毎月第4火曜日夜22時からblock.fmで配信中のラジオ番組「FM80」に、Justice(ジャスティス)やBreakbot(ブレイクボット)らのリリースで知られるEd Banger Recordsより、デビューアルバム『Born a Loser』をリリースしたMyd(ミド)がゲスト出演。
Mydと同じくフレンチエレクトロをルーツに持つ80KIDZのALI&とJUNに、Ed Banger Recordsからリリースすることになった経緯、クラブミュージックからインディー寄りのサウンドに変化した理由、最近おすすめの音楽について話してもらった。
インタビューのアーカイブ視聴はこちらから。
▶︎FM80
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ALI&:今日はお話ができることをとてもうれしく思っています。早速ですが、今回のアルバムであなたにとって一番思い出深い曲はどの曲ですか?
Myd:一番最初にリリースした「We Are the Light」だね。アルバムを作るときはその作品を代表するような曲が必要だと思ってる。どんなサウンドか、どんな楽器を使うか、どうやって歌うかなどが表現されているような曲。そういう意味でこの曲は完璧にアルバムを表現できたと思う。ただ、制作にはかなり時間がかかったよ。
JUN:以前は純粋にテクノやハウスといったクラブミュージックスタイルの楽曲が多かったと思うのですが、このアルバムや最近の楽曲ではクラブミュージックという枠を超えてポップスやインディーミュージックの要素が多く見られます。どうしてこのようにサウンドが変化していったのですか?
Myd:このアルバムを制作する前、僕の音楽キャリアの中心は僕のバンドのClub Cheval(クラブ・シェヴァル)だった。僕らのゴールはテクノとエレクトロニックシーンに入ることだったから、そのシーンにあった音楽を制作してたんだ。
でも、バンドが活動中止になってソロに専念することになったとき、今までとは別の音楽を作りたいと思った。家でよく聴くインディミュージックと僕に影響を与えてくれるフレンチエレクトロニックミュージック、そしてメランコリックな音楽が混ざったような作品を作りたいと思ったんだ。
だから意図的に自分のサウンドを変えたというより、Ed Banger Recordsに所属したことで初めてソロとして作りたい音楽に100パーセント向き合ってできたという感じかな。
ALI&:なるほど。僕ら、新しいアルバムの音めちゃくちゃ好きです!
Myd:アリガトウ!
JUN:ということは、Mydにはインディミュージックのバックボーンがあるということですよね?
Myd:そうだね。Sufjan Stevens(スフィアン・スティーヴンス)やElliot Smith(エリオット・スミス)が大好き。Michel Berger(ミッシェル・ベルジェ)のようなフランスのポップミュージックも大好きだよ。あとはSpotifyのおかげで坂本慎太郎の音楽を発見して、彼にもすごくインスパイアされている。とてもハッピーだし、たまに子供が歌ってるところも好きなんだ。
JUN:僕たちもベースにロックやインディーがあるという部分でとても共感できますね。サウンドがクラブ向けのダンスミュージックからリスニング寄りに変化していったのも、僕たちのニューアルバム『ANGLE』の内容に通じる部分があるように思います。
ALI&:『ANGLE』を制作するにあたって、Spotify等で今まで出会う事のなかったかもしれない様々な国のアーティストの楽曲を聴いて刺激を受けました。様々な人のライフスタイルと共に聴いて欲しい気持ちで制作している部分では同じなのかもしれませんね。
JUN:今回のインタビューにあたって僕のiTunesのライブラリーを遡ってみました。2012年の『Victoria』はPara One(パラワン)主宰のレーベル〈Marble〉から、その後はBrodinski(ブロディンスキ)のレーベル〈Bromance〉からと、様々なレーベルからリリースしていますよね。今回Ed Banger Recordsからリリースするようになった経緯を教えてください。
Myd:Para Oneのレーベルに関しては、彼のスタジオが僕のスタジオに近くにあったんだ。EPが完成した時にPara Oneのスタジオまで歩きながら聴いてもらったんだよ。それでリリースに繋がった。Bromance Recordsは僕が契約してるマネージメント会社と繋がっていたから、Bromance Recordsからリリースすることは自然な流れだったね。
次のEP『All Inclusive』を制作し始めた頃、Bromance Recordsはもう1年くらい動きがなかったのと、この作品はパーソナルな作品だったから家族や友達のような存在であるレーベルからリリースしたかったんだ。僕が好きなインディーとエレクトロニックミュージックを理解しているレーベルとしてEd Bangerがぴったりで、Ed Bangerからリリースすることに何の違和感もなかった。
パリはとても小さな街で音楽関係者はお互いを知ってるから、すでに知り合いだったEd Banger RecordsのPedro(ペドロ)のところに行ってEPを聴かせたら、気に入ってくれたんだよ。
ALI&:今世界中がパンデミックで大変だと思いますが、今回のアルバム制作環境で変わった事などありましたか?
Myd:そうだね。前はDJの現場でインスピレーションを受けていた。ファンに会ったり自分の曲をクラブでかけたり、クラブやフェスに出演することは僕にとって大きなインスピレーション。でも今観客の前でDJが出来ないことは仕方のないことだから、他からのインスピレーションを探してるよ。
例えばフランスで1回目と2回目の外出禁止令がでた時には、YouTubeで「CoMyd-19」と名付けたライブ配信をやった。ファンが毎朝集まってくれて、アイデアとしてはかなりの成功だったと思う。ファン同士がチャットで交流して大きなコミュニティになったんだ。チャットで出会ったカップルもいたよ!
幸運なことに、パンデミックが始まる前にアルバムはほとんど完成していたから、そんなに焦ってインスピレーションを探す必要はなかった。何よりもスタジオにいることが僕にとって重要だから、とりあえずスタジオでリミックス作業をしてたかな。アルバムのシングルを無事にリリースできたし、そのリミックスもリリースできたから、なんとかポジティブに過ごせたよ。
ALI&:Mac DeMarco(マック・デマルコ)、Juan Wauters(フアン・ウォータース)とBakar(バカール)がフィーチャリングした楽曲はリモートで制作した曲ですか?彼らをフィーチャリングに呼ぶきっかけ、どうやってコラボしたか教えてください。
Myd:シンプルだけど、普通にお願いしてみたんだ。重要だったのは、僕ができないことをできる人とコラボレーションすること。僕はエレクトロニックミュージックを作っているから、アルバムにインディーな要素を追加できるインディーアーティストを呼んだんだ。
「Whether the Weather」を一緒に作ったJuan Wuatersとはパリで知り合った。「僕があなたの楽曲をサンプリングしたような曲を一緒に作りたい」と伝えて制作したよ。彼は今までエレクトロニックミュージックをリリースしたことがなかったんだけど、このアルバムの中でもテクノよりの曲に参加してもらえたことは本当に最高だった。
Bakarとはお互いのファンだったことから知り合って、ロンドンで一緒にセッションすることになったんだ。セッションの時は何も計画せずに2日間一緒にスタジオに入った。そこでできた作品をどちらの名義でリリースするかも決めずにセッションしたんだ。最終的に完成した曲はすごく気に入っていて、もしかすると彼も違うバージョンを自分の名義でリリースするかも。
Mac DeMarcoに関しては、彼とコラボレーションすることが一つの夢だった。パリで何回か彼に会ったことがあって、僕の曲が好きと言ってもらえたから、チャンスだと思ってコラボしたいと伝えたんだ。その後このコラボのために作った曲を彼に送った。
僕がツアーでLAを訪れていたときにパンデミックが起こって、ツアーが全部中止になってしまったんだけど、そのとき彼もアジアツアーが中止になってLAにいたんだ。それでLAのスタジオに一緒に入って「Moving Men」を制作したよ。
ALI& : 僕らの場合は毎回セッションではなくデータの交換等で楽曲が完成する事が多いです。Mydのようにセッションで(機材やパソコンを何となく触りながらで出来たアイデアを)完成させるのもトライしてみたいですね。
JUN:タイトル曲「Born a Loser」について「この曲は自分が負け犬だと思い込んでいる人々に捧げるアンセムなんだ。感じ取ってもらえるフィーリングが、素晴らしいことを成し遂げるための一歩を踏み出す原動力になって欲しい」というコメントを読みました。他の曲はどんな気持ちで制作しました?
Myd:ツアー中にアルバムを書いていたんだけど、その間に僕の周りにいる人について振り返ってたんだ。例えばクラブの観客には、たくさんの愛の形でパワーをもらってる。そのことからインスパイアされて「Together We Stand」「We Are the Light」や「Always a Light」が生まれた。
「Let You Speak」はもう少しパーソナルな曲で、恋愛で別れる時の話をしてる。悲しい曲にしたくなかったのはセンチメンタルすぎる曲をリリースするのが好きじゃないのと、僕がシャイだからっていうのもある。別れた後の前向きな自由さを感じる曲を書きたかった。
「I Feel Better (I Got Something)」も同じようなコンセプト。別れたばかりの元カレや元カノに、「悲しいのも泣きたい気持ちもわかるけど、もう自由なんだよ?前の状況が続くのは嫌だったでしょ」と伝える感じだよ。
JUN:過去に何度か来日していますが、日本の音楽シーンで印象に残っていることはありますか?
Myd:とてもクリエイティブなところと、独自のスタイルを作り上げるところが好き。よくKEN ISHIIを聴いていたんだけど、彼がエレクトロニックミュージックを日本っぽく変えるところが大好きなんだ。聴いていて東京のネオンライトを想像させるところがとてもクールだと思う。
Sam Tibaが日本のラッパーとスタジオに入った時に僕もスタジオにいたんだけど、アメリカやメインストリームのスタイルをコピーしないで自分のスタイルでやってるところがかっこいいよ。
JUN:MVやアートワークにユーモアがあってとても好きです。特に「Bingo」のジャケットは最高でした!そういったアイデアはどのようにして浮かんでくるのですか?
Myd:アートワークや写真、MVはほとんど、Alice Moitié(アリス・モティ)が担当した。とても才能のある監督でありフォトグラファーだよ。
彼女のディレクションスタイルと僕の音楽制作のスタイルは似ているんだけど、僕らはコンセプトを固めてから作るというのが好きじゃない。事前に準備した通りに制作をすることが苦手なんだ。コンセプトを固め過ぎると頭の中で想像したものしか生まれれないからね。シンプルなアイデアだけを持って、その場でどうするかを考えるほうが好き。
「Bingo」も収録されてるEP『All Inclusive』のときは、とりあえず僕を船に乗せるところからスタートした。僕が船に乗ってるだけで面白いのはわかってたから、船に乗ってからいろんなことを試したんだ。彼女にディレクションしてもらった「Muchas」で、ドッペルゲンガーと一緒に撮影した時も同じプロセスだった。大体の筋書きはあったけど、セットに入ってからアイデアが広がった。「Let You Speak」のMVはロサンゼルスのDan Carr(ダン・カー)にお願いしたけど、彼も同じプロセスでディレクションをしてくれたよ。
ALI&:あなたの作品はいつも新しい表現で僕たちをワクワクさせてくれます。プライベートで最近好んで聴いている作品やプレイリストがあれば教えてほしいです。
Myd:Vegyn(ヴィーガン)のレーベル〈PLZ Make It Ruins〉が大好き。僕はそのレーベルに所属しているArthurの大ファンで、彼に「Let You Speak」のリミックスを作ってもらったんだけど、超クレイジーなミックスなんだ。フランス人のアーティストであればFlavian Berger(フラヴィアン・ベルジェ)。彼はとてもクリエイティブなフレンチポップを作ってるプロデューサーで、夏にぴったりなエレクトロニックミュージックも作ってる。
あとは誰だろう…?あ!フランスのDJのMad Rey(マッド・レイ)もオススメだよ。ここだけの話だけど、彼は近々EPをEd Banger Recordsからリリースするんだ。そのEPにはラッパーのGwles(ジュールズ)をフィーチャーしたハウストラックが収録されていて、まだリリースされてないけど僕の中では今年一番好きな曲。
ALI&:ありがとうございます。 Mydは現在のエレクトロニックシーンにおいて重要な存在であると個人的に思ってます。Mydのクリエイティブな話を伺えて、素晴らしい時間でした。
Myd:日本に一日でも早く戻って、みんなの前でライヴがしたいよ。その時は、バンドも連れて行きたいな。
JUN、ALI&:ありがとうございました!
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『Born A Loser』配信中
https://virginmusic.lnk.to/bornaloser_myd
TRACK LIST
1 WE ARE THE LIGHT
2 LET YOU SPEAK
3 TOGETHER WE STAND
4 BORN A LOSER
5 THERE’S A SNAKE IN MY BOOT
6 THE SUN
7 WHETHER THE WEATHER (FEAT JUAN WAUTERS)
8 ALWAYS A LIGHT
9 CALL ME
10 MOVING MEN (FEAT MAC DEMARCO)
114 IT’S ABOUT YOU
12 I FEEL BETTER (I GOT SOMETHING)
13 NOW THAT WE FOUND LOVE
14 WE FOUND IT (FEAT BAKAR)
【Myd】
あのJUSTICEも所属する、フレンチ・エレクトロ・シーンを牽引するレーベルとして知られるEd Banger Recordsに所属。親しみやすいキャラでありながら、DJやビートメイカーとして、マルチな才能をもつ。Club Chevalのメンバーであり、過去には、セオフィラス・ロンドン、カニエ・ウェストなどともコラボしている。シングル「The Sun」のストリーミング再生回数は世界中で1,500万を超え、2020年にはメジャー・レイザーの「Lay Your Head On Me」、WONKの「Orange Mug」、そして翌年にはデュア・リパの「Fever」をリミックス。待望のデビュー・アルバム『Born A Loser』は、2021年4月30日にリリース。
FM80
EVERY 4TH TUESDAY 22:00 - 23:00
80KIDZが送る音楽、カルチャー、ファッションなど彼らの最新の旬を紹介する番組。
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