最近、DJ KAWASAKIが面白い。そしてとにかくDJがカッコいい。11/3の「レコードの日」に合わせ、久しぶりの新曲「Don't Put My Heart Down feat MAYLEE TODD」、そして自身がプロデュースを務めた新人シンガーNAYUTAHのデヴューシングルを発表。ここblock.fmのレギュラー番組「FEEL THE MAGiC」でも毎月熱心に選んだレコードで渾身のライブミックスを披露し続けている。「何かが変わった」と感じさせざる彼の近況を伺うべく、今回「Kawasaki Recordsにインスピレーションを与えた5枚のレコード」を紹介すると共に、インタビューを敢行。まさに一周回って「新しい人」DJ KAWASAKIの秘めたる熱い想いを聞いてみた。
- 自身のレーベル『Kawasaki Records』を始めてみて、何か周りから反響はありましたか?
DJ KAWASAKI: 友人や音楽仲間のみんなからおめでとう!と祝福していただきました。実は、今までに「レーベルをやって欲しい!」という意見も結構あったんですよ。もちろん常に音楽は作り続けていたんですが、「Timeless」以来、ここ数年は残念ながら作品を発表するタイミングがなかったので、早く新曲をみんなに聴かせたかったし、定期的に曲をリリースできる場所も欲しかった。自分のレーベルだと、今の自分の音楽性と自然にリンクできるよう自由に制作できるし、発売のタイミングも自分次第なので、甘い世界ではないと理解していますがとにかくがんばるしかないですね。
- それを「自分のレーベル」でする必要ってあったんですか?カワサキさんこそ「出したいときに出せる」と思ってましたが....
DJ KAWASAKI: いや、そんなことはないですよ。僕はその時自分がかっこいいと思う音楽しか作れないので、やりたいことがあるからといっても、何でもレコード会社が受け入れてくれるというわけではないですからね。やはりDJでかける音楽としっかりリンクすることが大切だなと思うんです。特にここ数年のセットでは、4つ打ちのハウスだけでなく、ディスコやブギー、ソウル、ジャズ・ファンクなど、より生演奏のフィーリングを生かした楽曲の比重が大きくなってきたこともあって、今の自分が自然にかけられる音楽を作って発表できるよう、リリースの仕方もちゃんと考える必要があったんです。『Kawasaki Records』では、いままで同様に自分で作曲をして、イチから作る新曲もあれば、過去にリリースした自分の楽曲を今の音楽的なトレンドを意識したアレンジで、再度エディットし直したりもしてみたいと考えています。
- 具体的にレーベルを始めようと思ったキッカケはありましたか?
DJ KAWASAKI: 10年以上前くらいから、自分のレーベルをやってみたいなと思っていたんだけど、思いが強くなってきたのは、3rdアルバムの「Paradise」を出した後くらいからかな。デビュー当時から数年は、ハウスのパーティーに呼んでいただけることが多かったんですが、その時から既に僕のDJは自分の曲以外はディスコや生音が中心のセットでした。1ジャンルで完結するパーティーで生音を混ぜると、「ハウスのパーティーなのに何で生音かけるの??」っていう反応も結構多かったんですよ。今はそんなことないですが、当然と言えば当然ですね(笑)。
- でも世間的にはDJ KAWASAKI = ハウスのイメージが強いですよね?
DJ KAWASAKI: デヴューからの自分の代表曲はハウスにカテゴライズされているので、ハウスのイベントに呼んでいただける機会が多かったですね。もちろん今もハウスは大好きですが、1つのジャンルで淡々と繋いでいくのが苦手なんです。The Roomで働きつつDJを続けた経験で、1つのテーマをもとにオールジャンルで自由自在に選曲していく先輩方の素晴らしいプレイを見て感動したし、とても芸術的だなと思うんです。最近では1ジャンルで盛り上がるパーティーより、クロスオーバーな内容のオファーのほうが圧倒的に多いですよ。
- でもやっぱりカワサキさんのファンはDJ KAWASAKIの作ったハウスを求めたりしませんか?
DJ KAWASAKI: もちろん、僕の代表曲である「In To You」や「One」は、いまだにプレイして欲しい!と言われることもあります。ただ、とても嬉しいのですが、やはり新作も聴いてもらいたいなと。もちろん自分が作った楽曲はどれも愛おしいし、いつ聴いても最高だなぁと思うけれど...。ここ数年リリースしていない自分の責任でもあるんですよね。前作を超える作品。今自分がかっこいいと思う新しい曲を作って勝負しないと、自分のなかで前に進めないかもしれませんね。
- 今だに「ハウスの貴公子」なんて言われますか?
DJ KAWASAKI: いや、脱貴公子宣言したので(笑) 今クラブに遊びに来てくれている20代、30代の人は10~15年前は小学生とか、クラブに行く歳じゃなかったですよね?正直、僕のこと知らない人も絶対多いと思うんです。でも今の音楽のかかる現場で中心になって活動している人は若い世代の方達だから、一周回って「新しい人」みたいな感じでやれて、それはそれで結構楽しいですよ。
- それこそデヴューする前のDJのスタイルに今戻っているという感覚もあるんじゃないですか?
DJ KAWASAKI: デビューする前は、自分の曲が存在しないので、他人の楽曲だけをかけていたわけですが、ある地点からぐっと上を目指すには自分にしかない「何か」が必要だと強く思ったんです。まわりの尊敬するアーティストや、憧れのDJはみんな名刺代わりに自分の楽曲があった。だから頑張って曲を作って「DJ KAWASAKI」としてデビューしました。でもデビューから10年以上経過したので、自分自身で環境を変えなくちゃいけないなと感じたんです。
- 具体的にどうやって変わっていったんですか?
DJ KAWASAKI: 2012年に「Black & Gold」というディスコのカヴァーアルバムを出したんですが、そのなかで吉田美奈子さんの「Town」のカヴァーを収録させていただいたんです。それは大きなキッカケだったと思います。もちろん自分のなかでは狙いでもあったんですが、うまく潮目が変わったというか。その後2015年に発売した「Timeless」では、同じく吉田美奈子さんが作詞作曲されたアン・ルイスさんの「Alone In The Dark」のカバーを収録しました。そうやって少しずつ今の流れに繋がってきたんです。
-「吉田美奈子 - Town」は今では海外の人もヘビープレイするくらい、最近は邦楽のディスコも評価されてますよね
DJ KAWASAKI: そう、あのとき和ブギーの名曲のカバーをやらせてもらったのは本当に貴重な経験になりました。それが今のNAYUTAHのリリースにも実は繋がっているんですよね。自分も歴史に残る和ブギーの名曲と言われるようなオリジナル作品を作りたい!絶対に作ってみせる!という衝動があったんです。
- そこで具体的にレーベルへの道筋が見えたわけですね?
DJ KAWASAKI: それから、3年前にヨーロッパのフェスティバルに行く機会があって。その時色んな人に出会って感じたのが「レーベルをやってる人」ってちょっと一目置かれているんですよ。昔はプロデューサーだけがそういう目線で見られてましたが、ソーシャルネットワークの普及とか、色んな音楽の聴き方や買い方が増えているおかげで、レーベルをやっていることが楽曲をリリースしていること、いやそれ以上の自分の名刺になってきているんだなと感じたんです。この年齢で改めてレーベルをスタートさせるのも茨の道とは思いますが、何事にも始めるのに遅いことはないですしね。ラッキーなことに音楽制作は年齢関係ないですから。これまでの経験を活かせるだろうし、とにかくやってみたいなという気持ちが強かったので、帰国してからそのスピードが加速しましたね。
- 実際にレーベルを準備してみて、何か苦労はありましたか?
DJ KAWASAKI: 自分の性格的に一つのことに集中したら他のことに目が行かなくなっちゃうタイプなので...(笑) 楽曲制作以外の事務的な作業はなかなか大変です。わからないところは沖野さんや事務所のディレクターにアドバイスをいただきつつ進めています。でも数年前にメジャーでの契約を終えて、ちょっとずつ自分の身の回りの音楽活動、The Roomでのイベントやそれこそラジオも、自分自身でこなしていくことで自然とできるようになってきましたね。不安な気持ちもあったんですが、同時に根拠のない変な自信もあったんでしょうね(笑)
上京したときは、The Roomでバーテンダーをしつつ、音楽を作ってDJをする生活に喜びを感じていたし、それだけで幸せでした。時が経って自分をとりまく生活環境は少しづつ変化してきたけれど、音楽を作っているときは変わらず幸せです。音楽を作って発信し続けることは一生の仕事にしようと改めて決意できたんです。で、色々振り返って考えたときにまだやりたいことも沢山あって、アイデアや意欲があるってことはまだ自分にエネルギーがあることだから、自分の才能を信じてそれを続けるしかないですよね。
- 特にこの数年間は濃かったんですね。
DJ KAWASAKI: ですね。とはいえ、さっきも言ったけれど、ハウスミュージックはもちろん大好きですよ。今のフィーリングで、DJ KAWASAKIらしさがありつつ進化した作品を作っていきたいと思っています。それに、レーベルオーナーになるからには、今まで以上に沢山の方達のサポートが必要だと思うので、レーベルの成長とともに、自分も人間として成長していきたいと思っています。
- 今回はその「Kawasaki Recordsにインスピレーションを与えた5枚のレコード」を選んでもらいました。5枚全て、7インチを選んでますね。
DJ KAWASAKI: はい。今後、自分のレーベルからリリースする予定の僕の楽曲のイメージは、70年代~80年代前半のディスコをエディットしたような新譜を目指しているんですが、Danny Krivitや、Sadar Bahar、Muroさんのレーベル、Sauce81の曲など、僕が影響を受けた好きなアーティストや作品、レーベルの7インチをいくつか持ってきました。7インチって1曲の長さがとても短いんです。長くても4分だったり。12インチは6分や長くて10分の音源もあります。もちろんDJでは両方かけますよ。ただ、短いスパンでどんどん選曲していける7インチは、フロアを飽きさせないこともメリットの一つと感じています。そのフォーマットのかわいさはもちろん、7インチだけのヴァージョンもあることも魅力の一つですね。
1)「Sadar Bahar - Angel Man / Soul Searching」(Sounds Familiar 2013)
2)「Mr. K – 45' Sessions」(Sounds Familiar 2014)
DJ KAWASAKI: 「Sounds Familiar」はレーベルのカラーが面白いなと。イベントも積極的に開催しているし、リスペクトしてます。Sadar BaharやVolcovの音楽が好きですしね。これは、どっちもエディットなんですが、とても注目しているレーベルの一つですね。
3)「Rare Earth / Jermaine Jackson – The Mr. K Edits」(Most Excellent Unlimited 2016)
DJ KAWASAKI: 上でも挙げましたが、僕の中でDanny Krivit(Mr.K)の存在は凄く大きいですね。自分がディスコやハウスにのめり込んでいった当初から彼の楽曲を沢山買ってプレイしてました。彼のドラマチックなDJも大好きだけど、エディットのセンスも本当に素晴らしいです。自分のプロダクションにも凄く影響を受けていますね。
4)「Sauce81 – Dance Tonight」(Eglo Records 2017)
DJ KAWASAKI: これはディスコやハウスと簡単にカテゴライズできない、今のサウンドの代表的な1枚かもしれませんね。実はSauce81には今後リリース予定の新曲で歌ってもらっているのでお楽しみに!自分のレーベルでも、こんな名曲を出せたらいいなと思ってます。
5)「Pleasure – We Have So Much / The Blackbyrds - Blackbyrd's Theme」(Captain Vinyl 2015)
DJ KAWASAKI: 最後はレーベルとして目標にしているCaptain Vinyl(DJ Noriさん、Muroさんのユニット)の7インチです。お2人は説明不要ですね。国内外で活躍されているレジェンドです。DJとして確固たる地位を確立し、多忙ながらもEditやプロデュースなど音楽制作も積極的に取り組んでいる。DJプレイにフォーカスした本格的な作品のリリースを中心にしながら商業的にも日本で成立させている目標のレーベルです。
- 11/3レコードの日に同時にデヴューしたNAYUTAHについても触れたいです。今回DJ KAWASAKIが作曲、沖野修也が作詞、そしてリリースされる7インチレコードにはMuroそして、Ryuhei The Manのエデイットで収録されている豪華な顔ぶれですね。
DJ KAWASAKI: 「現代のシティソウル」ですね。彼女のもつダーティーで雰囲気のある声と、生演奏を生かしつつ、たとえばデヴュー当時の吉田美奈子さんのような、都会感があってジャズ、レアグルーブ感も彷彿とさせる曲が作りたいと思っていました。生音なんだけど、アルバムの中には80年代初期のエレクトロニックなエッセンスも取り込んでみたいので、今は彼女のアルバムのリリースに向けて鋭意制作中といった感じですね。引き続き自分のリリースも含め、やらなきゃいけないことは沢山あります。
- 最後に今後のリリース予定や目標などを聞かせてください。
DJ KAWASAKI: このレーベルからの作品を、日本をはじめ世界中の人に認知してもらえるよう、定期的なリリースを続けたいと思います。リリースしたサンプル盤をデジタルで渡しても、レコードに拘りのあるアーティストには聴いてもらえないことがあるので、レコードという形で渡せるといいなと。それを名刺がわりに、これから海外でも定期的にギグがとれて活躍できるようになれるといいなと思います。
「Don't Put My Heart Down feat MAYLEE TODD」そしてNAYUTAHのデヴューシングル「GIRL(MURO EDIT) / 見知らぬ街(RYUHEI THE MAN EDIT)」は11/3(土)から発売中。この機会に7インチ、そしてレコードの魅力に触れたい方は、レコードの日オフィシャルサイトもチェック。
Written by M.A
Photo by Ki Yuu