UK最注目バンドblack midiインタビュー 日本を熱狂させた特異な音楽性の秘密を探る

バンドの音楽性、デビューアルバム『Schlagenheim』制作について、メンバーのGeordie GreepとCameron Pictonに話を聞いた。
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2019.09.25 10:00

9月5日(木)〜9月7日(土)にかけて、今、UKで再注目の若手バンド、black midiが初来日ツアーを行った。

まだまだ謎の多いバンドというだけあって、メディアは盛んに取り上げるものの、実態は掴みきれていない。マスロック、クラウトロック、ポストロック、ポストパンク、ノイズなどといったアヴァンギャルドな音楽からの影響を感じさせる特異な音楽性、さらにはバンドが影響を受けたとされるミュージシャンの多様性からか、聴く側が思い思いの音楽性を投影できる稀有な存在だ。



“black midi”とは何なのか? 答えの一端が見えたツアー初日東京公演 


そんな日本の音楽ファンの注目が集まったツアー初日、代官山UNITにて行われた東京公演は、6月にリリースされたデビューアルバム『Schlagenheim』のリードトラック「953」でスタート。のっけからノイジーなギターリフとテンポチェンジを繰り替えす変則的なビートが大入りの会場に響き渡る。  


ライヴ全体で特にダイナミックだったのは、手数の多さに注目が集まっているドラムス担当、Morgan Simpson(モーガン・シンプソン)の超絶ドラミング。ライヴはほぼMCなしで最後まで突き進んだが、時に人力ドラムンビートを披露するシーンもあり、無尽蔵ともいえる体力でバンドの屋台骨を支え続けた姿が印象的だった。  


black midiには、観客がバンドとともに大合唱するようなわかりやすい曲はなく、ギターヒーローが存在感をありありと見せつける曲もない。しかし、ギター、ヴォーカル担当のGeordie Greep(ジョーディ・グリープ)が指揮者のようにバンドをリードし、各々が担当する楽器で表現するルーピーなフレーズがバンド全体で重なりあっていく。そこから生まれるグルーヴはダンスミュージックにも通じるものであり、会場を熱気あふれるダンスフロアに仕立て上げていく姿に興奮を覚えた。 



Photo by Kazumichi Kokei(古渓一道)


名門音楽学校卒という背景からくる卓越した演奏スキルを武器にこれまでにも精力的にライヴをこなしてきているblack midiは、ライヴバンドとしても定評がある。その評価に間違いなし、と太鼓判を押したくなったのが、突然のトラブル対応時の落ち着き払った行動だ。東京公演では途中、ギターの弦が切れるトラブルにも見舞われたが、なんと彼らはそれすらも“ライヴショー”の演出であるかのように、落ち着き払ってユーモラスな動きとともに弦を張り替えていく“パフォーマンス”を披露。その様子に会場から大歓声があがったのだが、それもライヴミュージックならではの醍醐味で、この日のハイライトのひとつだった。 


ライヴを通して感じたこと。black midiのライヴとはインプロビゼーションを取り入れた“セリフのないオペラ”のようなものだということ。先述のトラブル対応含め、余白を見つけるとそこに即興要素を実に無理なく組み込んでくる。もちろんそれは演奏力に対する自信とライヴをこなしてきた実績からくるものだろうが、即興的なものすらあらかじめ演目に入っていたかのように思わせる、堂々とした彼らの姿に感動を覚えたファンも決して少なくないだろう。 


若手ながら素晴らしいライヴパフォーマンスで日本のファンを魅了したblack midi。特異な音楽性やバンドの武器ともいえる即興性はどこからやってきたのだろうか? 彼らの母国におけるシーンの現状やロックファン待望のアルバム『Schlagenheim』、音作りのこだわりなどについて、先述のGeordie Greepとベース、ヴォーカル担当のCameron Pictonに(キャメロン・ピクトン)に東京公演前日、インタビューを行うことができた。



black midi インタビュー  


--初来日ツアー、おめでとうございます。初めての日本ツアーはどうですか? 


Cameron Picton(以下C):すごく興奮しているよ。  


Geordie Greep(以下G):同じくすごく興奮しているよ。特に日本のオーディエンスの反応は良いとよく聞いているしね。それが嘘か本当かわかるのが楽しみだよ(笑)。  


—日本では今、ヒップホップやベースミュージックを聴く人が増えています。イギリスでもグライムやヒップホップがメインストリームで大人気だと思いますが、実際、ロンドンでロックは今どんな状況なのですか? 


G:まあ、トレンドってものがあるからね。ただ、何かが盛り上がって、一方で盛り下がってという状況は永遠に続くものではないし、ロックの勢いが完全になくなってしまったわけじゃないよ。状況は常に変わるんだ。グライムやヒップホップのトレンド化というのは今、新しい状況という感じである意味すごい可能性を秘めているし、もちろん人気が高まっているのは嘘じゃない。それに大きな音楽フェスなんかだとサウンドシステムもすごいし、そういう音楽はオーディエンスが盛り上がりやすいジャンルだと思う。  


—ロックは今、それらに比べると勢いや人気の面では劣ると? 


G:人力で演奏する音楽というのは現状、もしかしたら少し停滞しているかもしれないね。でもだからといってロックの人気が全くなくなったというわけでは決してない。さっきも言ったけどトレンドは巡るものだから。近い将来、またロック人気が再燃することだって十分にあると思うよ。



演奏しながらも決まり事を設けないことでよりユニークな音楽が作れている 


—なるほど。人力で演奏して音楽を表現するという点でいえば、black midiはブリットスクール出身で演奏力の確かさに定評があります。また、ほかの若手バンドに比べて変則的なビートだったりミニマルで反復するフレーズだったりと、マスロックやクラウトロックの要素も目立ちますが、なぜそういったスタイルをバンドの音楽性に定めたのですか? 


G:自然にそうなったって感じかな。元々は何も考えずにもっとミニマルだったり、アンビエントだったり、自由に演奏していくというスタイルで、それがバンドの原点だったんだよ。そこから段々、もっと曲っぽくしたものを作るようになった。元々、自分たちが惹かれる音楽もちょっと変わったものが多かったし、そういうルールに捉われない感じを自分たちでもやってみたんだ。だからバンドとして演奏しながらも決まり事を設けないことで、よりユニークな音楽が作れているんだと思う。あと生演奏だからこそ、どこまでも自分たちが好きなようにクレイジーな音楽を表現できるんだ。そこは“ライヴバンドならではの生演奏”という要素を僕らがうまく活用している部分だね。




『Schlagenheim』は“曲のコレクション”がアルバムになった 


—デビューアルバム『Schlagenheim』にはマスロック、クラウトロック、ポストパンク、ノイズなど様々な音楽要素が複雑に絡み合った内容だと感じました。制作時にバンドが思い描いていたアルバムのイメージやストーリーはどのようなものですか? 


G:実は『Schlagenheim』はそもそもアルバムを作ろうと思って制作したものじゃなかったんだ。ただ作りたい曲ができて、かつアルバム制作の予算ができたからリリースされたアルバムなんだよ。だから“曲のコレクション”がアルバムになったという感じかな。だから制作時に特別こういう要素の曲を入れたいとかはなかったし、単純にできた曲の中からアルバムとして成り立つ曲を選んで収録しただけ。でも曲を作っている時はただ“ベストなもの”ができることだけを意識して作っていた。そういう曲が集まってできたアルバムなんだ。 


—強烈なフィードバックノイズやちょっと変わった音色に加工されたギターのフレーズなど『Schlagenheim』は音作りも個性的で興味深いです。アルバムではシンセサイザー、ドラムマシンなど電子楽器を使ってサウンドをビルドアップしているとお聞きしました。バンドが音作りをするときにこだわっている部分はどういったところでしょうか?


G:僕らは電子楽器を取り入れる事によって、テクノロジーと生演奏のバランスを取りながらよりおもしろい音楽を作ろうとしている。でもそれに頼りすぎるとライブミュージックの醍醐味である“エナジー”がなくなってしまう。だからそこを意識しつつ、何かほかのものとは違った新しいものを作ろうとしているんだ。確かにライヴバンドの中には、そういった機材を使うことで生演奏の芯の部分が損なわれてしまうと考えるバンドもいる。でも自分たちはもっと柔軟に捉えていて、電子楽器を使うことで自分たちのサウンドにプラスになるなら全く問題ない。使えるものは使ってより良い音楽を作りたい。ただそう思っているだけだよ。 


— 元Canのダモ鈴木氏とのセッションライヴとライヴ盤リリースは、多くの音楽メディアがバンドについて語る時に引用しています。今となっては伝説的なバンドのエピソードのひとつですが、あのセッションライヴがバンドにもたらしたものとは一体どのようなものでしょうか?


G:よくライヴをやっているロンドンのライヴハウス「Wildmill」のオーガナイザーが彼のバックバンドとして参加してみないか? と話を持ちかけてきてくれたのがきっかけだね。それで僕らはダモ鈴木の音楽が好きだったから共演することにしたんだ。ライヴはオーディエンスがいる前での90分間の即興ライヴだったこともあって、意識したのはいかに良いものを見せるかということだった。とはいえ、もちろん直感的なものに頼って演奏した部分もあったけどね。ただ、とにかく音楽に没頭できたんだ。自分たちにとっては貴重かつ非常に良い経験だったよ。



—影響の部分でいえば、バンドの名前の由来として日本のゲーム/ネット音楽の一種、“BLACK MIDI”について以前語られていました。 また『speedway (12" version) + remixes』のMVではゲームの映像も目立ちます。同世代のアーティストの中にはアニメやゲームにインスパイアされている人も少なくありませんが、あなたたちの場合はどうですか?  


C:もちろんゲーム自体は好きだし遊んだりもする。でもあのMVはゲームが好きだからそうしたというよりは見た目的に色々な映像が入ってくるのがおもしろいと思ったんだ。その中でゲームのビジュアルはそのアイデアにハマるし、おもしろいなと思ったゲームの映像を取り入れて作ってみたんだよ。



—そうなんですね。バンド名の由来になっている“BLACK MIDI”のような音数、音符の数が多いゲーム/ネット音楽についてはどう思いますか? 


G:もちろんネットで音楽をチェックすることはあるよ。でも“BLACK MIDI”という音楽そのものに関しては、あのジャンルが素晴らしい音楽で、可能性を感じたから惹かれたんだ。だからそれに関しては特にゲーム/ネット音楽というような捉え方はしていないね。さっきも話に出たけど“BLACK MIDI”って音符の数がめちゃくちゃ多い。にもかかわらずあんなにもシンプルなものが作れるっていうとこにすごく魅力を感じている。ただもったいないなと思うのは、可能性を秘めているジャンルにもかかわらず“ネット音楽”ということで、どこかしらジョークっぽい、軽い扱いを受けている気がするんだよ。




ネットで広がる音楽に対する考え方  


—“ネット”に関連してお聞きします。今の若い世代のアーティストは、ストリーミングのバイラルヒットで一夜にしてスターダムにのし上がることが可能です。black midiに関してもYouTubeなどにアップされているライヴ動画がきっかけになって、音楽ファンの間で広がっている部分もあるかと思います。そういった音楽の広がり方、ネット経由で音楽が流通していくことについてどう思いますか? 


G:YouTubeにアップされているライヴ動画については音楽メディア公式のものもあるけど、ライヴを観にきたファンが勝手にアップしているものも多いんだ。だから自分たちが自発的にネットを使ってライヴ動画を拡散しているわけではないけど、そういうファンの行動に文句があるわけでないし、それで多くの人が僕らについて知ってくれるならまあ、結果オーライじゃないかと思っている。



—では、そういうファンが勝手に動画をネット上にアップすることについてはどちらかといえばポジティヴに捉えているのですか?  


G:う〜ん、そうだね。ひとつ肯定的な部分でいえば、例えば即興ライヴをした時の動画がネットにアップされていたとする。僕たちは特に自分たちでライヴの様子を録画するわけではないから、そういうことがあると後で自分たちで振り返ることができるよね。その時は便利だなって思うことはあるよ(笑)。



*** 


最後に、今回のツアーでは各公演のチケット完売が相次いだことに対して“ありがとうございます”と日本語で感謝の言葉を口にし、また日本に戻ってきたいとコメントしてくれたGeordieとCameron。バンドは来日ツアー中に『Schlagenheim』を自らの公式YouTubeチャンネルに公開。そこにはインタビューでは物静かな青年といった印象を受けたCameronがヴォーカルをとるオリジナルのアルバムには未収録だった「Cameron's Song」も新たに加えられている。(ライヴではパンキッシュに歌い観客を盛り上げる姿も見ているだけあって、この印象のギャップもまた彼の味だ)



音楽性については特に決まり事からの解放を意識しながら自由に演奏することに重きを置いていることと、“ライヴミュージック”であることに強いこだわりを持っていることが強く伝わってきた。その部分については次回、彼らが日本に帰ってくる際にはさらに進化したものとして披露されることだろう。UKロックの今後を担うblack midi。改めて今後の活動から目が離せない存在だ。 


written by Jun Fukunaga 


Photo: Kazumichi Kokei(古渓一道)



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