EVISBEATS(エビスビーツ)と田我流(でんがりゅう)がタッグを組んだ楽曲「夢の続き」のMVが、今年に入り公開された。
この楽曲は2018年4月15日に7インチシングルとしてリリースされ、5月に発売されたEVISBEATSのアルバム『ムスヒ』に収録された楽曲である。MVが公開された2019年1月、再びiTunesのヒップホップチャートに返り咲き、今なお上位をキープしている。
「夢の続き」はEVISBEATSと田我流による不朽の名曲「ゆれる」の続編的な1曲とされている。EVISBEATSの近作『HOLIDAY』発売時には、リミックス音源がフリーで配信された。(ダウンロードリンクは記事最下部に記載)
ファンにとってもアーティストにとっても特別な楽曲であるが、つい先日、満を持してそのMVが公開された。監督するのは1987年生まれ新潟出身、iri(イリ)やLUCKYTAPES(ラッキーテープス)のMV、企業CMなどを手がける気鋭の映像作家、Yudai Maruyama。
「夢のつづき」のMVを解説する前に、まずは「ゆれる」のMVについて触れておこう。「ゆれる」では田我流が生まれ育ち拠点とする地元、山梨県の風景が映し出されている。田我流自身の家、山梨の田園風景や町、甲州市にある塩山駅など…。監督するのはstillichimiya(スティルイチミヤ)のメンバーであり、スタジオ石として数々のMV、映画作品に携わるMMM(トリプルエム)だ。
ラストシーンの印象的な自転車の少年は、塩山駅でカメラを回していたところにたまたま居合わせ、田我流が声をかけてMVに出演することになったというエピソードがある。
今回の「夢の続き」でも山梨県の各所でロケを敢行。富士山の麓、富士五湖のひとつ精進湖と思われる場所がメインのロケ地となったようだ。
精進湖は河口湖や山中湖に比べ知名度は低いかもしれないが、ヘラブナ釣りがさかんな場所であり、きってのアングラー田我流にふさわしい湖と言える。筆者個人的には精進湖から見える富士山が、距離感も程よくいちばん美しい。
甲府盆地を見下ろす丘として、ワイナリーで有名な勝沼町と一宮町をつなぐちょうど境目となる鳥居平や、菱山地区と思われる場所も映し出されている。ブドウや桃などの果樹栽培がさかんな地域であり、葉を落とした果樹園の中で歌う田我流も印象的だ。
「ゆれる」と「夢の続き」のMVは、どちらも田我流の生活圏と生まれ育った原風景とをひとつなぎに映し出しているのである。
これがあの曲の続きだとするなら たぶんきっと悪くない 別に
「夢の続き」セカンドヴァースの冒頭、田我流の声の聴き慣れたフレーズに反応した人も多いだろう。これは言わずもがな「ゆれる」フックの直前、ヴァースの最後をしめくくる
Let's Get It On Ha? バラ色の日々 遠回りばかりでも悪かない別に
のラインを引用している。
「夢の続き」では「ゆれる」と共通した世界観で、田我流の等身大のリリックが綴られている。
DOORSのようにLight My Fire
あのJAZZMANみたいにNever Retire
「ゆれる」では、DOORS(ドアーズ)の『Light My Fire』を引き合いに、むきだしの欲求のままに生きる姿勢(「Light My Fire」は衝動的な性愛について歌った楽曲ではあるが)、“あのJAZZMAN”みたいに諦めることなく音楽で生きていくと決めた田我流の覚悟、明確な意志が示されている。そして
かのルイ・アームストロングも歌っている
どうやらこの世界は素晴らしい らしい
とラップする「夢の続き」ではジャズの巨匠ルイ・アームストロングの「What a wonderful world(この素晴らしき世界)」を引用。これは当時、泥沼化していたベトナム戦争を嘆き平和を祈った楽曲だ。
今、実質的な戦争こそ起きていないが、現代社会がさまざまな問題を抱えていることを憂いながら、それでも自分らしく生きていこうぜという田我流によるオマージュなのではないだろうか。
ちなみに「ゆれる」で田我流の言う“あのJAZZ MAN”とは、日本のジャズ界に君臨するゴッドファーザー、ウッドベーシストの鈴木勲氏 a.k.a.OMAさんであることが田我流のブログ『窓際日誌』の2013年1月のポストで明かされている。
田我流は鈴木勲氏本人とセッションを成し遂げているのだが、その鈴木勲氏は立教大学在学中にルイ・アームストロング・オールスターズの来日公演を目の当たりにし、影響を受けているという繋がりがある。「ゆれる」で鈴木勲氏を、「夢の続き」でルイ・アームストロングを引き合いに出す。これも田我流なりの粋なはからいなのかもしれない。
「ゆれる」をリリースしたときの欲求に忠実に生きる姿勢はそのままに、そこから時を経ての自身の心境の変化、愛と感謝を伴った現在進行形の日常がこの「夢の続き」では表現されている。
少しばかり、丸く滑らかになった声とフロウに「ありがとな。こっちはこっちでうまくやってる。お前らも頑張れよ」そんなメッセージ性を感じてしまう。
「ゆれる」は2011年のリリース以降、今や日本のHIPHOPシーンのみならず、幅広い場面、人々に愛されるマスターピース的な楽曲となった。そして聴かれている世代も実に多様性に溢れている。
以前block.fm記事でも紹介した、筆者と同世代のDJ KROが運営するレーベルChilly Sourceが主催し、毎回ハコいっぱいに集客しているイベント「Chilly Source JAM Vol.5」の最後に、DJ KROは「ゆれる」を選曲した。そのときその場に集まっていた20代〜30代のクラウドが大合唱していたのがとても印象深い。
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さらには、身内が所属する大学生のダンスサークルが学園祭でパフォーマンスした際、思い出を振り返るVTRのBGMとしても使われており、10代〜20代前半の女性の琴線に触れていることにも驚いた。
田我流が切り取るのは身の回りのこと。大袈裟でも、センセーショナルでもない、ありのままの日常だ。田我流は自身が主役の物語を歩み続けている。そして、その生き様と声を通して「お前の人生の物語の主役はお前だ」と力強く聴く人々の背中を押す。それが性別や年代を問わず、人々を惹きつけているのではないだろうか。
「夢の続き」はまさに、EVISBEATSと田我流が「ゆれる」で見せてくれた、ひとときの夢の続きだ。押し寄せ、流れていく時間の波に翻弄され、戸惑いながら、悩みながら、日は暮れて、また明ける。
まどろみの中にいるような神秘的な風景と、EVISBEATSの奏でるシンプルで感傷的なトラック、田我流の紡ぐ等身大の言葉は、素晴らしきこの世界で物語を描き、演じるのは自分自身であるこということを自覚させてくれる。
EVISBEATSの最新作『HOLIDAYS』には、EVISBEATSと田我流がコラボした「今日は休みだ feat.田我流」「Blue feat.田我流」が収録されている。
EVISBEATS 『HOLIDAY』
リリース:2018.12.19 (Wed.)
レーベル:AMIDA STUDIO
通常盤: AMRAM-006 ¥2,300 + Tax
生産限定盤:AMRAM-007 ¥3,000 + Tax
01. なんとなく feat. 高橋飛夢
02. Lullaby feat. WHALE TALX & annie the clumsy
03. Special Special feat. asuka ando
04. 今日は休みだ feat. 田我流
05. Life as a journey
06. 夜風に吹かれて with PUNCH&MIGHTY
07. 蛍 feat. Itto
08. Sweet Suger
09. Blue feat. 田我流
10. 明星 feat. Oorutaichi
11. いい時間 - Phoka version
12. 北信太アンビエント
新曲や公開済みの曲も含めての作品集
初回限定盤は2枚組でインストとMIXCD付属
昨年、10周年を迎えたりんご音楽祭で、おやきステージのトリを飾ったstillichimiyaのライヴもレポートしているのであわせてチェックしてほしい。
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EVISBEATS 「夢の続き feat. 田我流」(iTunes リンク)
EVISBEATS「夢の続き(Remix) feat. Jambo Lacquer」
下記ダウンロードリンク
・MP3
・WAV
written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki
photo:EVISBEATS 「夢の続き feat. 田我流」