【レビュー】フジロックで初来日、Daniel Caesar新作『CASE STUDY 01』を聴く

Pharrell Williams、Brandyら豪華客演にも注目の新作。カナダの注目シンガーによる気持ちのいい音楽宇宙旅行『CASE STUDY 01』をレビュー。
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2019.07.24 09:30

フジロックフェスティバル 2019の前の6月に突如リリースをアナウンスし、豪華な客演にも注目が集まるDaniel Caesar(ダニエル・シーザー)『CASE STUDY 01』を聴く。





フジロックでの来日前に、Daniel Caesarの最新作『CASE STUDY 01』をチェック


いよいよ迫ってきたフジロックフェスティバル。そろそろ、フジロック関係の駐車券やら書類が手元に届き、今年も実感が湧いてきたことだろう。現地に行かない人もYouTubeでの配信アーティストが発表されたのでこちらでチェックしておこう。


block.fmでも注目のシンガーとして紹介されていたDaniel Caesarは現在アジアとハワイをまわるワールドツアー中で、「フジロックフェスティバル 2019」にて記念すべき初来日を遂げる。Daniel CaesarはカナダのシンガーソングライターでDrake(ドレイク)と同じくトロント(正確には、同じオンタリオ州のトロントから60キロほど南に行ったオシャワという都市)出身。2019年のグラミー賞ではH.E.R.と共演した楽曲「Best Part」でベストR&B パフォーマンスを受賞している。




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Pharrell Williams、Brandy、John Mayerら豪華客演も注目の最新作


今もっとも世界から熱視線を注がれているアーティストのひとり、Daniel Caesarが6月に突如リリースをアナウンスした『CASE STUDY 01』はシングルなのかアルバムなのかさえも分からなかったのだが、フタをあけてみれば豪華客演を迎え、Daniel Caesarの最新系を体感できる10曲構成の作品であった。




収録された「LOVE AGAIN」では90年代より活躍するアメリカのシンガーBrandy(ブランディ)をフィーチャー。Brandyは2000年代前半、「Talk About Our Love」や「Bring Me Down」など、Kanyeとよく共演していたイメージがあるが、15歳でデビューし、1990年代に一躍スターとなった存在。同じくアメリカのR&BシンガーMonicaとのユニットでリリースした「The Boy Is Mine」はbillboard hot100にて13週連続1位を記録している。(今で言うLil Nas Xみたいだ)


H.E.R.(ハー)やKali Uchis(カリウチス)など女性ボーカルとの素晴らしいコラボレーションを披露してきたDaniel Caesarが、ファンクバラードなトラックの上で、Brandyとともにムードたっぷりに歌い上げる。


続く「PRONTAL LOBE MUZIK」ではPharrell Williamsを客演に迎え、Pharrellはこの楽曲で惜しみなくボーカルを披露。Pharrellの声って、クレジットを見なくてもスピーカーから流れてくる歌声でだけで「ファレルじゃん! 」とさせるワクワク感がやっぱりすごい。この「PRONTAL LOBE MUZIK」はスタンダードながら、未来的なシンセを随所に散りばめているあたりも、PharrellらしさとDaniel Caesarの作品性がうまいこと融合しているように思う。


他にも多数の楽器を駆使するロンドンの若きマルチアーティストJacob Collier(ジェイコブ・コリアー)とDaniel Caesarと同じくカナダ出身のレコーディングアーティスト、Sean Leon(シーン・レオン)とコラボした「RESTORE THE FEELING」や、John Mayer(ジョン・メイヤー)参加の「SUPER POSITION」ではJohn Mayerはギタリストに徹しており、リラックスしたムードのギターのアルペジオとDaniel Caesarの歌声が響く美しい共演となっている。


インディペンデントなかたちで、サプライズリリースとなったアルバムにも拘わらず豪華な客演陣が参加しているというのはDaniel Caesarの才能と魅力の証ともいえる。





宇宙へと誘われる心地のいい音楽体験


前作『Freudian』のタイトルの意味をネットで調べたところ、ドイツの精神科学者であるジークムンド・フロイトの学説を支持するフロイト派や、無意識層の性を意味する言葉らしい。Daniel Caesarの楽曲は彼の精神性がストレートに表現されたセクシーなボーカルと世界観が特徴であるし、『Freudian』はそのまま彼のエゴと自身を取り巻くアイデンティティをパッケージングした作品である。




打って変わって、今回の『CASE STUDY 01』は、タイトルからして何か実験的な意図をもっているような印象を受ける。SNSにアップされたキーヴィジュアルとなっているのは宇宙服を着たどこかの惑星に佇み放浪しているDaniel Caesarだ。



Pitchforkのアルバム解説レビューによれば、冒頭の『ENTROPY』は、この作品のステートメントとしての役割を担っているという。死と生、信仰についてをそして科学的な隠喩を用いた哲学として説き、表現しているのだそうだ。若干24歳にしてなんと高尚な精神を持っているのだろうか。


Kardinal Official(カーディナル・オフィシャル)が参加している2曲目、レゲエ調の「CYANIDE」から、Frank Ocean(フランク・オーシャン)にインスパイアされているというクロージングトラック「Are You OK?」ではスライドギター、きらびやかなシンセ、そして歪んだ声のハウリングサウンドを用いてサイケデリックな印象を与えている。


作品全体はスローなテンポで構成されているが、Daniel Caesarによる実験的で幅広い表現により『CASE STUDY 01』は肉体から精神を引き抜いて、宇宙へと誘ってくれるような心地のいい感覚が満ちているのだ。彼がロマンチックなムードたっぷりに歌う内容は詩的で難解である。しかし、その繊細なメロディとソフトタッチなボーカルの心地良さは異常。チルなムードが漂う全10曲の楽曲群は、決して退屈という意味ではなく、記事を書きながらアルバムを聴いていて気づくと眠ってしまっていたほど。


フジロックではH.E.R.との「Best Part」やKali Uchisと共演した「Get You」など、これぞDaniel Caesarな楽曲をもちろん聴きたいけれど『CASE STUDY 01』で表現されている、波紋状に宇宙へと広がっていくような精神世界を苗場でパフォーマンスしてくれるとしたら、文字通り昇天してしまうかもしれない。


ちなみに前作『Freudian』よりも今作『CASE STUDY 01』の方がアルバムチャートデビューの初動数値は高いようで、世界的に見てもますます注目度が上がっているのが分かる。Daniel Caesarは「フジロックフェスティバル2019」の2日目、RED MARQUEEの20時から21時に登場。


昨年に作成されたフジロックオフィシャルマナー動画「OSAHO」が今年もアップデートして公開されているので、チェックして最後の準備にとりかかろう。




フジロックフェスティバル1日目に登場し、Daniel Caesarと同じく初来日を迎えるニュータイプフィメールシンガーJanelle Monáeについての記事も合わせて読んでみてほしい。


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written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki


source:https://pitchfork.com/reviews/albums/daniel-caesar-case-study-01/

https://www.fujirockfestival.com/artist/detail/5270


photo:Daniel Caesar Instagram



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