・経歴がスゴいまずGilles Peterson (ジャイルス・ピーターソン)がどんな人か?彼は世界的に最も影響力のあるジャズDJと呼ばれています。「ジャズで世界的?」それは何故なのか?フランス生まれ、ロンドン出身のDJで、ラジオパーソナリティー、そしてレーベルオーナーとしても活躍する彼は、イギリスで80年代から流行した「アシッド・ジャズ」と呼ばれるムーブメントがあり、そのキーパーソンとして世界的に知られる存在となります。アシッド・ジャズとは、それまでいわゆる大人のための古典的な音楽の認識があったジャズを「踊れるもの」「クールなもの」としてダンスミュージックシーンに再定義し、新しい価値観を見出したことからダンスカルチャーのみならず、ヒップホップなどの現代的な音楽と融合し、一躍世界的なムーブメントに発展します。80年代後期にジャイルスは自身のレーベル、その名も「Acid Jazz (アシッド・ジャズ)」を設立。そこにはあのジャミロクワイやブラン・ニュー・ヘヴィーズといった後に世界レベルのアーティストに成長するバンドも多数いました。また同時にラジオDJとしても海賊ラジオからキャリアをスタートし、イギリスの国営ラジオ局「BBC Radio 1」 で10年以上に渡って看板番組「WORLDWIDE」を放送することになります。この番組はイギリスのみならず世界中で放送され、ラジオ賞を受賞するほどの人気番組になります。日本でもJ-WAVEにおいて番組がやっていたので聴いたことがある人も多いのではないでしょうか?「Acid Jazz (アシッド・ジャズ)」以降は、90年代に「Talkin' Loud (トーキン・ラウド)」を設立し、インコグニートやガリアーノ、NYハウスの重鎮マスターズ・アット・ワークの変名ニューヨリカン・ソウル、MJコール、ドラムンベースシーンからは4ヒーローやロニ・サイズといった才能を輩出し、彼等のアルバムも4ヒーローなどはイギリスの権威ある「マーキュリー賞」にノミネートされるなど、クラブシーンにおいて最も影響力を持つレーベルとして人気を博しました。彼自身もその音楽的知識とセンスを駆使し、数々のジャンルを問わないコンピレーションやMIX CDをリリースし、彼の名前があるだけでみんなが安心して買っていくような絶大な信頼を勝ち得ます。彼の何がスゴいって今や世界的に売れているアーティストもいち早く見出して、ラジオなどで紹介し、それがみるみるうちに世界的な人気を集めていくんです。ジャミロクワイは一番分かりやすい例ですが、近年彼が新たに立ち上げたレーベル「BROWNSWOOD RECORDINGS (ブラウンスウッド・レコーディングズ) 」では今やジャズの名門ブルーノートでも活躍しているシンガーJose Jamesのデビューもここからだったり、とにかく先見の明に溢れているんです。また大の親日家で早い段階から日本のジャズにも注目し、沖野修也氏率いるKyoto Jazz Massiveの名付け親とも言われたり、日本を代表するDJ 松浦俊夫氏の所属していたユニットU.F.OやSOIL&"PIMP"SESSIONSをいち早くピックアップし、世界進出にキッカケになるなど、ここ日本でも高い人気を誇っています。他にも大人気ゲーム『グランド・セフト・オートV』でゲーム内の架空のラジオ局「WorldWide FM」のDJに選ばれたりとその活動は多岐に渡ります。現在も「BBC Radio 6 Music ( http://www.bbc.co.uk/programmes/b01fm4ss )」に籍を移し、そこで毎週3時間の放送を行っています。・DJ/選曲がスゴい何故に彼がここまでになったのか。それは何よりもその選曲眼にあると思います。僕が彼を初めて知ったのが「BBC Radio 1」の放送なのですが、とにかく幅が広い!一般的にジャズDJと呼ばれていても、自分のテイストに合ったジャズ〜ソウル〜ファンクから、ヒップホップやハウス、テクノ、さらには新しいムーヴメントにも抜かりなく目をつけドラムンベース、2step、そして最近ではダブステップやバイレファンキ、Juke/Footworkまで、年を重ねてもなお新しい音楽を積極的にチェックしているんです。しかもそのジャンルが一大ブームになる前に、本当に出てきたての頃から面白い音を紹介してくれるんですね。それに加えて旧譜、いわゆる昔のジャズやソウル、ブラジル音楽などにも精通している。さらに面白いのはそのプレイスタイルです。一つのジャンルに絞られないだけでなくて、そのプレイも本当に自由自在で、ジャズの次にヒップホップが来たと思ったらテクノが来て、気付けばダブステップになってる。その合間に自然に昔の音楽もさりげなく混ぜたり、時にはポップスまで?!と、とにかくサプライズを感じさせてくれるDJなのです。実際に僕が彼を知った10数年前から来日の度にDJを観に行っていたのですが、毎回その時期のフレッシュな音楽をフレッシュな感性で聴かせてくれて、とても刺激を受けました。そしてMIX CDやコンピレーションもリリースの度にチェックしていますが、「何だこの曲は?」と思わせてくれるような出会いを沢山させてくれます。しかも聴き心地も良い選曲なのでジャイルスを知らない人にもとてもオススメしやすいのです。僕的なベストは自身の看板番組をタイトルにした「Gilles Peterson : Worldwide」。CD2枚組なのですが、まるでラジオ番組のように時代も国境も軽々と超えた選曲は、曲順や流れの作り方も完璧で、特にチル寄りなDISC2の「繋がない繫ぎ」「空気で繋ぐ」スタイルは今の自分のDJにもとても大きな影響を与えました。今では選曲のみならずプロデューサーとして、キューバのアンダーグラウンド・シーンにフォーカスしたプロジェクト『Havana Cultura : New Cuba Sound』をリリースしたり、昨年は敬愛するブラジル音楽のドキュメンタリー映画「Brasil Bam Bam Bam: The Story of Sonzeir」を手掛けたりとその活動の幅を留めることを知りません。