HIPHOPやR&Bを軸として、国境やジャンルを横断した世界標準のポップスをコンパイルしたアルバムとなっている。フェス並のメンツによって収録された全16曲をレビュー。
88risingの『Head In The Clouds Ⅱ』がリリース。前作『Head In The Clouds』からアップデートされた今作も、88risingメンバー中心に世界中の才能が揃い踏みである。
ここ数年、アメリカ経由のクールなアジアンを発信、開拓、牽引している88rising。待ちに待った新作『Head In The Clouds Ⅱ』は日本出身、アメリカ在住のコアメンバーJojiがエグゼクティブプロデューサーを務めている。Jojiはもともとネタ系YouTuber、コメディアンとして活躍。そのキャリアを起点にガチアーティストへと華麗に転身。米Billboardチャートで1位を獲得した。まさに逆ヒカキンなワールドスターである。前作では同タイトルの楽曲でアルバムのトリを務めた。
「JAPAN 88」で韓国のKeith Ape、シカゴ出身のFamous Dexとともに日本からVERBALが参加したことも記憶に新しい。
今作でもRich Brian、Higher Brothers、NIKI、AUGUST 08といったいつものメンツに、かねてより交流が噂されていたGoldLinkやLA在住のプロデューサー/アーティストBarney Bones、マイアミの名手Don Krez、さらにはSwae LeeやMajor Lazerといったワールドクラスのアーティストから、タイのPhum Viphurit、韓国のシンガーCHUNG HA、香港のJackson Wang、インドネシアのStephanie Poetri、日本からは大沢伸一とRHYMEによる新ユニットRHYME SO、そしてGENERATIONS from EXILE TRIBEといったアジア諸国の新進のアーティストがジャンルレスに参加。アジア・アメリカポップミュージックアライアンス共同運行便という感じ。
アートワークは音楽アーティスト作品や、Diorのようなビッグメゾンからストリートブランドに至るまで作品を提供する世界的なグラフィックアーティスト空山 基を起用。マーチャンダイズも空山デザインでキッチリ作って抜け目なし。“Hajime Sorayama”は88risingを聴く、もしくは88risinigに通ずるカルチャーが好きな人にとっては人種問わず共通言語だし、さすがの人選だなあと。
アルバムはRich BrianとCHUNG HAによる「These Nights」からスタート。海外で人気を博す和モノシティポップを彷彿とさせるフューチャーファンクなトラックに、2人の歌声が映える。CHUNG HAはオーディションサバイバル番組「PRODUCE101」から選出された人気アイドルグループI.O.I(アイ・オー・アイ)にかつて所属した、韓国出身のソロシンガーだ。I.O.Iではリードボーカルを務めた歌唱力の高さは折り紙付き。88risingとも好相性である。
英語と韓国語のバイリンガルで歌うのは、もはや世界規模で活躍するK-POPスターたちにとってはスタンダードのようだ。Rich Brianが「特攻の拓」の武丸さんよろしく、イカついヘアスタイルで、CHUNG HAと逆「ホットロード」キメてるMVもレトロフューチャー感満載。
続く「Strange Land」はスティールパンの音が魅力的な、南国チューン。Rich Brianと同じくインドネシア出身のシンガーNIKIと、日本でも人気のタイのシンガー、「Lover Boy 88」でコラボしたPhum Viphuritが参加。
そしてJojiとGENERATIONS from EXILE TRIBEの共演が実現したのが3曲目「Need Is Your Love」である。日本でも注目が集まったこの楽曲、クレジットを見ないまま聴いていると、日本語ボーカルが聴こえてくるまでGENERATIONSとのコラボ曲とは気づけなかった。先述の「These Nights」でもCHUNG HAが英語と韓国語を混ぜて歌っているんだけれど、日本語をこれほど自然に、英語に溶け込ませて歌っている、かつ効果的に機能してさせているのはすごい。
Jojiのプロデュース力の賜物でもあると思うが、もともとGENERATIONSはメンバー各々のビジュアルが際立っているし、EXILE TRIBEのなかでもグローバルな感性を持っているグループだと感じる。この楽曲で成功させた歌のグローバルマナーを日本でも展開してほしいなと思う。世界を知り、日本のポップスを憂う求道者、starRoは国内で活動するボーカリスト、並びにアーティストの可能性をこの曲で示唆している。
欧米っぽいトラックで英語で歌えば海外っぽいっていう海外リスナーのセンスを無視してる風潮で見逃されているのは、海外リスナーの耳に馴染む歌い方「普遍性」と聴き慣れない日本人の癖や歌詞「個性」を絶妙に引き出す「ボーカルディレクション」と「トップライン」だと思います。 https://t.co/BrhWsOhFv1
— starRo (@starRo75) October 11, 2019
「Tequila Sunrise」はJackson Wang、AUGUST 08、Higher BrothersにGoldLinkが客演参加。前作『Head In The Clouds』収録「Midsummer Madness」直系のフックがシンガロンしたくなる。
とにかく参加アーティストが豪華なこのアルバム。「Walking」ではJojiとJackson WangがMajor Lazer とSwae Leeを迎えている。かねてよりアフロやムーンバトン、ダンスホールといった音を取り入れてダンスミュージックを作ってきたMajor Lazer。得意のムーンバトンビートにJojiとSwae Lee、Jackson Wangがオートチューンボーカルを乗せている。こういった曲は世の中に数え切れないほど存在しているが、やっぱり聴いていて気持ちがいい。
公開されたMVではなんと日本の“特撮”をフィーチャー。これもきっとJojiの仕業だろうか。最近、なんかカッチョイイJojiばっかりだったからかつてのFilthy Frankみ溢れるフザけた表情や衣装が新鮮だ。Jackson Wangとジャレあう様子にほのぼの。ハートフル(?)なMVに仕上がっている。
9月にリリースされたJojiとDon Krezの「Breathe」は夏の終わりを彷彿とさせる切なチューン。Jojiのオートチューン全開のボーカルが、Don Krezの疾走感溢れるダンストラックとマッチ。
NIKIとRich Brianによる「Shouldn’t Couldn’t Wouldn’t」は王道のR&B。NIKIの伸びのある歌声、Rich Brianもメロをいかしたムードたっぷりのシングラップを聴かせる。88risingの人たち、みんなラップも歌唱も器用だよなあ。
NIKIとRich Brianのデュエットに続くのは大沢伸一が女性ミュージシャン/モデル/DJ/詩人であるRHYMEと結成したニュープロジェクトユニットRHYME SOだ。「Just Used Music Again」はアルバム中、最もダンス指数が高い。アルバムを通して聴くと分かるが、異彩を放つこの楽曲がいいアクセントとして機能している。大沢伸一ソロ名義のセカンド「SO2」のころのような懐かしきエレクトロニックな匂いも漂わせつつ、さらに深化させ静かに激しく鳴らす洗練された大沢伸一ビートが炸裂。
RHYME SOで踊ったあとはNIKIの「Indigo」でクールダウン。その歌声はスウィートでキャッチー、そして力強い。どことなくアリアナ・グランデ感あって好き。
「Hopscotch」はBarney Bones、Joji、AUGUST 08、Rich Brianによるマイクリレーでヒップホップしてる1曲だ。全体的に柔らかい印象の『Heads In The Clouds Ⅱ』の中で、トリッキーかつハードめなこの楽曲が際立っている。
続いてもBarney BonesとAUGUST 08による楽曲。見た目もパンチのある2人、名コンビだ。重厚なピアノのリフがドラマチックな雰囲気を醸し出す「Calculator」ではカップルにおける愛の危機が歌われている。タイトルの計算機はそのメタファーというわけだ。感情的なメロディが切ない。
「La La Lost You」はNIKI版の“LA LA LAND”とでも言うべきか、LAを離れ、NYへ行ってしまった、恋人へ捧げられた曲。La La とロサンゼルスのLAがかかっているというわけだ。
「All my demons run wild, All my demons have your smile, In the city of angels, in the city of angels, Hope New York holds you」
NYとLA、天使と悪魔を対比し、美しいハーモニーボーカルで歌われるフックが胸を締め付ける。
オーセンティックなラップ、シンセトラック、歌モノのフック、2007年リリースのKanye West『Graduation』収録「Champion」を彷彿とさせる「Hold Me Down」。Higher Brothersが歌うと懐かしいけど新しい。キャラも立っていて、彼らのマイクリレーは楽しく聴ける。夏の街を思い起こさせる爽やかな1曲。
そして、来たよー。インドネシアジャカルタのポップシンガー、Stephanie Poetri。彼女はすでに「I Love You 3000」をリリースしているわけなんだけど、アコースティックなトラックはそのままに、88risingの伊達男Jackson Wangを迎え、新たにデュエットバージョンとして収録されたのが「I Love You 3000 Ⅱ」なのだ。楽曲タイトル見てピンと来た人、正解です。
「あなたはわたしのアイアンマン。愛してるって3000回言う ハリウッド映画のように恋に落ちたい」というサビで泣き散らかしてほしい。メロの「ハルクみたいなアウターを着て立っているあなたを見た」ってフレーズもいい。モコモコのデカイダウンジャケットを着こんでいたってことだろうか。それともハルクはほとんど服を着てないようなものだから、2人の情事の暗喩だろうか。まあとにかくStephanie Poetri、歌声も、愛らしいルックス含めていい。88版「Perfect Duet」だ。
Rich BrianとHigher Brothersによる「2 The Face」。ゴスペルチックなピアノとコーラスが印象的なイントロから、強烈なベースラインが鼓膜に突っ込んでくる垂直落下トラップチューン。ライヴで盛り上がること間違いなし。
アルバムの最後を飾るのはRich Brianの「Gold Coast」。「Midsummer Madness」の裏面、パラレルワールドって感じのトリッキーなトラックを乗りこなすRich。やっぱり彼は88risingのアイドルだよなあ。低音の効いた声と、パワフルなラップとクールと愛らしさが同居する佇まいは、姑息、陰湿、ホラー映画で必ず死ぬ、ネタキャラ、というUS視点で揶揄されてきた“アジアン”イメージを爽快に吹っ飛ばした。アメリカの中のアジアンに新たな地平を切り拓いた88risingの象徴といえる。「Gold Coast」のリリックビデオは全編アニメ。グッとくる。
ヒップホップやR&Bを今まであまり聴いたことがない、トラップみたいなノリはちょっと、って人も入りやすいキャッチーさと、世界標準で最先端のポップサウンドが楽しめるのは88risingの強みではないだろうか。トレンドを抑えつつも、ジャンルに囚われない実験的な試みを多く行っているようにも感じる。好みは分かれるかもしれないが、音楽好きな人は細かなディテールを楽しめて、初心者もなんとなく心地良く耳馴染みがいいアルバムだ。
『Head In The Clouds Ⅱ』のエグゼクティヴプロデューサーを務めたJojiの「SLOW DANCING IN THE DARK」がBillboardチャートにカムバック。Jojiは歌い手としてこの上ないくらいすごいけど、今回のアルバムでプロデューサーとしてもめちゃくちゃ有能なんだと証明してみせた。これだけ多くのタレントと楽曲をまとめ上げたのだから。
im back in the mat̸̻͈̜͎̉r̷̨̥̘̹̓͌͐̃̔̏̏i̸͓̯͎̟͑̀xAAAAAAA̷̳̫̙͇̰̓̅A̵̯̮̝̓A̸͔͉̳͙͙̺̳̔Ā̶̘̻̟͎̹Á̶̢̡̻̩̟̃̈́Ã̸̮̙̇̿́AAAAAAÆÄA̷̳̫̙͇̰̓̅A̵̯̮̝̓A̸͔͉̳͙͙̺̳̔Ā̶̘̻̟͎̹Á̶̢̡̻̩̟̃̈́Ã̸̮̙̇̿́ pic.twitter.com/dYgglYUShn
— JOJI (@sushitrash) October 17, 2019
今作を聴いて思ったのはかねてからフロントマンのショーン・ミヤシロが語ってきたことに説得力がさらに増したということ。国やジャンルを問わず88risingのスキームにアーティスト性がマッチすれば、ピックアップされる可能性、共演するチャンスは多くのアーティストにあるのだ。次は誰がどんなかたちで参加するのか、そんな「大乱闘! スマッシュブラザーズ」みたいなワクワク感は『Heads In The Clouds』(フェス、アルバム含め)、ひいては今後の88risingの動向を楽しみにさせてくれる。
今年LAで開催された同タイトルのフェスは2万5000人を動員している。
Stephanie Poetriのようなポップシンガーが、アコースティックな「I Love You 3000 Ⅱ」でその存在感をバッチリアルバムの中で示しているのだから、次作には日本からあいみょんが参戦してるかもしれない。
▶88rising『Head In The Clouds II』
1.These Nights - 88rising, Rich Brian, CHUNG HA
2.Strange Land - 88rising, NIKI, Phum Viphurit
3.Need Is Your Love - 88rising, Joji, GENERATIONS from EXILE TRIBE
4.Tequila Sunrise (feat. AUGUST 08 & GoldLink) - 88rising, Jackson Wang, Higher Brothers
5.Walking (feat. Swae Lee & Major Lazer) - 88rising, Joji, Jackson Wang
6.Breathe - 88rising, Joji, Don Krez
7.Shouldn’t Couldn’t Wouldn’t - 88rising, NIKI, Rich Brian
8.Just Used Music Again - 88rising, RHYME SO
9.Indigo - 88rising, NIKI
10.Hopscotch (feat. Barney Bones & Rich Brian) - 88rising, AUGUST 08, Joji
11.Calculator - 88rising, AUGUST 08, Barney Bones
12.La La Lost You - 88rising, NIKI
13.Hold Me Down - 88rising, Higher Brothers
14.I Love You 3000 II - 88rising, Stephanie Poetri, Jackson Wang
15.2 The Face - 88rising, Rich Brian, Higher Brothers
16.Gold Coast - 88rising, Rich Brian
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written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki
source:https://www.billboard.com/articles/columns/pop/8529840/joji-don-krez-breathe-88rising
https://www.billboard.com/articles/columns/pop/8529840/joji-don-krez-breathe-88rising
https://genius.com/88rising-and-niki-la-la-lost-you-lyrics
photo:88rising