ヒップホップ界を盛り上げる孤高のラッパー、般若。1996年の活動開始以来、様々な活動を重ねて絶大な人気を誇っている。ラッパーにして俳優、声優でもあるというマルチな面も併せ持つ彼だが、彼は一体どんな経歴や音楽性を持った存在なのだろうか。
般若は、東京都出身で日韓ハーフのラッパーである。本名は”武田嘉穂(たけだよしほ)”であり、1978年10月18日生まれの秋田県出身。日本人の母親と韓国人の父親を持つというルーツの持ち主だが、自らがハーフであると知ったのは20歳を過ぎてからのこと。般若が1歳半~2歳あたりの頃には既に父親は居なかった上に日本国籍を有した日本育ちなため、自分のルーツを知るきっかけが無かったのだそう。高校生の頃はDJを目指していて本格的な機材を揃えていた時期があったものの、当時高校の同級生でラップの道を志していたRUMIに韻の踏み方を教えてもらい、3ヶ月でフリースタイルラップのステージに挑んだという。
般若はもともと活動当初の1996年にはYOSHIというMCネームでDJ BAKUとRUMIでグループとして活動していた。その時のグループの名前が『般若』だったのだが、解散になったあと新しいメンバーたちと『妄想族』というヒップホップユニットを結成。それからは単独で般若を名乗るようになった。このユニットでの経歴は非常に奇抜で、「カチコミ」と称して渋谷周辺で開催されていた有名ラッパーが集まるイベントに無断で参加し、マイクジャックを繰り返していた。しかしそれは自分たちの存在をアピールするためだったという。
もともと『妄想族』は世田谷区三軒茶屋出身の元暴走族や愚連隊上がりが集まってきていたハードコアな集団で、アウトローな面がラッパー活動にも表れていたのかもしれない。般若は2014年にこのユニットを脱退し、そこからはソロラッパーとして本格的に活動を開始した。
2019年現在41歳で、ラッパーとしての活動歴も長い般若はどんな音楽性の楽曲を制作しているのだろうか。般若自身は、その楽曲の多くに熱い社会的なメッセージを多く含ませている。例えば「土足厳禁」という楽曲では自身が日韓ハーフであるというルーツを持っていることもあり、日本と韓国の歴史認識問題や政治的対立といった様々な面での外交問題に無関心でありながら韓流ブームに乗っている浅薄な人々への批判をしている。しかしそれは決して攻撃的な内容で終わるものではなく、両者がお互いに礼節を保つべきであるというメッセージを投げかけたもの。
加えて、「平和」というテーマを掲げた楽曲を制作することでも知られている。代表曲には反戦を主題とした「オレ達の大和」や「残党」があり、自らを”昭和の残党”とも称している。さらに、現代日本の社会に対してのものとして『おはよう日本』『内部告発』といったアルバムには援助交際をする女子高生や警察官の汚職などに対しての批判を行った。また、2017年に放送されていたフリースタイルラップバトル番組『フリースタイルダンジョン』ではラスボスとして不屈の活躍を見せ、個性的なキャラクター性で魅せるバイブスは非常に情熱的である。
般若は自分自身のことを”超ネガティブ”であると公言しているが、楽曲のリリックは常に前向きなものであるように制作しているという。”弱さ”や”自分に眠る臆病さ”を認めた力強いリリックを書くことが特徴的である。
日本のヒップホップ界を代表するラッパーと言っても過言ではない般若。長い活動歴があるだけに楽曲も数多く制作していて、絶大な人気を博している楽曲も多い。しかし、その中でも「やっちゃった」は2019年現在YouTube上で780万回以上再生されている人気曲だ。これは90年代の渋谷で路上生活をしていた彼の経験や伝聞をコミカルにラップした、まるでギャグエピソードのような仕上がりになっている。リリックの所々に含まれる「やっちゃった」というワードがかなり頭に残る名曲である。カラオケでも盛り上がりやすいと評判で、修羅場を明るくラップする面が面白いと定評があるようだ。
般若はラッパーだけでなく俳優としても活躍した経歴がある。2019年7月から放送されていたドラマ『Iターン』ではヤクザの竜崎組の組員である神野晃を演じた。さらにこれだけに留まらず、同じく2019年7月からスタートしていたドラマ『ボイス110緊急指令室』の第1話にも狂気的な誘拐犯・川島武雄としてゲスト出演した。いずれも地上波での豪華キャストとの共演のものだった。般若はこの出演に「早く川島を捕まえて、と思ってもらえたら嬉しい」と発言していて、緊迫感のある演技もできるマルチな才能を発揮した。
また、般若には様々なエピソードがあることでも知られるが、『フリースタイルダンジョン』でも共演したことのある先輩ラッパーUZIが2018年1月に大麻取締法違反によって逮捕された際、般若が猛烈にUZIをラップや動画で批判したというものは有名だ。UZIを擁護するラッパーもいる中、般若は「20年もやってきてオメェら一体何やってんだよ」という怒りのリリックを含んだラップをブログ上で音声として公開した。まさに孤高のラッパーである。
般若の半生をよく知る上で、2018年に刊行された自伝『何者でもない』はオススメだ。2020年にはラジオ番組でDJ松永が紹介したことで再び注目を集めたこの自伝では、上記で紹介した道のりが彼の言葉で記されており、「バイトじゃねぇ、俺はヒップホップに就職!」の有名なパンチラインを放つようになった彼のこれまでが静かに、しかし確実に熱くエネルギッシュに伝わる。
売り上げはというと発売4日で重版されるほどだったようで、Testosteroneさんとの共著で、自伝と同じ日に発売された『筋トレ×HIPHOPが最強のソリューションである』も重版されるなど、ラッパーとしてはもちろん著者としての才能も世に知られることとなった。
2021年になると、般若が2008年に自身で立ち上げた昭和レコードから独立し、新レーベル「やっちゃったエンタープライズ」を設立。同レーベルから、新曲「覚えてる」をリリースした。今回のレーベル設立と新曲リリースについては、1月17日にABEMAでおこなわれた無料生配信ライブ「般若 緊急生LIVE」にて発表された。発表にあわせ、ミュージックビデオも公開されている。
自分の”今”に決して満足することなく、歩みを止めないその姿勢こそラッパー般若の真骨頂であり、熱狂的なファンが多い理由だろう。
source
https://miyearnzzlabo.com/archives/65650
https://www.arban-mag.com/article/68270
written by 編集部
photo: https://www.youtube.com/watch?v=2DOOhMOwL-s