2020年9月のApple Eventで発表された第4世代iPad Airが、まるで音楽制作者のためにピンポイントに用意されたスペックでは?!と思える内容だったため、近年発売されているiPad用の音楽制作アプリの記事を書いたら爆ハネするんじゃないかと思ったので紹介する。
音楽制作用で選ぶならハイスペックなiPadを用意したいが、iPad Proは諸々そろえるとちょっとしたパソコンも買えるような価格設定で、さすがにここまでの価格となるとパソコン買う方がいいかな感はあった。
今回のiPad Air第4世代は、iPad ProのデュアルカメラやProMotionテクノロジー、LiDAR、Face IDなど、音楽制作には全く関係のない余剰スペック部分を削ぎ落としたような構成。しかもCPUは今後Macのラインナップにも使用されると言われているARMアーキテクチャのCPUで、テクノロジー的にはiPad Proよりも新しい世代のものを利用している。
つまり、最新iPad Airは音楽制作において重要なCPUだけは高く、そのほかのいらない機能は削っているという、音楽制作向けにコスパをよくした機体といえそうだ。USB Type-Cも搭載しているので、MIDIやオーディオの外部機器接続の際には面倒なサンダーボルト変換も不要。
▶https://www.apple.com/jp/ipad-air/
本格的に音楽制作するにはパソコンが必要なのでは?と考える方も多いだろう。しかしここ数年でSteve LacyがiPhoneでKendrick Lamarにビートを提供したり、国内では新世代ラッパーLEXがiPadを中心とした制作環境で鮮烈なデビューをしている。
LEXのような新しい世代が音楽制作用のハードやパソコンではなく、iPadやiPhoneの様な新しいフォーマットを選ぶのは理解できるが、2019年にはMPCやSP-303などのハードウェアの使い手として知られるMadlibがアルバムBandanaのビートはすべてiPadで作ったと公言。MPCやめるとまでは言ってないが、ビートメイカーにとっては衝撃の発言だった。すでにiPad/iPhoneのポテンシャルをトップアーティストが証明しているのだ。
それでは早速、iPad用の音楽制作アプリを紹介していこう。
プロ御用達のDAWとして人気の高いSteinberg CubaseのiPad版。Cubaseの設計そのままに打ち込みからレコーディング、ミックスやマスタリングまでマルチに対応できるDAWなので、どのような用途でもまず間違いがない。
オーディオトラック数は無制限でiOS版は24bit96kHzまで対応しており、レコーディング機材としても十分なスペック。
他のDAWアプリにも言えることだが、内蔵されている音源のクオリティも高く、iPad内にインストールされている他社製の対応シンセアプリも利用できるので、例えばAnimoogやGeosynthなどの強力なシンセサイザーアプリでのサウンド制作が可能。
ミックスやマスタリングはiPadだけではさすがに無理と思うかもしれないが、Cubasis 3にはかなりのプラグインが最初から付いており、Master Strip plug-in suiteと呼ばれるマスタリング系のプラグインも含まれている。さらには追加購入であのWaves L1マキシマイザーも追加できてしまうので、音質的には相当なものが作れるだろう。
こちらはCubasis Master Strip plug-in suiteの紹介動画。
iPadでレコーディング中心の用途のユーザーに人気のアプリ。上述のCubasisもレコーディングのクオリティは高いが、発売当初からレコーディングを中心としたアプリだったこともあってか、いまでも録音といえばこちらのアプリのイメージ。とは言えもちろんMIDIも扱えるので打ち込みでのトラック制作も可能。
24ビット/ 96kHzでオーディオを扱え、ミキシング・マスタリング用プラグインを追加購入でき、プロにはおなじみのFabfilter Pro-QやPro-Lなども追加購入できてしまう。AAFのインポートとエクスポートにより、Logic、Pro Tools、NuendoなどのプロフェッショナルなDAWへセッションデータに近い状態でデータ転送もできる。iPadと言えど、ここまでくれば立派なDAWでしょ。
iPhone/iPadの両方で無料ソフトとして最初からインストールされているので、何となく見たことのある方も多いだろう。楽器の演奏ができなくても、ギターやピアノ、ベース、ドラムなどの基本的な楽器を、音ゲーのように指1本でタップするだけで音楽的に演奏ができるスマート楽器や、録音時も最初からある程度エフェクトが軽くかかっている状態になっているなど、初心者でも扱いやすいように設計されている。
無料アプリと言うことや、初心者に優しい機能も多いのでオモチャのように思われがちだが、実はかなり幅広くいろいろなことができるようになっている。録音時にかかっているエフェクトは外したければ外すこともできるし、ちゃんと演奏したければMIDIキーボードなども使え、外部音源にも対応。
先述のSteve LacyはiPhone版のGarageBandユーザとして知られている。
ビートメイカーにはおなじみMPCのアプリ版。アプリと言うとちゃんとサンプリングもできるし、定番の16パッドでの打ち込みもでき、ラップや歌をレコーディングすることもできる。
しかもサンプリングはSpotifyのライブラリから直接サンプリングすると言うようなこともできてしまうので、無限のサンプリングのためのライブラリを一緒に手に入れてしまう。このアプリにパッド型のコントローラーを接続すると本当にMPCでフィンガードラムをしている感覚。
サンプリングビートを作りたいならまずはこれ1択でいいだろう。
iMPC Pro 2がサンプリング中心のビートメイカー向けなら、コルグガジェットはEDM, Future Bass, Trapなどなど、シンセを中心に構築するタイプのビートメイカー向け。
Korgの得意とするガジェットタイプの小型シンセを追加購入でき、様々なテイストのシンセを手軽に追加しながらサウンドを制作するのだが、とにかくKorg製品らしいシンセ好きキラーなアプリ。小型シンセということでどのガジェットも制約のあるシンセばかりだが、この制約の中でどこまでサウンドを作り込めるかという楽しさがある。
コードパッドやスケール機能も優れており、音楽理論や楽器ができなくても音楽的な制作ができるのも大きな特徴だ。
ちなみにレコーディングの機能はついておらず、トラック制作だけしかできないのだが、これによって画面や操作系もシンプルになっている。他のアプリと違いオールインワンDAWとはよべないが、ボーカルを乗せたければトラックを作った後にGarageBandなどで録音すればいいので問題はないだろう。
操作系は一般的なDAWに比べると少し独特だが、かといって難しいわけでもない。慣れると不思議な没入感があり、ひたすら制作に没頭できる。
iPad用の音楽制作アプリがで始めた当初は、パソコン版のようにプラグインなどの拡張性がなく、あくまでちょっとしたスケッチ用途やサブ用というイメージだった。しかしその後は急速にOSもアプリも進化を重ね、AudioBusやAudio Unitなどのプラグイン規格に対応したシンセやエフェクトが利用できるようになり、十分な拡張性を備えている。
最近ではプロも愛用するFabfilterのミキシング用プラグインまでアプリ化されており、パソコンがなくてもかなりいいサウンドが作れるようになってきている。
また、iPad用の音楽制作アプリにはパソコン用の音楽制作ソフトにはないクリエイティブで独特な製品も多いのも特徴だ。
なお、iPad Airは現時点では発売前の機材なので、アプリでの動作については導入前に各メーカーの互換性情報などを確認しておこう。
関連記事
written by Yui Tamura
source:
https://www.apple.com/jp/ipad/
https://apps.apple.com/
photo:
https://www.apple.com/jp/ipad/