人気俳優、ミュージシャンのディーン・フジオカの最新曲「Echo」が、自身が主演するドラマの主題歌として採用されることが明らかになったのだが、なんとその曲が昨年あたりからイギリスのロンドンで現在人気になっているベースミュージックの新ジャンル「Wave」を取り入れたものになっているというから驚きだ。
「Echo」が主題歌となるのはディーン・フジオカ主演で4月19日(木)22時からスタートするフジテレビのノンストップ復讐劇・木曜劇場『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』。フジテレビによると、新曲は全編英語の歌詞で、「絶望の淵に立たされた主人公が“復讐心”を抱くに至った過去への嘆きや、“運命”が自分を何故今生かしたのかといった主人公の心情だけでなく、ドラマのストーリーの謎をひもとくような要素」になっているという。
またそのサイト上では音源が「Wave」に影響を受けた世界基準のサウンドと上記されており、現在はドラマの30秒スポット動画で視聴可能だ。動画では前半部分こそ、Waveの要素はあまり見受けられないが、最後の5秒あたりでは完全にWaveなサウンドを聴くことができる。そのどこか冷たく攻撃的なほどに低音が聴いたベースや耽美なシンセが織りなすサウンドはまさにWaveそのものといった感じの仕上がりで、正直なところ、ディーン・フジオカの本格的なWaveへのアプローチには感服させられる。
Waveは現在、ロンドンを震源地としながら、現地の若いクリエーターやファンがコミュニティーを形成。Rinse FMやRadar Radioといった人気のクラブミュージック系ネットラジオ局だけでなく、国営放送のBBC Radioでも頻繁にオンエアされるなど、次に大きなブレイクが予想される同国におけるダブステップ以降の新しいベースミュージックだ。
その基本的な音楽的特徴は先述のように冷ややかで耽美的なシンセと女性声のヴォーカルサンプルといった上モノ、強烈に低音が効いたベースライン、そしてトラップを彷彿とさせるビートフォームなのだが、元々がクラブでのDJプレイを意識せずクリエーターのベッドルームで作られていたものだけあってテンポのレンジもBPM100~140くらいまでと非常に幅が広い。
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さらに筆者が以前、シーンの中心人物でWave専門のレーベル兼コレクティヴ「Liquid Ritual」を運営するKarefulにWaveの定義とは何か質問してみたところ、厳密な定義はなく、Waveとはダブステップ、グライム、UKガラージ、トラップなどすでに存在するベースミュージックの要素を持つものという答えが返ってきたことから、Waveとは最先端のベースミュージックでありながら、様々なベースミュージックの要素を併せ持つ、いわばキメラ・ベースミュージックだといえる。
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ディーン・フジオカの公式サイトには今回の新曲「Echno」に関して、”ロシアや東欧のクラブミュージックにハマっていたこともあり、その東方正教会の様式美を連想させるサウンドから受けたインスピーレーションを、自分の楽曲の中で過去最もスロウなBPMに乗せる事で、一音一音が重く響くよう表現しています”というコメントが見受けられる。
Waveに関していえば、先ほどロンドン震源地だと書かせて頂いたが、コメントにある東欧では特にポーランドのワルシャワやクラクフといった都市では、本場ロンドンのシーンとも交流が盛んであり、定期的にロンドンのWaveアーティストやDJが招かれイベントを開催。Waveにとってはポーランドのそれらの都市はロンドンに次ぐ第二の震源になっているといっても過言ではない。
そんなWaveシーンの昨年を振り返れば、シーンの発展や加速を意味する重要なリリースもいくつか行われており、主にヨーロッパを中心にこれまで以上に注目を集めた。その中でも特に重要なのはシーンの今がよくわかるコンピレーション音源のリリースだ。 2017年のWaveシーンにとって重要リリースとなったコンピレーションの1つは、シーン黎明期からこのコミュニティーにとって貴重な情報源となっていたコレクティヴ「Wavemob」がリリースした『Wave 003』。本作には同コレクティヴを主宰するWaveの最重要アーティストの1人、Klimeksらの曲が収録されている。
そして、シーンの支援者でもあるPlasticianがコンパイルした『Wavepool 2』にも先述のKlimeks、Kareful以外に人気アーティストによる現行Waveの傑作全29曲が収録されている。
音源のリリース以外にもWaveシーンは、ネット上で誕生した音楽ではあるものの「URL to IRL」、ネットから現実世界へというモットーを掲げており、昨年9月に、KarefulがWaveアーティストとして初来日公演を行ったり、12月にはテクノの大御所アーティストOrbitalのツアーではオープニングアクトも務めるなど、着実に活動の場を広げている。
そして、今年に入ってからもポーランド人WaveアーティストであるEnjoiiのデビューEPに収録された「Let U Go」が、Porter Robinsonの別名義プロジェクト「Virtual Self」のDJミックスにも使用されたりと、徐々にだがアンダーグラウンドなクラブシーンからメジャー方面にも進出しつつある。
そのような状況の中で、いち早くWaveをJ-POPに取り入れたディーン・フジオカ。おそらく彼は日本だけでなく、世界的に見ても初めてWaveをメジャーなポップスシーンに持ち込んだ人物ではないだろうか?
90年代にはダウンタウンの浜田雅功と小室哲哉によるユニット「H Jungle with t」が、クラブミュージックの「ジャングル」を取り入れた「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」をリリースし、世界で1番売れたジャングルのCDにするという偉業を作ったが、このディーン・フジオカの新曲も彼の知名度から考えると世界で1番のセールスを記録したWaveの曲になる可能性は決して否定できない。
完璧なクオリティーでWaveをJ-Popのフィールドに落とし込んだ「Echo」。現段階で早くも最高が期待できる日本初のWave J-POPを一日でも早くフルで視聴したい。リリース日が楽しみだ。
参考:
http://www.deanfujioka.net/news/1308/
http://www.fujitv.co.jp/muscat/20180156.html
https://wavemob.bandcamp.com/album/wave-003
https://terrorhythm.bandcamp.com/album/plastician-presents-wavepool-2
Written by Jun Fukunaga
Photo: deanfujioka.net