イタリアで「アンチNetflix法」とメディアから呼ばれる新たな映像配信サービスの規制に関する法律が注目を集めている。
この法律はNetflixなどその他の映像配信サービスが配信する映画の一般公開と同時の配信を規制するためのもので、イタリア国内では劇場公開から105日以内のメジャー作品の配信サービスが禁止されるという。法律は地元映画産業を保護するためのもので、この法律にはイタリア政府の文化大臣Alberto Bonisoliが発表。それと同時に大臣は、国民に対し「配信で見るより先に映画館に先に足を運んで欲しい」と呼びかけた。
今回、規制の対象とされたNetflixは、自社制作のオリジナル映画で、今年のベネチア国際映画祭金獅子賞作品『ROMA ローマ』をロサンゼルス、ニューヨーク、メキシコの劇場で封切り。さらに12月14日から配信リリースすることを以前から発表していた。Netflixのオリジナル映画劇場公開からのスピード配信については、日本ではあまりピンとこないが、映画.comによると同社はオリジナル映画の劇場公開と同時にストリーミング配信を行うことで知られているという。一方で、競合他社のアマゾンは、オリジナル映画をまず劇場で公開し、一定期間をあけてから配信するというDVDと同じ従来のスタイルを踏襲しているそうだ。
この法律施行にあたり問題のきっかけになったのが、Netflix制作の『On My Skin』というイタリア映画だ。こちらは先述のベネチア国際映画祭でプレミア上映され、Netflixではその後2週間ほどで配信が開始された。しかし、イタリアではこれまで法律として制定されていなかったものの、劇場上映105日後からの配信が慣例だったという。
今年のベネチア国際映画祭では、先に行われたカンヌ国際映画祭の厳しいNetflixなど映像配信系映画を締め出す規定とは逆にそういった作品も受け入れる方針を打ち出し、先述の『ROMA ローマ』や、日本でも今月配信が始まったコーエン兄弟による『バスターのバラード(The Ballad of Buster Scruggs)』が脚本賞を受賞するなど、Netflix制作作品が躍進したことも話題になった。
しかし、イタリアの映画業界団体からは、公的資金を使い運営されているのにヨーロッパ映画の宣伝ではなく、アメリカの映像配信会社のマーケティングキャンペーンにするべきではないと反論も受けている。そういったことをきっかけにこのようなイタリアでの「アンチNetflix法」と呼ばれる法案が誕生することになったわけだが、ただ地元の映画産業保護を目的とした法律だけに小規模なイタリア映画に関しては条件によっては10日後、60日後に配信が可能という規制緩和の対象にもなるとのこと。
アメリカの映画業界が映像配信サービスに対して柔軟な姿勢を示す一方で、カンヌ国際映画祭に代表されるようにヨーロッパの姿勢は保守的だと指摘する声も多い。一方、日本では民放キー局とNetflixがタッグを組んでコンテンツ制作を行なっているが、もし、Netflix制作のオリジナル映画が劇場公開され間髪開けず配信されたとしたら、物議を醸す事態になることは間違いなさそうだ。
通常、日本の映画館では一般枠での映画鑑賞料は1800円。それがNetflixならスタンダードコースで月額1200円になるため、そのケースが起きた場合は、料金の上ではやはりNetflixのほうがお得だと言わざるを得ない。そう考えるとイタリアの映画業界のような反応も理解できなくはない。今後、日本でも起こり得る論争だと思うので、今回の規制がどのような影響を映像配信サービスに与えるのかが気になるところだ。
written by Jun Fukunaga
source:
http://www.xinhuanet.com/english/2018-11/21/c_137620886.htm
https://eiga.com/news/20181109/20/
https://en.wikipedia.org/wiki/On_My_Skin_(2018_film)
photo: Stock Catalog