FPM田中知之が語る、旧世代と新時代のパーティ運営と、今あえて大阪の隠れ家的クラブでDJする理由

☆Taku Takahashi(m-flo)が直撃インタビュー:日本のアンダーグラウンド〜オーバーグラウンドなクラブシーンを縦断してきた田中知之(FPM)が創造する新たなイベント空間とは?
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2018.07.04 04:00

大阪のカウンターカルチャーがかつてないようなピンチに陥っている。そんな中、Facebookのフィードに流れてきたFPM田中知之さんの文章。次にやるパーティの告知だったんだけど、なんかそれが普通の告知と違っていて。田中さんの想いが込められていた文章だったっていうのだけでなく、不思議とそのパーティの風景が見えてきたんですよね。



正直な話、いま大阪で僕らの好きな音でパーティをして、集客をするのってすごく難しいんですね。トップ40の音楽が流れているところやアリーナタイプのEDMが流れているところの1人勝ち。そんな中、田中さんが作っているパーティがかなり盛り上がっている、というお話をあちこちで聞きます。


どうやってそれを作ったのか、そして田中さんが思う良いパーティの条件とは。これを本人にぶつけてみたら、すごく気になる返しをいただきました。(☆Taku Takahashi)



いち早くジャンルを横断するタブーに挑んだ『グランツーリズム』


☆Taku Takahashi(以下Taku):今回のテーマはFPM田中知之が思う、理想なパーティ、理想なクラブイベントについてお伺いしたいと思うんです。そもそも田中さんはさまざまなパーティを繰り広げていらして、特に僕がすごくユニークだと感じたのは、『グランツーリズム』のライバルは旅行代理店だって表現されていたことでした。


田中知之(以下FPM):『グランツーリズム』を始めたのは、2000年12月で、西麻布にyellowっていう今では伝説のクラブがあって、ぜひそこでイベントをやりたいって思ったんですね。当時はテクノのパーティー、HIP HOPのパーティー、ハウスのパーティーと、クラブのイベントって音楽ジャンルが結構ストリクトにまとまっていた。『グランツーリズム』って“大旅行”みたいな意味なんですよ。クラブの中でジャンルを横断する意味。Yellowにはフロアが上と下にあったんで、上でボサノバのライヴをやってるけど、下ではガチのハウスやってたりとか。メジャーデビューしたばかりのEGO-WRAPPIN’が東京初ライヴをやってくれたのも『グランツーリズム』だった。メジャーデビュー後のRIP SLYMEもライヴをやってくれた。2016年に出した新しいアルバムで人気も再燃してるThe Avalanches(ザ・アヴァランチーズ)が初めて日本でDJセットを披露したのも『グランツーリズム』だった。今でこそ、渋谷のVISIONとかWOMBとか新木場のageHaとか、都内の大きなクラブではジャンルをまたいだパーティー、オムニバスっていう言い方がいいかわからないけど、それが普通になっているよね。


Taku:フロアごとにスタイルが変わる。


FPM:うん。メインフロアでもヒップホップのDJの後にテクノのDJが出たりとか。僕がyellowで始めたころって、そういうやり方がタブーな感じがした。それを俺はあえてやりたいなと思って始めたのが『グランツーリズム』で。ご存知のとおり時代も良かったし、ほんとにバズった。入場料とかゲストとかっていうのがつきまとうけど、僕は基本フリーゲストっていうのがないほうがいいと思ってて。


Taku:ほう。


FPM:ただ、門戸を広げるために友達割引きっていうのはあっていいと思っていて。今でこそ普通かもしれないけど、フリーじゃなくて友達割引きでお金はいくらか絶対払ってもらうっていう。どんなすごいVIPや有名人が来ても、今でもそれは考えてる。


Taku:そこは平等に扱う。


FPM:yellowって2階の奥のほうにVIP席があったのね。それを僕のパーティーでは使わなかった。どんなすごい方が遊びに来ても普通にドリンクカウンターに並んでお酒を買ってもらう。そしたら、結構な有名人がみんなと一緒に普通にフロアで踊ってて、お酒の列に一緒に並ぶって絵が作れたりして。


Taku:僕が行った時は、女優さんがいる、モデルさんがいる、有名なフォトグラファーがいる。他にもグラフィックデザイナーだったり、いろんなクリエイターだったり、タレントさんがいらっしゃってましたよね。


FPM:僕らは伝説でしかしらないけど、ニューヨークのスタジオ54とか、アンディ・ウォーホールがいて、その横にグレイス・ジョーンズがいたり、いろんな俳優さんがいてみたいな。イメージとしては一般の人とフラットに遊んでる。




今のクラブシーンが過渡期なのはみんな分かっていると思う


Taku:2000年初頭とか今の2018年までの間にいろいろ変わってきたと思うんですけど。ここ最近の変化について、田中さんが感じたことを話してもらっていいですか。


FPM:yellowが終わって何年になるんだろう?


Taku:10年前ですね(注:2008年閉店)。


FPM:ちょうどそれくらいか。さっき話したオムニバスなイベントって本来DJにとってすごくやりにくいスタイルなんです。自分の世界を説明するのが難しいから。そういうパーティがあるのはいいと思うんだけど、それがすべてオムニバスで、なんとかDJのメンツを揃えれば集客が望めていいパーティになるんじゃないかっていう誤解?


Taku:イベント的に集客できるDJを集めて、ひとつのパッケージとして。


FPM:僕も『グランツーリズム』が成功したおかげで、若干そういうふうに過信してたところもあった。でも、今のクラブとかシーンが過渡期なのはみんながわかってると思うんですね。


Taku:過渡期っていうのをもうちょっと説明してもらっていいですか。


FPM:要するに、内容よりも、まず目先の集客人数をどうやって稼ぐかっていうこと。


Taku:イコール客を呼べるDJを。


FPM:そう。客を呼べるDJをコンパイルする。なるべく一般に名前が売れてる人を集めていく。僕は食べるのも好きだから音楽シーンと今のレストランシーンとかを並べてみることが最近多くて。例えば、すばらしいDJって日本にたくさんいると思う。海外のDJと比べても、テクニックもセンスも知識もパフォーマンスもすばらしいDJはいっぱいいる。それを料理屋さんに例えると、シェフだったり料理人だったりするんですけど。で、ハコはレストランになるんですけど。クラブのオーガナイザーはレストランのオーナーさんだったり支配人だったり。でも、いいシェフがいい料理を作っても、レストランが最低だったらそのお店は流行らないし人は来ない。料理人のアイディアある料理よりも、もっと利益率が上がるものを出してくださいって言ったら、料理人の良さって活かせないでしょ? だから今のクラブのそういう感じ。ボタンの掛け違えが起きている気がするんですよね。


Taku:掛け違いからズレが生じている。


FPM:我々DJと、クラブの気持ちがズレちゃうというかね。決していがみ合ってるわけではないし、でもなんかの違和感っていうのが拭い去れないまま、なんとなくイベントは成立してきたような気もしてるんです。興行的にもギリギリOKなのに、お互いの気持ちを忖度して。


Taku:田中さんの考えって、他のDJたちも一緒だと思うんですよ。決して批判じゃないけれど、ちょっと疑問を感じてる。


FPM:そうですね。例えば、オールジャンルとか、TOP40とか、EDMとかを問題視することがある。僕は、そういうパーティもあったらいいと思う。でも、本来そういうスタイルじゃないDJにそれを求めたり、集客のために「TOP40のDJを一緒にブッキングさせてください」とか、「サポートDJはEDMを掛けるDJで揃えます」とか。それをオムニバスとして一緒に見せようとするクラブの無理やり感が...。


Taku:そこがボタンの掛け違いっていう表現に繋がるんだ。


FPM:うん。数年前までは、オムニバスとして面白い、組み合わせが面白いで、まだ許せた空気があった。だけど、その違和感にお客も我々も目をつむっていられなくなってきた。


Taku:掛け違いから破れてったりとか。


FPM:そうそう。ただクラブの気持ちもわかるんですね。この不景気でクラブに人が流れ込むっていう訳じゃない。日本の音楽業界も全体的にデジタルリリースされたものがコピーもされてマネタイズできなくなってきたけど、ライヴは物販でTシャツ売ってとか、大きいフェスが盛り上がって。ならクラブシーンのフェスってどうなの?すごーくアンダーグラウンドでマニアックな人たちが集まるフェスと、すごく大規模で海外の有名なEDMの人気DJが集まるフェスがあるけど、その中間がごっそり抜けてる気がする。僕らもそういうところで活躍できないフラストレーションも当然あるけど、海外DJにごっそりギャラ持ってかれたら、日本人DJにギャラを支払う余地なんてあんまりないわけ(笑)。


Taku:しょうがないとしか言いようがないですよね。


FPM:だからEDM系フェスでの日本人のDJは、みんな早めの時間にプレイする若手中心のブッキングになってきた。これは数年前から変わらないよね。


Taku:新しいことを体験させるっていう考えではいいことかもしれないけど、日本のアートをもっと発展させる考えが欠落してることはありますよね。


FPM:やっぱりアンダーグラウンドシーンのスーパースター的存在が圧倒的に少ない気がするね。海外だったらその層がすごく厚くて、DJシーンやクラブシーンの層の厚さになってる気がするんですけど。


Taku:場合によっては次のメジャーになる可能性もありますよね、海外の場合は。


FPM:僕はTakuには言ってきたけど、大きなシーンにアゲインストする日本人DJが出ていない。日本のDJなのに海外出ていって数千万のギャラをもらう人や、アメリカのチャートにランクインする作品が作れるとか。そういう人がいない。この前BTS(防弾少年団)がビルボードで1位だったでしょ? でも、ご存じのとおり、韓国人のアーティストブームが日本に到来する前に、韓国で日本人DJブームがあったじゃない?僕らも韓国行った時に破格のギャラをいただいて。今でも覚えてるけど、俺みたいなDJにワンマンで5,000人入るとか、僕は韓国行ったら3人のセキュリティがついたからね(笑)。でも結局、立場は逆転してしまった。国をあげてK-POPを文化として輸出していってる。今はそれをアメリカに対してやって、ビルボード1位を遂に。



Taku:素質では若い子たちにいい子いっぱいいますよね。


FPM:そう。いいDJ、いい料理人。でも本当はそこを取り仕切るオーガナイザーと言われる人、プロデューサーがいることが大事。


Taku:わかりやすく言うとビートルズに対しては。


FPM:ジョージ・マーティンがいた、っていうね。GLAYみたいな長く活動しているすばらしいバンドに、亡くなった佐久間正英さんがいらっしゃったり、佐久間さんが亡くなられた後は亀田誠治さんがいらっしゃったり。もうセルフプロデュースできるはずなのに、バンドに対してのプロデューサーがいるのは僕はすごく重要なことのような気がする。外部のオーガナイザーがすべてのイベントを組み立てるほど層が厚くない日本の現状では、クラブのブッキング担当がその立場だと思うんだけど、31日あったら日曜休みでも25本くらいのパーティ組まないといけない。毎月25回イベントをオーガナイズすることなんて絶対に不可能。


Taku:厳しいですよね。


FPM: yellowでパーティやってた頃、パーティのスタートの時間から終わりの時間までのすべてのDJのブッキングやタイムテーブルの管理を僕はしていた。それがある時期から、早い時間や朝方のクロージングのブッキングをクラブサイドに任せて、若手DJに託しました。なぜそうしたか? その理由は、集客が全体的に落ち込んで早い時間にお客さんが来ない。ゲストで呼んだDJにそんな早い時間にやってもらうのは忍びない。っていうことで若手のチャンスになればいいなっていう大義名分でそうやってきたけど。


Taku:間違ってないですよね。




『HOWL』でオープニングとクロージングの大切さを痛感した



FPM:でもね、Facebookにも書いたことあるんだけど、クラブのオープニングDJってめちゃくちゃ大事。


Taku:前座っていう概念じゃないってことですよね。


FPM:絶対違う。それはクロージングもしかり。僕がyellowでやってた時、10時がオープンで僕が11時からDJやってたんですよね。10時のオープニングは、毎回信頼できる中村智昭くん。今は渋谷でBar Musicって店をやってて、MUSICAÄNOSSAっていうすごい活動してるすばらしい選曲家、DJ、音楽ライターがいて、彼に1時間を任せて、11時から僕がやっていた。


Taku:オープニングからこだわってるパターンですよね。


FPM:だから、集客も早かったし。更には、朝方4時くらいからラストまでも僕が絶対DJやってた。オープンとクローズは僕が責任持ってやってた。それがいつしか自分の中に傲慢な気持ちも生まれたのか、とりあえず人の少ない時間にやらなくてもよくね?みたいな。


Taku:ふはははは。傲慢だったのかわからないですけど。


FPM:でも、それが今のクラブ全体の空気ですよ。早い時間に人なんかいない。人がいないところで毎回やってるDJのメンツは同じ。だからDJのセンスとかテクニックが向上するはずもない。だから早い時間のクラブはつまんないってイメージが定着してしまった。そこで僕が始めた『HOWL』って名前のパーティが7月でちょうど1年になるんですね。


Taku:『HOWL』っていうのはどういう意味なんですか?


FPM:いいタイトルないかなって考えて、自分の本棚とか見てたら、アレン・ギンズバーグっていうアメリカのビート詩人の巨人がいて、彼の処女作品が『HOWL』っていう詩集だった。ハウリングのハウルで「吠える」の意味があって。そうかアレン・ギンズバーグか!って。ちょうどFPMのファーストアルバム『The Fantastic Plastic Machine』で「アレン・ギンズバーグ」って曲をサックスプレイヤーの清水靖晃さんと一緒に作ってるんですよね。FPMのデビューアルバムを作ってる最中に、アレン・ギンズバーグが亡くなったから。それが1997年で、『HOWL』を始めたのがちょうど20年後で、これは何か因縁めいたものを感じて。


Taku:なるほど。


FPM:ビート詩人たちはモダンジャズをバックに詩を吟じたんですよ。これだ!と思って。ポエトリーリーディングをやりたい。しかもビシビシのテクノでやるのが今風じゃないかと。それで、一回目はスカパラの谷中敦くんに「こういう企画なんだけど、詩を読んでくれないか?」って頼んでやってもらった。『HOWL』の初回はすごくいい感触だった。それだけじゃなくて、告知する時にも「オープニングから私DJやりますんで、早い時間から来てください。また明朝も私がアンカーやりますんで、遅い時間からでも来てください」と言ったんですね。そしたら、オープン前からSankeys(サンキーズ)に行列ができたんですよ。自分が主催するクラブイベントではもうしばらく見てない光景だった。オープンしたと同時に僕がDJしたら、1-2曲かける間にフロアが満杯になったんです。フィーリングもすごいよくて、大人の人たちがワーワー騒いでくれて、そのまま居座ってくれた人もいれば、「DJ楽しかった」って1杯呑んで終電で帰っていく人たちもいたし。あ、これだなって思ったんです。


Taku:イメージ湧きますね。


FPM:たった1回のことですよ。ただすごーく簡単なことを今まで自分はすごくないがしろにしてたって。


Taku:やって気づいた感じだったんですか?


FPM:うん。やってみて気づいたね。情けない話だよね。もっと早くするべきだったなって思ったね。でもね、単にヘッドライナーのDJを早い時間にすればいいって話じゃない。そんな簡単じゃない。


Taku:そこをもうちょっと説明してもらってもいいですか?


FPM:ここ20年くらい、いろいろな国のパーティやクラブでDJさせてもらったんですよ。そういうので経験値が上がったんですよね。DJとしての経験値だけじゃなく、パーティの見る目というかね。もちろん京都にいた時も結構なパーティを打って、東京や大阪や海外のDJを京都に招いてやったりした。ピチカートファイブの小西康陽さんをお招きしたりとか、Suburbiaの橋本徹くんを招いたりとか、瀧見憲司さんを招いたりとか、東京パノラママンボボーイズも招いたし。TOWA TEIさんがNYにいらっしゃった時に京都に来ていただいたり。そんなご縁があったからFPMとしてデビューできた。僕はオーガナイザーって立場でイベントやパーティを作って、いろいろ経験させてもらったことで、お客さんが嫌うこと、クラブが嫌うこと、DJが嫌うこと、それぞれを学んだよね。そういうものをちょっとずつ調整して良いパーティを作ることを学んだ。俺がやってることってバンドのプロデューサーがやってることなんだろうな。バンドでもレコーディングとかしてたら、すごーく真面目になりすぎて堅ーい音楽作っちゃって、それをプロデューサーが「そんな固く考えなくてもいいんだよ」とか言ったりすることもあるじゃない?それをちゃん言ってくれたおかげでいい曲ができることがあるわけで。


Taku:気づかされることってありますよね。


FPM:俺はいろんなところに呼んでもらってDJしたおかげで、楽しいこともツラいこともいっぱい経験させてもらったから、他の人が気づけないことも見えるのかも。それをひとつずつ、ちゃんと積み上げたパーティーをやるべきなんじゃないかなって。


Taku:積み重ねですね。


FPM:それがレギュラーパーティのすばらしさ。長くやってる素敵なパーティってあるじゃない? 『グランツーリズム』もその1つだったと思うし。Takuと一緒にやらしてもらった大阪のオンジェムでやってたパーティも、すごいパーティーだったと思うし。




ALZARという素晴らしいクラブに出会えたことが『MANIC』に繫がった


Taku:ただ確かなのは、大阪のクラブシーンは風営法で検挙されたクラブが増えてから、ムードが一気に変わりましたね。


FPM:変わったね。その裏でいわゆるディスコ業態のクラブが集客伸ばして。


Taku: 彼らがすごく企業努力をされていたっていう。


FPM:そう。彼らは本当にすばらしいと思う。企業努力でお客を入れて、エントランスフィを取ってなんとかDJのギャラを払いつつ、自分たちも儲けるスタイルから、次のフェーズに行ってるわけでしょ。女性はタダですよとか。なんならフードもただですよと。


Taku:特に当時は1時に閉めないといけなかったから、早い時間からお客さんいれたい。だから晩飯も無料で出しますよっていう。


FPM:それでちゃんと収益が出て人が来て、って。すごいアイディアだったと思う。言わば端から端までちゃんとオーガナイズされたパーティーだと思うんですよ。


Taku:ただ田中さんと方向性は違いますよね。


FPM:そう。俺がやってるパーティがいいとかの議論じゃないですよ。この間DJのEMMAくんと長いLINEの会話をしていて、彼もそこはちゃんと気づいていて、「ああいうハコの企業努力は半端ないよ」と。あのやり方を今まで音ハコって呼ばれていたクラブが、多少目先のDJのブッキングを変えたところで成功するはずがないんだよって。ディスコバコのパッケージは、ものすごくよくできたマクドナルドのセットメニューみたいな気がする。みんな大好きで食べたくなって、ジャンクな良さと価格のバリューが合わさった感じ。そんなマクドナルドに対抗できるイベントを考えたら、もうクラブじゃないところでパーティーをやるっていうのもひとつの手なんです。いま「アーバンリサーチ」と一緒に「HYPERSOCIETY ARCHIVES」というパーティーをやっていて。例えば、京都の南座の向かいにあるビルのルーフトップや、ガーデンレストランでパーティやってたりしてるんだよ。


Taku:はい、やられてますよね。


FPM:でもね、やっぱり俺を育んでくれたところっていうか、クラブっていうのを全部亡きものにするのはちょっとないんじゃないかなと思って。


Taku:その想いが田中さんのFacebookで「ALZARこれからやるよ」っていう書き込みから見えて印象的だったんです。


FPM:『HOWL』を作ったことで自分に光が見えたっていうのもある。大阪でもオンジェムの閉店で、自分のレギュラーパーティがなくなってしまったから、何かやりたいなと思った時に、ALZARにゲストで呼んでもらったの。実際そこでDJをやって、すばらしいなと思った。


Taku:何をすばらしいって感じたんですか?


FPM:まず音響がすばらしい。そして、秘密めいた感じ。大阪道頓堀のニュージャパンっていうサウナの8階にあるんですよ。入り口に小さい看板があるだけ。完全にサウナ然としたビルで、入り口の横にはソファが置かれてて、サウナあがりのおっさんがリラックスしてて。エレベーターが2基あるんだけど、その奥にはお姉ちゃんが立ってるサウナの受付があるわけ。それに乗り込んで8階まで行ってやっとクラブに入れるんですよ。


Taku:秘密基地に入るような感じですね。


FPM:これはすげえなと。でも、これじゃ一見さんは誰も来ねえなと思ったの。


Taku:ははははは。


FPM:ALZARに呼んでもらったパーティは、正直集客はイマイチだったんだけどすごくコアですてきなお客さんが来て、自分の過去5年くらいで最高のセットができたと思ったのね。音響システムはパイオニアのフルセットが入ってて、それも完璧にセッティングされてて。ドイツにはこういうすてきな音響のクラブがいっぱいあって、ものすごいボディソニックなすごい音圧があるのに、フロアで普通に話しもできる。周波数帯がちゃんと整理されてるから。日本のクラブでこんなの体験したことないと思って感激したの。それで僕を呼んでくれた大阪のオーガナイザーのノムラナオくんに「ここでレギュラーやりたいから、オーナーさんに会わせてほしい」って言って、アポ取って大阪まで会いに行ったんですよ。オーナーさんはニュージャパンも経営されてる方で、ご自身もドイツのクラブとかを研究しまくって作ったクラブがALZAR。俺はここでパーティーをやらない手はないと思った。そして「このままだったらこのクラブは潰れてしまう」と。


Taku:ははははは。そう言っちゃったんですか(笑)?


FPM:言っちゃった。まあ潰れることはないかもしれないけど。このクラブの良さを1人でも多くの人に知ってもらいたいから、ここでパーティをやらせてください、最初はギャラも少なくていいですと。そのかわり入るようになったらくださいっていう話をしました(笑)。そこで始めたのが『MANIC』っていうパーティ。もともと東京で不定期でやってて、一番最初は中目黒のBATICAで友達だけ招いてフリーでやって、ある時はWOMBでやってめちゃくちゃ人が入って成功したり、神出鬼没のパーティーみたいに謳ってた。MANICは躁って意味ですが、鬱っぽい曲しかかけませんっていうのが最初のコンセプトだったんだ。


Taku:ははははは。


FPM:ちょうどその頃、僕はFPMとは別の「dododod」という名義の活動を始めて。ポップミュージックというものから解放されて、マニアックなダンスミュージックに特化したことをやりたいと言い訳のために作ったものです。小文字でdodododって書くんですけど、それを(上下)ひっくり返したらポップポップポップっていう言葉が出てきて、その反対って意味。細々とトラックも作っていて、なんだかんだでアルバムも1枚出せるくらい曲が溜まったんで「dodododプレゼンツ」として『MANIC』を東京で不定期で始めた。その名前をそのままALZARに持っていって、ずっとゲストDJで出てくれてた大沢伸一くんにまず声をかけて、「ALZAR知ってる? やったことある?」って誘ってみた。そしたら「いいよ」って来てくれて、DJしたら「こりゃすげえ!」と彼も言ってくれてね。しかも入場料を1,000円にした。でもその代わりにフリーのゲストもいない。


Taku: ゲストリストなしってことですか?


FPM:デヴィッド・ベッカムが来ようが、ビヨンセが来ようが、お金はいただこうと。ま、1,000円なんですけど。


Taku:1,000円ってとても……。


FPM:安いですよ。だからまあ全員が泣いてるんですよ。クラブもオーガナイズの我々も、もちろんゲストDJにも泣いてもらってる。じゃないと成立しないんですよ。でもこんなすてきな体験ができるので、とりあえず今僕にひとつの猶予をくださいと。


Taku:そう言いながら、どメジャーなわけじゃないのに、徐々に口コミで広がっていったり、「この前の田中さんのパーティーすごかったよ」っていうお話を僕の周りでも聞いて。人が集まってきてる感触は感じられてるんじゃないですか。


FPM:感じてますね。第1回から500人オーバーだったんですね。他のパーティの集客を言うのはフェアじゃないけど、ぶっちぎりでALZARの今までの動員記録を作ったんですね。その動員記録を作ったとかはどうでも良くて。クラブ遊びから引退しようかなと思ってたような大阪のイケてるパーティーピープルがこぞって遊びに来てくれて、「久々にオモロイ」「クラブってこれだな」と言ってくれたんです。まあ、1,000円でやってるから、それで来てくれないとね…。


Taku:昔のクラブって、そういう大人の空間を若い子たちが憧れる場所でしたよね。


FPM:そう。若い人たちには、今後噂を聞きつけて巻き込まれてくれるんじゃないかなって期待もする。東京でやってる『HOWL』もしかり、ALZARでやってる『MANIC』もしかり。


Taku:僕が20代の頃は「いいなぁ、大人の世界だな」って憧れがありました。


FPM:やっぱりクラブが幼稚な場所になったイメージは拭えないんと思うんですよ。それが今の世の中。


Taku:田中さんのやりたいことじゃない。


FPM:面白い打ち上げ花火みたいなパーティーも私は大好きなんですよ。だから、綾小路翔くんをクラブに呼んでみたり、リリー・フランキーさんをVJ代わりに即興イラストレーターとして呼んでみたりとか。だけど、未だにそういうイメージのパーティをやってくださいって言われるわけですよ。10年に一度のお祭だったらそれもありなんだけど。


Taku:考えが変ですよね。


FPM:それを定期的に求められても、ね。忙しい人たちをそんな揃えらんない。昔はお祭に素敵なフルコースを出せたと思うんですよ。でも毎回は違うぞって思う。ALZARではdodododとして作る楽曲など、ほぼ自分が作った曲をベースにプレイするけど、それが一番ウケる。自分の作りたい音楽とパーティのバランスが合ってるのかな。それが本来のDJが一番考えてやるべきことだと思う。




1,000円均一もありだし、10,000円でドリンクフリーもあり


Taku:他にもテクノが流れてるイベントがいっぱいある中、『MANIC』は絶対空気感が違うと思うんです。場合によっては同じ曲がかかってる可能性もあるじゃないですか。何が違うのですか?


FPM:これは一言で説明がつかないんですけど、僕の理想は極めて音数が少なくて、ストイックなダンスミュージックが最高の音響で鳴っているのが根底にある。だけどそれだけのイベントだったら日本にも無数にある。でもなんか苦行のような、滝に打たれてるみたいにフロアで悟りを開くぞみたいな感じになってることも、しばしあると思うんですよ。単にカッコいい音がなってても、スルーして帰りたくなるパーティっていっぱいありますよね。そうなっちゃいけないなと思ったんですよ。だから僕はそこに大阪らしいワチャワチャしたパーティ感を加えたかった。その為にはメンバーが大事だと思った。本当に来てほしい友人、大阪のキーマンにそれぞれダイレクトメールして、「大阪のクラブシーン、ひいては日本のクラブシーンをこっから復権するぐらいのつもりでパーティーやろうと思ってやってます。だからどうか遊びに来てください」って。


Taku:DMなどをして直接メッセージを伝えたと。


FPM:直接電話した人もいる。とりあえず来てくれと。待ってましたとばかりに、大阪の名だたるクラブ大好きな人たちが友達を従えて来てくれたんですよ。やっぱりそういう人たちが集まったら楽しい。1回目に楽しかった人は2回目も来てくれるんですよ。そこで新たな人を呼んでくれたり。次が3回目でそれが7月7日なんですね。1回目が3月3日、2回目が5月5日、3回目が7月7日なんですよ。縁起もいいんですよ。7月7日は僕の誕生日の翌日なんで。3回目までは1,000円均一料金でやろうと。それで今は1,000円均一でやっていて、人がいっぱい入って溢れ出したら10,000円にしてやろうとか(笑)。そのかわりドリンクフリーとかさ(笑)。そういうのも逆にアリだったりするのかなとか。でもね、僕のお客さんって1,000円で入っても、そこで10,000円くらい呑み代で使ってるんだよね。一番の功労者だと思う。


Taku:オーガナイズするっていうのは単純に空間作るだけじゃなくなっている。


FPM:正直言うと、自分でパーティをやるんじゃなくて、ゲストDJとして呼ばれている方が気楽ですよ。その方が儲かるし。自分でオーガナイズするのはものすごいエネルギーと時間がかかる。


Taku:時間はかかるけれど、大事なことですよね。


FPM:それこそ俺は大阪のサポーターっていうのがいいのか、キーマン的な人たちを口説いて遊びに来てもらってるから(笑)。そういう気持ちを伝えるのに時間もかかった。告知に関しては、今はSNSがあるからすごく散漫でしょ。僕はそれも不満。例えばね、自分のイベントに若手のDJを呼ぶでしょ。でも彼らは自分のInstagramでイベント前日に「明日このパーティでDJやらしてもらいます」って一言書くだけが告知だと思っている。それでこのギャラ取るか?とかって思うんです。僕はトラ(ゲスト)で呼ばれてもなるべくいろんな友達呼びたいと思って、一生懸命集客することだと思うんですよ。


Taku:自分のパーティを優先しますよね。


FPM:仕方ないなというか。そこに期待をしてもしょうがないのかな。でもね、ALZARとかは「ここでの俺のプレイはすごいぞ」って宣伝したくなるポテンシャルを感じているんです。Takuにも勝手にコアな4つ打ちセットでDJやってよってお願いしようと思ってます。次回以降お願いしたいんですけど。だからDARUMAくんに同様のことお願いして。


Taku:この前はDARUMAさんと大沢さんと田中さんでやられてましたよね。


FPM:大沢くんと僕はレジデントって形で。DARUMAくんも去年のハロウィンの日に彼をブッキングした時に「実は4つ打ちのコアなDJがやっぱり一番楽しいんですよ」って話を聞いていたから、いつか誘うねって。それこそ、この前VERBALのAMBUSH®のショーでちょうど隣の席になったから「こういうパーティやっているんだよ」って誘った。


Taku:ああ、あの時に話したんですね!


FPM:「お金大して払えないけど」「お金なんかいらないです」みたいな会話だった。だから、「大した額じゃないけど、フェアなプライスとしてもらってるぶんを分配する形だけど渡すよ」って形に収まったの。たぶんすごく満足して帰ってくれたと思う。でもいつになるかわからないけど、DJのギャラを満額で払えるように1つづつ積み上げて、いいパーティーにする。お客さんを呼ぶ、気持ちのいい空間を作る、DJに気持ちのいいプレイをしてもらう、クラブに儲けてもらう。それでゲストDJにちゃんとしたギャラを払う。僕も儲かるっていうところまで持っていかなきゃならない。


Taku:じゃないとシーンは続かないですからね。


FPM:1年くらいは身銭を切ってパーティを作り上げるやせ我慢はできるけど、長くは続かない。ここからどういう形で盛り上げてマネタイズしていくかっていうのがテーマなんだよね。今『HOWL』とALZARの『MANIC』を作ってる感じですね。そこでちょっとずつその答えが見えてきた感じがするね。


Taku:実際それをオーディエンスも感じてるっていうのが今の現状で。


FPM:風営法で揺れる中、大沢くんが『SOFA DISCO』を始めた。僕はあれがすごくエポックな発明だと思っている。風営法がめでたく改正されたけど、そこに対する一つの解決策として、ソファに座ってダンスミュージックを楽しむっていうアイディアだったから。そして、風営法が改正されても、そのブランディングが揺るがなかったということ。ただALZARの『MANIC』ではしごくまっとうな、何も変化球じゃないことをやってるんだけど。


Taku:そこが不思議なんですよね。変化球がないのに、発明みたいに他のところにないものがあるっていう。


FPM:それはもうね、ALZAR自体が発明なんですよ。場所が画期的。あそこに行くこと自体がイベント化されている。サウナ客に混じってエレベーターに乗り込んで、勇気を振り絞って8階まで行って真っ暗で天井が低いスペースにスモークがぎっちり焚かれてて、行ったことない人も「これがベルリンのクラブか」って思うはず。それ自体がアトラクション。それこそグランツーリズムだよね。だからちょっとマジカルミステリーツアー感もあるっていうかさ。上海にウルトラバイオレットっていうレストランがあって、1食100,000円くらいのレストランなんだけど、最初50,000円でチケット買ってデポジット払って予約して、集合場所だけ伝えられて、バスに乗せられていろんなサブリミナルな映像見せられるの。


Taku:何ですか、それ?


FPM:おばちゃんが掃除してるような場所にバスが横づけされて、ガーって扉が開いたら汚い建物の中にすげえレストランがあるっていう体験なのね。その中では、プロジェクションマッピングとか、いろんなイリュージョンとかが取り入れられた3時間の料理のコースが待ち受けてるんだよ。そんなことが料理の世界で起こってるのに、クラブでまだできてない。最終的にはあのレストランみたいになりたいよね。クラブに遊びに来た人たちだけが予約の取れないレストランの食事が食べられるとか。『HOWL』では、世界一のレストランに選ばれた「noma」ってレストランで日本人唯一のソムリエをやってた兼子享康くんに特別なワインバーを作ってもらった。彼がセレクトしたヴァン・ナチュールをキャッシュオンで呑めるようにして。この前の『HOWL』は、予約が取れない超人気店「アヒルストア」の齋藤輝彦くんにワインバーをやってもらった。7月6日も「TIRPSE」っていう店で、最速でミシュランを取った若きオーナーソムリエの大橋直誉くんに特別ドリンクを出してもらう。そういう体験作りを『HOWL』は最初からやっている一方、正攻法でやってきた『MANIC』は素晴らしいサウンドシステム、集客、DJたちは揃ったので、グルメなのかプレミアムな酒なのか別の体験なのかをこれから足してく必要があるのか?って話ですね。


Taku:いわゆる秘密基地感があってサウンドシステムがすごかったから。


FPM:ALZARって最初気づかなかったんだけど、奥にLeBaronみたいなソファ席がちゃんとあったの。ある程度座席数もあるラウンジスペースがあって、そこでも何かやろうと思ったらできる。階下にはバーベキュースペースもあるし、DJ設備もあるルーフトップバー「OO(ウー)」って場所もあるし。今サウナ流行ってるからサウナのイベントもできる。すごい可能性を秘めている。


Taku: 田中さんの友達のととのえ親方とか。


FPM:クラブって話で言ったら、最近渋谷にkoeとTRUNKってホテルが2つできて、そこにDJブースがあってパーティスペースとして新たな脚光を浴びてるじゃないですか。あれも新たなダンスミュージックの在り方だと思う。他の業態がクラブとか音楽とかを抱き込んで行ってるなら、クラブシーンが他のものを抱き込んでいくのもありだよね。


Taku:ありがとうございます。とても面白かったです。今後の『HOWL』も『MANIC』も、特に『MANIC』は面白くなりそうですね。




田中さんのパーティの歴史は日本のアンダーグラウンドとオーバーグラウンドをまたいできた特殊な歴史だと思うんです。音楽とファッション、そしてカルチャーの融合をパーティで実現してきた彼だからこそ、面白い空間を作れるんだと思います。東京も楽しそうですが、ぜひ大阪ALZARのパーティにも行ってみたいなって思わされました。


▷ イベント詳細




HOWL
-TOMOYUKI TANAKA Birthday Special-

[DATE]
2018.7.6(FRI)
22:00-5:00

[VENUE]
CIRCUS Tokyo
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷3-26-16 第五叶ビル
03-6419-7520

[MUSIC CHARGE]
2,000yen

[RESIDENT DJ]
TOMOYUKI TANAKA (dododod / FPM)
-OPEN to LAST-

[POETRY READING]
Gotch (ASIAN KUNG-FU GENERATION)

[1st Floor DJs]
JOMMY
青野賢一 (BEAMS RECORDS)
DJ BINGO(ERROR404)
弓削匠 (Yuge/Adult Oriented Records)
Sayo Yoshida
〔VJ〕H2KGRAPHICS

[Special Wine Bar]
Naotaka Ohashi (TIRPSE)






ALZAR Saturdays

MANIC


[DATE]

2018.7.7(sat)

OPEN 22:00-


[VENUE]

ALZAR

〒542-0071

大阪府大阪市中央区道頓堀2-3-28

ニュージャパンビル8F

090-6960-8527


[MUSIC CHARGE]

1,000yen


[RESIDENT DJ]

TOMOYUKI TANAKA (dododod)


[co-RESIDENT DJ]

SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO)


[GUEST DJ]

砂原良徳


[DJ]

NAO NOMURA(BASS WORKS RECORDINGS)

OSAKAMAN(BASS WORKS RECORDINGS)

&

Hoshina Anniversary(Turbo Recordings | Boysnoize Records)




written by block.fm編集部


photo:Tomo Sugawara




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