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Netflixオリジナルアニメ『YASUKE ーヤスケー』に音楽・製作総指揮として参加したプロデューサー、Flying Lotus(フライング・ロータス)。長年のアニメファンでもあり、さらに海外のアニメーションメディア「Adult Swim」や渡辺信一郎監督『キャロル&チューズデイ』の音楽を手掛けるなど、彼のキャリアとアニメーション作品には深い関係性がある。
この度1枚のアルバムとしてもリリースされた『YASUKE』のサウンドトラックはその音楽的なクオリティの高さから、アニメファンのみならず音楽ファンからも高い評価を得た。
そんなFlying Lotusに、『YASUKE』サウンド制作に込めたコンセプトやこだわり、アニメの主人公・弥助と自身との共通点、また、アニメーション作品に対する世界的な評価の高まりについて話を聞いた。
ー『YASUKE』のプロジェクトにはどのような経緯で参加することになったのですか?最初にこの企画について話を聞いたときはどのような気持ちでした?
Flying Lotus:Apple TVの番組のパイロット制作で一緒に仕事をしたプロデューサーの友達から突然連絡がきて、Netflixのアニメシリーズで『YASUKE』という黒人の侍の物語を描くプロジェクトに参加しないか?と言われたんだ。「冗談じゃないよね!? もちろんだよ!」と返した。本当に興奮したし制作に関われるなんてびっくりだったよ。それからNetflixに行ってミーティングに参加して、プロジェクトを進めていくことになった。本当に想像がつかない展開だったね。
ーなぜ参加して欲しいのか、オファーの時に言われましたか?
Flying Lotus:ディレクターのLeSeanが僕の大ファンだったんだ。僕と一緒にLaKeith(LaKeith Stanfield 弥助の声を担当)も参加して欲しいと言われたよ。
ーサウンド制作はアニメの映像ができる前から行ったのですか?もしくはある程度出来上がった映像を見てから制作したのでしょうか?
Flying Lotus:映像を見る前から作業を始めてたけど、それはただアイデアを適当に出していただけ。絵を見るまでは音を作りたくないと思ったし、そうする必要があった。どのように聞こえるかを決める前に、どのように動くかを見なければいけなかったんだ。映像やキャラクターが話す様子を見た後は『YASUKE』のテーマもすぐに見つかったし、すんなりと音を作れたよ。
ー『YASUKE』のサウンドトラック26曲すべてに共通するコンセプトはありますか?
Flying Lotus:弥助の冒険を音楽で再現してみた。アニメを観ることでどんな気持ちになるかを考えて、サウンドトラックを聴いたときにもそれと同じ気持ちを感じるようにしたかったんだ。例えば弥助が幻術の中で戦うとき、音楽はこの世のものとは思えない魅惑的なサウンドになっていく。最初はヒップホップ的なサウンドから始まるけど、それがより神秘的な世界観の音楽に変わるんだ。
ー今回のサウンド制作にあたって、初めて使用した楽器や音はありますか?
Flying Lotus:制作にはいつもシンセサイザーを使ってるけど、この作品には古くて重いビンテージのシンセサイザーを使った。こういう企画でビンテージシンセを使うのは初めてで、『YASUKE』において中心的な役割を果たしたと思う。今回使った「Yamaha CS-60」、「Mellotron」と「Prophet-5」、この“古い獣たち”はこのアルバムの中でとても輝いているよ。
ーオープニング・テーマについても聞かせてください。まず、アニメ作品のオープニングに重要な要素はなんだと思いますか?
Flying Lotus:オープニング・テーマは印象的で、一緒に歌えるものであることが大切だと思う。メロディーを聞いた瞬間にしっくりくることが必要だ。アニメを観てきて気づいたんだけど、オープニングにはポップソングのような耳から離れないメロディーが使われることが多いよね。そういうアプローチがしたかったけど、ただのポップソングにはしていないよ。
ー今まで観てきたアニメで耳から離れないオープニング・テーマはありますか?
Flying Lotus:『エヴァンゲリオン』、『カウボーイビバップ』、『ドラゴンボールZ』。どれも何百万回と観てきたよ。
ー『YASUKE』のオープニング・テーマ「Black Gold」はどのように制作しましたか?
Flying Lotus:オープニング・テーマの制作を始めた時に、弥助のメロディーはどんなものであるかを考えたんだ。メロディーがつかめた後にビートを作って、そのメロディーに対していろんなことを試してみた。一番初めにそのメロディーを理解しないといけなかったよ。弥助の心はどんな音がするのかもね。Thundercatはその後、仕上げに入った段階で制作に参加したんだ。
ー『YASUKE』ではいくつもの戦闘シーンが目を引きますが、バックグラウンドに他の作品の戦闘シーンでは聞いたことのないようなサウンドが流れていたことが印象的でした。戦闘シーンに流れるサウンドはどういう考えを持って制作しましたか?
Flying Lotus:そこが一番苦労したところだよ。参考にできるものがものすごく少ないから。映画やテレビの戦闘シーンはどれも同じ音に聞こえるでしょ。ダン、ダン、ダン、ダン、ダーーーン!「そんな音は作りたくない。他にどういう音が作れるんだろう?」と考えた。自分の中でいろいろと試行錯誤をして、最終的には意味があるものに到達できたと思う。でも、とても難しかったよ。想像がつく音や、聞いたことがあるものは作りたくなかったから。そうじゃなきゃ意味がないでしょ?
ー特にアニメをたくさん観てきた人からすると。
Flying Lotus:そう、責任を感じた。
ー 一番お気に入りの戦闘シーンはどのシーンですか?
Flying Lotus:一番好きなシーンは2つあるね。ひとつめは1話目の戦闘シーン。物語の始まりで、本能寺の外で行われていた大きな戦だ。戦いに合う音を作るのはかなり難しかったけど、一度できてしまえばすごく楽しかったよ。作りながらテレビに向かって「よっしゃ!これだ!」と叫んでた。もうひとつは4話目にある、黒坂という鬼侍と森の中で戦うシーン。そこのシーケンスはとてもゴージャスだよ。
ー弥助が見た幻で、首をはねられ頭部のない弥助の体から黄色い百合と桜が咲くシーンが音楽、映像共にとても美しく印象的でした。美しさの中に弥助の悲しみや後悔、生き続けることへの痛みが表現されていると感じました。物語を通して弥助のセリフで弥助自身の苦しみは表現されておらず、過去の回想や幻からその痛みを感じさせるシナリオになっていましたが、音楽はその弥助の痛みをどのように表現しようと思いましたか?
Flying Lotus:その質問に対する答えのひとつは、“人の魂、痛みを感じる記憶”を表現するような音を見つけることかな。人につきまとう何か…、恐怖とまではいかないけど、何らかの記憶…。その音を発見するのに「Yamaha CS-60」がとても役立ってくれた。このシンセに入っている音を見つけたことで、精神性を感じさせる雰囲気を出すことができたよ。その音で、弥助の過去とトラウマを表現したかったんだ。
ーあなた自身も弥助と繋がる部分があると語っている記事を読みました。どのようなところに共通点を感じましたか?
Flying Lotus:弥助はいろんなことと戦ってきた人で、誰にでも優しくあろうとし、誰にでもチャンスを与えられる人であろうとしている部分が僕と似ていると感じる。弥助が自分の殻に閉じこもるシーンがあるけど、僕も似たようなことをするよ。そして彼はアウトサイダーで、僕もアウトサイダーでいることに慣れている。
ー弥助以外に気に入っているキャラクターをひとり教えてください。
Flying Lotus:織田信長が大好きだね。一緒に飲んでみたい。めちゃくちゃおもしろいやつだよね。クレイジーで、先見の明があって、未来的な人。お酒が大好きだし!
ー『YASUKE』という作品は、様々な人種が(中にはロボットも!)登場すること、男性や大人が強く、女性や子供が弱いというキャラクター設定ではなく、女性や子供も強さを持っている部分が描かれていることなど、多様性が明確に描かれていると思います。その中でも弥助と咲希の関係は「どちらかが守りどちらかが守られる」のではなく「お互いを守り守られている」という関係性で、今あらためて見つめ直したい価値観だと感じました。
Flying Lotus:ははは、そこが僕にとって重要だったんだ。特に強い女性のキャラクターがいることがね。初めてこのストーリーを読んだときは、主な女性の登場人物が夏丸しかいなかった。これは女性のキャラを増やす機会を逃してしまうと思って、咲希とその母、闇の大名を作ったんだ。3人ともこの物語の中で強いキャラクターだよね。黒人のキャラクターがいるのはいいんだけど、自立した女性に出会えないことに僕は個人的にうんざりしてた。現実世界でも、アニメの中でもね。だから強い女性キャラクターを入れることを強く望んだんだ。
ーそもそもあなたがアニメを観るようになったきっかけはなんですか?好きな作品も教えてください。
Flying Lotus:従兄弟が教えてくれたよ!僕がすごく小さいとき、『北斗の拳』と『AKIRA』を観せてくれた。子供ながらに圧倒されたよ。今まで観てきたものとは全く違った。今でも一番好きな作品だ。
ー「Adult Swim」に参加するなど、2000年代のなかばからアニメーションはあなたのキャリアの一部でもあります。世界中で視聴されるオリジナルアニメシリーズの制作に携わったことに対してどう感じていますか?
Flying Lotus:最高な気持ちだよ。ただ、視聴者やNetflixを喜ばせたいからものすごくプレッシャーも感じている。大きなプレッシャーを感じる中で夢を実現できた。今後ももっとやっていきたいし、今持っているアイデアも実現させていきたいね。
ー『YASUKE』以前には渡辺信一郎監督の『キャロル&チューズデイ』や『ブレードランナー ブラックアウト2022』に参加、「More (feat. Anderson .Paak)」のMVを渡辺監督が手掛けるなど一緒に仕事をされていますよね。
Flying Lotus:渡辺さんは音楽が大好きなんだ。彼とFaceTimeで話していたとき、彼は自分のスタジオにいたんだけど、そこにはいたる所にレコードが置いてあった。「OK。彼がどんな人かわかった」と思ったよ。彼がもし僕の家に来たら、アニメ映画がたくさん置いてあるのを見て同じように思うだろうね。とても素晴らしい人で、一緒に仕事ができて最高だよ。いつも彼に「おーい!僕のことを忘れないで!」と連絡してる。僕がまだ生きてることをいつも彼にリマインドしてるんだ(笑)。
ーいくつものアニメーション作品に携わってきて、何か特別なアプローチで音楽の制作をするようになりましたか?
Flying Lotus:ひとつの方法だけにこだわらないことを学んだよ。良いプロデューサーというのは柔軟で適応性があるということ。それぞれ異なった感性を持つ人々と仕事をする上で、その人がどんな人であるかはわからないからね。みんなそれぞれ居心地が良いと思う環境は違うし、誰かにとって有意義なことが自分にとっては意味のないことかもしれない。それでも、一緒にプロジェクトを進めていかなきゃいけないんだ。
ー世界でNetflixを契約している人の半数以上が何かしらのアニメを視聴しているとのデータがあり、映像作品におけるアニメの評価が今どんどんと上がっています。このように多くの人がアニメを観るようになった理由はなんだと思いますか?
Flying Lotus:今やっとみんなが追いついてきた理由は、アニメを否定できなくなってきたから。今僕らが観ている作品はとても美しい。絵も素敵だし、ストーリーは他の媒体で描かれるようなものにも引けを取らないクオリティだ。アニメだからといってその素晴らしさを否定することはもうできない。それはピクサー映画すら否定するようなことだからね。大企業からのバックアップがなくても、日本で生まれた作品でもそうでなくても、良いものは良い。そして素晴らしい物語はどんなことがあっても多くの人に観られるんだ。
ー次に日本に来たら、やりたいことや行きたい場所を教えて下さい。
Flying Lotus:「スーパー・ニンテンドー・ワールド」に行きたい!ただそれだけ!そのためだけに日本に行きたいよ(笑)。
ー最後に、日本のファンへコメントをお願いします。
Flying Lotus:いつもありがとう!『YASUKE』を気に入ってくれると嬉しいな。楽しい経験だったから、今後もこういうことに携わっていきたいよ!
Artist : FLYING LOTUS(フライング・ロータス)
Title : YASUKE(ヤスケ)
Release Date : 2021.6.18 (Fri)
Cat No : BRC-637
Price : ¥2,200 ( + Tax )
Label : Warp Records / Beat Records
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11850
Track List
01. WAR AT THE DOOR
02. BLACK GOLD (FEAT. THUNDERCAT)
03. YOUR LORD
04. SHORELINE SUS
05. HIDING IN THE SHADOWS (FEAT. NIKI RANDA)
06. CRUST
07. FIGHTING WITHOUT HONOR
08. PAIN AND BLOOD
09. WAR LORDS
10. SACHI
11. YOUR SCREAMS
12. USING WHAT YOU GOT
13. AFRICAN SAMURAI (FEAT. DENZEL CURRY)
14. WHERE'S THE GIRL?
15. WHEN IT DIES (BONUS TRACK FOR JAPAN)
16. KUROSAKA STRIKES!
17. THIS CURSED LIFE
18. ROBOMB
19. TAIKO TIME // SACRIFICE
20. YOUR DAY OFF
21. YOUR ARMOUR
22. ENCHANTED
23. MIND FLIGHT
24. SURVIVORS
25. YOUR HEAD // WE WON
26. THE EYES OF VENGEANCE
27. BETWEEN MEMORIES (FEAT. NIKI RANDA)
【Flying Lotus】
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Text:Moemi
Additional contributions:Amy, Eddie (Otaquest)