Written by ☆Taku Takahashi(Twitter:@takudj )
今日からぴったり5年前のこと。シカゴでDJの仕事が終わったあと、飲みの場で共通の趣味を持つ友人に、とあるTVドラマを紹介してもらった。作品の名前は『ゲーム・オブ・スローンズ』。設定が複雑ですごくマニアックにも関わらず、世界で最も観られたドラマだ。TVドラマのあり方そのものを変えた作品で、なによりも僕の人生そのものを変えてくれた。ついに今日、最終回を迎えた。このドラマは何が起こるかまったく予想のつかない作品だからこそ、物語の最後が自分の納得のいくものにならない覚悟も決めていた。原作者のジョージ・R・R・マーティンがだいぶ昔に原作の終わり方についてヒントを述べている。「最後はビタースイート(苦くて甘い)に終わる」と。ドラマのほうはどうだったのか?
デナーリスの物語は気弱な純真無垢な女の子として始まり、ドラゴンの母として数々のピンチを迎えながらも、シーズンごとに力を得てウェスタロスの七王国の鉄の玉座を取り戻しにいく。まさにサクセスストーリーだ。過去のシーズンを見直してみて改めて思ったんだけど、カタルシスのあったシーンってほとんどデナーリスのシーン。そんな彼女がまさかのマッドクイーン(狂女王)となってしまい、まるでヒトラーのような演説(僕にはSTAR WARSのファースト・オーダーに見えたんだけど)をするようになってしまう。これはね、僕的にまったく想像もしていなかったし見たくなかった。ただ、背中にドラゴンの羽根がオーバーラップするシーン。あれは映像としてめちゃくちゃっかこよかったよね。そしてジョンが一生懸命彼女を説得しようとしても、なにも通じない。正義への感覚が完全に歪んだものになってしまっていた。
ジョン・スノウは大虐殺を見て間違っていると心で感じつつも思考は停止していた。彼女に恐怖を感じつつも彼女を愛していることが彼をさらに盲目にしてしまった。それを説得したのがティリオン。彼の「妹たちはどうなる?」という言葉がジョンの行動の決め手となった。この会話のなかで彼はメイスター・エイモンの「愛は義務の死」という言葉を引用する。それに対してティリオンは「時として義務は愛の死でもある」と答える。これが最終話の重要なキーワードだったように感じる。
玉座のシーンが出てきたとき、シーズン2のデナーリスのビジョンが頭に浮かんだ。先週の終わり方だと灰の雪だと思ってたら、本物の雪も降っててちょっとだけまた意表をつかれた。ビジョンでは玉座を触ろうとして結局は触らないんだけど、今回はついに触ることができた。この瞬間の音楽なんだけど、感動的な和音の中にひっそりと不協和音がまざっている。観てるほうの心境を気付かずコントロールしてるところがうまい。二人の最後のキスシーンでは1個前のキスシーンが頭によぎった。前回はジョンの恐怖を感づいたデナーリスだったけど、今回は彼女が狂女王として盲目になったのか、もしくはジョンが完璧な演技をできていたのか。デナーリスの優しい心は戻らずのまま、彼女の物語は終わった。ちなみに彼女のビジョンは「鉄の玉座」→「壁」→「カール・ドロゴとの再会」となっているが、これって「鉄の玉座」→「ジョン」→「死」を意味するものだったのでは?って深読みしすぎかな。
ティリオンはデナーリスの「王の手」となってから、活躍するところがほとんどなかった。これにフラストレーションを感じていた人も多いはず。さらに兄を逃して、女王の信頼を完全に失ってしまう。ジョンには「義務は愛の死でもある」と言いながらもティリオンはずっと愛を選び続けてきたと思う。兄を逃したのはもちろんのこと、あんなに嫌な目にあわされた姉の死を本当に悲しんだ。ブラックウォーターの戦いで民を守ろうとしたときもそうだ。そんな彼を見てきて、いつか彼にふさわしい結末がきてほしいと思っていた。そして初の評議会のあと、もう一度「王の手」に任命されたとき「自分は賢い人間だと思っていたけど、違った。自分が正しいと思っていたが間違っていた」と答える。この台詞からティリオンの成長を感じさせられた。
最後の御前会議でアーチ=メイスター・イブロスが書いた歴史記録書物『氷と炎の歌』にティリオンが一切でてこないという話があった。ここで笑いながら思い出したのはブラック・ウォーターの戦いのあとのヴァリスの言葉「あなた無しではこの街は敗北していたでしょう。王はあなたに名誉を与えないし、歴史では語られないでしょう」を思い出さずにはいられなかった。「死後の世界は無の世界だった」とジョン・スノウは言っていたが、もしあの世があったらヴァリスが笑っているのを想像してしまった。あと評議会でハイ・ガーデンをもらって、さらにちゃっかり財務大臣となったブロンが出てきたのは明らかにファンサービスだったと思う。少なくともブロン好きの僕にとってはすごく嬉しかった。そして最後にライサ・アリンとキャトリンに伝えた「蜂の巣(ハニカム)とまぬけを売春宿につれてきた」ジョークを言って終わる。結局、オチはわからずじまいなのだが、二人のやりとりが聞けて嬉しかった。
もっともグッときたシーンはブライエニーが騎士名鑑に記入するシーン。名鑑にはジェイミー・ラニスターについてこう書かれていた。「彼はキング・スレイヤーと知られる。ジョフリー王1世がティリオン・ラニスターの死後、トメン王1世につかえた。」文章も文字も急いでいたかのように乱暴に書かれている。ブライエニーも綺麗に文字を書けないなか、丁寧に言葉を刻んでいく。「彼が人を助けるために自分の手を失ったこと」「リヴァーランを無血開城させたこと」「戦略のために自分の生まれ故郷を犠牲にして相手を欺く知性を持っていたこと」「勇敢にドラゴンと戦ったこと」「勝てるオッズが極めて低いのを知りつつも北でホワイトウォーカーと戦ったこと」「キングス・ランディングの崩壊を止めにいったこと」彼女が知っている限りの情報で彼の名誉を挽回させる。そして最後に「彼の女王を救うために死亡」と閉める。ブライエニーは「サーセイ」の名前をあえていれずに「女王」として記入する。彼女なりの名誉を重んじる部分と女心が混ざっているように感じた。
友人といつも話していたのだが、僕の願望的予測は何個かあったうちの二つが半分当たった。「民主主義の誕生」そして「アリアがハウンドと共にウェスタロスの西へ冒険へいく」。サムが「民全員による多数決でリーダーを決めるのはどう?」って言ったときガッツポーズをしたのだが、そのあと全員に爆笑される。これは僕自身が笑われているようにも感じた。ただ、血筋で後継者を選ぶのをやめて影響力のある人たちの多数決で決めるという形は民主主義にかなり近づいた。そして、ハウンドは死んでしまったのだがアリアがウェスタロスの西へ冒険の旅へいく形で物語が終わった。前のシーズンで彼女の望みだと言ってたのが大きなヒントだったんだけど、実はシーズン4のアリアが船に乗ってブレーヴォスへ行くイメージも強かったんだよね。
ブランが王になる結末はリーク情報や賭け事サイトのオッズを見てて、ある程度予測できていた。彼がふさわしい王かどうかは僕もわからないのだけど、他の人たちよりマシだったと思う。ジョンがナイツ・ウォッチに戻ることを伝えるときティリオンが「この決断にハッピーな人はだれもいない。ということは良い妥協だ」と言っているが、この言葉こそ、全てを物語っているようにも感じる。ベストではなくベター。まさにこの作品らしい結末だ。結果的にサンサは小さかった頃の夢「女王として嫁ぐ」のではなく、自ら実力で女王になり、アリアは西へ冒険の旅にでて、ジョンは野人と共に北へむかう。ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』は北の家族で始まり北の家族で結末を迎えた。
そもそもジョージ・R・R・マーティンは本の終わり方について「ビタースイート」とは言ったが、僕の記憶が正しければ、ドラマの終わり方については言及していない。block.fmでブラン役のアイザック・ヘンプステッド=ライトとのインタビューが終わったとき、どういう結末になる?とふざけて聞いたのを思い出した。そのとき彼は「僕もまだ結末は知らないけど、多くの人が死ぬような結末になると思う」と言っていた。最後に王様になった彼ですら予測を外した。
▶『ゲームオブスローンズ』のブラン役。☆Takuと丸屋氏がロングインタビュー
そう。誰も予想できないのがこの作品のひとつの魅力だったと思う。そして僕的には最後のエピソードが大きな戦闘でなく人間関係のやりとりで終わってくれて本当に嬉しかった。これから、最終話の終わり方について色々な意見が飛び交うと思う。そんななか、このエピソードにでてきたティリオンの言葉で締めたいと思う。「何が人々を結束させるのか?物語だ。良い物語ほど力があるものは、この世にはない。」
終わり方がどうであれ『ゲーム・オブ・スローンズ』は色々な人たちの心をつかむ力強い物語があり、そして僕らを結束してくれた。奇しくも、最終話は『ゲーム・オブ・スローンズ』をみるきっかけになったシカゴで、しかもその友人たちと観ることができた。この物語のおかげで色々な人と出会えたことをみんなに感謝したい。
カウントダウン!#ゲームオブスローンズ #GameOfThornesJP#GOT pic.twitter.com/ZWDwWSHGyT
— ☆Taku Takahashi from House of m-flo (@takudj) 2019年5月20日
追記:@GameOfThronesJP さん、ひとまずおつかれさまでした。日本という、GOTがなかなか浸透しない環境のなか、絶えず貴重な情報を発信し続けてくれてありがとうございます。 そして丸屋九兵衛さん、blockfmでの連載ありがとうございます!!
6月22日にはスターチャンネルでドキュメンタリーの放送も!
詳細:https://www.star-ch.jp/news/detail.php?p=2&id=188
▷☆Taku Takahashiのドラマ・コラム「bfm海外ドラマ部」バックナンバーはこちら
第1回:今からでもまだ間に合う!m-flo ☆Takuが解説「ゲーム・オブ・スローンズ攻略法」
ゲームオブスローンズ最終章第1話、☆Takuが“GoTらしさ”を感じたシーンは?
ゲームオブスローンズ最終章第2話 ☆Takuが考察、ジェイミーとの会話に感じる“裏切りフラグ”
ゲームオブスローンズ最終章第3話 90分間の戦闘シーンはここがすごい!
ゲームオブスローンズ最終章第4話 デナーリスを変化させたファクターを分析
ゲームオブスローンズ最終章第5話 デナーリスの心の軌跡を読み解く
▷丸屋九兵衛による連載「ゲーム・オブ・スローンズの歴史学」バックナンバーはこちら
第1回:七王国まで何マイル? 〜ゲーム・オブ・スローンズの歴史学 chapter-1
第2回:七王国まで何マイル? 〜ゲーム・オブ・スローンズの歴史学 chapter-2
第3回:七王国まで何マイル? 〜ゲーム・オブ・スローンズの歴史学 chapter-3
第4回:七王国まで何マイル? 〜ゲーム・オブ・スローンズの歴史学 chapter-4
第5回:ホワイトウォーカーとワイトの違いって何? GoTビーストを一挙総括
第6回:ジョフリーの剣に込められたGoTファンタジーの意外な流儀とは?
第7回:衝撃の「別惑星」説! なぜGoTはファン心理をくすぐるのか
第9回:ミリオタが「ゲーム・オブ・スローンズ」の”長槍愛”を語る
第11回:あなたの大剣度は?ゲームオブスローンズの武器のチートシート
第12回:ゲームオブスローンズのドラゴンが一瞬で好きになる、見分け方とは?
第13回:GOTの大いなる伏線! スタークとダイアウルフで分かる重要設定とは?
第14回:スターク家の後継者はサンサかジョン・スノウか?GoTの王位継承制度とは
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