってしまった方がいます。最初に、自殺とうつ病にはどのくらい関係があると言われているか聞かせてください。
岡野憲一郎(以下、岡野):それは、うつ病をどう理解するかによって全然違ってくるんですよ。まずひとつは自殺の大部分がうつ症状によって引き起こされたという考え方がある。次に、うつ症状があるかどうかに関わらず、実存的な悩みから人は死を選ぶことがあるという考え方もある。そう考えれば、実はうつ症状による自殺は少ないのではないかとも考えられる。
あともう一つは、苦しみから逃れるという意味で死を選ぶ人たちもいる。それは実存的な悩みやうつによる症状とは別なものと考えるべきでは、という考え方もあります。
☆Taku:例えば安楽死を求める人や、痛い思いをしたくないという人もそこに分類される?
岡野:そうですね。そして、これらは複雑に入り組んでいます。
☆Taku:今挙げた3つの要因が混ざっているということですか?
岡野:はい。また、見る角度によって様々な要因が見えることもあり、自殺の主な原因はなにか、ということを明確には言えないんです。
さらにややこしくさせるかもしれませんが、もう一つ加えると、人の行動は基本的に予想不可能なんです。例えば地震や今のCovid-19の蔓延など、自然現象を予測することは難しいでしょう?それと同様に、人間の脳は非常に複雑な臓器であり様々な誤作動が起きるということが十分にあり得るんです。
だから、ある日ふとしたことから薬を大量に飲んでしまうだとか、死に至る行動を自ら取ってしまう。
☆Taku:それは、アーティストでもよくある話だと思います。
岡野:でも未遂で命が助かる人もたくさんいるんです。ほとんどの人が治療によって命を取りとめて元の生活に戻っていくんですが、一部の人は死に至ってしまう。ニュースでは既遂の自殺が大きく取り上げられますが、実のところ、周りの人も気づかないくらいの自殺未遂を行っている人が多くいるんです。
☆Taku:僕の友人もそのケースでした。今までに何度も自殺未遂を行っていて、今年残念ながら亡くなってしまった。
岡野:そうでしたか。なにが言いたいかというと、自殺行為から既遂に至るまで、かなりのバリエーションや偶発性があるということ。例えば、付き合っていた人に振られて、急に気分が落ち込んで過量服薬。周りの人も何が起こっているかわからないくらいあっという間に、夜中の1回の電話から次の朝亡くなって発見されるということが起こってしまう。先程挙げた、うつ症状や実存的な悩み、苦しみから逃れたいという意図に偶発性が加わると、さらに純粋な原因がわからなくなってしまうんです。
☆Taku:なるほど。自殺の原因を突き止めるということは非常に難しいということですね。自殺に至ってしまう苦しみは強大なものだと理解しつつも、人間の脳には危機を察知して死から逃れるために機能する「扁桃体」という部分がありますよね。自分を殺すという判断をしてしまうのは、脳の本来の機能とは正反対のことが起こっているんじゃないかと思うのですが。
岡野:扁桃体が興奮しているときは、死ぬという選択よりは、自分に向かう危険に対して戦うか逃げるかを無意識的に選択することになります。
☆Taku:それは生き延びるためにあるんですよね。
岡野:そう。だから扁桃体は下等生物でも似たようなものを持っています。でも、下等生物は自殺をしません。なぜ人間だけが自殺をするのかというと、人は未来と過去の区別がつくから。例えば、犬に首輪を見せると「散歩に行ける」ということはわかってしっぽを振りますが、今から散歩に行くという近未来までしかわからないんです。一方人間は「自分はいずれ死ぬんだ」ということも含めて、“将来”ということを物心つく頃には理解します。
☆Taku:最終的に自分は死ぬと知っている動物は人間だけかもしれませんよね。
岡野:そうです。そして、死ぬことに対する恐ろしさから人間は様々な行動を起こす。それは、不安などの症状からアーティスティックな活動も含めてだと思います。死を回避する手段そのものがすごく苦しくなってしまったときには、「苦しみを終わらせるための方法は命を終わらせることだ」と考えてしまう。人間が未来の自分を考えることと、場合によって死を選んでしまうということは同じようなところに行き着いてしまうんです。
☆Taku:僕はうつ病とパニック障害を持っています。僕の周りのアーティストでも同様に、うつ症状やパニック障害、境界性パーソナリティ障害などを抱えている人が何人かいます。
アートという形で表現できることは素晴らしいし、華やかな職業に見られることも多いのですが、アーティストにもうつ症状で苦しんでいる人がたくさんいるんです。
岡野:アーティストを「音楽系」と「美術系」に分けて考えるとします。二宮敦人さんの『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』という本には、東京藝大はキャンパスが音楽系と美術系の2つに分かれていて、音楽系の学生はきちんとした身なりをしている一方、美術系の学生は破茶滅茶な格好をしている人が多い、とあるんですね。
どうしてかと言うと、美術系は自分を外に出すというよりは、作品を身代わりとして外に出すことが多いから、どんな格好をしていても絵が描ければいい。一方で歌手や演奏家といった音楽系は自分を含めて外に出さなければいけない。
よって美術系と音楽系ではストレスの体現の仕方も違ってきます。美術系の場合もメンタルの状態が如実に現れます。精神的に躁状態のときはすごくたくさん絵が描けるけれど、うつ状態のときは何も描けなくなったりする。
音楽系の人たちは身体が資本な部分もあるので、精神的に健康であっても、指が動かない、声が出ない、楽器が故障するといったことが本人たちのストレスになって、悩みを引き起こす。
そう考えると音楽系アーティストの活動は、ある意味では自分の支えになっているけれども、本人の重荷にもなり得る。例えば、歌を歌うことが好きで歌手になったけれども、年に100回公演があるとなると、歌うこと自体がストレスになり、それがうつ病を引き起こす。
先程自殺に関して様々な要因が複雑に絡み合っていると言いましたが、ストレスが高ければ高いほど、その人が自殺をする率は上がっていきます。自殺はある種のストレスによって引き起こされる、と考えるとわかりやすいかもしれません。
そのストレスにはうつ症状の苦しみや痛みもありますが、典型的なものとしては仕事時間の長さもあります。
☆Taku:たしかに僕もデビューアルバム制作の最終局面では、48時間寝ずに働いて8時間寝て、そのあとに24時間起きてたということもあります。
☆Taku:うつ症状に悩んでいる友人には「先生に診てもらったら」とよく勧めるんです。でもみんな、どこに行けばいいか、何をしたらいいかわからないんですよね。薬を処方してもらうべきなのか、カウンセリングを受けるべきなのか。日本はそういった情報があまりにも少ないと感じています。僕は以前アメリカに住んでいましたが、メンタルヘルスについて語ることは普通だったし、メンタルケア制度を用意している会社もかなりありました。
岡野:アメリカだと「僕は◯◯先生に診てもらってるよ。●●という薬を飲んでるよ。」という会話が普通ですからね。すごくオープン。一方で日本はかなり閉鎖的です。
☆Taku:アーティストでも、自分がうつだということを人に知られたくない人もいるし、事務所が公にしないほうがいいと判断する場合もある。カミングアウトするかどうかはそれぞれの考え方が尊重されるべきで、無理やり公表する必要はないと思うんです。ただ、“言いにくい社会”については問題があるんじゃないかと僕は思っていて。
岡野:今、10人に1人はうつだと言われているんですね。
☆Taku:えっ!そんなに多いんですか?
岡野:女性で10%超、男性だと10%未満。女性はホルモンバランスの変動によってうつを引き起こしやすいので、男性より少し高くなっています。10人に1人と考えると、いかに多くの人が精神科にかかっていないかわかりますね。精神科にかからないまま、気合で乗り切ろうという人が圧倒的に多い。精神科にかかれば、薬の処方はもちろんですが、会社に提出する診断書を出すことができる。そうすれば仕事を休むことができて、ストレスを一時的に回避することができます。
☆Taku:そうすれば最悪の事態は回避できるかもしれない。
岡野:そうですね、自殺する方は減ると思います。ただし問題なのは、精神科にかかることが日本人にとってとても敷居が高いということ。
☆Taku:周りにいるうつ症状を持っている人も「病院に行ったら負け」みたいな考えを持っています。
岡野:基本的に、精神科にかかることによって悪くなることはないはずです。ただ、一部の患者さんで「薬は飲まない」と言う方もいますが、通院はなさっています。
☆Taku:それはなぜなんですか?
岡野:薬を飲むことで「自分は精神科の患者になった」と受け入れることになるからです。「この薬を飲み始めたら依存的になりませんか?」「良くなったとしても薬をやめたらまた悪くなるんじゃないですか?」と訊かれることもよくあります。もちろん薬の副作用に苦しむ方もいらっしゃいますが。
☆Taku:実際のところはどうなんですか?
岡野:実際は、薬を飲んで良くなったからといってすぐにやめたら、また悪化することもあります。でもそのうち脳自体が良い状態に戻っていくと、薬を飲まなくても大丈夫になるんです。そうしたらやめればいい。うつが再発する可能性は1/2。半分の人はまた精神科に来ることになるけれど、残りの半分の人は一生精神科にかからずに過ごせるんです。
☆Taku:全ての人が「診察に来なくなる=治った」ではないと思うんですね。“治った”という判断はどのようにしているのですか?
岡野:また仕事に行けるようになることですかね。私の実際の患者さんでも、仕事に復帰できてから診察に来なくなった人がいます。でも再発しないかどうかはまだわからない。再発の可能性を考えると、少量でも抗うつ剤を飲んでいたほうが予防できるんです。でも、良くなった人は「うつは一時的なもので自分にはもう関係ない」と思いたいし、その気持ちもよくわかるんですよね。それに、1/2の確率で今後一生薬を飲まなくてもいいかもしれない。だから、薬を飲まなくなっていく人が圧倒的に多いですね。
☆Taku:なるほど。そういうお話を聞くとやはり、精神科にかかって悪くなることはないですよね。でも、精神科にかかることが依然としてネガティブに捉えられてしまう理由はどこにあると思いますか?
岡野:一般論で言うと日本には「心の病はない」と考える人たちがたくさんいるんです。むしろ一種の「甘えだ」と。社会の体制は甘え論者で占められていて、それは病気の否認でもあります。
例えば高校生の子供が「憂鬱だから学校を休みたい」と言っても、親は「何をそんな弱気なことを言ってるの、甘えじゃないの」と言う。学校の先生も「気合を入れろ」と言う。親自身も自分の子供がうつだと思いたくないんですよね。そして子供自身も、親にも先生にも「甘えだ」と言われたことで自分の病気を否認する。会社で働く年になれば上司に「最近の若者は本当に打たれ弱い、根性を叩き直さなきゃいけない」と言われて厳しくあたられてしまう。それで会社に行けなくなる、ということが起きるんです。
精神論や根性論が日本で特に多いのは、日本人は真面目で勤勉だからなんです。だから自分自身でさえも「自分がうつ?そんなことあるわけない、一時の気の緩みだろう」と考えてしまう。
以前、その当時の自民党総務会長をしていた大物政治家が「国会議員の中に、うつになるような心の弱い人はいません」という内容の発言をして問題になったことがあります。
☆Taku:それは、大きな差別に聞こえますね。
岡野:そう、これは差別なんです。でもいまだにそんな風潮がある。「精神的な疾患=心が弱い」という考え方があって、「心が弱い=劣っている」と思われてしまう。
☆Taku:僕が初めてパニック障害とうつ症状に気づいたのは30代前半でした。すごく張り詰めた状況でレコーディングした後に、息ができなくなっちゃったんですね。それでお医者さんに行ったら、カウンセリングもそこそこに「薬を出しますね。はい、おわりです」という感じで。嫌な感じの先生ではなかったんですけど、その対応には疑問が残りました。
岡野:精神科医の僕が言うのもなんですが、それは困りますね。普通は初診の方なら1時間は取るべきなんです。患者さんの話を聞いた上で「あなたの状態はこういう理解ができる。そのためにこういうお薬があって…」と説明するようにしています。でも、初診が15分という精神科医も多いのですが、忙しいとはいえ、それはよろしくありません。
☆Taku:患者の立場から、きちんと話を聞いて薬を処方してくれるお医者さんはどうやって見つけたらいいんでしょうか?
岡野:正直、答えはないです。自分でネットを検索して、自分の足を使って、知り合いに紹介してもらって、自分で探すしかないのが現状だと思います。それに相性の問題もありますし。
☆Taku:先生たちがどうにかできることではないんですね。では、精神科にかかった後、どういうプロセスで治っていくのでしょうか?
岡野:患者さんによって全然違うので一般的にとは言えませんが、まずは精神科を受診して話を聞いてもらい、少しずつ薬を処方してもらう。副作用次第で薬を変えながら、徐々にいくつかの薬に落ち着いて症状がおさまっていく。それとゆっくり睡眠をとるための睡眠剤も出します。話を聞いてくれる人が同居人としていた場合は、その人に話を聞いてもらいながら、徐々によくなっていく。とはいえ人によって回復していくペースはさまざまですし、抗うつ剤が効かない場合もたくさんありますが。そして最終的には職場に復帰する、というのが一つの典型ですね。慢性化しない場合のうつはこのようなケースが多いです。
☆Taku:睡眠剤の話がありましたが、睡眠はやはり大切ですか?例えば睡眠時間が少ないほど風邪を引きやすくなるのと同じように、心の病気にも繋がりやすいのでしょうか。
岡野:先程、ストレスが自殺を引き起こすという話をしましたが、そのストレスの中に睡眠障害も含まれています。睡眠によって脳の細胞から老廃物を外へ出すという作用も知られてきていますね。そういう意味で、睡眠を十分に取るのはすごく重要なこと。
適度な運動、十分な睡眠、ストレスをなるべく下げる、この3つだけでもかなり違いますよ。入院して薬を処方され、2、3日ぐっすり寝たらすごく良くなった、なんてケースもあるくらいです。その人に必要なものが睡眠と休息だったのであれば、短期間でかなり良くなることもある。
休息という部分で言うと、入院することで様々なしがらみから解放される。場合によっては入院中はスマホも触れない病院もあるので、仕事関係の連絡が一切なくなって、そのおかげで良くなっていくということもあります。
☆Taku:休むということはすごく大切なことなんですね。
岡野:そうです。自然治癒力はみんなが持っていますから。
☆Taku:とはいえ、我々アーティストは睡眠の少ない人が本当に多い。大勢の人の前で演奏したり、自分の作る音楽で感動してもらえるのは素晴らしいギフトだと思います。ただ、報われないのは、睡眠を削ったりメンタル的に切羽詰まっているときのほうが、人に感動してもらえるいい作品ができてしまう、という環境の中で生きているアーティストも多いんですよね。
健康な状態で作れる作家さんもいると思うんですけど、多くはひどい失恋をしたとか、すごく忙しいとか、睡眠もほとんど取ってないようなときに名作が生まれることがなぜか多いんです。そういった意味では救われない職業だなと思うんですけど。アーティストがライフスタイルをまるごと変えることができない中で、どういったことに気をつければいいんでしょうか?
岡野:私の患者さんで、深刻なうつになりかけたミュージシャンの方がいます。その人の場合は「いつまでに曲を作らなきゃいけない」というストレスがあまりにも強すぎた。全力疾走で仕事をし続けて、その状態が3ヶ月続いたらかなりまずい状態になってしまうという中で、そのフル回転状態が2ヶ月で終わってくれた。それでうつにならずに済んだということがありました。そういう働き方はハイリスク・ハイリターンですよね、モーツァルトがあんなにたくさんの名曲を書いたのは、果たして切羽詰まってギリギリで生み出していたのでしょうか。
先程も話に出た扁桃体は、それが適度な興奮状態だと一番いろいろな能力が発揮されるんですね。それ以上の興奮状態になると、あるラインからストンと生産性が落ちてくる。それをいかに見極めるかということだと思います。
ただし、アーティストと呼ばれるような人は、そういったセルフ・コントロールができない人が多いでしょう。アーティストの多くが生活を破綻させてしまうのは、彼らの能力はある分野に特化していて、それ以外に目が行かないからなんです。そうすると、きちんとしたマネージャーがそこをコントロールする必要がある。信頼できるマネージャー、あとはパートナーや友人がいることが大事だと思いますよ。
☆Taku:マネージャーなど周りの人はどういうところに気をつけるべきでしょうか?
岡野:ひとつ挙げるとしたら睡眠がちゃんと取れているかですね。例えば興奮状態でもきちんと眠れていたらいいんですが、眠れなくなる、あるいは眠る必要がなくなる、自分は眠る必要がないんだと言い始めたときは、もう病気に向かっています。
☆Taku:海外のアーティストでは運動が見直されている部分もあるんですが、メンタルケアにも効果はありますか?
岡野:もちろん効果はあります。どのように精神に働くのかはわかっていない部分も多いんですが、運動すると脳の全体の血流がよくなって活性化されます。脳の血流をよくするには、頭を使うだけじゃなくて、有酸素運動をするのがいいんですね。ただし、過酷な運動はかえってよくない。活性酸素が生まれて全身の細胞を痛めつけることになるので、ゆっくりした運動がいいですね。頭を使いながら運動をする、というのがベストでしょう。1日に20〜30分の散歩をするくらいで十分です。
☆Taku:10人に1人がうつだという話がありましたが、悩みを抱えている場合、カウンセリングに行くという方法もあると思います。日本ではまだカウンセリングも一般的ではないので、行ったことがない人も多いと思うんですが、具体的にはカウンセリングではどういうことを行いますか?
岡野:ストレスを減らすことが大事と言いましたが、例えば買い物をしたら店員さんに雑にお釣りを渡されたとか、小さいけれど嫌なことは日常でたくさんありますよね。そういったことがあったときに、愚痴を言う相手がいて溜まっていかなければいいわけです。それが溜まっていくとストレスになる。カウンセリングはそういう話を聞いてくれる場です。話を聞いてくれる配偶者や友人がいるのであれば、カウンセリングはそれほど必要ないとも言えます。
ちなみに、うつ病に対してカウンセリングは特効薬とは言い切れません。アメリカで働いていたとき、カウンセリングに訪れた人の中で薬が必要だと判断された人は、私のような精神科医のところにまわってきました。そういう人は精神科医が診察をして抗うつ剤を処方すると、うつがよくなる。するとカウンセリングも必要ない、と言い出す患者さんが結構いらっしゃいました。
そこまでの症状ではない人には、人間関係の悩みや愚痴を言う場所が要りますよね。そういった場合にカウンセリングが必要になってくると思います。
☆Taku:うつ病の原因となるストレスが大きくなりすぎないために、病気を予防するために必要、という認識でしょうか。
岡野:そうです。カウンセリングでなくても「悩み相談」とか「自分の人生を占ってほしい」というニーズはたくさんありますよね。自分が決められないことを誰かに相談して決めてほしいという気持ちはみんな持っている。そういう人たちが占いにいって、そこで行われていることが実はカウンセリングだったりもします。
☆Taku:それで言うと、宗教もカウンセリングですよね。
岡野:そうです。カウンセラーがやっていることを配偶者がやっていたり、子供に愚痴を聞いてもらったり、学校の先生に聞いてもらったりすることも普通にあると思います。そういったときに、カウンセラーが「あなたには今こういう症状があるので、こういった先生にかかってみてください」というように導いてくれたら最高だと思います。
文:☆Taku Takahashi
友人の死に直面するたびに、あのとき自分にもっとできることがなかったか?声をかけてあげられることがなかったのか?そう考えてしまうことがある。自分の責任では無いとしても、残された人間がそう思ってしまうのは自然なことで、自分を責めてはいけない、と言い聞かせている自分がいる。
今も何をすればよかったのかはわからないが、まずできることはもっと「知ること」だと再認識した。ひとの数だけ「苦しみ」や「嫌なこと」が存在する分、この記事に明確な「正解」は無いのも理解している。でも、少しでもなにかのヒントになるようなことを見つけてくれたら嬉しい。
岡野氏から「日本人女性の10人に1人が鬱だ」という現実を聞いて、声が出てしまうくらい驚いた。逆に言えば「もしいまこの瞬間、辛いと感じている人はあなたひとりじゃないし、恥ずかしいことでもないんだよ」と声を大にして言いたい。
日本では鬱と認めることが負け、もしくは甘えだとみなされてしまう傾向がいまだにある。そんな風潮が少しでも和らいで、みんなで助けあえるような社会になってほしいと思う。
厚生労働省 まもろうよ こころ
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text: Moemi
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