ヒップホップの長年のファンであれば耳にした事がある90年代ヒップホップ東西抗争。この抗争の中で殺害された2パック(2pac)とノトーリアス・B.I.G.(The Notorious B.I.G.)2人の楽曲は今も聴かれ続けるが、この事件に関していまだ犯人が捕まっていない事も有名だ。
今回メディアサイト「VICE」のインタビューに応えたグレッグ・ケイディング(Greg Kading)は元ロサンゼルス市警察の刑事であり、事件から9年が経過したのちにノトーリアス・B.I.G.殺人事件を再捜査するグループのリーダーだった人物。そんなグレッグ・ケイディングが捜査のちに辿り着いた真犯人の姿を語っている。
迷宮入りとなっていた捜査に着手するさい、事件に関与したと思われる人物の相関図を作り、一人ひとりに対して捜査を行ったとインタビューの冒頭で話すグレッグ・ケイディング。その中で当然キーパーソンとなったのはノトーリアス・B.I.G.の所属していたレーベル「Bad Boy Records(バッド・ボーイ・レコード)」の代表であり、自らもラッパーとして活動するパフ・ダディ(Puff Daddy)、本名ショーン・コムズ(Sean Combs)、そして2パックの所属していたレーベルの代表シュグ・ナイト(Suge Knight)の2人。さらに2人を取り巻くギャング集団、クリップス(Crips)とブラッズ(Bloods)が大いに関与していたと語っている。
必然的に2パックの犯人究明にも繋がった捜査の中で、2パックを射殺した犯人として名前が挙げられたのが、オーランド・アンダーソン(Orland Anderson)という人物。ショーン・コムズは当時ニューヨークで有名だったドラッグ・ディーラー、ジップ(Zip)と繋がりがあり、ジップは西海岸のクリップス、キーフィー・D(Keefe D)より薬物を仕入れていたという。そしてそのキーフィー・Dの甥にあたるのがオーランド・アンダーソンという相関図だと語る。
オーランド・アンダーソンは2パックが殺害された夜に2パックとその取り巻きによって暴行を受け、その後2パックを襲った車のバックシートにも乗っていた。そして車の中でキーフィー・Dより銃を渡されたオーランド・アンダーソンが2パックを撃ったとのだとグレッグ・ケイディングは語る。彼の捜査が正しければ射殺した犯人はオーランド・アンダーソンということになる。
それでは何故逮捕に繋がらなかったのか、時間をかけて捜査をまとめられていれば逮捕のチャンスはあっただろうとグレッグ・ケイディングは話すが、オーランド・アンダーソンは1998年にカリフォルニア州コンプトンで銃撃戦の中で死亡しており、真相究明とはならなかったようだ。
一方でノトーリアス・B.I.G.殺害の犯人についてもインタビューの中で語っている。ノトーリアス・B.I.G.を射殺した人物はプーチー(Poochie)と呼ばれる人物で、シュグ・ナイトによって雇われたのだという。プーチーはコンプトンのブラッズのメンバーであり、シュグ・ナイトと関係の深い1人だと言われており、ギャングの中でもヒットマンとして知られていた彼はシュグ・ナイトが殺害を命じるにはうってつけだったようだ。実行犯がプーチー1人なのか、それとも他に協力者がいたのかはわからないとグレッグ・ケイディングは話している。
しかしプーチーもまた、2002年に何者かによって殺害されており、オーランド・アンダーソンと同じく逮捕に至る事はなかった。そしてシュグ・ナイトは現在別の殺人事件の罪に問われ、28年もの刑期を課されているため、ノトーリアス・B.I.G.殺害事件の捜査に今後協力する事もないと思われる。
これまでにいくつものドキュメンタリー映画で語られてきた2パックとノトーリアス・B.I.G.の殺害事件だが、今年Netflix限定で配信された『Unsolved: 未解決ファイルを開いて』ではこれまで以上に事件の真相に迫っている。それもそのはず、この番組のエグゼクティブ・プロデューサーの1人には今回VICEのインタビューに応えたグレッグ・ケイディングが名を連ねているのだ。
『Unsolved』ではグレッグ・ケイディング以前に捜査にあたっていた、元ロサンゼルス市警察の刑事ラッセル・プール(Russell Poole)の話も盛り込んでおり、2パックとノトーリアス・B.I.G.の生前のストーリーとラッセル・プール、グレッグ・ケイディング両者の捜査の行方の3つの時間軸から構成される展開となっており、登場する人物の人間関係、捜査中のもどかしさなども垣間見ることができ、非常に見応えがある。『Unsolved』を見ると、今回のインタビューの内容がより理解できるので是非チェックして欲しい作品だ。
亡くなって長い時間が過ぎても2人に近い関係者は口を揃えて「2人は親友だった」と話す。ノトーリアス・B.I.G.の弟分でもあるLil Cease(リル・シーズ)は当時先に有名になっていた2パックが頻繁にノトーリアス・B.I.G.の地元に遊びにきていたことを明かしている。
フルトンモールと呼ばれるニューヨーク・ブルックリンのショッピング街でよく集まっていたノトーリアス・B.I.G.とその仲間たち。もちろん当時は今ほど治安もいいわけがなく、2パックとしても余所者として足を運ぶには覚悟が必要だったはずだが、それでも会いに行っていたとは固い友情で結ばれていたということだろう。
それぞれにアルバムが世界中で有名な2人だが、最終的に敵対してしまっただけあって共演している曲は少ない。その中でも特に有名な曲がドキュメンタリー『Tupac: Resurrection』のサウンドトラックに収録されている「Runnin' (Dying to Live)」だ。
なんとエミネムのプロデュースによって完成されたこの曲はノトーリアス・B.I.G.が2パックと共演した別の曲のボーカルと、2パックの未公開ボーカルを使用している。ドラマティックな展開が胸を打つ名曲だ。
今後のこの事件が解決される事はあるのだろうか。事件の鍵を握る人物の中にはすでに死亡している人物もいて、今後再々捜査となってもこれまで以上に難航するだろう。未解決事件という事もあって、よりミステリアスに伝えられていく、2パックとノトーリアス・B.I.G.の半生。ファンとしてこれからも彼らの曲を聴き続ける事は確かだ。
written by #BsideNews
source:
https://www.facebook.com/VICE/videos/272499596741715/
https://www.netflix.com/jp/title/80177416
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