ディーン・フジオカとKareful、濃密すぎるWave談義で語った、ベースミュージックの最前線

ディーン・フジオカに影響を与えた東欧Waveシーンなどから制作機材までWaveに関する熱いトークが行われた。
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2018.07.03 09:00

6月20日にWaveの最新シングル「Echo」をリリースしたディーン・フジオカと、Waveシーンの中心的プロデューサー/DJとして知られ、ロンドンのWaveレーベル「Liquid Ritual」を運営するKarefulが対談を行なった。


ディーン・フジオカとKarefulがWaveについてクロストーク


ディーン・フジオカが日本のメジャー音楽シーンにWaveを持ち込んだことは、これまでにでも度々ご紹介してきた。リスナーであれば、彼のWaveに関する造詣の深さはすでにご存知のはず。一方、Karefulは昨年のアジアツアーに引き続き、今年6月には再びアジアツアーを行い、東京を含めて中国の北京と上海でプレイ。そのため、まだまだアジアではアンダーグラウンドな"Asian Wave"の最前線をよく知る人物だ。そんな2人がついに東京にて出会い、自身の音楽活動、表現における重要な要素として選んだWaveについて熱く語り合った。




「Echo」の本質は商用であるにも関わらずアンダーグラウンドの雰囲気を踏襲していること


▶︎ディーンさんは、「Echo」制作にあたり、東欧やロシアのWave的な音楽を聴いたことをきっかけに興味を持ちだしたことはすでに明らかにされていますが、その中でイギリスのWave、特にKarefulやレーベルLiquid Ritualにはどのような印象をもちましたか?


ディーン・フジオカ(以下D): 去年の12月頃でした。wavemobのコンピレーション『wave 002』を聴いた時に、あまりの衝撃を受け、ハマってしまいました。テレビドラマ「モンテ・クリスト伯」の主題歌を「神に届かない祈り」というテーマで作っていたので、初めてそのコンピレーションでKarefulはもちろん、Trash LordやベラルーシのKing Plagueを聴いた時に「これだ!」と思い、そういったイメージで作り上げました。


物語の中で主人公は社会的に殺され、復讐するために別人として甦るので、Waveのどこか物悲しいサウンドは最適でしたね。そういうこともあってシンセサイザーの音にもこだわりましたし、グライムやウィッチハウスで良く使われるような音を使いました。 ピアノの哀愁漂うイントロとWaveのダークなサウンドが完璧にマッチした作品になっていると思います。



▶︎Karefulさん、日本のメジャーアーティストが「Echo」でJ-PopにWaveを持ち込んだことを最初知った時、どのように思いましたか?


Kareful(以下K):「Echo」が興味深いのは、テレビ番組に使われている音楽にしては非常にアンダーグラウンドなサウンドに仕上がっていることですね。ある意味「商用」音楽であるにも関わらず、サウンドが変に「キレイ」になっていない。アンダーグラウンドの雰囲気を踏襲しているところがうれしかったですね。


▶︎イギリスではこのようにメジャーなアーティストがWaveを制作することはあるのでしょうか?


K:普通にあり得ると思います。ただ、Waveのサウンドを採用したメジャーな曲はディーンさんの「Echo」しか今のところはないと思います。


というのも、ダブステップや他のUKジャンルもそうだったのですが、ラジオヒットが1つ出ると色々な人がその音楽を作り出すんですよ。これからどんどん出てくる事は大いにあり得るとは思いますけど。


ただやはりWave初の商用音楽が日本からリリースされたという事には驚きました。その一方で、このジャンルが好きな人は日本のモダンな雰囲気に憧れていて、SoundCloudでもユーザー名を記号や漢字にするような人が聴いているという感じです。


D:へぇ~、そうなんだ!


K:だから、Waveが日本でそのような形で取り上げられたことは実はそこまで不思議なことでもないのかなとも思っています。





アジアのWave事情


D:気になっていたのですが、日本人のWaveアーティストは知っていますか?


K:何人か知っていますが、そこまでメジャーにはなっていないですね。Dosingという東京のクルーのSteffen Yoshikiとかは作っていましたね。あと、上海には何人かいるのですが、まだ個人のサウンドを探っていると言った感じですかね。でも、この曲(Echo)以降に色々な所からWaveを作るアーティストが出てくると思います。海外ですとロンドンに数人、アメリカにも数人しかいないのですが、ポーランドや他の東欧の国にはかなりの人数のWaveアーティストがいます。


▶︎今回のアジアツアーでは日本以外にも中国でもプレイしていました。そちらのシーンは今、どのようになっていますか?


K:中国だと上海にWaveのアーティストが多いという感じですね。DownstateやKhemistというアーティストたちがいます。ただ、Downstateは実はイギリス人なので、厳密に言えばアジアのアーティストとはちょっと違いますが。


中国のシーンはネット規制の関係でフォローするのが難しいので中々分からないのです。ただ、1つだけ確かなことは、中国のシーンは、ほぼライブがメインになっているということです。


10~20年前のロンドンに似ています。しかし、インターネットが発達してからは、ヨーロッパではほとんどの音楽コミュニティは、大抵オンライン上に存在します。例えば、いつもテキストやメールでやりとりしているプロデューサーでも実際には会ったことのない人がほとんどといった感じですね。そういう意味では、自分の存在を世に送り出すハードルは大分下がっているので、良いことではあるんですが。またそんなこともあったからWaveのコネクションを作りたいと思っていました。




Karefulはシーンにおける指揮者的な立場の人間だと思っています


D:実は、YouTubeでモチベーションが高い若いクリエーターたちがどのようにしてWaveシーンに参入してくるのかみたいな内容のドキュメンタリーを以前、見た時にあなたのこと知りました。それ以来、あなたはWaveシーンのプロデューサーもしくは指揮者的な立場の人間だと思っています。


K:僕は2011年、Waveがジャンルとして確立される前の時期にその存在を知ったのですが、その時はまだ実験段階の”子供”のようなものでした。それからずっとシーンを見続けていますがWaveは発展を続けています。


ジャンルの発展という意味では、これまではレコード店やクラブの中のように現実世界での流行がきっかけでした。しかし、Waveのアーティストたちのほとんどはネット世代で、ベースはネット上でした。20人くらいのシーンの有名人がいるものの、やはりネット上ということもあって、出身や住んでいる国もバラバラ。なので、そういう状況からムーブメントを起こすのは大抵難しいのですが、自分的にはWaveは発展の可能性があるジャンルだと信じていたし、観客を巻き込んでいけると思っていました。


イギリスのアンダーグラウンドなベースミュージックシーンというのは大抵、観客も男性がほとんどなのですが、Waveの場合はそれとは違っていて、イベントに来る男女の比率がほぼ同じなんですよ。僕がギグをやる時でもガールフレンドが彼女の友達を連れてきたりしますし、興味深いですよ。





あとWaveシーンの強みはDIYなところです。Plasticianのような大物DJたちのサポートはありましたが、どこかのメジャーレーベルがシーン発展のために100万ドルの小切手をくれるなんてことはなく、手弁当でイベントやレーベルを運営しているという感じですね。


最近は、どうやって運営しているのかよく質問されますが、その場合は大抵「自分たちで全てやっているし、君達もそうするべきだ」と答えています。Waveのコミュニティはまだ非常にタイトで、ヒエラルキーとか派閥とかもない。誰もがシーンでは比較的に有名なアーティストの僕にでも気軽にコンタクトすることができる。そういうオープンな雰囲気はシーンの特徴であり、強みでもあります。


ポーリッシュWaveの特徴とは?


▶︎なるほど。ではポーランドでもよくプレイされていますがそちらのWaveシーンは?


K:ポーランドのシーンは、個人的には一番興味深いと思っています。非常に大きなシーンがあり、アーティストたちが多く、ポーランド中を回ってプレーしています。非常に大規模なイベントもあるのでプレーしがいがあります。


何故そこまでシーンが成長したかと言うと、ベースミュージックとしては初めてのポーランド発のムーブメントであったということが挙げられると思います。彼らは自分達の文化に非常に誇りを持っていたのですが、今までは曲の名前やマーケティングまでをも英語でやっていて、ある意味では借り物というか非常に屈辱的だったようです


しかし、今は全てポーランド語をベースにして、愛国心が再着火されたようです。ポーランド発のクラブミュージックムーブメントはWaveが初めてではなく、「Disco Polo」というジャンルもあったのですが、それは非常に古臭い感じで、民謡とハウスをごちゃ混ぜにしたような感じでした。だからこそWaveに対する愛は大きいみたいですね。実は僕もポーランド語で一曲作ったのですが、綴りも読み方も未だにわかりません(笑)。



D:ポーリッシュWaveには特徴的なサウンドはありましたか? 例えばどんなサウンドがシグネチャーサウンドみたいなものとか。


K:サウンド的にはウィッチハウスに似たような感じでしたが、もう少し早く、グライムの要素も入ったような感じでした。BPMで言うと140位ですかね。生々しさもありつつ、クリーンなサウンドに仕上がっていてかっこ良かったですよ。また観客は何でも踊ってくれるので、プレーしていても非常に楽しかったです。ロンドンではEDMを含むダンスミュージックが衰退しつつある中、ポーランドはまだまだ伸び代があると思います。クラブの質もロンドンより遥かに上で、セキュリティガードも二人しか要らないような安全な環境でした。


Waveは独特のスタイルがあるものの、ルールにはそこまで固着していないので、BPMやビートの激しさに関しては自由な部分がありますね。だからこそクリエイティブな音楽が生まれる。誰かが成功を収めるとコミュニティのみんなで喜ぶといった雰囲気でやっています。


D:近いうちにNetflixやHuluがWave版「Get Down」を作り始めるかも知れませんね(笑)。


K:それはあり得るかもしれませんね。もうすでにかなり堅実な基盤が出来ているので、有名なアーティストが1曲ヒットを出せば、すぐに火が着くと思いますね。ここからの数年が非常に楽しみです。





Wave制作機材やそのプロセス


D:ちなみに気になっていたのですが、トラックを制作する時、どんなDAWを使っていますか? あと制作の際はどんなプロセスでWaveを作っているのですか?


K:まずDAWはFL Studioを使っています。なぜかと言いますと、元々はダークなヒップホップやトラップを作りたかったからです。でも最近はFLでは追いつかなくなってしまっているので、Ableton Liveに変えようと思っています。


でも最近は外からのプレッシャーがあって、少しストレスを感じています。1つのやり方で慣れていると新しい音を生み出すのが難しくなってしまうので少々戸惑っています。


音楽の制作方法にも色々あって、私の知り合いは妹のラップトップとiPhoneのイヤホンを使ってやっている人もいるのですよ。彼はオーケストラルなWaveを作っているのですが、僕はもう少しメロディに重点を置いた方式でやっています。その点でいえば、やはりピアノのバックグラウンドがあるというのは助かっている部分ですね。



▶︎WaveアーティストのSKITと一緒にプリセットサウンドパックも制作されていますよね?


D:えっ、そうなんですか? それは「Splice」で販売しているとかですか?

*Splice:音楽制作で使うループなどサンプル素材を定額制で提供するサイト


K:いえ。別ですね。これについてはフルタイムで音楽をやっている僕でも、ストリーミングの収入が3ヶ月に1度しか入ってこないので、経済的に少々厳しい時があって。僕はラッパーやMCのためにビートを作ったりしているのですが、SKITはドラムの音を録音し、サウンドデザインして、それをパックとして売っていますね。


僕たちの音楽を聴いているプロデューサーたちから「これはどんなシンセを使っているの?」という質問をよくされるので、Waveパックのようなプリセットを作りました。収入源にもなるので一石二鳥ですね。


プロデューサー業を始めた頃は、それこそプリセットパックをダウンロードして、そのシンセの音に似せたサウンドを作るようにして練習をしました。なので、そのパックもそういった感じで使って頂けたらうれしいですね。「Sellfy」というサイトでダウンロード購入できますのでよろしくお願いします! 




影響を受けたのはThe Chemical Brothers


▶︎ ディーンさんは「Echo」制作にあたり、BurialやSkepta、あとWitch Houseからの影響もあることを明かされていますが、Karefulの場合は音楽的な影響を一番受けたアーティストは誰ですか?


K:色々な人に影響を受けているのですが、小さい頃から聴いていて影響を受けたのはThe Chemical Brothersで、特に「Swoon」という曲にハマっていましたね。僕がよく使うシンセサウンドもその曲で使われていたものです。




ほかには、やはりUKのアンダーグラウンドなダブステップ。また日本人のダブステップアーティストのGoth-Tradもよく聴きますね。イベントにも何度も行ったことがあります。是非コラボをさせて頂きたいのですが、ジャンルのカルチャー的にダブステップをやっている人とは中々コラボする事が難しんですよ。ダンスミュージック以外だとロック、メタル、エモ系の音楽も好きです。




D:僕はギターを弾くんですが、昔バンドを組んでいた時はメタルをやっていました。Metallicaのカバー曲だけを演奏していたくらい好きです。


K:そうなんですね。意外です。そうですね、15歳の時にロックバンドを結成したくらいです。偶然ながら当時のロックバンドのメンバーは現在Waveを作っていて、まだシーンの中では新顔なんですが「Outsidr」という名義で活動しています。すごく良いアーティストなので、絶対に気に入ると思いますよ。



***





このように第1の震源地イギリス・ロンドンから遠く離れた日本で、Waveがメジャーな音楽シーンに投下されたことに対するKarefulの率直な感想や、逆にディーン・フジオカが彼やそのレーベルのことをどのようにして知ったかなど、ここでしか語られないようなことばかりが語られた今回の座談会。


またWaveの現状把握だけでなく、毎月音楽機材雑誌を購読しているというディーン・フジオカらしく、制作機材やプロセスについても迫ったことはさすがだと感じた。


なお、そんなディーン・フジオカの気になる「Echo」制作については、6月25日に発売された「サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号」でも特集されているので、「Echo」を始め、Waveサウンドに興味がある人は一読を。


一方、Karefulは、先月放送されたblock.fmの番組『Mixblock』にも出演。そこでは最新Wave満載のDJ Mixを披露しているので、是非チェックしてほしい。  


また、Liquid RitualがSpotifyで公開している人気プレイリスト「Wave Essentials」にはディーン・フジオカの「Echo」のほか、最新アップデートでは、そのカップリング曲の「Hope」も収録されているので、ほかの最新Wave曲と一緒にチェックするべし!


written by Jun Fukunaga




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