日本とアメリカのルーツを持つシンガー、ソングライター、プロデューサー、レーベルオーナーSen Morimoto(センモリモト)。アジア系アメリカ人として育ってきた経験と愛する人への感謝の気持ちを込めた、今までで最も自分らしく制作したと言うセルフタイトルアルバム『Sen Morimoto』が10月23日にリリースされた。
アルバムカバーに載っているおばあちゃんが書いた詩、日本人とアメリカ人のハーフとして経験した差別、愛するバンド、コラボレーター、レーベルについてインタビューした。
☆Taku TakahashiとTJOによるラジオ「TCY Radio」でインタビューの一部を放送!
https://block.fm/radios/1
ー早速ですが、今回のアルバムで一番好きな曲はどの曲でしょうか?
Sen Morimoto(以下Sen):何万回も聴いてる中、お気に入りの曲は何回か変わってるけど、今一番好きな曲は「Taste Like It Smells」。この曲のコードプログレッションが好き。友達3人もフィーチャリングされてるし。同じコミュニティーの人やリスペクトする人とコラボレーションするのが大好きで、それが友達だとなおさら制作プロセスを楽しめる。彼らの声も聴くのが好きなんだよね。
ーライブで一番演奏したい曲はどの曲ですか?
Sen:難しいね。どの曲にも重要な瞬間があって、それぞれライブで演奏するのが楽しみ。普段は一人で制作して、ライブは一人で楽器を弾いてて、全部を一人でやるのに慣れちゃってる。だから誰かと一緒にプレイするのが楽しみ。特に、今はイントロ曲である「Love Money Pt.2」をプレイするのが楽しみ。オープニングにホルンの音が入ってて、ライブでホルンの生音を聴くのが待ちきれないよ。
ーアルバムリリース直前にはプレ配信のために9人のバンドを集めたり、準備がいろいろあったと思いますが、そのプロセスについて教えてもらえますか?
Sen:なんとなくやりながら少しずつまとまっていった感じだよ。ライブに関しては、リハーサル中にメンバーが感染に対する不安を感じないことが何より一番大事だった。練習を始める前に検査を行ったり、みんなが同じ部屋ではなく、分けて演奏する方法を探したり。アウトドアでもリハーサルしたり、少人数に別れて進めたよ。少しずつ収録して、その音源をみんなに送って、集まらずにフィードバックしてもらって。換気が悪い中に集まることが一番良くないからさ。ようやくリリースになったけど、その実感がまだあんまりないよ。
ー先程話に出た「Taste Like It Smells」は他の収録曲と違った印象を受けます。ボーカルが多いだけではなく、楽曲自体のサウンドが違って、Sen Morimotoのジャンルの幅広さを表していると感じました。自分自身を最も表現していると感じる曲はどの曲でしょうか。
Sen:難しいね。周りの人に、なんでこのアルバムはセルフタイトルにしたかってよく聞かれるけど、収録されてる曲は全て、僕の音楽のスピリットをうまく表現できていると思う。特に前回の作品の『Cannonball』に比べるとね。だからそれぞれの楽曲が僕をどんな人かを表現しているけど、あえて選ぶとしたら、ポップ、ヒップホップ、カントリーが混ざってる「Woof」と、僕の声域が伝わる「Save」かな。
ーでは、“ソングライター”として一番自分を表現している楽曲はどの曲ですか?
Sen:「Goosebumps」はかなり今の感情に近い曲。曖昧なイメージの曲だけど“受け入れること”について書いてる。それはアルバム通して一貫しているテーマでもあるよ。あとは、最後から2曲目の「Nothing Isn’t Very Cool」。最後に書いた曲でもあるけど、一番難しかった。ステートメントになる一曲。
ーその「Nothing Isn’t Very Cool」は何について書かれた曲ですか?
Sen:前半は、自分の感覚から見る世界。この世界で育ってきて感じたこと、周りにいる人に関する気持ち、歳を重ねて感じる気持ち、アメリカに住んで経験してきたことについても書いた。後半はラブソングで、生きることは価値があるとリマインドしてくれる人への感謝の気持ちについて歌っているよ。
ー今回の作品は今まで以上に日本人のルーツを表現しているように感じますが、日本人としてアメリカで育ってきた経験や気持ちについて聞かせてください。私も日系アメリカ人なので、ぜひ聞かせていただきたいと思っています。
Sen:大人になってくると、人種としての違い、マイクロアグレッション(無意識での偏見や差別)、アジア人のステレオタイプに由来した他人からの期待がハッキリ見えてくる。白人が多い環境に育ってきて、マイノリティーであった自分も白人として見られたいと言う気持ちがあった。彼らと同じ髪の毛が欲しいと思ったり。でも、子供の頃に思っていたそういう小さな気持ちは、今大人になって考えるとちょっとばかげていると思うし、自分は自分でよかったと思う。だから(日本人である)父親に感謝だし、日本のルーツを感じられるように育ててくれた母親にも感謝。
昔の話なんだけど、僕のアジア系アメリカ人としてのスタンスを、仲間だった白人が勝手に自分のために使っていたことがある。例えば、周りに白人しかいない環境では「君は白人だから〜」みたいな扱いをされるけど、隣にアジア人がいることをアピールしたい時は「アジアンヒップホップを作る、かっこいい日本人の友達いるんだよ」と言われていた。僕のアイデンティティーを彼らのメリットのために使われるのがすごく不満だった。でも難しいのは、僕の母は白人で、そう言った意味では特権を持ってるし、アジア人としてもある程度の特権を持ってること。でもやっぱり今までの経験があったから、少しモヤモヤするところはあるよね。この経験は人生でどんなところにいても、ずっとついてきてることだと思う。
ーあなたは日本を訪れることも多いですが、日本に来る時は観光者として来ていると感じますか?または、何度も来て慣れて、自分の地元のように感じますか?
Sen:まだ全然、観光者気分だね。子供の頃からよく行ってて、父の家族も日本に住んでいるし、弟も京都に住んでる。まあ、気持ちは観光者とローカルの間かな。日本に行くと家族が暖かく迎えてくれるし、家に帰ったような気持ちにもなるけど、日本に同い年の知り合いはそんなにいないし、ユースカルチャーもそんなにわかってない。今は音楽のおかげで、日本に帰るチャンスが増えて、日本の音楽コミュニティーの中で対話したり、新しいカルチャーを体験したりできているよ。
ー日本での特別な思い出はありますか?
Sen:たくさんあるよ。毎回行く度にやりがいを感じる。プロモーター、通訳、他のアーティストや音楽業界の人たちはみんな歓迎してくれて、優しくて、それだけでスペシャルな思い出なんだけど、その上ファンに会えるから。ライブを見てファンになったと言われたこともあるし、アメリカではそういうおもてなしをあまり経験したことがないよ。アメリカにはアーティストがたくさんいるから、音楽やアーティストへの感謝が全体的に少し減ってると思う。日本はメディアの対応も全然違うんだよね。日本のメディアとインタビューをして思ったのは、感謝のレベルが違う。あなたもそうだけど、まだリリースされてないアルバムでも楽曲についてしっかり聴いてきてくれて、楽曲について細かく取材をしてくれる。あとは、日本でご飯が食べられたり、家族に会えることも嬉しい。日本に来ることはいつもスペシャルな思い出だよ。
ーフィジカルのアルバムカバーのデザインがすごく好きなのと、エコなプロダクションに変えたことが素晴らしいと思っています。コラボレーターもたくさんクレジットされていますが、今回どういうところにこだわりましたか?
Sen:尊敬するアーティストが周りにたくさんいるコミュニティーにいられてすごくラッキーに感じるし、あとはマネージャーでもあるGlen, Kaina, Blacker Faceと運営しているレーベルSooper Recordsは、アーティストにアートやビジュアルなどを自由にクリエイションさせていて、そういう環境にいられてすごく感謝してる。大きな企業と契約していたらきっとできないことだし。環境に優しいフィジカルのプロダクションに関して、僕もまだまだだ勉強中だけど、この業界ではグッズとかいろんなものからゴミが出るから、音楽業界はもっと環境について考えないといけないと思う。ヴァイナルのプロダクションもとてもエキサイティングだった。全てリサイクルされた素材から作られているんだけど、一つひとつのヴァイナルの色が少しずつ違って、すごくオリジナルな作品ができたと思う。
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ーアルバムのカバーにおばあちゃんが書いた詩が載っていますが、あなたにとってこの詩はどういう意味を持っていますか?また、おばあちゃんとの関係について話していただけますか?
Sen:実は、この詩は弟が見つけて送ってくれたものなんだ。彼もビデオのディレクターをしたり、日本でのツアーには必ずついてきてくれたり、僕の音楽のクリエイティヴな部分を手掛けている。おばあちゃんはすごく謙虚だから、自分から「私が書いた詩を読んで!」とは言わないけど、書道や俳句を書くのが好きで家に飾ってあるんだ。アルバムカバーに載ってる詩は弟がおばあちゃんの家の中に飾ってるあるのを見つけた。書いてあることにすごく共感して。おばあちゃんとは仲が良いけど、少し言葉の壁があるね。6歳から日本語を習い始めて、お父さんともうまくコミュニケーションを取れるようにはなったけど、まだまだ勉強不足。結構勉強になるのは日本語で歌詞を書くことで、それが一つの理由として、日本語で歌ってる時もある。リリースできる作品は少ないけど(笑)。
もっと若い時はシャイだったけど、大人になってからは家族にもっと感謝するようになって、ジェスチャーや簡単な言葉では気持ちを伝えられるようになった。でもやっぱり言葉ではその気持ちを日本の家族にうまく伝えられなかったから、大きな壁を感じた。おばあちゃんに「大好きだよ!」と伝えたいから、詩をアルバムカバーに載せてその気持ちを伝えられてるといいな。
ー日本語でも英語でも歌詞を書いていますが、ラインティングプロセスについて教えてもらえますか?
Sen:普段は曲のストーリーに関してざっくりとしたアイデアを曲を書く前からイメージしてるから、曲のコンテンツは決まってるけど、歌詞はそのときの場合による。歌詞を書く上で一番いいところは、何かをあえて表現するというより、無意識に心の中にあったことが言葉として出てくること。バイリンガルな歌詞を書くときも同じ気持ちで、英語のフレーズが日本語の訳と合わせるとナチュラルに繋がる、ぴったりなフレーズがあるんだ。自分の歌詞には言葉遊びをいれるのが好き。日本語では韻を踏むことがそんなに重要じゃなくて、何よりも詩的であることを大切にしてると思っていて、そこが日本語の好きなところだよ。
ーコラボレーターとの関係について、特に日本人アーティストAAAMYYYとの曲「Down Deep」のMVの制作プロセスについて教えて下さい。
Sen:彼女とコラボしたとき、すごくいろんなことに対応してくれて、彼女のチームにもサポートしてもらって、一緒に制作できて楽しかった。「Down Deep」は一緒にツアーした後に作った曲だけど、僕がアメリカに帰ったあとに作り始めた曲だから、メールでアイデアをやり取りしてた。もともと「Down Deep」は予算をかけて壮大なMVにする予定だったんだ。でもパンデミックが始まって、外出禁止になる直前に別のアーティストとMVを撮影したんだけど、感染の危険性に対してとても無責任なことをしたような気持ちになってしまった。もちろんマスクをつけて、最低人数で撮影したんだけど。
だから「Down Deep」は友達を数人だけ呼んで、できるだけリモートな環境でMVを一緒に作ってもらった。僕の彼女でもあるアーティストのKainaがディレクションしてくれて、猫と一緒に自宅で撮影した動画をAAAMYYYに送ったら、AAAMYYYも猫と一緒に映ってる動画を返してくれた(笑)。とてもDIYだったけど、楽しみながら作ったMVだよ。
ー最後にあなたのレーベルSooper Recordsについて教えてください。また、注目すべきアーティストいたら教えてください。
Sen:僕のアルバムがリリースされた後に、同じシカゴ出身のアーティストLuke Titusがリリースする予定。プロデューサー、ドラマー、シンガー・ソングライター、ラッパー、なんでもできる人。気付いたら、Sooper Recordsはそういう人が集まるレーベルになってた。少しバイアスはあるけど、Sooper Recordsのアーティストたちは優しくて思いやりのある人が集まってる。アーティストとしても人としても刺激的な人たちが周りにたくさんいる。彼らのオーディエンスを広げられることに感謝してるし、彼らはもっと多くの人に知ってもらう価値のあるアーティストだよ。
ーありがとうございました!
Sen Morimoto『Sen Morimoto』
Release Date:2020.10.23 (Fri.)
Label:Sooper Records / Inpartmaint
Tracklist:
01. Love, Money Pt. 2
02. Woof
03. Symbols, Tokens
04. Butterflies Ft. KAINA
05. Deep Down Ft. AAAMYYY
06. Tastes Like It Smells Ft. Lala Lala, Kara Jackson, Qari
07. Save
08. Wrecked Ft. NNAMDÏ
09. Goosebumps
10. Daytime But Darker
11. The Things I Thought About You Started To Rhyme
12. The Box ft. Joseph Chilliams
13. You Come Around
14. Nothing Isn’t Very Cool
15. Jupiter
※国内流通盤CDにはボーナス・トラック1曲のDLコード付き
Written by Amy