カニエから宇多田ヒカルまで。日本のゲーム業界がHIP HOPに与えた影響とは? part.3 2010年代

Kanye Westから宇多田ヒカルまで! ゲームを通してHIP HOPに与えた影響とは。
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2018.07.31 09:00

これまで、1990年代、2000年代とゲーム&ヒップホップの関連性について執筆してきた。今回は2010年代、現代までのつながりについて探っていきたい。  今や「ゲーム」は日常から切り離すことができないほど、密接な存在になった。家庭により差はあるものの、ゲームに触れることがなく成人を迎えることは今では不可能と言っても過言ではない。HIP HOPとより距離の近くなったビデオゲームはさらに形を変えて、サウンドやラップの中に参入してくるのであった。


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2010年代


Lil Bが広げたHIP HOPの新たな世界



2010年代に入ると、1人の曲者ラッパーが人気を集め出した。彼の名はLil B(ツイッターフォロワー数140万人、フォロー数160万人)、2018年現在でも多くの影響力を持っている。彼はHIP HOPとゲームの存在をより近づけた、近年10年を語る上で欠かせない人間だろう。 ハードワーカーとして知られるLil Bは、2010~2013年の間で(数え間違えがなければ)36枚のミックステープをリリースした。2,000曲近いリリースをし、中には狂っている曲もあったのだが、後にそれらは時代を語る上で重要な曲になる。  狂った曲というのは失礼なのだが、チョイスするビートが毎回癖のあるものばかりだった。Michael Jacksonの「Billie Jean」やDrakeの「Forever」など、様々なビートをジャックしラップを乗せてきた彼にとって、乗れない音など存在しない。Lil Bとゲームの歴史を振り返ってみよう。 


2010年にリリースした上リンクの「Mario That Bitch Rare Based」は数ある作品の中でも格別個性的な作品だ。ビートのほとんどがマリオのジャンプ音とコイン音、土管に入る音で構成されている。そもそもビートと呼べるのかも謎なレベルだ。同年にドロップされた「I Love Video Games」は、ひたすらにゲームのコンソールとカセットを羅列する。。 何度もゲームに関して歌詞の中でラブコールを送っているが中でも「What Are You Doing」 はアウトロの部分で

「マリオに感謝を。Nintendoのマリオについて話してるんだ。オールドスクールの64。コントローラーを持ったら次のゲームだ」

とストレートに愛を伝えた。


これだけでは止まらないLil Bは、「Task Forse」で人生はゲームだからNintendoをプレイするとまでラップしている。


こうしてみると、ゲーム好きのラッパーでまとめてしまいそうなところであるが、自分な好きなものをひたすらラップするのもHIP HOPなのだと、彼の後輩たちに新たな道を開いていたのも事実だ。多くの若手ラッパーたちから慕われているのも、彼のそういった部分がしっかりと尊敬されているからなのだろう。


強く結びついたHIP HOPとゲームサウンド



2010年以前は、聞けば一発で理解できるような特徴ある形でサンプリングが目立っていたが、2010年に入り、わかりにくく言わなければ気づかないようなサンプリングが増えた。憶測の域でしかないが、所謂メディア映え、記事化することによるSNSでのバイラル化も期待できる点も、少なからず関連しているようにも感じる。 綺麗にサンプリングされたゲームのサウンドエフェクトは、上手く楽曲に溶け込み、知らず知らずのうちに聴かれている。


まずはKanye Westからだ。 『The Life of Pablo』に収録された18曲目の「Fact」では、ストリートファイター2の音がいくつも使われている。勝利時にアナウンスされる「You Win Perfect」などがそのままサンプリングされている。中でもこの「Perfect」というサウンドはラッパーたちから大人気であり、Kanyeは、同アルバムの「Pt.2」や、Drakeの「Pop Style」に客演で参加した際もこの「Perfect」のサウンドをサンプリングしている。この流行はグライムにまで広がっている。Skeptaの「Pure Water」や、Stormzyの「Fire In The Booth」にもしっかりとサンプリングされている。こうして聴いてみると、バース間のつなぎをより円滑にしているのがわかる。




Nintendoの影響もかなり大きい。世界大会も開催され、多くの国で愛されているマリオカートについて紹介したい。64のマリオカートからマリオの声をサンプリングしたLogicの「Lord Willin’」や、キノピオがコースから落ちる音をサンプリングしたScHoolboy Qの「Break The Bank」など、かなり細かいネタなので、集中していなければ聴き逃してしまいそうだ。彼らがこのゲームで子供の頃から遊んでいたのは間違いないだろう、でなければこんな細かなサンプリングは思いつかない。  コインを取る音やレベルアップなど典型的なマリオの効果音も、もちろん人気である。ThundercatがMac Millerをゲストに呼んだ「Hi」ではマリオのパワーアップ音を、Jay Rockの「ES Tales」ではコイン音を取り込んだ。Jay RockのES TalesはMVまでかなり手の込んだ使用になっている。Lil Yachtyの「Run/Running」ではコイン音に加え、64マリオのファイルセレクトのテーマがビートの主になっている。


宇多田ヒカルがHIP HOPに与えた影響!?



宇多田ヒカルも、ゲームを通してHIP HOPに影響を与えている。具体的に影響を与えた曲は、キングダムハーツ2に採用された「Sanctuary」という曲だ。宇多田ヒカルと記したが、正しくはUtada名義でリリースされたセカンドアルバム『This Is The One』のボーナストラックに収録された曲である。日本名は「Passion」とタイトルづけられており、MVは中国で撮影された。海外でも人気のあるキングダムハーツは、ゲームの人気とともにUtadaの名前を世界に広げた。XVの「When We’re Done」やTony Moxbergの「Still Ridin」などを代表に、多くのアーティストがこの曲をサンプリングした。その中でも最も有名なのはFrench Montanaの曲名ごとサンプリングした「Sanctuary」だ。あの「Ocho Cinco」と同じミクステに収録され、MVは500万回近く再生されている。2016年に「Sanctuary Pt.2」も発表された。  



ついにラッパーのオリジナルゲームをリリース


やはり思いつくのはKanye Westだ。彼が発表した1本のトレイラーを覚えているだろうか? 母親が亡くなった時に、その反動から作ったと言われているこのゲームは、天国の母親が天国の門に行くまでを起草にしているという。実際にリリースはされていないが、ラッパーが関わる新たなコミュニティーは大きな可能性を残した。


また大のマリファナ好きで知られるWiz Khalifaは「Weed Farm」というマリファナ栽培ゲームを、2017年の4月20日にリリースした。放置ゲームのためやり込み要素が少ないのだが、自分でマリファナを育てる感覚は新鮮である。「自分だけのマリファナ畑を作ろう」という素晴らしいキャッチフレーズが付けられたこのゲームは、日本でもインストール可能である。 




HIP HOP界に自然に溶け込んだビデオゲームたち


ラッパー自身それぞれのパーソナリティーを表すのに、ゲームは一役買っている。Nicki Minajが先日リリースした「Chun-Li」も元々はストリートファイター2のキャラクターからだ。リリックで彼女がストリートファイターについてラップしているわけではない。彼女自身のスタイルとChun-Liの概念が見事にマッチしているからこその技である。現在8千万回ほど再生されているが、そのうちのどれほどがこのネタを知っているのだろう。元ネタを知っていようが、知らなかろうが、音楽自体楽しめないわけではないが、幼少期にゲームをやってきたことが、HIP HOPをより楽しむ一種のチケットになりつつある。



written by Yoshito Takahashi


source:

https://www.complex.com/pop-culture/2011/04/50-best-vg-references-in-rap/ 

https://www.highsnobiety.com/p/hip-hop-video-game-timeline/ 

https://toucharcade.com/2017/04/13/wiz-khalifas-weed-farm-releases-on-april-20th/

https://youtu.be/-2sq7pfA7sc 


photo: Youtube



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