【インタビュー】Boiler Room:世界を沸かすプラットフォームの過去、現在、未来

Boiler Room音楽部門の最高責任者Tom Wiltshireにインタビュー。設立10年を迎えるBoiler Roomの歴史と今後の展望を語る。
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2019.12.11 09:00

最先端のライヴショーを世界中の音楽ファンに向けて配信し続けるプラットフォーム、Boiler Room。今年の10月にはBoiler Roomとして初めての試みとなる4日間のフェスティバルをロンドンで開催。そのフェス開催直前に、Boiler Roomの音楽部門の最高責任者であるTom Wiltshireにインタビューを行うことができた。2020年で設立10周年を迎えるBoiler Roomの歴史からコンテンツへのこだわり、将来のビジョンまでたっぷりと語ってもらった。




Interviewee: Tom Wiltshire (Head of Music from Boiler Room) 


Interviewer: Arata Watanabe


 

ーまずはBoiler Roomの歴史について聞かせてください。


Tom:2020年の3月でBoiler Roomがスタートしてから10年になる。最初はすごく小さなプロジェクトだったんだ。地下のボイラールームをスタジオにして、そこから名前をつけた。メンバーは、今もBoiler Roomのボスを務めるBlaiseと、NTSを立ち上げたり、Boiler Roomで初めてプレイしたFemi。その時BlaiseはFlatformというオンラインマガジンを運営していて、DJのライブストリーミングをBoiler Roomで始めたんだ。配信がすぐ人気になってイベントも始めた。Blaiseは若い頃からたくさんイベントを手掛けていたから、それは自然な流れだったよ。たくさんのクールでアップカミングなアーティストと仕事をしてきた。例えば、SamthaはBoiler Roomで作った最初のイベントに出演したアーティストの一人だし、Jamie XXやJames Blakeは彼らが今のキャリアを築き上げる前に出演していた。僕がスタッフになる前、初めてBoiler Roomに行ったのもJames Blakeが出演したときだったんだ。彼はライブパフォーマンスではなくてDJをしてたんだけど、それがどんどん広がってビッグになっていった。Boiler Roomがこんなにもすぐに成長したのは、しっかりとDJカルチャーを映し出していたからじゃなかと思ってるよ。


10年前はバンドが主流で、DJはカルチャーのメインではなかった。アメリカではEDMが大きくなっていった時期だね。90年代に影響力のあったDJカルチャーはどんどん弱体化して、テクノがクールなものとしてヨーロッパで広がっていった。シーン全体がイチから生まれ変わっていく様な時期だったよ。その時はUstreamから配信してたんだけど、それほど性能が良くないウェブカメラをテープで壁に貼って、古いラップトップを使って、全部自分たちのDIYだった。それから撮影や録音クオリティを高めていって、YouTubeでライブストリーミングを始めたんだ。DailymotionやFacebookで配信したこともあるよ。いろんな方法で配信することによってたくさんの人に見てもらえるようになったんだ。


ーそもそもライブストリーミングを始めた理由は?


Tom:一番の理由は、初期のBoiler Roomでフォーカスしたようなアーティストのプラットフォームが2010年当時なかったからかな。例えばJamie XX。彼はThe XXのメンバーだけど、素晴らしいプロデューサーでもある。Fourtetとかもそうだけど、彼らはこの時期に急成長していた。だけど彼らにはグローバルなプラットフォームがなかったんだ。ラジオでもそれほどプレイされていなかったし。BBCの深夜ラジオでGilles Petersonがピックアップしていたくらいだったかな。NTSもちょうどその頃スタートしたばかりだった。だから、アンダーグラウンドなアーティストがグローバルに発信できるプラットフォームを作ろうと思ったのがきっかけだね。あとはライブストリーミングがスタートして間もない頃で、一番新しいテクノロジーがUstreamだった。唯一同じことをやっていたのは日本のDOMMUNEくらいだったよ。


Boiler Roomのスタートはハウスやテクノではなく、2010年頃ポピュラーだった、SamphaやJames Blakeが築いたポストダブステップのシーンだ。その後、ハウスやテクノもシーンで重要な位置を担うようになった。USではラップミュージックがすごく大きくなっていったし、そういう音楽シーンをしっかりと捕らえ続けていった結果、今回ロンドンのペッカムで初めて開催するBoiler Roomフェスの初日は、なんとジャズのライブミュージックなんだ。しかもソールドアウト。びっくりだよ。世界中のBoiler Roomファンも驚いているはずだ。Boiler Roomと言えばハウス・テクノだって思っているからね。2日目はラップ、DJ以外にもたくさんのライブパフォーマンスがあるよ。3日目はベース、4日目はクラブミュージックで、みんながイメージするようなBoiler Roomだ。


Boiler Roomが今みたいになるなんて、スタートした時は誰も予想してなかった。YouTubeチャンネルの登録者が210万人以上いて、世界中で開催されているBoiler Roomをネットやリアルライブで体験するなんてね。



 

ーBoiler Roomがどんどん大きくなっていった過程で、何かターニングポイントはありましたか?


Tom:2011年頃、ベルリンでBoiler Roomをやったときがひとつのターニングポイントだね。初めてUK以外の場所で開催したんだけど、世界中からアクセスがあって、僕らのやってることは世界中の人が興味を持つことだって認識した。ビッグネームのアーティストが出演したことも大きかったと思うよ。特にBen Klockなんかのテクノアーティストを出演させたことがね。


もうひとつはYouTubeと契約したときだ。YouTubeがライブストリーミングを始めた初期の段階から、パートナーとして契約することができた。同じような契約をしていたところがあまりなかったから、これはとても重要な出来事だね。


あとは、たくさんのブランドがBoiler Roomに興味を示してくれ、一緒に働き出したこともそうだね。財政面でとても大きなポイントだよ。お金があればできることが広がる。スタッフに給与を払ったり、機材を買ったり、出張もできるようになった。大きなブランドが協力してくれるおかげでメキシコやブラジルにも行ける。Boiler Roomの成長を大きく手助けしてくれてるんだ。




ーBoiler Roomは何人くらいで運営しているのですか?


Tom:55人だ。大きなプロジェクトがある年は70人くらいまで増えたけど、今はこの人数で落ち着いてるよ。


ー番組制作やアーティストを決める上でどういったポリシーがあるのですか?


Tom:特にないよ。エキサイティングで、他とは違うことを企画するってだけさ。それが僕らの番組のルーツだ。大物だからとか数字が取れるからっていう理由だけでは不十分だ。たまに大物と番組を作る企画もあるけど、そのほとんどが彼らからオファーをもらっている。キュレーションや番組を作る指標にしているのは、フレッシュで、新しいことをやろうとしているかどうかだよ。


ーBoiler Roomは自分たちでイベントを作って撮影の機会を設けているんですよね?


Tom:そうだよ。初期のBoiler Roomはロンドンのウェアハウスでやっていたんだけど、きちんとしたイベント会場じゃなかったから、サウンドシステムなんかも全て持ち込んでいた。あとは、南ロンドンのエレファント&キャッスルにあるスタジオでもやっていた。でも、基本的にBoiler Roomはいろんな場所でイベントを開くという考えでやってる。一つの場所に留まらない。今はオフィスに併設されたスタジオがあって、そこでもよくイベントをやるけど、基本的にはどこでも開催するという考え方だ。


ーなぜ、ひとつのナイトクラブを持つのではなく、いろんな場所でイベントをするのですか?


Tom:ナイトクラブを持つというのはみんなが考えることだからね。いろんな場所で開くことで、他の人では作れない機会や雰囲気を作り上げるんだ。会場の規模は100人以下から5000人規模までさまざま。5000人クラスは有料のイベントだったんだけど。HPに情報が載っているから、抽選に当たれば全てのイベントに誰でも参加できる。


ーイベントで気をつけていることは何かありますか?


Tom:意味を持っていること。ちゃんとしたアイディアに裏付けされているかどうかってことかな。ただ楽しいだけじゃだめだ。


ーライブストリーミングのコンテンツを作る上でのこだわりは?


Tom:アーティストがフロアの真ん中でパフォーマンスすることだ。それがBoiler Roomの象徴的なビジュアルだからね。観客がアーティストの後ろにいて、全てカメラに映る。僕らはそれを「In Around」と呼んでいるんだ。


ー「In Around」は自然発生的に出来上がったんですか?


Tom:DJの前にカメラを置かないといけないから、観客を後ろにまわすことになった。特に計画したわけではなくて自然と現場で決めたことなんだ。




ービジネスサイドの話になりますが、メインの売上は何になるのですか?


Tom:主に2つあって、ひとつはブランドスポンサーとの仕事で、これは何年も続けている。もうひとつは有料イベントで、これは去年から始めたばかり。今回のフェスティバルもそうだよ。イベントをやればバーの売上とかもあるから、そこは普通のイベントと同じだね。


ー初期のイベントではチケットを売っていなかった?


Tom:いつも無料だったよ。だからスタートしたばかりの時は、初期投資とスポンサーで成り立っていたんだ。Red BullやRed Stripeとかがスポンサーだったね。


ーアーティストにはギャラを支払っているのですか?


Tom:無料で入れるBoiler Roomの場合はノーだね。アーティストはプロモーションのために出演していて、ギャラは払っていない。イベントでスポンサーやチケットが関係する場合はギャラが発生しているよ。


ーライブストリーミングからの印税は発生している?


Tom:いや、入ってこないね。初期の、YouTubeの印税の仕組みがまだ未熟だった頃は少しだけ入ってきてたけど。今、YouTubeの印税は動画のコンテンツオーナーではなくアーティストに還元されるようになっているから。逆に音楽を含まないコンテンツに関しては印税が入ってくる。例えば僕らが作っているGASWORKSとか、トークショーやドキュメンタリーがそうだね。あとは物販も収入源だ。決して大きい金額ではないけど、伸びている分野ではあるね。


ーDJセットをアップロードした時に著作権が理由でブロックされたときはどういう対処をしているのですか?


Tom:権利元に連絡をして、印税が入るしプロモーションにもなるからブロックを解除してもらえないかと交渉する。大抵は受け入れてもらえるけど、断られた場合は残念ながらその曲をミュートにするしかない。


ーCrowdsourced、GASWORKS、Documentariesなどの新しいコンテンツは、どういう意図で作っているのでしょうか?


Tom:ライブ音楽ではないコンテンツにトライし始めたのは2年前くらいからだ。今続けているCrowdsourcedやGASWORKSはその中でも評判がよかったものだよ。これからもオリジナルコンテンツをさらに増やしていくつもりだ。ショートドキュメンタリーや1分間のショートフィルムなんかも考えてる。シーンの文脈やアーティストを取り上げていくつもりだよ。


ーライブストリーミングの中で良いライバルだと思っているチャンネルはありますか?


Tom:そうだね、いろんな人がBoiler Roomをコピーしてるから、たくさんあるよ。だけど、皆すごく限られた音楽にフォーカスしている。例えばCercle。これはフレンチバージョンのBoiler Roomだけど、彼らは特定のハウスとテクノにフォーカスしている。彼らのやっていることは素晴らしいと思うけどね。他にはKeep HushというチャンネルはUKのサウンドにフォーカスしている。音楽性だけで言うと初期のBoiler Roomに近い。だけどBoiler Roomみたいに多ジャンルにまたがったことをやっているチャンネルはない。僕らは広いジャンルの音楽をカバーしていることにはすごくこだわりを持っているんだ。



ー多くの競合がいることはシーンやアーティスト、Boiler Roomにとって良いことだと思いますか?


Tom:健全なことだと思う。もちろん競争の世界は厳しいから、お互いに競合のやっていることを見てはいるけど、いいことだと思うよ。実際、ライブストリーミングは僕らがやっていることの一部だ。今はたくさんの人がライブストリーミングを観ているけど、この先消えていくかもしれない。もう消費したくないと思う時がくるかもしれない。だからBoiler Roomがリアルなイベントであることにこだわってるんだ。あと、音質はとても大切な部分だね。多くの人はBoiler Roomを観ているんだけど、実際には聴いている。だから音質には来年からもっとフォーカスしていくつもりだよ。


ーコンテンツを作っていく上で、例えば500万再生回数を稼げるアーティストにフォーカスした方が、数百の再生回数のアーティストを何百人も取り上げるより効率が良い、みたいなディスカッションはありますか?


Tom:いい質問だね。今まで5,500人くらい取り上げてきたんだけど、来年からライブストリーミングや撮影の数は減らしていくつもりなんだ。消費の仕方が変化していると感じている。今ある動画で1番再生回数が多いのがCarl Coxの4100万回。下は数百回のコンテンツまである。投稿の数を減らすことで再生回数を伸ばしたいというよりも、もっとフォーカスしたいコンテンツにフォーカスできるようにしたい。数があり過ぎると失うものもある。


ー具体的にどういうコンテンツにフォーカスしていくことになるのですか?


Tom:基本的に新しいコンテンツというのは変わらない。一度撮影をしたことのあるアーティストを二度三度と取り上げることはしない。アーティストもそれを望まないことが多いし。特にしっかりと成功をしているケースはね。だから今はイベントで撮影しないこともよくあるんだ。今回のフェスでも同様に、撮影したいと思うもの、残したいと思うものにフォーカスしている。


ー今興味を持っている地域やシーンはありますか?


Tom:この1年半はアフリカ全土にフォーカスしてきた。驚くことが多かったよ。たくさんの人がイベントに興味を持ってたし、他の地域と同様にいい意味でクレイジーだった。アフリカはほかの地域と完全に違うマーケットでコンテンツの消費の仕方も違うんだけど、これからもっとフォーカスしていきたいマーケットだ。音楽的にもアフリカのサウンドは面白い。ここ3年はウガンダのフェスも撮影したし、南アフリカは数年間コンスタントにイベントを続けている。最近ではラゴスやケニアにもいった。これからナイジェリアでもENERGYのエピソードを撮るし、いろいろと積極的にやっていきたいと思ってるよ。


ーアジアのシーンについてはどうですか?


Tom:日本は初めて行ったときからいつも戻りたいと思っている場所だよ。今年も4つのプロジェクトをやっている。あとは韓国、ベトナム、香港でもいろいろとやっていて、これからもトライしていきたい。インドもそうだね。アジアの全ての地域からオファーをもらっているよ。



 

ー今年、初めてのフェスティバルを開催した理由は?


Tom:10年の歴史をBoiler Roomらしいイベントで表現したかった。あとは、限られた人だけではなく、大きいスケールでたくさんのオーディエンスがBoiler Roomを体験できるようなこともやりたかった。現状のフェスのモデルではないことにもチャレンジしたかった。それが僕らの掲げた「1City、4Nights、No Headliners」というテーマに表れている。99%のフェスがアーティストの名前でチケットを売っている。僕らはそれをやりたくなかった。Boiler Roomをいう名前でチケットが売れるという自信もあったし、チケットの値段も高すぎないように気をつけた。自分たちが一番興味のあるサウンドにフォーカスするように作ったんだ。


ーライブストリーミングの未来をどう見ていますか?例えばVRなど新しいテクノロジーが生まれていますが。


Tom:その分野が伸びていることはわかっているけど、恐らく僕らにフィットした技術ではないと思っている。


ーInceptionとかとコラボして何か企画していると思っていましたが。


Tom:3,4年前にいろいろとトライしようと思ったんだけど、上手くいかなかったんだ。


ーではBoiler Roomはどこに向かうのでしょうか?


Tom:音楽をリリースする、俗に言う音楽会社になっていくと思う。


ーレーベルということですか?


Tom:レコードレーベルとは言いたくない。音楽をノンエクスクルーシヴでリリースして、自分たちが信じるアーティストをプッシュしたい。それと同時にフェスのビジネスモデルを進化させて融合させていく。今までと全く違った音楽リリースを形にしていきたいんだ。具体的にはまだわからないけれど、ただ絶対に普通の方法は選ばないよ。


ー最後の質問です。Boiler Roomはイノベイティヴな組織だと思いますか?


Tom:君はどう思う?(笑)そうだね、今僕らがやっていることはそれほど他と変わりがないかもしれない。だけどこれだけ多くの人が僕らのやっていることに興味を持ってくれているんだから、イノベイティヴだって言ってもいいんじゃないかな?




Boiler Room:https://boilerroom.tv/





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