Madonnaが最新アルバム『Madame X』より「God Control」のMVを公開。アメリカにおける銃犯罪を厳しく批判している。しかし、MVにはその意図に反して現在、批判の声を数多く寄せられている。
「God Control」のMVは、約8分のストーリー仕立ての内容になっている。MV中でMadonnaは、タイプライターで銃犯罪に対し、批判や銃規制を訴える歌詞を打ち込んでいく。しかし、MVは冒頭から銃乱射によって命を奪われる人々の姿など残酷なシーンが多く、今、それに対して批判が起きている。
MVのストーリーは、3年前に起きたLGBTQナイトクラブのPulseで起こった事件をモチーフにしていると見られ、MVでは時間が巻き戻される形でストーリーが進む。そして、最後に「毎年3万6000人以上のアメリカ人が銃犯罪により死亡し、約10万人が銃で撃たれ負傷している。誰も安全は保障されていない。今こそ銃規制を」というMadonnaのメッセージが表示され、MVは終了する。
MVではPulseの悲惨な事件のほか、銃規制のためのデモを行う人々の姿も映し出される。そういったことからMadonnaはシリアスに銃犯罪の悲惨さ、規制の必要を訴えていることがわかるが、Pulse事件の生存者たちは当時の悲惨な出来事がよみがえると批判。その理由は、銃規制を呼びかけることは理解できるものの、今回のMVは方法として正しくないという思いがあるからだ。
凄惨なシーンは、非常に正確に再現されているため、被害者たちへの配慮がなく、トラウマになっている人にとっては精神的な苦痛を感じるだけだと生存者は訴える。また事件は2016年に起こったのになぜ3年たった今になって公開したのか疑問だという声や、当時、Madonnaは事件を批判するも、そのメッセージには有名なBritney Spearsとの同性愛を思わせるキス画像が添えられており、今回のMVを含め、事件を自己満足のために利用しているという意見もある。
一方で「March For Our Lives」、「National Coalition Against Domestic Violence」、LGBTQ団体「Gays Against Guns」、「The National LGBTQ Task Force」、のような銃規制やドメスティックバイオレンス防止を訴える団体やLGBTQ団体などは、Madonnaが自分の影響力を使って、問題を広く提起しているとサポート表明。またLGBTQアクティビストで銃規制を呼びかける運動を行なっている俳優のGeorge TakeiもTwitterで、Madonnaの呼びかけに対する感謝とサポートを表明しており、MVは現在、賛否両論になっている。
Thank you for your support of our work and commitment to gun control, @Madonna! https://t.co/jVJoCWM6KX
— The Task Force (@TheTaskForce) 2019年6月26日
Thank you @Madonna for supporting @1Pulse4America. You are a much welcome voice in the battle for #GunViolencePrevention and #GunControl. https://t.co/3RVyfsCH3V
— George Takei (@GeorgeTakei) 2019年6月26日
アメリカにおける銃犯罪は、昨年話題になったChidish Gambinoの「This is America」でもモチーフのひとつになっており、衝撃的な映像とともに規制が訴えられた。今回の「God Control」に対する批判はあまりにも事実に寄りすぎており、事件の被害者たちにとっては耐え難いものになっているようだ。しかしながら、MVの最後に表示される先述の”3万6000人”という銃犯罪による死亡者の数字はMV中もカウンターが回り、増加していく。つまり、現在進行系で銃犯罪による被害者は増え続けているのだ。
影響力を持つミュージシャンがこういった社会問題に声を上げることは、何かしら社会を変わるきっかけになるかもしれない。しかし、その一方で実際に被害にあった人間にとっては忘れてしまいたいトラウマを否が応でも思い出してしまう配慮にかけたものとして捉えられることもある。「God Control」MVに寄せられた賛否両論の声は、そういった問題の複雑さを物語っているようだ。
written by Jun Fukunaga
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photo: Madonna YouTube